10 女神の花、賛否両論
明日は7:00に更新します。
理由は、朝にPV0で悲しかったので
絵画から抜け出したような美貌の青年は、「ルト君、ルト君かぁ…」と口の中でその言葉を味わうように何度かつぶやいて笑っている。
何がそんなに嬉しいのだろう?
実は先ほどからずっと疑問だった。彼はずっと嬉しそうなのだ。私を部屋に招き入れた時から、優しい微笑みの奥にワクワクと高揚したような、無邪気な喜びが見え隠れしている気がするのだ。
「実は…あだ名をつけてもらうのは初めてなんです。母と姉は小さい頃に亡くなりましたし、兄とは親子ほど歳が離れていて…小さい頃はあまり友達もいなかったものですから。」
嬉しさと照れくささを混ぜたような表情で言う。
「自宅に自分の客人を招くのも初めてなんです。どんなお菓子やお茶を用意するか考えるのもこんなに楽しいものなんですね。」
そわそわとこちらを伺う様子にピンと来た。
「わかった。」
この、なんだか少年のように高揚した感じ!
「なにがわかったのですか?」
不思議そうに尋ねられるが言えるわけもない。
拾ってきた犬を飼ってもいいと言われた子供のようですね、なんて。
なぜ、ただ拾ってきただけの不審者な私にこんなに優しくしてくれるのかぎもんだったのだが、非日常感にウキウキワクワクしてるだけなのだろう。
初対面からやさしい笑顔と好意的な態度を向けられて、これは異世界の主人公ムーブ…ッッ!と戸惑っていたが、なんだか腑に落ちてスーと気持ちが落ち着いてきた。
「存分にはしゃいでいいんだぜ、坊ちゃん」と頭の中で小型犬の成犬に渋い声でアテレコしながら、メイドさんが入れ直してくれた紅茶をいただく。
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女神のような神々しさと子供のような無邪気さを兼ね備えた人だなぁとぼんやり考えていると、「そういえば女神の花って…」とポロリと口を突いて出てしまった。
「ああ、クラリベールが女神の花について話したのですよね。詩子には自己治癒能力があると聞きました。」
ルートランスに言われて、そういえばそんな問題もあったなぁと思い出す。治癒能力自体は便利だが、怪我をするのは普通に痛かったので出来るだけ傷つかないようにしていきたい。
「うん。腕の傷が治ったんだけど、1回だけだから治癒能力があるのかはわからないし…しかも普通に痛いし。その…女神の花審断ってうけたほうがいいの?」
クラリベールさんからちょっと聞いた話によると、女神の花と認定された人を家で保護すると国から補助金がでるし、その家にも幸福が訪れるので貴族や大商人などは喜んで家に招き入れるし、養子にする人もいるそうだ。
女神の花が幸せを感じれば感じるほど周りの人にも幸運が訪れるので、それはそれは大切に扱われる。
なので、市政ではちょーーーーっとでも可能性があると神殿に連れて行かれるらしい。
「公助・共助揃っててなかなかいい制度だと思うけど、ルト君はあんまりおすすめじゃない…?」
なんらかの能力がある人が国や貴族や商人の助けを借りて、才能を開花させたり幸せに暮らせる。
手を差し伸べた人も女神の花効果により、幸運が訪れると言うことで双方に利があるように思えるが、ルートランスは積極的に勧めてはこない。
「異世界人が、女神の花の審断を受けるとなると神殿や王宮にも申請や報告が必要になりますから。さらに認定が降れば国王陛下への謁見という話にもなるかもしれません。」
ルートランスが少し困ったような顔をして言葉を濁す。
「神殿や王宮にしられるとまずいの?」
もちろん、国王への謁見なんてまっぴらごめんなので、申請などしたくないのだが、そこまでルートランスが躊躇する意味がわからない。
王都周辺の調査の報告や、補助金の申請などが、すでに済まされているので私が異世界から来ていることに関しては神殿にも王宮にも知られているはずだ。それとは別に治癒能力について知られたら面倒だと言うことだろうか。
ルートランスは話すべきか逡巡したのち、重く口を開いた。
「国王陛下は特別女性への関心の高い方で、特に素晴らしい能力がある方であればお側で愛でたいと言うこともあるでしょう。神殿では魔法や能力に関する研究も広く行われていますので、詩子に実験の協力願たいと言い出すものもあるかもしれません。」
自己治癒能力は珍しいですから、その能力を解明したいと思うものも多いでしょう、と続ける。
つまり、国王は好色野郎で愛人にされちゃうかもしれないし、神殿ではマッドサイエンティストに実験動物にされちゃうかもってことね。それは嫌だ!
「もちろん、異世界人である詩子に無理強いすることはできません。断ればいいだけなのですが、煩わしいかと。」
柔和なルートランスの語彙に「煩わしい」なんて言葉があるなんて驚きだ。きっとこれは随分綺麗に補正された言葉なんだろう。
「神殿での審断は義務ではありませんし、詩子はすでに我が国での保護対象です。この邸宅で過ごしてもらうのには今の状態でもなんら不都合はありません。ゆっくり考えれば良いと思いますよ。」
女神の花なんて呼ばれたいわけじゃないし、ルートランスに迷惑がかからないなら、審断なんて受けなくて良い。
「うん、とりあえず審断は受けなくていいかな。」
ルートランスがほっとしたように顔を綻ばせる。
「実は、女神の花の審断に積極的ではないのにはもう一つ理由があるんです。その話をするために詩子の専属侍女になるものを紹介させてください。」
昨日クラリベールさんから言われてた専属侍女さんだ!1人で大丈夫だよと言っていたが、歳の近い子をつけると言われてちょっと楽しみだったのだ。友達になれるといいな。
「はい。よろしくお願いします。」
私が了承すると、コンコンっと可愛らしいノックの音のあと、クラリベールさんに続いて侍女の女の子が入ってきた。
両手を自分に前に重ねて揃え、つむじが見えるほどの深くて長いお辞儀を一つ。
ゆっくりと顔をあげると花も綻ぶ笑顔を見せてくれた。
「本日より詩子様の専属侍女を務めさせていただきます、リタと申します!よろしくお願い致します!」
少し顔が右に傾き、薄紫色のふわっふわのツインテールがたんぽぽの綿毛のように揺れた。
ルートランスの役職を王国第三騎士団副団長兼王都警備隊隊長に修正しました
第三騎士団の副団長とその騎士団内の王都警備隊という部隊の隊長を兼務しています