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日常

        1


 時乃は、何時寝たか覚えていなかった。起きた時は、カーテンの隙間から暗い空が覗いていた。

「わたしは、また寝たのか?力を使った覚えはないのだが」

 ベットから這い出し、可愛らしい寝巻きのまま、一階におりる。リビングに入ると、フラットが新聞を読んでいる。

「おはようー」時乃は、可愛く言ってみた。

「起きたか酔っ払いめ」

「何が酔っ払いだ、わたしは、乗り物には、酔わないぞ」

「そうきたか」

 フラットは、説明するのも面倒になった。

「何時だ」時乃は、時計を見る。

「五時五十八分、フラットは年寄みたいな時間に起きるんだな」

「いらない知識はあるんだな。ってー澄香なんだその髪」

「ん」

 時乃は、自分の髪に手を伸ばす。慌てて、洗面所に行く、鏡に映すと膝後ろまで伸びている。

「これって急に伸びたのか」

 時乃は、急いでリビングにもどり。

「フラット!これはどういうことだ」

「俺はしらね。物知りフィンに聞けば」

 時乃は、二階に上がり、机の引き出しから、スマートフォンを取り出す。

「フィン!大変だ、髪の毛が伸びている」

「んー。もしかしたら力が増えたのかも」

「そうおなのか」

「たぶん」

 フィンは、少し間を置いて。

「澄香、ものすごく微弱なのですが、シールドウェーブの反応があったのです。位置などの情報は、まったく取れなかったのですけど」

「残存バトルHMではないのか、殲滅はできなかったから」

「それなら、いいのですけど」

「通話切るぞ」

「はい」

 スマートフォンを机の中に片付け。真鋳色の髪を後ろで持ち上げてみる。どのように縛ればよいか、悩んだ結果、ポニーテールになった。人間のように、髪を切ればいいのだが、御使いの後ろ髪は切ってはいけないのである。


        2


 十二月も半ばになり、日本の復興も急ピッチで進んでいた。スクエアーフォーのあるこの町では、日常を取り戻すのにさほど時間はかからなかった。

 時乃澄香は、学園の廊下を歩いていた。真鍮色の髪をツインテールに縛り、ゆらゆら動かしている。

 シールドウェーブ通信機は、〈耳の聞こえが悪いので、補聴器を付けます〉と申請し常時装着である。

 最近は、不良学生もいなくなり、学園は極めて平和である。

 教室に入ると、自分の席に座る。席替えしたため、窓から二つ遠くなる。石原瑠奈は、何時もの席の位置にいる。問題は、学園の登校開始日から来ている黒髪に黒い瞳の少女、高遠美鈴である。時乃も何度も話しかけようと試みたのだが、上手くいかず今日にいたっている。

 物理の授業が始まり、少し考え事をしていた。それは、フラットが(俺、男として生活してみようと思う)と言っていたのを思い出したからである。

 フラットは、学園の総理事を辞め、工場のプラットホームで肉体労働をしている。現在の総理事は、フィンである。


 昼の休憩時間になり、時乃は、学食に向かう。何時もながらの混みように、うんざりしながら、きつねうどんとラーメンを頼む。

「はい。きつねとラーメンね」とおばちゃん。

 テーブルに着き、きつねうどんとラーメンを置く。椅子に丁寧に座り、七味唐辛子をうどんに、胡椒をラーメンにかける。割り箸を割り、きつねうどんからいただく。

 前の席に誰かが座った。机の上に、ちゃんぽんとライスを置く。時乃は、向かいの人を見てみた。黒髪に黒い瞳が綺麗な、高遠美鈴である。

 高遠は、ちゃんぽんとライスを交互に食べていた。高遠は、普段と違う口調で。

「時乃、炭水化物ばかり食べるな」

 時乃は、高遠が自分に話かけてきたことに驚き、箸が止まった。

「高遠、聞いてもいいか?」

「何をかな」

「本当に御使いなのか」

「どうだろうね」と高遠は微笑する。

 時乃は、考え込んだ。どうすれば、もう一度確認できるかを…。いい考えも浮かばず、時間だけが過ぎて行き、高遠は、食器返却場所に行ってしまった。気が付くと、ラーメンが伸びていた。


