表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

5話 不登校おむつ女子、社長になる

『社長、遅刻ですよー』


スマホの通知。沙織ちゃんからだった。

時計を見ると9時3分。りす組の勤務時間なんて誰も決めてないのに、なんで怒られてるんだろう。


おむつを履いたまま、私は朝ごはんを食べた。

交換用のおむつとおしり拭きをバッグに入れて家を出る。おむつで向かう先は保育所。なんだかぴったりで笑えた。


「おはよう、沙織ちゃん」

「遅いよ、あずちゃん」


スマホでは社長といってたのに実際に会うと「あずちゃん」呼びでほっとする。


「書類持ってきたよ」

「お、これで正式始動だね。お昼から動こうか?」

「ん?午前中は?」

「それが購入希望のメッセージが18件もあるの」


嬉しくなった。私の作ったものを必要だと言ってくれる事が。


「それじゃ、頑張って作りますか」


なんとか18個を作り上げて封筒に入れる。沙織ちゃんの作ってくれてた、住所シールを貼って郵便局に行く。送料は昨日の沙織ちゃんの売り上げから出した。


「せっかく外に出たし、お昼は外食しよう」


そういってやってきたのは牛丼チェーン店。実は子どもだけで外食なんて初めてだった。


「今日は奢るよ」


沙織ちゃんはそう言って牛丼屋のドアを開ける。見た目は小学生なのに慣れた様子でテーブル席に座る。


「並の汁だく、玉付きで」


なんて?沙織ちゃんは聞いた事のない言葉で注文を終えてしまう。


「普通サイズの牛丼とおみそ汁を」


私もなんとか注文を終えて、2分もしないうちに運ばれてくる。


牛丼を3口ほどかきこんだあと、沙織ちゃんがふいに言った。


「ねえ、あずちゃん。わたし、計算したの」

「ん? なにを?」

「『普通の子』が社長になる確率。0.0008%。 でも『おむつ履いてる不登校女子』が社長になる確率、たぶんもっとずっと低い」

「……」

「そういうのって、賭けたくなるじゃん」


ふふ、と笑って、紅しょうがを盛っていく。


「なにそれ」


と返すのがやっとだった。


「投資先として見てるってこと?」

「うーん、ちょっと違うかな。もっと……面白い実験? わたしの知らない式を、あずちゃんが作ってるみたいでさ」

「……変なの」

「ありがと」

「銀行が3時までだから、税務署に急がないと」

「そうだね」


無言で牛丼をかき込み、税務署へ急ぐ。開業届を提出して、無事に受理された。これで私は『個人事業主』になり、『りす組』も正式に会社になった。


次は銀行へ。『りす組』名義の口座を開設するためだ。税務署でもらった開業届の控えが必要なのだ。無事に通帳がもらえた。印鑑はとりあえずの100均の。売り上げが出たら正式なのを作ろうと思っている。


こうして私は『りす組』の社長になった。全然実感が湧かないけど。


「おめでとう。これ、開業祝い」


沙織ちゃんがそう言って、リュックから小さい箱を取り出す。中には何枚も同じものが入っている。


『有限会社りす組 代表 岸本梓』


名刺だった。喜怒哀楽どれにも当てはまらない熱いもので胸がいっぱいになる。


「絶対成功させるから」


私の決意を沙織ちゃんが笑う。


「挑戦は気楽にするもんだよ。失敗したって失うものはないんだからさ」


そう言った翌日、『りす組』は最初の試練を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