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50 目覚め

お読みいただきありがとうございます

瞼に感じる光がうるくて、身じろぐように体を横に倒すと、つられて動いた羊のような布団が顔の前にあった。

思わずそのモコモコしたかたまりを抱きしめるとほわっと心が温かくなる。


さっきまで陰鬱とした森の中を彷徨っていたはずだが、安全な場所に帰って来られたようだと安堵して、そっと息を吐いた。


「おなかすいたぁ…」


安心すると現金なもので、小さくお腹がぐぅとなった。何か温かいものを食べたい気分だ。


「…っ!詩子さまぁぁぁ!!よかったです!!お目覚めになったんですねぇぇぇ!!うわぁぁぁぁんっ!!!」


「ぐぇぇっ!リタどうしたの?!なにこの熱烈歓迎っぷりっ??勢いがすごぃ…」


ウエストあたりにものすごい衝撃を感じて、淑女らしからぬ声をあげて振り返ると涙で顔をぐしゃぐしゃにしたリタがお布団の上から覆いがさっていた。


「詩子さま、三日間意識がなかったんですよぉぉ!!リタがあの日離れてしまったから…申し訳ございませんでした…ふぇぇ…」


「…っ泣かないでよ。リタのせいじゃないし私元気なんだからさっ!」


微睡から一気に冷めた私はリタの肩を掴んで自分の上から退かすと、また泣き出してしまったリタに抱きつかれてしまった。


「うたこさまぁぁぁぁ…」


「えっ…ていうか、三日間って言った…?」


仕方なく抱き返しながらリタの頭をポンポンしながら、今どんな状況なんだっけ?と頭の中を整理した。


「じゃあマリちゃんはどうなったの?見つかった?!ディミディミは?!」


そう、今こんなにのんびりしている場合ではなかった。ディミディミは捕まったって言ってたし、マリちゃんは絶賛迷子中なはずだ。


名残惜しそうに私から体を離したリタは困ったように眉をよせ、言葉を選びながら話してくれた。


「えぇっと、リタたちも詳しくはわからないんですけど…まず、マリちゃんは無事です。というか、マリちゃんは…迷子になったりしてないというんですょ…。」


「…どういうこと?」


侯爵家の警備隊と第三騎士団の騎士たちがマリちゃんを捜索したところ王都内のどこにも痕跡がみられなかった。というか、目撃者すらおらず、一緒に転移してきた第二騎士団もそんな女の子どこにもいなかったというのだ。不思議に思ってマリちゃんの住む村に問い合わせたところ、マリちゃんは村にいるし、生まれてから一度も王都になど行ったことがないと言うのだ。


「え…私たち一緒に王都をあるいたでしょ?マリちゃんはここにいたよね?」


「もちろん、リタやエラン様、ルートランス様はこちらでマリちゃんに会っています。でも、それ以外の王都の人間でマリちゃんのことを覚えている人はいないんですよ。」


収穫祭の賑わいで街の人たちも普段とは違う雰囲気を楽しんでいたため、1人の少女のことを気に留めている人はいなかったのかもしれない。

しかし、一緒に転移してきた騎士団の人や、闘技場の警備をしていた人たちも誰も覚えていないと言う。


「うーん、まぁ、そんなこともあるかなぁ?私だってあの日すれ違った人のこととか覚えてないもんね。」


ベッドに胡座をかいて、腕を組み首を傾ける。いつのまにか部屋に控えているクラリベールさんがそのはしたない格好に眉を顰めているが気付かないふりをした。


「それでも、辺境から転移してきた第二騎士団の中に少女がいるのは異様で目立ちます。その者たちも覚えていないと言うことは誰かが意図的に隠して連れてきたのでしょう。」


「クラリベールさん、それって…っ」


「それができるのはディミディッド様しかいないですよね…。」


クラリベールさんの指摘に、リタがへにょんと眉を下げる。

ディミディッドが意図的にマリちゃんを隠して連れてきたとなっては、何か良からぬ企みがあったのではないかと邪推されてしまうだろう。ただ、ディミディミの性格的に恥ずかしさから妹を見られたくなくて隠してきた可能性も否定できない。


「でもそれだと、マリちゃん本人もマリちゃんの村の人たちも口裏をあわせてるってことになっちゃうよね。何のために?」


「分かりませんが、村の人たちの証言に違和感はなく、嘘をついている様子はなかったそうです。」


田舎の農村の人々が王都の騎士団に問い詰められても全員が違和感のない受け答えをできるだろうか。

ほとんどの人が動揺してうまく話せないだろうし、中には耐えきれず本当のことを話してしまう人もいるだろう。


「それで、騎士団の判断でマリさんは王都には来ていなった、と言うことになったようございますよ。」


「えぇ?こんな不思議現象なのに??」


「マリちゃんが王都にいたと主張しているのは私たちだけです。詩子様は意識がございませんでしたので、証言できるのは平民の私だけでした。捜索依頼は出しましたが、本人は村にいらっしゃいましたので、それで解決となりました。」


