第14話 嵐の前に
今日は山を買ってから初めての月時報告会である。参加者は私と財務を担う沙織ちゃん、下見に参加してくれたムツミさんだ。これには訳がある。
「雨が酷くなる前に終わらせるよ」
そう言うのはムツミさん。ただいま、絶賛台風接近中。ムツミさんのバイト先の保育園は今日と明日は臨時休園らしい。
「それじゃあ、9月の結果発表ぉ〜〜!」
関西の大物司会者みたいに沙織ちゃんが言う。
「まずはパラコード部門、売り上げが1065個213万の売り上げで人件費と送料、材料費等を引くと145万5430円です。続いて不動産部門。まだ自動販売機の売り上げが出てません。ので30万の借地代のみの売り上げです。土地取得の諸経費が大体5万で純益25万です。そこからここの家賃を2部屋かける5万で10万円を引くと、160万円で昨月比、160%です!」
「は?借地代って何?」
ムツミさんが心底驚いたように言った。声が裏返っている。私はそれに答える。
「あの山、携帯キャリアが2社アンテナあったんです。前の持ち主は善意で貸してたみたいですが、私は1社月10万円もらう事にしました。後は県道沿いにあった電信柱、あれも結構ウチの敷地内だったので電力会社からも10万頂いてます」
調べれば結構1万円以下の山林や土地はある。ぐるぐるマップの衛星写真で調べに調べて、現地確認までしたのだ。あの山はある意味『当たり』なのだ。それに気づかない相続したあの男性も悪いと思う。
「そんな、アタシの給料より高い額が毎月入ってくるなんて!」
明らかにテンションが上がっているムツミさん。
「さて、こうなると問題が出て来たね」
ムツミさんを無視するように沙織ちゃんが進める。
「何が?すっごく順調じゃん!」
ムツミさんが噛み付くように言った。
「扶養控除の話だね」
私が静かに答えた。実は先月の100万円の売り上げで扶養控除からは外れている。よく聞く「103万の壁」は私が高校生でアルバイトの場合だ。個人事業主の場合は48万でそうなってしまう。もっと言えば健康保険も自己加入になる。ムツミさんも社会人だからか、あ!みたいな顔をしてる。
「それに法人化も考えーーー」
バリーーン!!
沙織ちゃんの言葉を遮るように凄い音が響く。怖くておむつが温かくなっていく。
即座に沙織ちゃんが動く。続いてムツミさん。私も1人になりたくなくてついていく。
凄い音の原因は枝がガラスを突き破ったものだった。ムツミさんが借りている、ホールの一角に折れた枝とガラスが散乱している。
すぐさま沙織ちゃんが物置と化している児童用の下駄箱から板を持って来てガムテープでガラスの割れた部分を補修する。ホウキでムツミさんも片付けを始めた。私もぞうきんを濡らして雨に濡れた床を拭く。
「これ以上は今日は無理だね。梓ちゃん送っていくわ」
「ありがとう。それと沙織ちゃん、今日ウチ来ない?ここガラス窓ばかりだし危ないよ?」
「お言葉に甘えようかな。ちょっと怖い」
「決まりだね。おむつと着替えを用意して。戸締りはこっちは見ておくから」
そういうと、沙織ちゃんは自室である『ひよこ組』に駆け出す。廊下は走らないと言いたいが言う相手はオーナーだ。
「すいません、勝手に決めて」
ムツミさんに言う。先月の下見以来、何となくギクシャクしている。単純に言えばムツミさんは私にジェラシーを抱いている。母性を感じる沙織ちゃんに執着してると言ってもいい。
「いや、助かった。ウチに連れて来るとなると、アタシのおむつ姿を見られるからね。それは恥ずかしい」
「じゃあ、手早く戸締り確認しちゃいましょう」
私の、いや、私たちの運命を変えた嵐が間近に迫っていた。