夢とホシ
世界でうごめいているもの、他者を捕食し、また他者から捕食される脅威にさらされているもの、自分もそういったものの一人だとうっすらと自覚している。「ウ」とだけ仲間から区分され識別されるサル、ウは集団カイに属していた。リーダーはサルのカイだ。カイは集団をしたがえ、果物のよくなる樹林、魚の取りやすい河原、味の良い種の穂を実らせる野原を支配していた。集団は12匹のサルで構成され,果実を手にすれば仲間のあいだで分け合いまた魚を捕る技量に長けたサルはよく働き捕らえた魚は仲間の間で分配されていた。 彼らは音楽をもっていた。手にした石を他の大きな石に打ちつけ鳴る音にもリズムがあった。サルたちはそのリズムを心地よく思いその音が響き渡ると互いに目をあわせ歯をむきだして笑顔を確認しあった。舞踊もあった。石打ちの響きに合わせ両足を踏み鳴らす程度、しかし気分が高揚すれば二匹が手をとりあうこともあった。日が暮れると樹木の枝葉の奥で、弱いものがつまり子ザルやメスザルが安全な高い枝にとりつき眠り、脅威にたいして見晴らしのきく場所には強いもの、つまり脅威を追い払える可能性をもったサルが眠った。種を食い、眠り、時に音楽と舞踊を味わい、そして時に脅威によって捕食された。ウ、そして彼らは自分たちのことをサルだと思っていた。
ウは夢をみていた。昨夕、運よく枝のなかで一番いごこちのよい枝にとりつけたので久々に深い眠りに落ちていた。
夢の中でウは、
透明で、大きさと形は果実の桃に近かった。
向かいでメスザルのキイが四つん這いのまま、ウと同じように透明な球体を
ウはキイの全てを理解しているような気がした。夢はじょじょにかすみ、夢の内容もうすれていった。ウは枝の中で目を覚ました。かすむ視野のとおくに地平線がうっすらとうかんでいた。地平線の上には、彼らがホシと呼んでいる光があった。この光景をウは何度も見ていた。地平線のすぐそこにホシがいるのだ。「あそこまでいけばつかまえることができる」
枝の下の方でゴソゴソと小さなこすり音した。キイが目を覚ましたようだ。