6話 クレーム襲来
午前中に注文分の制作をこなして、午後から発送準備を行う。この3日間で制作は早くなり、1時間あれば4つ制作できるようになった。
今日は昼から郵便局員と打ち合わせ。社長としての初めての対外業務だったりする。『りす組』に私がいない場合でも、発送や受け取りができるようにしなくてはいけない。少しずつ進んでいる感覚に私は充実感を覚える。
そういう時に決まって落とし穴は現れる。
沙織ちゃんが用意してくれた、りす組のIP電話が鳴る。
「はい、もしもし」
『そこは有限会社りす組でいいの?』
「はい、有限会社りす組です」
『ブレスレット、今日届いたんだけどさ、色が違うんだよね』
「申し訳ありません。なにぶん不慣れなもので」
『言い訳はいいよ!で、どうすんの?』
強い口調に私は怯む。そして、
(ヤバイ、出てる!)
おむつの中におしっこが広がる。緊張のせいだった。
「あ、えっと、すぐに正しい、いえ、ご注文通りの色のを送付します」
おむつの中の感触もあって、しどろもどろで答える。
『間違いで届いた商品は?』
一瞬考える。こっちに送り返してもらうのも手間だろう。
「そのまま使って下さい。代金はいただきませんので、すいませんでした!」
『わかった』
相手が電話を切る。震える手でお茶を飲んで落ち着こうとペットボトルを取る。心臓がうるさいぐらいに脈打つ。
怖かった。でも逃げられない。これがきっと『責任』ってやつだ。
そうだ。と思い、タブレットで検索。コピペしてワードソフトで文章を作る。それを印刷する。
再び電話が鳴る。
「はい、有限会社りす組です」
『パラコードのブレスレット、注文したのと色が違うのですが?』
「確認いたします。お名前をよろしいでしょうか?」
『タジマです』
「タジマ様ですね。注文は茶色でしたね。何色が届きましたでしょうか?」
『青いのが届いてます』
「かしこまりました。申し訳ありません。こちらの手違いのようです。すぐにご注文の茶色を送付いたします。お手元の商品はそのままお使いいただいて結構なので、よろしくお願いします。お手数をおかけし申し訳ありませんでした」
どうやら、昨日送付した18個のうち、田島さんと田原さんを間違えたらしいとわかった。これは確認を増やすか、間違いを減らす工程が必要だろう。
「知らないうちに、社長っぽくなってる」
いつのまにか、入ってきた沙織ちゃんが言った。
「あは、台本を作っちゃった」
「いいと思うよ。そうすれば緊張しなくていいもんね」
わずかだけど、また1つ前に進めた。
1ヶ月後。
「えー、これより初めての売り上げ報告を行います!」
テンション高く、沙織ちゃんが言った。
「今月の売り上げ、640個128万円です。材料費、送料等を引くとざっくり100万円です!」
「え!そんなに?まぁ売れてるとは思ってたけど」
「社長がおむつしてるのに、おしっこが溢れるぐらいがんばって作ったからね!」
「言わないで、それは黒歴史」
「歴史って割には4日前・・・」
「もう!」
素直に驚く。でも、わかってる。これでは届かない。1億円に。この調子で年間1200万円。1億になる頃には8年ちょっとかかる。
目標は真っ当な同級生が社会に出る、22歳の4月までに1億円を貯めて、経済的、時間的余裕を持つ事だ。事業拡大か新規事業か、どちらかが必要なのがわかる。
「どちらにしても・・・」
つい口に出てしまった。
「「人を雇わないとね」」
私と沙織ちゃんの声がシンクロする。次の言葉は沙織ちゃんが先だった。
「コレを見てもなんとも思わない人じゃないとね」
そう言って自分のお尻を叩いた。
まだまだ道の途中なのだ。