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33 収穫祭!1日目①

お読みいただきありがとうございます

「お祭りっぽい!」


街中に色とりどりのフラッグが飾られていて、民家やお店の軒先には乾燥した稲穂と小さな林檎のような果実が飾られている。これがこの国の収穫祭の伝統的な飾り付けなのだそうだ。


基本的に収穫祭は「仕事を休んで祭りを楽しむ」ということになっているが、小売と食品系のお店は書き入れ時とばかりにたくさんの屋台が軒を連ね、呼び込みの声を大きくしている。


「ふふ、詩子の国のお祭りもこのような雰囲気なのですか?」


祭りの雰囲気にテンションがあがり、高揚する私の横で、ルト君がいつものように優しく微笑んでいる。王太子に意地悪されていると聞いて余計に守りたい、この笑顔!と心の中で拳を強く握りしめる。


「うん!飾りとか屋台の種類とかは違うけど私の思うお祭りと似てる。お祭りっていいよね、ワクワクする!」


「詩子が楽しそうで私も嬉しいです。では、まずジャンとフレッドの屋台に行きますか?スコーンサンドを売ってるんですよね?」


当然のようにルト君が手を差し出すので、もう私も気にせずその手に自分の手を重ねて歩き出す。


「あー、うん。それがねぇ、いろいろあって全然違うものになっちゃったのよ。」 


私は苦笑して、頬を指でかく。

当初はスコーンにジャムとかハムとか挟んだものを作ろうとしていた。しかし、やはり売れるものはボリューミーでいい匂いのするものではないか?!という話になり、ビーフパティみたいなものを作った。でも、それ挟んだらハンバーガーではないかと私の知ってるチェーン店のハンバーガーの話をしたら、それがみんなの心を掴んでしまったのだ。


「この肉のパティはいいな!何枚入れるかでボリューム調整ができるし、チーズやオニオンのトッピングで簡単にカスタマイズできる!」


「お肉の焼ける匂いって人を惹きつけるからねぇ〜。通りを歩いてる人の購買意欲をかきたてるよねぇ〜」


「詩子様!このハンバーガーというものとても美味しいです!」


と言った感じで、もうハンバーガーで決まり状態だった。おいしいから仕方ない。


「どんなものになったのか楽しみです。…と、言おうと思ってたんですがもう美味しそうな匂いがしてきましたね。」


香ばしくて芳しい香りを辿っていくとまだ昼前なのに行列を作っている屋台があった。私の職場、ジャンとフレッドの屋台だ。店頭では孤児院の子どもたちが数人で分担しながら、一生懸命に販売を行なっていた。料理は裏にある厨房から運んでいるようだ。

長い行列を従業員特権でさらりと抜けて裏の店舗の厨房に入った。


「ジャン、フレッド!お店盛況だね!手伝えることある?」


「おう、詩子!大丈夫だ!これから肉の卸の店からも手伝いきてもらえることになってるからよぉ!収穫祭楽しんで来てくれ!」


「詩子ちゃんたちのぶんはそこにおいてあるよぉ〜。ちょうど作りたてだよ〜。」


厨房の中では少し大きな子どもたちがパンをトーストしたり、パティを焼いたりする手伝いをしてくれていた。長居しても邪魔になってしまうので2人にお礼をいってハンバーガーをもらって店の外に出た。ルト君は自分がいると気を使わせてしまうからと、店の外で待っていた。


「お手伝い大丈夫だって。ハンバーガーもらったからどこかで食べようか。」


「ありがとうございます。それでは噴水広場に行ってみましょうか。」


噴水広場にはちょうどいい木陰のベンチが複数あるので、軽食の屋台が多く出ていた。

私たちは運良く空いていたベンチに腰掛けて、ハンバーガーにかぶりついた。


「これはおいしいですね!柔らかいパンもトーストとした部分がサクッとしてて、中のパティもジューシーで噛み締めるほどに旨みが溢れ出てきます。」


「んふふー!美味しいでしょ?!パンもジャンとフレッドがこれに合わせるために改良に改良を重ねたんだよ!」


これは本当に大変だった。主に味見役の私のウエストが…。リタももうハンバーガーは見たくないというくらい食べて最後は顔面蒼白だった。最終的に私からのドクターストップが入ったほどだ。私たちのスタイルの犠牲の上にこのハンバーガーは立っているのだ。美味しくないわけがない。


それを思い出して、そっと下腹部を撫でた。


ちなみに今日の私の分は特別に半分サイズにしてもらっている。ルト君はパティ2枚乗せにしてある。たくさん食べて明後日も頑張って欲しいのだ。


しかしそのボリューミーなハンバーガーは見る見る間にルト君のお腹に収まってしまった。咀嚼を終えたルト君はこんなジャンキーな食べ物を食べたとは思えないほど、優雅に佇んでいる。未だかつてこんなに綺麗にハンバーガーを食べる人がいたであろうか。


「じゃあ、いこう!」


私は立ち上がると、座っているルト君に手を差し出した。ここ最近で手を繋ぐのにも多少慣れはしたのだが、自分から繋いだ方が恥ずかしくないと気付いたのだ。

ルト君は虚を突かれたように目を丸くして一度瞬いた。私から手を繋ごうとしたのは初めてだからかもしれない。

固まってしまったルト君の手を掴んで引っ張って立たせると、そのまま手を引いて歩き出した。

きっとルト君はびっくりしたような戸惑ったような顔をしてるだろうと想像して思わずに顔がにやけてしまった。


「詩子、どこにいくんですか?」


ルト君のちょっと戸惑った声が楽しくて笑いながら振り向いて行った。


「ちょっと一緒に行きたいところがあるんだよ!」


ずんずんと噴水広場から伸びる大通りを進んでいくと小物や布製品などの食品以外を扱う屋台通りにでた。


「詩子ちゃーん!マリエッタはここだよーー!!待ってたよー!!」


目当ての店を探そうと思ったところで、相手の方から声をかけられた。


「マリエッタ!お守り買いにきたよ!」


「準備してあるよ!毎度ありがとうございます!」


そう、私が来たかったお店はマリエッタの雑貨屋さんだ。お給料が貯まったので、ルト君にもらったアデルヴィアスのお守りの色違いをプレゼントしたかったのだ。ルト君のアデルヴィアスは額の魔石が茶色で軽い防御効果のあるものだ。


マリエッタには事前に買いに行くよーと連絡済みだったのでスムーズに購入することができた。


「はい、ルト君!私からお守りプレゼントするよ。武闘大会で怪我とかしないように。」


ルト君はちょっと驚いたようにそのお守りを受け取るとずっと見つめたあと、顔を綻ばせた。


「ありがとう、詩子。とても嬉しいです。じつはこういったプレゼントをもらうのは初めてなんです。大切にしますね。」


瞳が優しく細められて、ルト君の特徴的な宝石のような瞳がキラキラと煌めいていた。


「ルト君にお返ししたくて頑張ったんだ。お揃いになって嬉しいよ。」


私は自分の斜めがけポーチにぬいつけた、いぬ吉ことグリーンの魔石のアデルヴィアスをフリフリと振ってみせた。


「やっとお揃いになりましたね。」


そう言ってルト君は私のいぬ吉に自分のおまもりを並べてみせた。


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