表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一章:再会

第一章:再会


 部屋の空気は、静かすぎるほど静かだった。


 定年してからというもの、このワンルームの空間には人の声が消えた。時計の針の音すら、まるで嘲笑うように響く。テレビをつけても騒がしいだけだし、ラジオは冗談ばかり。笑う気にもなれなかった。


 だから、俺は申し込んだ。

《エターナル・ルーム》。

過去の記憶を元に、「あのときもし、こうしていたら……」を再現する仮想体験サービス。

選んだプランは「仮想恋愛体験パッケージ・リアルパートナーType β」。


 初期費用は高かったが、俺にはもう使う金も、使う時間も、あまり残っていなかった。


 そして今日、俺の部屋に”彼女”が届いた。


「……お待たせしました、村瀬さん」


 その声を聞いた瞬間、俺の脳の奥で何かがはじけた。

忘れかけていた声。音。空気の質。

ああ――間違いない。彼女だ。


「宮崎……佳澄、さん……?」


 そう口に出すと、彼女は微笑んだ。大学時代、正門の前で何度も見かけたあの笑みと、寸分違わぬ表情だった。


「うん。……でも、佳澄でいいわよ? ね、ナオくん」


 “ナオくん”。そう呼ばれたのは、初めてだったはずだ。

だが心は、それを拒絶しなかった。


「これからの三十日間、よろしくね。……私と、もう一度、恋をしてくれる?」


 俺はうなずいた。なぜか、涙がにじんだ。

ようやく人生が再開したような、そんな気がしていた――。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