 時乃は、昼食後の歯磨きをしっかりする。つい歯ブラシに力が入り、歯茎に命中する。これをすると一週間は美味しく食べられないと落ち込む。

 日差しがあり、暖かいので中庭をあるく。すると、石原と錦野に呼び止められた。パラソルのある丸いテーブルに向かい合う。

「澄香、クリスマスイブに予定あるの?」

 石原は大きな瞳で時乃を覗きこんでいる。

「今のところ、夜八時まではあいている」

「え!夜は誰かと何処かに行くの」

 後藤家に来るように言われているだけなので。

「いや、親戚の家に行くのだよ」

 石原は、胸をなでおろし。

「あのね、私と萌とお兄ちゃんと澄香で、少し出かけたいの」

「なるほど」

「今年は、戦争とか色々あったから、あまり派手なことできないけど、クリスマスにライトアップする素敵な公園があるの、どうかなーと思って」

 時乃は、断る理由もなかったので。

「そうだな、行ってもいいぞ」

「良かった。時間は、また連絡するね」

「わかった」

 その後三人は、教室へ歩き出す。道々、時乃の家に行った時のことを話す。お姉さん(フラット)が、俺と一人称を言っていたことにたいして、この二人は、憧れを感じたと言っていた。

『緊急通信』

『プレアディス正規軍と思われる艦隊が、有明に接近中』

 有明のAIアリスの通信である。

 時乃は、石原に視線を向け。

「石原、少し二人で話をしたいのだが」

 石原は、もしかしてお兄ちゃんのことかと思い。

「いいよ。萌先に行っていて」

「うん。じゃあまた後でね」

 錦野は、廊下を歩いて行った。

 時乃は、人気のなさそうな、中等部理科準備室に車椅子を押して入り扉を閉めた。理科準備室には、フラスコ等の入った棚や人体模型が置かれていた。

「石原瑠奈!重要な話がある」

 時乃は、石原の正面に出てかがみ、目線を合わせる。

「何?お兄ちゃんのこと」

「わたしは、お前が好きだ」

 石原は、体に電気が走るようにショックを受けた。そして、顔を赤らめて。

「私達、女の子同士だよ。そう言う趣味な人もいるみたいだけど」

 時乃は、真剣な眼差しで。

「わたしと契約して欲しい」

 石原は、更に顔を赤らめて、スカートをぎゅと握った。

「結婚だなんて、でも、澄香が、そんなに私のことを愛してくれるのなら」

「いいのだな!契約」

「あなたの好きにして」

 時乃は、石原に顔を寄せ額にキスをした。


「我!石原瑠奈と契約する」

『アガペ』

 時乃は、最大級の契約、アガペを使った。石原の額に御使いの文字が刻みこまれる。


 高遠美鈴は、教室にいた。ふと、御使いの力を感じた。

「これは、時乃か!」

 急いで教室を出て走った。途中、教師に「廊下を走るな」と注意を受けたが、無視して、中等部理科準備室に向かった。

 高遠が、扉を開けると、そこには、石原瑠奈が、車椅子の上で気を失っていた。辺りを見渡したが、時乃の姿はすでになかった。

 高遠が石原を覗きこむと、額に御使いの文字が光っていた。

「石原瑠奈と契約したのか!」


         3


 時乃は、校舎の陰に入り。

(アリス、高速SPC)

『了解、バックパック送ります』

「空間転移」聖方陣が展開され、瞬間SPCが装着される。力が強くなったので、グレートソードの力を借りる必要がなくなった。

「空間転移、深さ十五秒」

時乃の体は薄くなる。SPCのエンジン音とノズルから噴出した空気の塊の音が響いた。

(有明の位置が特定されることは、ありえないのだが)

(プレアディス艦隊、有明に進路固定しています)とフィン。

(見つかったのには違いない。詮索は後だ)

 とフラット。

(フィン、メイティ、後藤家にある我々のものを処分してくれ)と時乃は、指示を出す。

(後藤家に迷惑を掛けるわけには、いかないからな)

 後藤家の庭に、SPCのエンジン音がした。

「空間転移、通常空間へ」

 時乃のSPCは、解除され、制服姿で現れる。時乃は急ぎ、後藤家の二階七畳半の和室に入る。すでに、そこにあった端末はなく、有明のゲートだけが存在している。

(皆、有明に入ったか?)

