4 状況整理
「よし、メソメソしてても仕方ない。今の状況をまとめよう!」
ギャルは簡単に挫けたらいけない。小一時間ほど泣いて、がっかりしてめそめそした後、今わかっている状況や自分のこと、覚えていることをバッグに入っていたノートに書き留めていく。
「自分のことわからなくなっていくって言う異世界転生ものもあったしね、向こうの世界のことも書いておこう。」
部屋にあった書斎セットにノートを広げて、黙々と情報をまとめる。
集中すると周りの音が聞こえなくなるのが欠点だが、今は余計なことを考えずにすむ。
ふんわりと明るかった部屋が少し暗くなり、夕陽がゆるく差し込む頃コンコンっとノックの音がした。
はいと返事をして、入札許可をだす。
「詩子様失礼致します。先ほどまでの詩子様から伺った内容をルートランス様にお伝えしたところ、明日詩子様に面会のお時間をいただきたいとのことでございました。」
今日の明日とは騎士団は暇なのか?と悪態をつきそうになるが、きっと私が不審者だから急いで尋問に来るのだろう。無意識にきゅっと胃の辺りの服を握る。
「明日…わかりました。その前にいろいろ質問してもいいですか?」
そうとなれば情報収集だ。尋問で変なことを言って処刑させらたらたまらない。今のうちにこの世界の常識を仕入れておかなければ。
「はい、私にお答えできることでしたら。」
クラリベールさんはいつでもピシッとしてる。
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クラリベールさんへの質問からわかったこと。
ここはフロレゾン王国の首都リポレティア、華やかで豊かな国らしい。
この館はグライユル侯爵という貴族の別邸で、私を保護したルートランスさんが成人した時に譲り受けたもの。しかし、ルートランスさんは騎士団に所属していて、騎士寮に入っているのでたまにしか帰ってこないらしい。
そのため、ここで働いている使用人は最低限。
私のためにこれから人を増やしてくれると言うが、いつ現実世界に帰るかわからないのでこのままでいいんだけど…。
そして、先ほどクラリベールさんが言っていた『女神の花』とは、不思議な才能を持って生まれた人のことらしい。
不思議な力と言っても傷を癒せる力があるとか、空を飛べるとか、体が鋼のように硬くなるとかそんな特別なことじゃなく、育てた花の成長が少し早くなるだとか、美味しいパンがやけるとか、なんだか周囲の人をあったかい気持ちにさせるとかそんな曖昧なことでいいのだという。
周囲の人や本人が「もしかして『女神の花』かも?」と思ったら、神殿を訪れて審判を仰ぐことができる。神殿の許しを得ると『女神の花』と名乗ることができ、国からの援助も受けられるようになるのだ。
しかし、審判とはどう言ったものなのか。神殿の神官たちはどのように審判を下しているのだろうか。まさか、担当者の匙加減一つとかじゃないよね。まぁ、ここは異世界だし、もしかして本当に女神の声が聞けたりするのかもしれない。
「幸せな気持ちにさせるとかなら立候補者たくさんいそうだけど…。それって、何か審判基準があるのかな?」
「公表はされていませんが、一定の基準や審断方法はあるようです。それに、女神の花に親切にすると幸福が訪れるということも多くの実例がありますし、本当に女神様の祝福を受けた方々なのだと思いますよ。」
女神の花の話になると冷静沈着なクラリベールさんの目に力が隠るような気がする。
「もしかして、クラリベールさん…私のことをその女神の花だと思ってる…?」
クラリベールさんは伸びた背筋をさらにピシッと伸ばして言う。
「詩子様、わたくしは確かに貴方様の傷口から虹色の光が溢れて、治癒されたのでこの前で確かにこの目で見ましたのですよ。普通のお方のわけがございません。」
「それは異世界転移特典じゃないかな…」
どうせ通じないだろうと思って重要なことをぽろっと言ってしまう。
「あぁ、詩子様は違う世界の方でいらしたんですね」
「えっ…なんで、すんなり受け入れてくれるの???」
「違う世界からいらっしゃる方は数十年に一度現れるそうですよ。私はお会いしたことはございませんが。」
なるほどー。親切設計異世界だなぁ。
「では、お話しも終わりましたし、まずは湯浴み、その後お食事の準備をさせていただきますね。この屋敷には高貴なお嬢様のお世話をするものが不足していますので、本日は私がお世話させていただきます。」
この屋敷の主人は男性であるし、女性が泊まるということはなく、女性は家事や食事の世話をするメイドだけらしい。
「私は支度とか自分でできるし、やり方だけ教えてくれれば、侍女さんいらないんだけど…。」
「いいえ、詩子様は高貴な方ですよ。そのお身体から玉虫色の光を放ったこと忘れられるわけがございません!」
きっぱりと誇らしげに言うクラリベールさん。いや、それ甲虫…とは思ったが、雛鳥の刷り込みのごとく彼女に親愛を抱いている私はギャルらしく、フレンドリーなニックネームで呼びかける
「もう、クラリっちったら高貴な方なんて…」
頬に手のひらを当ててちょっと照れた感じを演出してみたが、
「そのような奇怪な呼びかけは二度となさらないでください。」
能面のような顔でキッパリと拒否されてしまった。
がびーん。
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