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第16話 ロンゲスト デイ フォー ザ スクウィレル クラス(前編)

梓ちゃんの買った山は台風で土砂崩れを起こし、県道と高速道路に通行止めを起こした。


幸いにも人的な被害はなく、道路を2日程塞ぐ程度の被害で済んだ。今日は県道の担当者と持ち主の梓ちゃんが話し合いをする日だった。


白いセダンが保育所の駐車場に止まって、担当者らしき男性と女性が降りて来た。


「わざわざすいません。こちらへどうぞ」


梓ちゃんが営業用スマイルで対応する。2人はりす組へと招かれて入っていく。


「わたくし、ここで『有限会社りす組』の屋号で事業を行っています、岸本梓と申します」


そう言って名刺を差し出す。すっかり慣れた様子に少し安心する。県職員の人は高校生に見える梓ちゃんが名刺を出すとは思わず面食らったようだが、立て直して胸ポケットから名刺入れを出す。


「県土木部道路管理課長の剣持です」

「同じく、県土木部道路管理課主事の黒鹿です」


2人とも名刺を出す。梓ちゃんは2人を促して座ると、早速話し合いになる。剣持という男性が写真が数枚プリントされた紙を出して言う。


「今回はこの通り、岸本さん所有の土地から土砂が流出し、県道を塞いでしまいました。このままでは通行の妨げとなるため、県では緊急工事を行って土砂をどかしました。その費用負担の件で参りました」


梓ちゃんはその写真を見て、沈痛な表情を作った。


「私の所有する土地でこのような事が起こってしまい、すいません。それで工事代金の方は?」


女性の方の職員が今度は別の書類を出してきた。


「緊急工事という事で少々高くなってますが、こちらです。250万円ですね」


やっぱり、少し調査してやって来たのだろう。ウチが払えるギリギリを言って来た。


「もちろん、支払う事は吝かではありませんが、『全額』というのもおかしな話ですよね?」


笑顔で疑問を口にする梓ちゃん。県職員側に若干、子どもだからと舐めていたのがわかる。


「あなたの所有している土地で土砂崩れが起こり、県道を塞いでいたの。あなたが責任取るのが当たり前よね?」


少しイラついたように話す女性職員に、梓ちゃんは笑顔で反論する。


「『払わない』とは言っていません。正式に土地を所有したのが先週火曜日の12日。翌日13日には地元業者に調査見積もりを依頼しています。こちらが書類です。そして台風は金曜日未明、つまり15日に被害をもたらした訳です。所有者として、これ以上迅速な対応はできませんよ?それとも司法で争いますか?」


男性職員は笑いを堪えるように、対照的に女性職員は怒りを抑えるように梓ちゃんの主張を聞いた。


「争っても判例的に勝ち目は県側にありませんね。過去の判例に従うなら、1割の25万だけお願いできませんか?」

「ちょ、課長!いいんですか?」

「黒鹿君、この若さで土地を購入する人だよ?君は若いからってナメてたようだけど、この通りだ。司法まで持ち越すと、どちらにしろ県で建て替え払いになるんだ。それに圧倒的にウチが不利だよ。そう言う事で、後日1割分の請求書を作成しますのでお願いします」


そう言って、逃げるように2人は帰っていった。


「梓ちゃん、凄いじゃん!」

「おむつがびしょ濡れだよ。しかもまだもう1つ残ってるの。道路公団、今はネクスコグループが。来るのは、元国道交通省の日本有数のエリートだよ?」


彼女は、びしょ濡れのおむつのまま、でも凛とした顔でそう言った。


(え、まだ続くの……?)


胸の奥が、またドクンと鳴った。

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