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14 デートではない

さて、ルト君のお兄さんとの会食から数週間がたった。

あれからルト君はもっと忙しくなり、別邸にもなかなか来られない日々が続いていた。

彼のいない日々は単調で退屈で、私は毎日リタちゃんとお勉強したり、厨房でなんとなく覚えている現代日本の料理に挑戦して謎の食べ物を作り出したり、お庭や屋敷内を散歩して過ごした。

時々、フェネージュ様がお茶に誘ってくださるので侯爵家本邸にお邪魔したりもしていた。


本日はルト君との久々の再会にして、お出かけの日である。

デートではない、決して。


ルト君は王都周辺の魔獣騒ぎが落ち着いたので、また通常通りの勤務に戻ったそうだ。いつかの疲れた顔はすっかり元のキラキラピカピカフェイスに戻っていて何よりだ。久しぶりに見るルト君は私の記憶の3倍くらい麗しい。


私はというとクラリベールさんによって、令嬢風のモスグリーンのワンピースにハーフアップの清楚系にされてしまった。ギャル感消滅。


ルト君は真っ白なシャツにトラウザーズ。シンプルな装いが素材の良さを活かしまくっててヤバい。なけなしの語彙も消えるレベルのヤバさ。


見るだけでお金取れるなぁなんてぼんやりと思いながら、遠慮なく観察させていただく。


ルト君はすでにお兄さんが次期当主として実務こなしているため、本人の希望で王国騎士団に所属している。

今年、21歳という史上最年少の若さで第三騎士団の副団長に任命され、第三騎士団内の王都警備隊の隊長も兼任している。将来は近衛騎士団の入団も期待させる出世頭らしい。


物腰は柔らかく、金色の髪に光を反射して虹色に輝くブルーグリーンの瞳は物語の王子様そのものである。


女子高生の平均身長ど真ん中の私が見上げるほど背も高く、8cmヒールを履いてちょどいい身長差になるのではないだろうか。


うーん。これは婚約者候補だか、思いを寄せる女性だかにからまれて「貴方は彼に相応しくありません!」って言われるシーンがあるんじゃないか?と妄想を膨らませてしまう。


オタクに優しいギャルも目指す、私としては異世界転生・転移、聖女に悪役令嬢なんにでも対応する所存だ。


うんうん。頷きながら思考を明後日に飛ばしているとルト君に顔を覗き込まれた。


「詩子?また何かギャルのことを考えてますね?」


「ルト君すごい。あっちの世界の友達でもそんなに私の思考読む人はいなかったよ。対応力が神だね」


「ふふ。神だなんて。詩子はいつも少し大袈裟ですね」


詩子はふふん、と鼻を鳴らし、腰に手を当てて言う


「「ちょっと大袈裟なのがギャルの特権」」


「ですよね」


ルト君が完コピでセリフを被せてくる。さらにふわっと顔を傾けウインクまでしてくる。


「これだからイケメンはぁ…」


頬が赤くなってる気がして、誤魔化すように横を向いた。


「そうだ!この前の会食の時、お兄さんが侯爵家にも顔を出してって言ってたよ。仕事が忙しいの落ち着いたんでしょう?」


ルト君は困ったように眉を下げる。


「兄上はそう言ってくれますが、私はあまり本邸の者たちには好かれていないようで…」


本邸にはルト君のお父さんであるグライユル侯爵とお兄さん夫婦が住んでいる。お兄さん夫婦の2人の息子さんはそれぞれ騎士学校と官僚学校に進学し、寮に入っているそうだ。

ルト君のお母さんとお姉さんは、ルト君が小さい頃に亡くなっている。

そのほかには昔から侯爵家に仕えている使用人がいるが、私が本邸を訪れた時はみんな親切だった。


あの人たちがルートランスに冷たくするようには思えないが誰に好かれていないというのだろうか。


「ルト君のこと、嫌いになる人なんているの?」


ルートランスは驚いたように目を見開いた後、ふわっと表情を綻ばせた。


「ふふ…詩子にそう言われると心強いですね。」


本気で聞いたんだけどな。


慰めと思われたのが、誤魔化されたのかわからないけどなんかモヤモヤする。

私はルト君に全幅の信頼を寄せているし、拾われた犬として全力で懐いているワン。

それ抜きにしても、異世界人の私にも屋敷のみんなにも優しく接する様子も、細やかな気遣いもすべてが自然で優しい。

なのに!なんでこんなに自己肯定感が低いのかな!!


「わんっ!!」


キッと睨みつけて、一吠え。ルト君は宝石のような瞳がこぼれ落ちそうなくらい目を見開いていた。


「詩子…?どうしたんですか…?」


戸惑うルートランスの様子を見て溜飲を下げる。


「なんでもないよ!ほら、今日は商業区に連れて行ってくれるんでしょ?」


私の中で1番ギャルっぽい笑顔を作って、ルト君に向き直る。ルト君は小さく瞬きをした後、いつもの穏やかで優しい顔に戻った。


「もちろんです、詩子。私がどれだけこの日を楽しみにしていたか、わかりますか?」


微笑みながら手を差し出した。

ええと、これは手を繋ぐってこと?エスコート?手を乗せるの?腕を組むの????わからないよー!


差し出された手を見つめて固まってしまった。


「商業区は人通りが多いですし、詩子は初めての場所ですから、私と手を繋いでいただけると安心です。」


あ、うん。迷子紐みたいなことだよね。もしくは飼い主のリード?オッケーですワンワン!

私がちょっと意識しすぎちゃっただけみたい。だって男の人と手を繋いだことなんて幼稚園以来じゃない?!


「う、うん。迷子になったら帰れないもんね。よろしくお願いします!」


素早くルト君の手を取り、指先の震えがバレないように、きゅっとにぎる。

答えるように少し大きい手が私の手を柔らかく握り返してきた。

恥ずかしくて、はしゃぐ子供みたいにルト君の手をぎゅーぎゅー引っ張って歩き出した。


「よし!じゃあ出発しよう!美味しいものも食べようね!」

「はい。楽しみですね。」


今絶対変な顔をしてる。見られたくなくて前だけを見てズンズン進む。これは決してデートではない!お散歩なんだから!

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