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ふたりのジョージナ  作者: 砂臥 環


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再会

 

『逃亡』とは言っても、ジョージナが考えているのは『婚約者候補からの離脱』である。


 いくつか方法は考えており、もし今回の災害がなければ双子の協力の下、夜会で事件を起こすつもりでいた。

 起こす事件にもいくつか候補はあったけれど、いずれにせよあまり穏便な手段とは言えないもの。

 しかし、災害とキャシーのお陰で穏便な方法が取れそうだ。


 キャシーがこうして申請し、ここに来た理由は容易に想像が付いた。

 純粋な慈善による支援──の気持ちもあるだろうが、勿論それだけではない。


 一番は、拠点を近くに置いているイヴリンの商会の為だ。


『商会の為』とは言っても、不正に公的資金を回すとか公的事業に介入させるといった意図ではなく、単純にこの道がないと不便だとかそういう意味なだけに、なにも問題はないけれど。


 これまでのキャシーが公私共に挙げた功績のうち、彼女の商会が大きく関わっており、特に女性の社会進出に一役買っている。

 そのことからジョージナは、自分を助けてくれた夫妻のどちらが画家なのかがわかった気がした。


(マッコイ夫人は自分の活躍と商会を隠れ蓑と後ろ盾に、女性の画家を育てているのね)


 イヴリンの商会は今もなにかと手助けをしてくれる侯爵である元夫と、他国との取引を生業にしている商人の現夫の手腕もあって手広く、絵画の輸出入も行っている。

 数点を他国のものに紛れさせ逆輸入するなど、いくらでも小細工はきくに違いない。


 なにより今は輸出が一番のメインなのだろう。


 まだこの国では、絵に限らず女性が芸術家として活躍することは難しく、画家を目指しても女性というだけで評価されない。当然買い手がつかないので画商にすら置けない有様だ。

 国内では『謎の画家』として取り扱い、一部は保存、ある程度他国に流してそこで評価を受けてから出す気ではないか。


(女性と公表するかどうかは、今後の流れ次第、と言ったところかしら)


 保護された際に乗せられた小さな幌馬車の荷台。そこに積まれた荷の形状から、絵だとわかったのはジョージナにとって幸いだった。

 夫妻にしてみれば迂闊だが、それも含め彼等の判断を善性からだと疑ってはいない。

 ただたとえ僅かであれ、イヴリンに頼った中には『この厄介者を早くなんとかしなければ』という気持ちもあったのだろう。


 この秘密を握ったことは大きい。


 ジョージナは明日コトを起こすつもりでいた。

 急遽決めたことであり杜撰な計画だが、好機逸すべからず。いつだってリスクは付き物なのだから、流れがある時に躊躇うのは愚か者のすることだ。


 ただ、穏便な離脱の手段として僅かな時間、ひとりになる必要がある。警備に携わる者や関わる人間達が、極力責任を問われない為に。

 その助力を願うのにイヴリンはこの上なく適した相手であり、この件はその取引に非常に有効。


 尤も、受けた恩をただ仇で返すつもりはない。

 ゆくゆくはジョセフィンに打ち明け、隠蔽と支援の協力を求めれば──


(まだ皮算用とはいえ、共にキャシー様がいるのは強いわ)


 彼女の為人(ひととなり)こそ、一番の後ろ盾と言っていい。





 そして馬車は目的地へ到着した。

 現場は酷い状態だったが、幸いにして崩れた際に周囲に人通りはなく、死者は出ていない。

 その後の確認・調査と、安全の為に落石等を片付ける作業中に怪我人が多少出ており、それ故やんごとなき身分のふたりはかなり離れたところから見る程度しかできなかった。

 それでも貴人が支援の為に、しかもわざわざ足を運んでくれたことに、現場にいる関係者一同の喜び感謝している様は感じることができた。


 充分役目を果たしたふたりは、領主に邸宅に案内された。

 災害支援である為、余計な歓待をしないように予め告げておいたのもあり、多少豪華な晩餐と言える食事を領主夫妻と共にするだけで済んだ。

 ふたりは警備の関係から、夫婦用の客室で一緒に過ごすこととなってしまった。


  少々落ち着かないが、話すには好都合だ。


「キャシー様は明日、マッコイ夫人のところに行くおつもりでは?」

「ええ、やはりおわかりでしたのね」

「是非私もご紹介預きたい(・・・・・・・)のだけれど、図々しいお願いかしら……?」

「図々しいだなんてとんでもないことですわ! 私の方も『お嫌でなければ、』とお誘いしようと思っておりましたの」


 キャシーはそう言って、嬉しそうにあどけなく笑う。

 念の為の確認だったが、どうやら彼女はジョージナとイヴリンの間にあったことなど、なにも知らないようだ。



 ──深夜、隣で寝息を立てているキャシーを起こさないよう、ジョージナはそっと身を起こし、ベッドから出た。


 バルコニーに立つと、闇の中薄い月明かりに黒く繁る森の木々が影のように映る。

 それを眺めながら、ネックレスにしてずっと肌身離さず持っている短刀を鞘から出した。


 別になんの縁のある物でもない。

 大きさが手頃で、柄の先にチェーンを通せるので、隠し持つには丁度良かっただけのもの。

 刃渡りはジョージナの人差し指程度だ。


 だが、顔に消えないぐらいの傷を付けるには充分だろう。


(タイミングを間違えないようにしなきゃ。 躊躇わないように)


 ただ、一番の不安はそこではない。

 顔に深く傷を付けて、『あのひと』はそれでも受け入れてくれるだろうか。


 しかし、その心配は要らなかった。


『ジョージナ、なにをしてる?』

「!」

『そんな危険な物、持ってはいけない』

「貴方……ああ……!」


 突然の再会。

 ジョージナは喜びのあまりに叫び出しそうな口を両手で抑え、嗚咽を漏らした。





『ごめんね、遅くなって』



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