ケリーとケイティ
※資料的に残しておくけれど、この回はスルーしても平気です。
ゲートスケル家の双子、ケリーとケイティ。
ふたりは長いものに巻かれるタイプであり、阿る相手次第で善良にも悪辣にもなる。
双子である為に忌み嫌われ、冷遇されて育った彼女達に矜持なんて崇高なモノなどない。キフト家の意向が強く働いたにせよ、婚約者候補という立場を与えられるだけの美と知性を備えているのは、ふたりが家から追い出されない為にしてきた努力の賜物とも言える。
「だけどケリー、私トニア様の期待を裏切るなんてできないわ」
「そうねケイティ、私も同じ気持ちよ」
通常通りのふたりの判断なら『切り捨てる』一択であり、やり過ごす算段を練るだろう。
だがアントニアのことだけは別。
ふたりにとってアントニアは、愛し慈しむべき、ただひとりの主だ。
「そっくりなのが特に気に入ったわ。 貴女達、私のお付きになりなさい」
有力な家の子女ばかりが集められた初めての茶会で、そう声を掛けられたふたりは驚いた。
なにしろふたりが侯爵家で冷遇されていた一番の理由は『本来ひとつである筈のモノがふたつに別れた』『不気味だ』等と忌避される、一卵性双生児であることだったのだから。
「あ、貴女様は私達を不気味に思われないのですか?」
「何故? ああ、オドオドしていて陰気だから?」
酷い言い様だが、当時のケリーとケイティは確かにそうだった。
高位貴族家のテーブルに座らされたふたりは、年齢よりもしっかりしたマナーを身に付けていたけれど自己肯定感は低く、また厳しい教育によりなまじ知識があるだけに、萎縮するばかりだった。
「ふ、双子だからです」
「いやね貴女、耳は大丈夫? 『そっくりなのが気に入った』と言っているじゃないの。 そのドレスや髪型もセンスないわぁ。 せめて色違いのお揃いになさいな。 そうだわ、この後買いに行きましょう! うふふ、きっと可愛いわ」
アントニアは戸惑う双子を無視して勝手に話を進めた。
彼女にとっては双子が忌み子なんて話など、どうでもいいことである。
それより顔が好みかどうかの方が余程大事であり、双子は単体の顔の造作でもお眼鏡に叶ったのだ。
物心ついた時から既に自身の美貌に自信があったアントニアは、『わざとみすぼらしい娘を侍らせ、比較されて悦に浸る』のような考え方をしない。
美しいモノが好きな彼女にとっては、傍に置くのも美しい方がいいに決まっている。わざわざみすぼらしい者を従えて何が楽しいか、という。もしそんなのを目や耳にした場合『あらまあ、所詮その程度なのね。 お気の毒に』と嘲笑うタイプ。
ただ、双子の他にも可愛い顔の娘はいた。
決め手は勿論『双子だったから』──そっくりなふたりを侍らすのは、きっと映える。
色違いお揃いとか、とても可愛いし目立つに違いない。
それを自分がプロデュースするのも彼女の自尊心を満たし、またお人形遊びのような楽しさもある。
だがそれまで『罪を自覚しろ』とばかりにわざと違う格好を強いられてきた双子にとって、アントニアの言動は信じられなかった。
「あら、なにこの痣は」
着せ替えの際、折角の可愛いお人形に傷があることにアントニアは眉を寄せた。
そして彼女達の冷遇と、厳しい教育を知る。
ふたりの母であるゲートスケル夫人が双子を産んで儚くなっており、『双子を産んだから死んだ』と言われていることも。
「まあ、馬鹿馬鹿しい」
しかしそれを、アントニアはアッサリと一蹴した。
「ですが……!」
「双子だったからお母様がお亡くなりになったとしても、それは出産が大変なことで双子なら尚更だったってだけよ。 それを忌み子だのなんだのってわざわざ他に理由を付けるなんて、頭が悪すぎるわ」
ただの物量による母体への負荷の問題でしかない。双子が忌み子とされる理由にはなるだろうが、それはたとえ二卵性双生児でも同じことだ。
二卵性であれ差別は受けただろうが一卵性だと更に酷いとなると、『忌み子』とは概ね、くだらない迷信に紐付けた八つ当たりなのは明白。
アントニアはそんなことを言って、鼻で笑った。
「それとも貴女達はお母様のお腹を喰い破って出てきたのかしら? ふふ、それなら確かに忌まわしいわね」
「そんなわけないじゃないですか……!」
「ほらね、馬鹿馬鹿しいでしょ」
「えっ?」
「やだわ貴女、今自分で『そんなわけない』って言ったじゃないの」
生まれてからずっと、古い言い伝えと、悪意により捻じ曲げられた価値観に晒されてきた双子にとって、アントニアという存在は鮮烈で。傲慢さも苛烈さも魅力的だった。
体罰をする家庭教師が来る時に格上の教師と共にやってきて圧をかけ、ミスをした双子の教師に対し、可憐な笑顔で『貴女のやり方はこうなのよね?』などと宣い、定規で腕を打ち据えた時には胸がすく思いだった。
舐めた態度を取る侯爵家の侍女やメイドへの様々な報復の方法を双子に教えてくれたのもアントニア。
彼女はふたりの見た目だけでなく、結果を出せば必ず評価して褒めてもくれた。
アントニアに気に入られたことで、侯爵家での待遇は大幅に改善された。家族との仲は悪いままだが、そのころのふたりはもう、互いとアントニアさえいれば他はどうでもよかった。
そっくりなふたりに、そっくりである意味と自信を与えてくれたのは、家族じゃない。アントニアだ。
「うふふ、貴女方のお気持ちは良くわかりましたわ。 ね、おふたりはアントニア様の為に、どこまでできて?」
「なんでもよ」
「私も同じよ」
双子がそっくりな顔で微笑み合うのを見て、ジョージナも微笑んだ。