26 第三騎士団に行こう
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フロレゾン王国には3つの騎士団がある。
第一騎士団は主に王族の警備にあたる近衛騎士団。本部は王宮内に位置し、常に王族に侍るため所属できるのは高位貴族の子弟のみである。厳格で誇り高く、最も格式が高い存在である。その分、気位も高く他の騎士団に対して威圧的な態度を取ることも少なくない。
式典等の際には、純白の隊服に肩から胸元にかかる金色の飾緒をつけた礼装で国民の前に出るため、平民の子供らが憧れるのもこの第一騎士団である。
第二騎士団は隣国との国境防衛が主な仕事である。陸地で接する2つの隣国との関係は良好であるため、今は両国の往来を警備する程度で、比較的のんびりとした部隊である。
構成する団員は国境沿いに領地を持つ貴族の子弟が多いが、その土地に住む平民の子が志願することもある。騎士団本部も王都の外れにあり、王都内で第二騎士団に会うことはほとんどない。
そして、ルートランス属する第三騎士団は王都内とその周辺の警備を担当している。
第二騎士団の想定敵が人であるのに対し、第三騎士団が相手にするのは主に魔物であるため、最も危険が多く、訓練も厳しく出動も頻繁である。
その上、王都内のいざこざにも駆り出されるため、何でも屋さんと揶揄されることもある。
構成団員は身分に関わらず、若く実力のあるものが多いが、危険が多いという理由で高位貴族からは嫌厭されることもある。
第三騎士団本部は王宮のすぐ隣に配置されている。もちろん有事の際にすぐに任務にあたれるようにするためだ。
私、一之瀬詩子は、本日こちらの第三騎士団において、例の魔術師のディミディッドさんから謝罪を受ける予定だ。
例の魔術師さんとは、私がこの国に来た際間違って私に浄化魔法をぶっかけてしまったあの人だ。
別に怒ってはいないのだが、私が謝罪を受けないとその魔術師さんの名誉が回復できず減給されたままらしく、流石に可哀想だ。ちなみに私がこちらに来てからもう六月ほど経っているらしいので、魔術師さんの生活水準の低下が心配である。
私はもう少し早く謝罪を受け、許しを与えても良かったのだがルト君が許可しなかった。
「ルートランス様遅いですねぇ。」
リタちゃんが何もついていない左手首を返して見ているが、そんなところに腕時計はないし、この世界には存在もしていない。誰がそんな古典的なギャグを仕込んだのだろうか。まぁ、この世界にそれを教えられるのは私しかいないわけだが。
「お仕事忙しいのかも。もうちょっと待ってようか。」
待ち合わせ時間を少し過ぎているが、忙しい中立ち合いを希望してくれたことを知っているので特に気にならない。ぼんやりと堅牢な壁に囲まれた王宮を見上げていた。
「すみません!失礼ですが、グライユル侯爵家の詩子様でいらっしゃいますか?」
騎士団の門から小走りでこちらに駆け寄ってきた男性が声をかけてきた。
隊服に簡易な胸当てをつけた騎士らしきその青年は、私より少し背が高いくらいだった。男性としては背が低い方であろう。髪は青緑色で緩く後ろで結んでいる。
「第三騎士団副団長補佐及び王都警備隊副隊長を務めております、エラン・ニジェルと申します。本日、グライユル副団長は急な任務により時間が取れなくなった為、私が代わりに立ち合いを命ぜられました。」
がびーん。ルト君はお仕事にて本日は来られなくなったとのこと。本当は心細い!ルト君がついてきてくれるから安心して騎士団にきたのにー!
「ニジェル様、一之瀬詩子と申します。本日はルートランス様が任務とのこと、ご多用の中ニジェル様にもお時間をいただきありがたく思っております。本日はよろしくお願い申し上げます。」
これでいいのか?!家庭教師にマナーは習っているが咄嗟にできるかっていうと別問題なのよ!!ニジェル様はわたしが挨拶を受けるまで騎士の礼を崩さない。早く返答をしなければと焦った。
そんなわたしの様子を察してか、ニジェル様は騎士らしく精悍な顔を少し崩して人懐っこい笑顔を見せてくれた。
「グライユル副団長から詩子様の話は聞いてますよ。僕は下位貴族の出身ですし、気軽に話していただいて大丈夫ですよ。名前も気軽にあだ名で呼んでいただいて。」
そういってニジェル様が揶揄うようにニッと笑って見せた。
「…もしかして、私がルートランス様のことなんて呼んでるか知ってます?」
「はい。ルト君なんて呼べるのは詩子様だけですね。」
ニジェル様は思わずと言った様子で吹き出した。
「えー…そんなにおかしいかなぁ。じゃあ、ニジェル様はエラン君ね。」
ふん。とふんぞり返って言ってみる。そっちがそんな揶揄う態度ならこっちだってそれなりの態度をとるんだぞー!と思ったが何故かエランくんは楽しそうだ。
「副団長に怒られそうですけど、嬉しいですよ。」
「ルト君がなんで怒るの?」
リタとエラン君が顔を見合わせて微妙な顔をしている。何その顔は。君たち今日が初対面なのに気が合ってるみたいですね、と頬を膨らませる。
「まぁ、その話はいいとして、応接室までご案内しますね。本来でしたらこちらから侯爵邸へ謝罪に伺うところ、ご足労いただきありがとうございます。」
「私がルト君が働いてるところを見てみたいって言ったんだよ。」
エラン君が私たちをエスコートしながら頭を下げるが、本当にこれは私が希望したことだった。いつもは柔和なルト君がキリッとして部下に指示をしてるところとか見てみたかったのだ。ギャップ萌えっていいよね。
「では、次回はぜひ訓練を見学しにきてください」
「え!そんなことしていいの?」
「侯爵家から申し出があれば可能ですよ」
なるほど、権力だね。でも無理を通したいわけじゃないので保留かな。
騎士団本の一階は関連施設と武器等の倉庫、二階部分に仮眠室や食堂と会議室、三階に団長、副団長の執務室と応接室がある。
本日はこの三階の応接室に案内された。エラン君が応接室の扉を開けると完全に開き切る前に体がのけぞるほどの大声が聞こえた。
「この度は誠に申し訳ございませんでしたーーー!!!!」
リタが私の両耳を塞いでくれていたので鼓膜は守られた。恐る恐る部屋の中を見ると黒い衣に身を包んだ青鈍色の髪の人物が土下座を通り越して五体投地の姿勢で地にひれ伏していた。
「ディミディッド!それでは詩子様が驚いてしまうだろう。」
エラン君の呆れた声を聞いてこの人が、件の魔術師ディミディッドさんなのだと分かった。
話のストックがなくなって来てしまったので毎日更新できなそうです。
今後は、最低でも週一は更新したいなと思っているのでよろしくお願いします




