運命でない人
※この前々回辺りの数話からとても読みづらいと思いますが、理解した上で一旦上げてしまってます。未熟で申し訳ないです。
もし無理、合わないと感じましたら、どうぞブラバしてください。
尚、これに関する苦情やご指摘をメッセージや感想欄で頂いても扱いかねますので、ご遠慮下さい。
今のジョージナ・ランサムとして、初めての夜会を目前に控えたある日。
サミュエルから花束が届けられた。
これはただの儀礼的な慣習らしく、ドレスや装飾品を贈れない代わりのよう。エスコート相手には花束と、菓子などの所謂『消え物』が贈られるのだとか。
初回はせめてもの思い出にという配慮からか、色とりどりの鮮やかな飴玉を美しい硝子ポットに入れた物だそうで、それも皆と同じ。
ただしジョージナの贈られた箱の中には、更に箱。
同封された手紙に、それが爪紅であることと夜会に付けてきて欲しいという旨が書かれていた。
流石に前回のように軽率に謝罪の言葉を示してはいないところに、多少自身の立場への反省が見られる……と取れないこともないものの、そもそもこの時点で黒寄りのグレーの行動を取ることがかなり軽率である。
ジョージナはこれに肌が粟立つ程の嫌悪と恐怖を覚え、同時にそのことに安堵した。
──あれから何度か、夢を見た。
『貴方をお待ちしていたのですもの』
それが記憶であることは間違いなく、最初こそ混乱し、絶望すらした。
自分が待っていた人とは彼なのか、と。
しかしそれは起き抜けで、夢の鮮烈な一部の残した混乱によるモノでしかなかったのだ、と、何度か見るうちに気付いていった。
待っているのは彼ではない。
あの時にサミュエルに似た男を待っていたのだとしても、そこには別の理由がある筈だ。
そして、他にも夢のおかげで気付いたことがある。
(私は殿下に……あの男を重ねて見ている)
このことをハッキリと自覚した。
そしてそれが嫌悪と恐怖である以上、彼を愛することは難しいだろう。
爪紅を贈られたことの軽率さには安堵しても、贈られたこと自体に占めるのは今後の不安だ。それは爪紅を着けることを望む、その意図を考えて湧き上がるモノでもある。
あの男に対する気持ち同様の、嫌悪と恐怖。
ただ、彼はあの男ではない。
サミュエルを愛すことはないが、既に多少の情は存在する。彼には、あの男と同じ気持ちを抱くような人には、なって欲しくなかった。
(できればあのまま……愚かで綺麗でいて欲しいわ)
あまりに身勝手な希望に、ジョージナはひとり自嘲の笑みを漏らす。
彼に好意を向けられようとも、応えることはないのだ。それどころか利用しようとしているというのに。
その一方、『別に気の毒がる必要もないだろう』と冷めた自分の声が頭に響いてもいた。
もともと、居なかった女だ。
結ばれる筈もない。
断りにくい状況で迫ってきたのは彼……概ね自業自得だろう。
まだ夢から得た記憶は朧気で、当然全てを理解するどころか全体が繋がったわけでもない。
だがふたりのジョージナは、ひとりでしかないということを、ひとつの器の中で別れたままの今のジョージナは事実として理解し、受け入れていた。
かつてのジョージナを捨てることになるのか、それともいずれ溶けるように混ざるのかはわからないけれど、やがて記憶は戻る……そんな確信と共に。
罪悪感がないわけではないが、もう迷ってはいない。
爪紅の小瓶をそっと手に取り、柔らかく虹を描く貝のような薄紅色を僅かに眺めてから箱に戻すと、鈴を鳴らし侍女を呼んだ。
「これを包み直して、スタレット嬢へ贈って頂戴」
ジョージナはこうすることが最適解だと思った。
アントニアが離脱した以上、王太子妃となるのはまずキャシーだろう。
諌めるのか、目を瞑るのかを決めるのも。
まさか後押ししているとは思わなかったけれど、それも含めて結果としては確かに最適解であった。
そこからジョージナは、少しずつ動き出した。水面下で、密やかに。
正しく情報を取得するまでに、余計な手を打って自ら躓かないよう、慎重に。
アントニアと双子をどう利用するべきか。
或いは利用されるフリで、上手くあしらうにはどうすべきかを。
双子に接触してわかったのは、アントニアの為ならなんでもすること。
アントニアは自分が気に入った者は大事にする、ということ。
(時間がありすぎるわ)
何故こうなったのかわからないが、時間がありすぎる。おそらく夏至になにかが起こるのだろうとジョージナは考えているものの、まだ秋口。一年近くある。
婚約者選定のこともある、上手く早目に離脱しなければならない。




