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49 命令違反の罰(ルートランス視点)

お読みいただきありがとうございます

「あぁ、其方この償いをどうするつもりなのだ?」


気怠げに頬杖をついたエクラスティル殿下は、つまらなそうに息を吐いた。


収穫祭の武闘大会と詩子の事件があった日の次の日、私は殿下の謁見室に呼び出されていた。

室内には前回呼び出された時と同様、殿下の側近たちと第一騎士団副団長、そして私の直属の上司であるフェンノール・ガルデニア団長が控えていた。


「この度は私の不徳の致すところにおいて、殿下には多大なるご迷惑をおかけ致しました。どのような処分も受ける所存にございます。」


殿下の玉座の下、私は膝をつき首を垂れ臣下の礼をとる。


私が犯した罪は三つ。ひとつはエラン達第三騎士団団員への傷害、もうひとつは演武の際の観客への配慮を欠き、体調不良者を多数出してしまった安全対策義務違反、そして最後にディミディッドの牢の鍵を開けたことによる騎士団の規律違反だ。


しかし、エラン達への傷害については被害を受けた本人たちが減刑の嘆願をしてくれている為ほぼ不問とされた。


演武の際の安全対策義務違反についても大型で凶暴な魔物を準備した第一騎士団にも問題があるのではないかと兄上が抗議してくれた為、こちらも厳重注意と訓練の強化指示に止まった。


ディミディッドの牢を開けたことに関しても、詩子の救出の為であり、ディミディッドがそのまま牢屋内に留まっていたことからこちらも、お咎めなしとなった

したがって今問題となっているのは、殿下の舞台を血で汚し、殿下の御前試合への意欲を削いでしまったことについての処分だ。


「そのように殊勝なことを言ってもだなぁ、其方に科さられる罰など重く見積もっても騎士団除隊程度であろう。それでは其方、嬉々としてこの王都を去ってしまいそうではないか。降格処分も肩の荷が降りたと喜びそうであるしなぁ。むしろもっと重い職務を課した方が罰になるのではないか?第三騎士団団長に昇格させてやろう?」


ガルデニア団長が僅かに眉を顰めた。殿下の側近たちも動揺したように視線を彷徨わせる。

いつもの殿下のお戯れだとわかってはいるが、部屋の雰囲気が張り詰めるようだった。


「殿下、お戯を。私のような不届きものをそのように遇しては皆の士気が下がりましょう。」


家臣の動揺する様子を見て、薄く笑みを浮かべた殿下がゆったりと周囲を見渡した後、態とらしく大きくため息を吐く。


「冗談だ。其方たちもそのように動揺するな。情けないことだ、貴族がそのように感情を表に出すなど。我の周りにはなぜこのような無能しかおらぬのだ。のう、ルートランス・グライユル、お前が私の側に侍るのはどうだ?それを此度の償いといたそうか。」


足を組み替え、そこに肘をついて少し前のめりになった殿下にじっと見つめられるとすっと背筋が冷える。真っ直ぐに見据えられた視線は冗談かどうか判断つかない。


すると、ガルデニア第一騎士団副団長が静かに口を挟んだ。


「恐れ多くも殿下のお側に侍ることを償いと申されるのは…」


流石にこの提案は聞き流すことができなかったのだろう。側近たちの顔も青ざめているようだ。


「わかっておる。まぁ、順当に減給と我の手合わせの相手、それからフェンノール・ガルデニア!グライユル副団長殿に山程仕事を与えてやれ。屋敷に帰る暇も与えぬほどな。」


「はっ!殿下、仰せのたまにっ!」


不意に声をかけられたガルデニア団長はびくりと肩を揺らした。しかし、私に仕事を押し付けろという殿下の御命令にはどこか喜色を滲ませた溌剌とした返答を返していた。


「殿下の寛大な処分に報いるよう、これまで以上に職務に励み、身を尽くす覚悟にございます。」


「…あぁ、そうだなぁ、ルートランス。これは一つ貸しだ。寛大な我の為、いつか頼み事を聞いてもらおう。」


私が殿下の下した処罰を受け入れ、謝辞を述べたことに気をよくしたのであろう。殿下から愉悦を含んだ甘い声をかけられ、少し寒気がした。


「あの魔術師が脱獄でもしていればもっと重い罰を与えられたのになぁ。鞭打ちなど良いかも知れぬ。その白磁のような肌に赤い線を描いたらさぞ美しかろうと思いぞ。」


「殿下のお心のままに。」


「またそのようにそつなくかわす様子が可愛げがないなぁ」


私が殿下のお言葉を冗談と受け流したと思われ、露骨に気分を害した様子を見せられたが、私は本当に鞭打たれても構わないと思っていた。

私はディミディッドが脱走してしまっても構わないと思い、牢の鍵を開けたのだ。エラン達に関しても詩子の捜索を邪魔されたくないという身勝手な感情に任せて傷つけた。

大義などありはしない。私怨に身を任せただけの愚かな行いだった。


それに殿下に「貸し」と言われ、後々無理難題を押し付けられるくらいなら、今然るべき罰を受けておいた方が良い。


しかし、殿下は言葉によって人心を蹂躙し、動揺する様子を見るのを好む方であって、実際に人を嬲ることにはさほど興味がないのだろう。私の返答が面白くなかったようだ。


「ふんっ。ああ、此度も宰相が口を挟んできたぞ。其方の処罰を軽くせよ、と。随分と目をかけられているようだがどのような関係なのだ?」


「宰相閣下とは、直接お言葉を交わしたことはございませんが、私の騎士学校卒業試験の実技をご覧いただき取り立てていただいたと聞いております。誠にありがたいことと存じております。」


「なるほど、その色香に惑わされたのか。彼奴も人間らしいところがあるのだな。」


この見た目のせいで、実力を評価されないことはよくあるため、この殿下のお言葉も然程気にはならない。

しかし、私の為に何かと便宜を図ってくださる宰相閣下にまで不名誉な謗りを受けるのは心苦しい。


「殿下、恐れながら…」


「もうよい、さがれ。其方の本心を偽り綺麗に飾った言葉は聞き飽きた。」


殿下は私の言葉を遮り、手首を数回翻した。殿下に退室を促されてはこれ以上言い募ることはできない。


「では、これにて失礼致します。」


一礼を残し、静かにその場を辞した。



✳︎✳︎✳︎✳︎


ルートランスが退室した後、謁見室には二人の人物が残っていた。

その一人、エクラスティル王太子は気だるげに玉座に座し、足元にひれ伏す人物を見下ろしていた。


「あぁ、フェンノール・ガルデニアよ。其方は本当に阿呆なのだなぁ。その飾りにもならなそうな頭の中には一体何が詰まっているのか、我には皆目見当もつかぬ。されど、かち割って中身を確かめるほどの興味も持てぬ。一体なんの為にあるのか。」

 

床に這うようにひれ伏していたフェンノール・ガルデニアは床についた手をきつく握りしめて食い込んだ爪から赤い血が滲んだ。しかし、殿下の御前をただ汚すわけにはいかず、もう一方の手で隠すように包み込んだ。


そんなフェンノール・ガルデニアの様子を気にも止めず、王太子は言葉を続ける。


「しかし、アレはいい拾い物だった。アレを我に献上する為にあのような愚かな行いをしたのであれば其方の阿呆も救いがあるなぁ。」


王太子はゆっくりと笑みを深めた。

第一騎士団副団長のガルデニアは第三騎士団団長のお兄さんですね。前に出てきました。

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