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ふたりのジョージナ  作者: 砂臥 環


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31/34

 

 キャシーはなにから尋ねるべきか迷い、まずジョージナに告げられたことと、夏至祭りの夜にあったことを話した。

 

 王妃の言葉を疑うつもりはないが、どこまで知っていて、それが本当はどの程度(・・・・・・・)なのか、という認識には疑いがある。わかった気になっていたことがあまりに一部に過ぎなかった、自らの経験として。

 なのでジョージナの恋人らしき、蛇の青年(・・・・)については極力ぼかした。彼女と同じ部屋に宿泊した夜の彼のことは、一切話していない。


 メインはあくまでも、夏至祭りの夜に見た──湖で踊る、サミュエルそっくりな男。


「そう……」


 元々その話を促すつもりでいた王妃にとっては有難くもあり、やはり気が重くもあった。

 だがそんな王妃を見て、キャシーは自分の想像が正しかったのだと感じていた。



 湖で踊る男女……輝かんばかりに美しい女をリードする、サミュエルにそっくりな男──

 現れたジョージナと、蛇の毒に倒れたサミュエル。渡された解毒剤。

 それらがなにを意味するか。



 キャシーが興味を持っていたのは、女性の社会進出と地位向上、その先駆者イヴリン・マッコイ。彼女の商会が推す画家と、その美しい絵……災害により崩れた旧道のことで、多少勉強はしたものの、元々西の森やそこでの文化について詳しくはない。

 人ではないジョージナの恋人を見て恐怖した彼女は、むしろ触れるのはタブーな気すらしており、積極的に調べようとは思えなかった。


 だが夏至祭りに赴いて。

『夏至祭りの女王』の話は当然耳にした。

 なにしろイヴリンの商会でも、それにちなんだ商品を取り扱っているのだ。話を聞かないわけがない。


 それさえ知っており少し冷静になれば、考えずともわかる。『夏至祭りの女王』を見たのだ。


 キャシーは白蛇がジョージナの恋人だと知っている。 伝承そのままにあの光景があるのなら、助けてくれた(・・・・・・)のだろう。

 サミュエルが、女王に囚われてしまう前に。


 ただひとつ、わからないこと。

 男がサミュエルとそっくりであること。


 王妃の反応から、答えを聞く前にキャシーは正解を確信していた。


「ルパート元王太子殿下は、亡くなっていなかったのですね?」

「……ええ」


 あれは、ルパートだ。

 サミュエルにそっくりな、若いままの、彼の実の父親。





 ──婚約破棄され、冤罪で王都から追放されたジョージナの乗った馬車は、崖下に西の森が広がる旧道で野盗に襲われた。

 しかし『蛇の人』に助けられ、森の中に小さな家を持つヘーゼルという老婆の元に預けられることとなった。


 老婆は畏敬の念から村人に『魔女』などと呼ばれていたが、実のところ神と人とを繋ぐ『神子(みこ)』なのだそう。

 蛇の人もそれに近く、言うなれば森側の『神子』。ただし立ち位置としては近くとも、その概念は大きく異なる。その辺りも、ヘーゼルに預けられた理由のひとつだろう。


 幸い人嫌いで通していたヘーゼルの元に来るのは、エディという少年のみ。彼女の薬や知識に頼っていた村人達は、機嫌を損ねたくないので彼を通して用事を頼んでいた。その為ジョージナの存在は、特に誰かに知られることもなく、穏やかに時を過ごすことができた。


 しかし、ルパートはジョージナを諦めていなかった。


 現場から見付かった彼女の所持品は、粗末なローブのみ。ただし、それにはおびただしい血が、流れるように付着していた。頭から血を流したと思われる。少なくとも明らかに返り血ではない。

 馬も残っており、旧道は一本道。横は崖……生存の確率は低いだろうに、捜索は続けられていた。決して大仰なものではなく、秘密裏に近い。


 襲われた旧道の端、崖下は森。

 その辺りに遺体はあったが、白骨化してかなり経つ古いもの。大きさからもジョージナではなく、徐々に捜索範囲は広げられた。


 やがて村まで捜索隊は来た。

 村は崖下の森の中からそう近くもなく、血を流している令嬢が無事辿り着けるとは思えない、と何も知らない村人は語る。

 だが、見付かるのは時間の問題だった。


「このままここにいる気かい?」

「ご迷惑を──」

「いや、迷惑とかそんなことを言っているんじゃない。 アンタだってわかっているだろう」


 ヘーゼルの言う通りだった。

 本当はここを離れなければならないのだろうが、それはできなかった。ヘーゼルがなんとかできると言うので、行先がないことは然程の問題ではない。


 問題は、『蛇の人』の傍に居たいこと。

 ふたりは恋人のようになっていた。


 だが彼はまだ仕える神との契約が締結しておらず、不完全な存在なのだとか。あと20年程は、この土地を離れることが出来ないらしい。


 ジョージナはどうにかならないか、隠された地下の書庫に眠る莫大なヘーゼルの書物を必死で漁り、ひとつの解決策を思い付いた。

 それは同時に、ルパートの問題の解決策にもなるもの。


 ──贄だ。


 夏至祭りの夜。

 ルパートの執着心を利用してここに(おび)き出し、『夏至祭りの女王』……蛇の人が仕える土地神の娘、湖の精霊姫に捧げる。


 美しいものとダンスが殊の外好きだという姫も、美丈夫でダンスも上手いルパートならば、きっとご満足頂けるだろう。


「……戻れなくなるよ」


 ヘーゼルはそう言う。

 そこに行き着くだろうことを予想していたヘーゼルは、当然この解決策を知っていた。


 勧めなかったのはヘーゼルが人だから。

 尤も、人の(ことわり)に従うことを人とするという定義付けの幅の狭い概念で、彼女がそうあろうとしただけ。

 本質としてはそうでない。時にどこまでも残酷になれるのが人でもある。


 ジョージナは人を捨てることを、躊躇なく選んだ。


 それもまた、理から外れただけの、人らしい決断だ。

 ヘーゼルが止めることはない。


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そういうことなのか( ˘ω˘ )
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