第17話 ロンゲスト デイ フォー ザ スクウィレル クラス(後編)
梓ちゃんがおむつを交換してすぐに、黒い高級車が駐車場に入って来た。今度は男性が2人。40代くらいのメガネをかけたオールバックのスーツの人と50代ぐらいに見える中肉中背の特徴のない男性だったが、どちらもオーラみたいなものを感じる。
先程と同じく自己紹介して、名刺を差し出す梓ちゃん。今度の2人は全く動じる事なく名刺を出す。
「ネクスコ近畿の堂島です」
「国土交通省の海田です」
堂島さんが50代の特徴がない人で、海田さんがオールバックの人だった。
「早速ですが、高速道路を塞いだ件の補償についてです。こちらが請求書です」
「500万ですか?」
(高い!さすが元道路公団)
「16歳になったばかりのアナタにはキツイ金額だろうと思って、国交省で協議したのですが、どうでしょう?アナタの土地を1000万で買い取りますよ?再発防止で砂防ダムを建設します」
続けるように海田さんが言った。ニコリと笑って梓ちゃんはそれを受け流す。
「おふたりは別の事案という事でよろしいでしょうか?」
「はい。そうですね」
「そう捉えてもらって結構です」
(さて、梓ちゃんはどうするだろう?)
「まずは高速道路の件、ウチの土地がご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。ただし、県道の方でもお話ししましたが、正式に土地を所有したのが先週火曜日の12日。翌日13日には地元業者に調査見積もりを依頼しています。こちらが書類です。そして台風は金曜日未明、つまり15日に被害をもたらした訳です。所有者として、これ以上迅速な対応はできません。このケースでは補償は大幅に減免するのは過去の判例からご存じですよね?」
(県道の時と同じね。しかもさっき調べたら1割でも取られた方。実際には5%ぐらいが多い)
あからさまに顔色の変わる堂島さん。あっさりと1割負担で話がまとまる。梓ちゃんは安さよりもスピード解決を目指しているのだろう、県道と合わせて75万の出費となる。手持ち資金が250万あるから、それでいいのかもしれない。
(もっと言えば税金対策にもなるしね)
「本来なら5%を主張するところですけど、堂島さんの顔を立てて、1割にしておきます」
梓ちゃんはそう言って反論を封じていた。
さて、話し合いは砂防ダムの件に移る。
「4億なら売っても構いませんよ?」
(え、1円で買った土地だよ?)
「『4億』の根拠を明示していただけますか?」
メガネをクイっとあげながら、海田さんが言った。
「沙織ちゃん、ウチのバランスシート出してくれない?」
いきなりこっちに話を振られてびっくりする。ともかく言われた通りにプリントして、渡してあげる。
「この通り、自動販売機2台と通信鉄塔と電柱の借地代で月50万の収入が半永久的に入って来ます。年間600万ですね。私が現在16歳で日本人女性の平均寿命の85歳まで生きれるとして、あと69年。計算すると600万×69年、つまりは4億1400万です。端数は切ってキリ良く『4億』ですが?」
「なるほど、あなたの言い分はわかりました。評価額10万円の土地なのでこちらとしては1000万で買い取れば十分だろうと思っていましたが・・・それでは私の手に余るので、上と相談して後日ですね」
(あれ?1円の土地が4億で売れるかも?)
数度の交渉の結果。結論から言うと、割り引いて3億で売れた。税金等があるので手取りは2億と少しである。
わずか数ヶ月で梓ちゃんと有限会社りす組は初期目標である『1億円』の壁を超えた。