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VANISH!  作者: 浮島龍美
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第1話  松尾山にて

 1916年、那覇区の久米と若狭の間にある松尾山まちゅーやまと呼ばれるこんもりとした丘に1人の少女が立っていた。彼女はひとつ結びの髪型に黒いリュックを背負い、赤いチェック柄のシャツと紺のジーパンと言う琉装がまだ主流のこの時代にそぐわない恰好をしていた。


「あれ?お母さん?」


 少女は福州園に戻ろうと思っていたが、急に景色が変わり、松林だらけの山林が広がっていたので、困惑していた。


「ここどこ?」


 少女はスマホで家族に連絡しようとするが、なんと携帯は圏外となっており、繋がらなかった。


「どうしよう・・・怖い・・・」


 少女はここがどこだがわからず、一瞬、パニックになった。少女が隣を見ると、うつ伏せで倒れている年上の女性がいた。女性もやはりこの時代にはそぐわない恰好をしていたが、少女と違い、栗色に染めた髪、綺麗に施されたメイク、花柄のワンピースに小さめのカバンとオシャレな格好をしていた。


 倒れていた女性が起き上がると、少女は「わっ」と声を出して尻餅着いた。


 女性は少女を見て「うける。なんで尻餅着いたの?」と未来に聞いた。


「だって急に立ち上がったから」


「そう。じゃあなんでここにいる?」


「なんでと言われても・・家族と福州園で歩いてたら、急に・・」


「えー蓮も彼氏とデートしている時に来たよー」


 蓮と名乗る女性も少女と共に松尾山に来たらしい。


「そうなんですか・・・あの名前は蓮さんですか?」


 未来は蓮に名前を聞いた。


「うん。知花蓮ちばなれん。苗字ですぐわかると思うけど、出身は読谷だよーよく男みたいな名前って言われる。あんた名前何ね?」


 蓮は少女に名前を聞いた。


兼村未来かねむらみく。『かねむら』と言うと、内地の人みたいな苗字だけど、『兼久かねく』の『兼』だから沖縄の『かねむら』だよー後、みらいって書いてみくーっていう」


 未来は自身の故郷である嘉手納の一地域「兼久」という地名を言うと、地元が近い蓮はなんとなく理解した。


「へぇー未来ーって言うんだ。よろしく!蓮、関西の大学に通っているよー未来ーは何歳?」


「今年で16歳になりました」


「えー高校生!老けているねー大学生かと思った」


 蓮は未来の見てびっくりした。見た感じ自分と一緒か少し下にしか見えないからだ。



「高校生です」


「そうなんだ。で、ここどこかわかる?」


「わかりません」


「だよね」


 蓮は周辺を見渡しても松林しか見えなかった。


「ねぇもう少し進んでみる?」


 蓮が未来に訊ねると、未来は「うん」と答え、松尾山の頂上部分から降りようとすると、そこには赤瓦の家があった。


「未来―家があるよー人が住んでいるのかな?」


 蓮は赤瓦の家を指さした。未来は用心深いのか一歩、後ろに下がり、「わからない。でもあまり近づかない方がいいんじゃない?」と言ったが、蓮は「でも人がいるかもしれない入ってみよう」と赤瓦の家に向かった。


「えー行くの?」


 未来はやや嫌そうな表情をしていたが、蓮と共に赤瓦の家に向かった。


 赤瓦の家に向かうと、そこには石垣とヒンプンがあり、観光施設で見かけるそれと変わらない者だった。


「ごめんぐださい」


 蓮は石垣の中に入ると、そこからTシャツにズボンをはいた男女が出て来た。


 男性の方は堀の深い顔立ちをしていたが、女性の方は長い黒髪が特徴的だった。


 彼らはどこからどう見ても現代人にしか見えなかった。蓮は自分達と同じようにここに来てしまった人達だと思い、「すいません、ここがどこなのか知っていますか?」と聞いた。


 男性の方が蓮に「ここは1916年3月26日の沖縄だ」と答えた。蓮は「え?1916年の沖縄?2016年じゃないの?」と自身が過去に来た事に対してかなり困惑していてたが、未来は男性を見て「おじさん、どうしてここにいるの?」と聞いた。


「仕事だ」


「仕事?おじさんも新聞記者じゃないの?」


未来が不思議そうな表情で拓也を見ると、気まずそうな顔で「あれは表の仕事だ」と答えた。


「表?じゃあ裏もあるの?」


未来のさらなる質問に拓也も「・・」と黙っていた。


 蓮はそんな未来の様子に驚いた。


「え!未来ーこの人達と知り合い?」


「うん。この人は金城拓也きんじょうたくやさんっていう亡くなった叔母さんの配偶者で、普段はこの人と千葉に住んでいるんだけど、今年は叔母さんの一年忌って事で沖縄に来たんだよ」


 未来は金城拓也とされる男性を紹介すると、蓮が「叔母さん?言いづらいけど、もしかして去年、転落死した新聞記者?」とどうやら彼女は未来の叔母の事を知っていたようだ。


 未来は暗い表情をしながら「うん。あっ、おじさんの前で叔母さんの事、あまり言わない方がいいよ。おじさん、おばさんが亡くなったの事故とか自殺だと思っていないから」ボソッと小さい声で蓮に話した。


「えー!もしかして他殺だと思っているの?」


 蓮は目を開き、未来に聞いた。


「みたい・・おばさんが自殺するはずないってね・・」


 未来が小さな声で話すと、拓也が「詳しい事は後でだ。入るぞ」と言われて2人は家の中に入った。





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