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28 突然の呼び出し(ルートランス視点)

お読みいただきありがとうございます

「今日は例の異世界人イーリスの詩子様がこちらにいらっしゃる日ですよね。」


エランが書類の整理をしながら話しかけて来た。


「そうだよ。ディミディッドの謝罪があるからね。そのあとは第三騎士団の見学をしてもらって、今日は私もそのまま屋敷に帰宅するよ。」


「グライユル副団長このところまた、お忙しくて執務室で寝泊まりされてましたからね。ゆっくりされてください。」


「ありがとう。エランも大変だっただろう。王太子殿下への企画案がまとまってガルデニア団長に提出できたから、やっと通常業務に戻れるね。」


ガルデニア団長に押し付けられた王太子殿下からのご用命に対する返答および代わりの企画に関してはかなり配慮を要するため、アランと数日頭を悩ませた。

団員の協力もありなんとか形になったものを数日前に提出したばかりだ。あとは団長の方から第一騎士団と王太子殿下にうまく取り計らって貰えばいい。


「失礼致します!!グライユル副団長、第一騎士団火急のお召しがございました!!急ぎ、第一騎士団内王族用応接室に参られるようにとの仰せです!!」


第三騎士団の団員が焦った様子で私の執務室なら飛び込んできた。焦るのも無理はない、第三騎士団の副団長たる私に急に王族からの召喚がかかることなど滅多にないことだからだ。団長に何かあったか、なにか不手際があり叱責を受けるか…悪い想像ばかりが頭をよぎる。


「わかった。すぐに参る。エランすまないが、詩子の付き添いを頼めるだろうか。もう間も無く、第三騎士団の正門の前に来るはずなんだ。」


「承りました。責任を持ってご案内させていただきます。」


頼んだよ、と心配そうなエランの肩を叩いて執務室をでる。

せっかくの楽しい予定が潰れ、代わりに気が重くなるような用事が入ってしまった。何もなく済めばいいと願いながら長い廊下を駆け足で進んだ。



✳︎✳︎✳︎✳︎


「そなたが、ルートランス・グライユルか。グライユル侯爵代理とは似てないのだなぁ。あぁ、母親が違うのだったか。」


金糸のふわりと巻いた長い髪を後ろで一つに纏め、晴天の空より澄んだスカイブルーの瞳を持つ美丈夫な青年が、王族専用応接室のソファーにゆったりと足をくみ腰掛けている。


この部屋で座しているのはこの青年のみ、御年18歳になられるこの国の王太子エクラスティル殿下である。

エクラスティル殿下の後ろには第一騎士団副団長と殿下の護衛騎士、側近たちが控えており、殿下と向かい合う席の後ろには我が第三騎士団のガルデニア団長が緊張の面持ちで立っていた。


「燦然と輝く我が国の至宝、エクラスティル殿下に拝謁叶いましたこと身に余る光栄にございます。第三騎士団副団長を務めます、グライユル侯爵家のルートランスでございます。お召しにより参上致しました。」


「ふーん、確かに綺麗な顔をしている。その金糸の髪は王家によく出るものであるし、その虹色宝石のような瞳は見たこともないほど美しいな。2つもあるのだし、ひとつ取り出して我に献上してくれぬか?」


殿下は私をみてつまらなそうに言ったが、周りの側近たちは一瞬息を呑んだように見えた。

指摘された私の髪は殿下と同じく細い金の巻き髪ではあるが、グライユル侯爵家には王家の姫君が降嫁されたこともあるし、別段おかしなことではない。


「恐れながら殿下、騎士爵を賜った際、私のしんたいも全てをこの国に捧げ申し上げました。どうしてもとの仰せでしたら、どうか陛下の御裁可を得ていただければと存じます。」


国王陛下は女性関係に節度を欠くところを除けば、善政をもって国を富ませた、賢王とも呼ばれるお方だ。息子の戯れで臣下の瞳をえぐり出すことを良しとするような方ではないとわかった上で、このように返した。


「ふんっ。そつが無くてつまらんな。フェンノール・ガルデニアの申す通りの男だな。まぁよい、其方の提出した企画書だが、我はこの前と同じように近隣の森で魔物を狩りたいと申したのだ。これはなんだっ?!」


エクラスティル殿下が目の前に積み上がっていた紙の山を乱暴に薙ぎ払った。

私たちが必死に書き上げた企画書が部屋のあちこちに散乱した。


「北の森に5日間遠征しての魔物狩り、狩猟大会、捕縛してきた魔物との戦闘訓練だと?我を馬鹿にしているのか?!我は前回と同様、呑気に我が王都近くに巣食う忌々しい魔物を、直々に討伐してやろうと申しておるのだ。それをこのような案で誤魔化そうとは無礼ではないか?!」


殿下の後ろに控える側近たちは皆顔を青ざめ下を向いている。本来であれば彼らが殿下を諌め、然るべき方向に導くべきであるのに、誰一人その役目を果たせてはいないようだ。殿下の激昂に対し、ただ嵐が過ぎるのを待つように沈黙し、私にその役目を押し付けたいようだ。


私の足元にまで散らばっていた企画書を拾い上げ、ゆっくりと殿下に向き直る。


「恐れながら殿下、前回の討伐では確かに殿下のお力によりまして多くの魔物を討伐せしめることができました。しかしながらその余波により森全体も魔物や野獣に変化を及ぼし、後々この王都付近まで魔物が溢れ出ることとなりました。殿下の采配により王都に被害が出たとなれば今後殿下が御即位される際の枷になるやもしれません。殿下の輝かしき治世に一片の憂いも落としたくはないのです。私どもが忠誠を持って案じておりますこと、どうか御賢察いただきたく伏してお願い申し上げます。」


片膝をつき騎士の最敬礼を持って殿下に御懇願申し上げた。殿下は私探るようにじっと見つめるとふっと表情を緩める、片方の口角だけを上げて、皮肉げに言った。


「我の働きが逆に迷惑だった、とは随分な物言いだなぁ。」


「滅相もないことにございます。殿下の類稀なる才覚の影響があまりに大き過ぎる為、私共が十分にお応えできないのであります。加えて、殿下は比類なき尊き御身、殿下の血の一滴すらこの国の宝でありますゆえ、極力危険を伴う行為はお控えいただきたいのです。」


長い沈黙が流れる。私と殿下以外のものたちの緊張の面持ちで私たちの様子を固唾を飲んで見守っている。

しかし、初めて対面した殿下は理不尽を無理に通したいという方ではないように思う。

苛立ちで周囲に当たることもあるだろうが、ご自分の臣下が理不尽にどのように答えるか試しているように見える。

であれば、理論立てて説明すればどこかで矛を収めてくださるのではないだろうか。


「まあ、よい。フェンノールよりは肝が据わっているようだ。其方の案で一つだけマシなものがあったな。しかし、そのように優しげな顔をして恐ろしいことを考えるのだな。己の部下が我に切り刻まれても構わぬというのか?」


殿下が目の前に残っていた企画書を、指でつまみ上げて言った。

長くなってしまったので2話にわけます。


フェンノール・ガルデニアは第三騎士団団長で以前ルト君にネチネチ言ってた人です

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