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ジョージナという娘

 

「ジョージナ、愛しているんだ。 どうか我が妃となってくれないだろうか」

「殿下……ですが、私は……」

「君の事情はわかっている」


(わかるわけないわ。 私にもわからないのだから)


 ジョージナは胡乱な存在だった。

 若くして亡くなったという母ジョージナに瓜二つな彼女を、母が呼ばれていたふたつ名を使い『月の姫君が戻ってきた』と言う者もいれば、『どこの馬の骨かわかったものではない』と悪し様に言う者もいる。


 ジョージナ自身、どちらが正しいのかわからなかったし、正直なところどうでも良かった。

 巻き込まれたにせよ、もう『公爵令嬢ジョージナ・ランサム』としての人生は始まろうとしており、それは自分にはどうにもならないこと。





 ただのジョージナが『公爵令嬢ジョージナ・ランサム』となるこの出来事のきっかけは、この時より半年程前に遡る。


 西の森の傍の村近く。倒れていた女性を発見したのは、通りかかった近くに住む夫婦。

 一旦保護したものの、見た目から『尊いお方の御息女では』と思った夫妻は、村長や領主ではなく、隣街で商会を営む女性で元貴族夫人であるイヴリン・マッコイを頼った。

 村長や領主を頼らず彼女に頼ったのはイヴリンと夫妻に面識があるからだが、それも含め、保護したのが大変美しい、17・8の女性だったことを慮った故である。


 後の諸々の検査で身体的問題はなにもない(・・・・・)と判明したが、ジョージナは名前以外の記憶を失っていた。


 それでもイヴリンはすぐにどこの血縁者かわかった。なにしろその名前の娘と、自身の記憶の中にあるその名の女性は、まるで同じ姿なのだから。

 それだけに頭を抱えざるを得ない。


 ──ランサム公爵家に娘はいない筈。


 悩んだ末、イヴリンは公爵家に秘密裏に連絡をとった。それが正解かはわからないまま。


 やってきたのはランサム公爵家前当主と当主──()ジョージナの兄と甥にあたるふたり。


「父上……」

「……まるで、ジョージナそのものだ。 ああ、どこかで生きて……なのに私は……!」


 故ジョージナは当時の王太子の婚約者だったが、心変わりした王太子に婚約を破棄され、修道院へと向かう途中で賊に襲われた。

 故人とされているが、実のところ行方不明であり生死は不明なまま。

 現在50の兄とは歳が10離れていたので、もし生き延びていたら40。この年頃の子を産んでいてもおかしくはない。


 当時のランサム公爵家が政治的事情から王家に逆らうことが難しい立場にあったのも事実だが、ジョージナと兄ジョゼフィンはむしろ、子を有用な駒としてしか見ていないような両親に逆らえなかったと言っていい。

 歳が離れていたのもあり関係性の希薄な兄妹だったが、互いに関係を構築するのが難しかっただけで、愛という程のモノは培えなくとも情がないわけではない。

 捜索を早々に打ち切った父を説得できなかったと、ジョゼフィンは未だに悔やんでいた。


 ランサム公爵家はジョージナをジョゼフィンの庶子として引き取ることに決めた。

 ふたりのジョージナの為というよりは、ジョゼフィンの為に。


 公爵家で彼女は何不自由ない暮らしを与えられたが、愛情らしい愛情を与えたのはジョゼフィンのみ。

 まだジョージナが幼児なら違っただろうが、現当主である公爵にしてみれば、まだ6つの息子と自分の間の年齢の女性。朧気な記憶と絵姿でも叔母と瓜二つなのはわかるけれど、扱いに困るというのが正直なところ。

 彼の妻にしてみても、知らない遠縁の美しい女性が突然やってきてもてなされているようなものなので、当然あまりいい気はしない。


 ただ、それで問題があるかと言えばそうでもなかった。

 なにぶん『ジョゼフィンの娘』、それも庶子として引き取った子である。

 ジョゼフィンはその為に宮廷からも完全に退き、田舎にある領の別邸にでもジョージナを連れて行こうと思っていたのだから。少しの間ならまあ、客人として接すればいいので許容できる範囲だ。


 ところがジョージナが公爵家で少し暮らし、その際に諸々を調べたことで話は変わってきてしまった。


 ジョージナに自身の記憶はなかったが、覚えていなくとも培ったものは、彼女の中に存在していたのだ。

 公爵令嬢に相応しいだけの教養と美しい所作を、彼女は既に修得していた──かつての『ジョージナ・ランサム』と同じように。


 ジョセフィンの辞意表明もあり、興味を抱いた国王夫妻からの招請を断ることはできずにジョージナを連れて出向いた王宮。


 そこでジョージナは、王太子に見初められてしまった。

 それはかつての『ジョージナ・ランサム』と同じではなく、王太子自身が決めたことだったが。


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