9 出会いの話とギャルのこと
当面はのんびり、と今後の活動が決まったところで気になっていたことを聞いてみる。
「私を保護した状況を教えていただけますか?」
得られる情報は得ておきたい。元の世界に帰るための参考になるかもしれないし。
「えぇ、もちろんです。私は王都警備隊というこの王都周辺の治安維持を担う隊に所属しています。
王都周辺の森で魔物が出現したという報告があった為、隊を率いて調査に出向いていました。
その中で、随伴していた魔導士が貴方を発見し、魔物かと思い浄化魔法を放ってしまったのです。」
あぁ、なにか呪文を叫んでたなーという記憶はあった。あれは浄化魔法をかけられていたのか。
「本来であれば、人間にいきなり魔法を放つなど言語道断です。心よりお詫び申し上げます。」
浄化魔法は呪いや穢れをはらったり、魔物の力を弱らせるもので人体には影響のないものと教えてもらった。深々と頭を下げられて、こちらの方が恐縮してしまう。
「いや、別に痛いとかなかったし大丈夫ですよ!でもなんで私魔物に間違えられて、しかも魔法まで…?」
私の記憶だとオロオロしながら突っ立っていただけだった気がするのだが、そんなに普通の人間と違ったところがあったのだろうか?今後の対策のためにも聞いておきたい。
「それは…」
ルートランスは中途半端に言葉を切って、目線を下げ口元に手のひらを当てたまま、黙ってしまった。
「?」
どうしたのかと、首をかしげて見つめていると、少し顔を上げた彼と目が合った。
「どうしたんですか?」
心なしか頬と耳のあたりが赤いような…
「あの、いえ、本来であれば調査地域で人を見かけたら声をかけるか、少し様子を観察するのが定石なのですが…貴方が…」
「私が…?」
「…あまりにもあられもない姿をされていたので…」
声ちっさっ!
あー!そうだね!私が発見された時は制服姿だったので、この国では破廉恥スタイルだった!ごめんねごめんね!変なこと言わせてごめん!
「あまりにもあられもない姿をしてたから、魔物に間違えられて浄化魔法かけられちゃったってこと?」
ルートランスの顔が先ほどより更に赤みを増してしまった気がする。
「はい。そうなりますね。魔物の中には人を惑わすため蠱惑的な姿をしているのものいますから。」
すごくな婉曲な表現をされたが、ほぼ裸に近い格好や対峙した人の欲望を映し出す魔物もいるらしい。
また、そう言った魔物は討伐難易度の高い物らしく年若く経験の少ない魔導士は焦ってしまったようだ
「もちろん、詩子の世界では普通の服装であるのだと思いますので、大変失礼なことだと思っています。申し訳ありません。件の魔導士は謹慎の上、減給の処分が降っています。ご負担でなければ、後日謝罪の場を設けたいと考えています。」
事情を聞けば納得できるし攻撃魔法をかけられたわけではないので謝罪なんていいよ!って言おうと思ったが相手のためには受けてあげて大丈夫だよーって言ってあげる方がいいのかなと思い直した。
「うん。謝罪を受けます。」
ルートランスはほっとしたように、微笑んだ。うん、これで正解っぽい。
「あー、でもあの格好はあっちの世界のスタンダードって訳じゃないかな。向こうの世界でも制服としては若干短めだし、ギャルはミニスカもショートパンツも普通に履くけど奇異の目で見られる事もあるにはあるし…」
まぁ、魔物に間違えられるほどではないけど、ギャルがその奇抜な見た目で偏見の目で見られたり嫌厭されたりするのはよくあることだ。
そんなこと気にせず好きな格好を貫くのがギャルだし、魔物に間違えられるくらい笑い話にできるようでないといけない。
「ギャルとはなんですか…?」
初めて耳にした単語に戸惑っているようで、言いづらそうに発音するが、嬉しい質問に私のスイッチが入ってしまう。
「ギャルって言うのはですね、私が目指している女性のジャンルなんですけど、前向きでいつでも明るくてみんなと仲良くできて素敵な女性のことなんです!初めて会った人とも距離なし…フレンドリーにあだ名とかで呼んじゃったりして、ガンガンに心開かせていくし、だからと言って相手の嫌なことには無闇に踏み込んでいかないし、でも困ったことがあったら全力で助けてくれるんです!見た目はミニスカート履いたり、ゴテゴテのネイルだったり、メイクも派手だけど自分の信念貫いててかっこいいし、可愛いを追求してるんですよね。それに…」
…ああ
…またやってしまった。
ギャルのことを話せるなんて嬉しくて早口で捲し立ててしまった。友達にも引かれるし、やめたの方がいいって言われてるのに…ギャルって言うよりオタクっぽいよと笑われたことを思い出してカッと顔が熱くなる。さぞやルートランスも引いているだろうとチラッと様子を伺う。
「ギャルとはとても素敵な女性なんですね。きっと詩子ならなれますよ」
正面の青年は絵画の中の天使のように慈愛に満ちた微笑みを讃えている。嬉しさと恥ずかしさで自分の顔が真っ赤になるのがわかる。
「では、私のこともフレンドリーに?あだ名で呼んでもらいたいですね、詩子。」
ああ、もうやめてほしい。紳士も天使もこんな場面では暴力だ。恥ずかしさで死にそう。
「あぅ…じゃあ…ルト君で…」
両手で顔を覆って指の隙間からチラッと彼をみると本当に嬉しそうな顔で笑っていた。
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