あの日はルト君やエラン君にも会ったけど、マリちゃんがいなくなった時に一緒にいたのは私とリタ、それからディミディミだけ。私が起きていればまだ侯爵家権限を使えたかもしれないが、平民のリタの発言は軽く扱われてしまうそうだ。


「…リタは嫌な思いはしなかった?」


『ここにいなかったはずの人物が行方不明になりました。でもその子は生まれた村にずっといました。どうしてだか調査してください。』なんて、自分たちで言ってても変なことを騎士団や衛兵たちに話して、リタが邪険に扱われなかったか心配になった。


「大丈夫ですよ。騎士団への報告はルートランス様やエラン様からしていただいていますし、私は調書を取られた程度です。」


私の言葉に一瞬きょとんとした顔を見せて、それからにちょっと悲しそうに目線を下げた。


「でも、このままの方がいいのかも知れません。マリちゃんがここにいたことが証明されてしまったらディミディッド様の罪の連座にされてしまう可能性があります。」


「あんなに小さい子に?」


ディミディッドの罪はおそらく私の誘拐未遂か傷害未遂だろうが、マリちゃんには何の罪もない。それに前回、間違って私に魔法をかけたときは減給処分のみだったはずだ。幼い妹にまで及ぶような罰が与えられるとは思えない。


「…平民は立場が弱いですから…王族のご不興を買ったとなればどうなるかわかりません…」


「まって?ディミディミが犯した罪って私を転移魔法で森に飛ばしちゃったってことでしょ?なんで王族が関係あるの?」


「…っ!!」


リタがしまったと言う顔をして、咄嗟に口元を押さえた。


「すすすすみませんっ!私には説明できませんっ!!後でルートランス様から伺ってくださいっ!」


部屋の端っこまで後退りながら頭を下げると言う器用な動きをしたリタにびっくりして、微妙な沈黙が流れてしまった。

どうやら、今の『王族』と言う部分はリタの失言だったようだ。


「ディミディッド様は未だ黙秘を続けているらしく、その後の進展については私どもにはわかりかねます。ルートランス様が後ほど来られると思いますのでご報告があると思いますよ。」


クラリベールさんが真っ青になってしまったリタを見かねて助け舟を出す。

私だって、リタが言えないことを無理に聞き出すつもりもないし、ミスを責めたりもしたくない。


後の話はルト君に聞けばいいと言うことなので、これ以上リタが気にしないよう話を逸らす。


「…ていうか、私森にいてルトくんが助けてくれたところまでは覚えてるんだけどどうやってここまで帰ってきたの?まさかルトくんずっと私を抱えて歩いてたわけじゃない…よね?」


話を逸らすための話題だが、実は気になっていた。あの後一体どうやってこの館まで戻ってきて、私はこのふわふわのお布団にいるのか。

馬車が森のすぐそばまで来るとは言っていたが、もしルト君にずっと抱えられていたとしたら申し訳なさすぎる。


「ルートランス様からの通信を受けて、詩子様が飛ばされた森の近くに当家の騎士が馬車を走らせまして私も同行いたしました。馬車の乗り降りはルートランス様が抱き抱えていらっしゃいました。お部屋まではお運びいただきましたけど、その他のお着替えなどのお世話は私たちがさせていただいておりますっ!気を失われている詩子様のお顔は、他の使用人にも見られないようルートランス様が胸に抱えて隠していらっしゃいましたよっ!ご安心くださいっ!」


リタははっと何かに気づいたような顔をした後、ドンと自分の胸を叩いて言った。


「そんなことは!きいてないよね??!!」


きききき着替えをルト君がしたなんてそんな心配はしていないっ!勝手に私の心配事を捏造しないでほしいっ!

それに具体的に説明されると気恥ずかしさがぐわぁぁっと湧き上がってくる。えっ?ルト君が私の顔を胸に?ルト君の胸にっ?!


もうたまらなくなって、ガバッと布団の中に潜った。こんもりとしたお山になってしまった私にクスクスという柔らかい笑い声が降ってくる。


「詩子様、お伝えする機会を逸してしまいましたが私も詩子様がお目覚めになって嬉しゅうございますよ。」


そっと降ってきたクラリベールさんの言葉が優しくて目に涙が滲んだ。その顔を見られるのが気恥ずかしくて布団から出られずにいるといつの間にか、また眠りに落ちてしまったようだった。


またすごく久しぶりになってしまいました。続き書きます。頑張ります。

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