プロローグ
「ぃえーあれー何やが?」
1912年7月30日、那覇区泉崎(現那覇市泉崎)にある仲毛海岸(現在の那覇バスターミナル辺り)の上空に丸い発行体が出現した。発行体は分離や融合を繰り返し、巨大な発行体が小さな発行体を連れて出て来て、バラバラになって消えた。
第一発見者の比嘉氏は驚き、この事を近所の人に告げると、次の日も同じ場所から発行体が出現した。
「発光体騒ぎ」は噂が噂を呼び、大騒動になった。仲毛海岸には連日、人が集まり、大混雑となったという。
騒動は当時の「UFO騒ぎ」として琉球新報(現在のそれと資本形態が異なる)にも記事が掲載され、翌日から「怪談奇聞」と題する心霊コーナーを連載するようになったという。
4年後の1916年、同じく那覇区にある松尾山や波之上宮に謎の飛行物体が出現しているが、こちらは真夜中だったので、目撃者が少なかった。
が、それ以降、人が誰にも知られる事無く、消失する事件が多発したが、証拠どころか消失した人の存在すら忘れ去られてしまうためこの事件を知る者はいなかった。
そして100年後の2016年、那覇市では若者の失踪事件が相次いでおり、3月26日にはこんなニュースが流れていた。
「今日未明、那覇市で10代と20代の女性の行方がわからなくなっています。行方不明になったのは高校生の兼村未来(16)さんと大学生の知花蓮(20)さんです。2人は市内の福州園を訪れていた所、急に姿が見えなくなったと家族や交際相手からの通報がありました。警察は事件と事故の両方を兼ねて2人の行方を追っています。また、那覇市では行方不明事件が相次いでおり、25日には家族と共に観光で首里城を訪れていた中学生の小野寺海音さん (15)、友人達と市内を訪れていた専門学生の安冨祖麗奈さん(19)が行方不明となっています」
街中の電光掲示板やスマホの動画で流れるニュースに人々は動揺し、SNSを中心に様々な憶測が飛び交った。
「もしかして行方不明になった子達って誘拐されたんじゃないの?」
「高校生や大学生がそう簡単に見ず知らずの人についていくか?」
「でも、最近じゃSNSで知りあったってのもあるし」
「えーでも人身売買とかだったらどうする?」
「怖っ、それは無いでしょ」
「なんか俺らぐらいの人達が行方不明になったって聞くけど、見つかったって話聞いた?」
「いや。まだ聞いていない。そのせいで俺達、自由行動が出来なくなっているんだよなー」
「めんどくせーな。早く見つかってくれないかな?」
「もしかして行方不明になったのって北朝鮮に拉致られていない?」
「え?中国はわかるけど、北朝鮮の人って沖縄に来ることある?」
「うーん微妙」
「福州園って俺、行った事あるけど、池があるから間違って落ちたんじゃないか?」
「警察も池を探しているけど、溺れたって証拠は無いみたいだぜー」
「はーやー?じゃあどこにいったば?」
「わからん」
「わからん?まさかアメリカ―とかに誘拐されていないよな?」
「まさかやーアメリカ―がここまで来るか?」
「いや、最近は来るだろ」
地元の人を始め、観光客や修学旅行生が街中で事件の事を話している中、行方不明者の身内らしき人物がSNSを見ながら「また・・憶測か・・みんな自分の家族がいなくなっていないからどうとでも言えるよな?」と呟きながらモノレールの駅へ向かった。
一方、行方不明の現場となった福州園では沖縄県警察が総動員で捜査を行っていた。
未来と蓮が失踪したとされる石で出来た橋には2人の刑事が立っていた。
「奥間君、行方不明がどこに行ったか手がかりとなる証拠は無いのか?」
奥間と名乗る刑事の上司とされる男が訊ねた。
「いえ、まだ手がかりは見つかりません」
奥間は池を眺めながらこくりと頷いた。
「早く見つけてくれよ。あいつらに手柄を取られたくないからな」
「あいつらとは?」
「知らねぇーのか?なんとか研究所とかいう変な組織だよ。沖縄で事件が起きる度、毎回いつもあいつらに手柄取られているんだよ!」
上司の刑事はとある組織に文句を言いながら奥間の元を去って行った。
しかし、彼らがどんなに調査をしてもついに行方不明者を見つける事は無かった。