(はい、現在環境へ移動中です)

(わかった。わたしも直ぐに行く)

 時乃は、部屋を懐かしそうに、見渡す。

「さよなら」

 そう言うと、有明の中に入っていった。ハッチを閉じ、通常空間からゲートを抜く。七畳半の和室に長くあったゲートはなくなり、空間の歪が小さくなり消えた。

 時乃は、リニアとエレベーターで艦橋へ向かう。

「これが、わたしの日常、戦いに始まり戦いに終わる」

 有明エンジンが始動する。振動が伝わる。

 艦橋では、フィン、フラット、メイティが、自分の席に着き各自作業に入っていた。そこへ時乃も到着し。

「動けるか?」

「もう少しエンジン温めたいけど、なんとか」

 とメイティ。

 フィンは、体のコードを有明の端末に接続しオレンジ色のラインが、血管のように光る。

「フラット、発進させてくれ」

「了解」

『敵艦補足、数八十二、尚小型機動兵器の数不明』

「プレアディスの全兵力としたら、以前よりも減ったな」と時乃。

「ウィルスの影響が深刻なのかも」

「それでも多いな」とフラット。

「勝てる勝算は?」

「申し訳ないですけど、数学的に数字が出ない状態です」

「0と言う事か」

「はい、申し訳ありません」

「フィンが、謝ることはない」と時乃。

「左に回り込み、機雷を発射」

「了解」

 有明は、加速しながら、敵艦隊の左に移動。

「敵艦隊、四方に分散」

「機雷発射します」とフィン。

 有明の機雷発射管から、次々撃ちだされる。

「よし、Rフィールド展開しつつ砲撃準備」

「了解」

「空間転移反応」とフィン。

「真奈、生きていたか!」と時乃。

「駆逐艦5跳躍、射程内です」

「砲撃開始」

 有明の攻撃が始まる。敵駆逐艦は、隊列を乱さず、ミサイルを発射する。

 時乃は、艦橋の中央の聖方陣が書いてある場所に立つ。

「ピンポイントで、亜空間を歪ませる。攻撃も回避もそれに合わせて最善をなしてくれ」

「了解」

 時乃は、少し足を開き、直立した姿勢で、手を握り締め。

「空間転移」聖方陣が、鮮やかに形成される。以前よりも、力を増した時乃は、軽々亜空間を操る。

 敵駆逐艦のミサイルは、亜空間の歪に落ち、消える。

「ミサイル一番から六番発射します」

 フィンが告げる。

 ミサイルは、亜空間の歪から突然現れ、敵駆逐艦は、大破する。

「敵駆逐艦五沈黙」

「空間転移反応、第二波きます」

 敵駆逐艦が再び跳躍してきた。有明は、回避しつつ応戦、無事撃沈。

「真奈がいるなら、きりがないな」

とフラット。

「真奈の力は弱っている。今頃倒れ込んでいるかもな」と時乃。


 真奈は、空母の甲板で亜空間戦闘用のスーツで身を包み、息を切らしていた。

「真奈、次を送れ!」とカール。

「無理です。もう力がでません」と真奈。

「命枯れるまで、私に尽くせ!それが、お前の私に対する愛だろ」

「カール、愛とは、そう言うものなのですか」

「違うのか?」

 真奈は、泣き崩れた。力も出ず、愛する者から鞭打たれるような感覚が嫌であった。

「そこで、泣いているがいい」

 カールは、真奈を残して艦内に入って行く。


「敵艦隊、機雷の射程内に入ります」

 とフィン。

「前方の敵は、機雷に任せて、左を叩く」

「シールドウェーブ反応増大、バトルHM発進したと思われます」

「わたしの力に持続性があればいいのだが」

「一人で負わなくてもいいですよ」

 とメイティ。

「もっと、俺たちを信用しろ」とフラット。

「ありがとう、助かる」

 時乃は、静かに言った。

「左!敵巡洋艦八、駆逐艦十、空母一」

「駆逐艦を先に落とす」

「了解」

「空間転移」聖方陣が形成される。

 攻撃が始まり、敵駆逐艦は、隊列を崩しながら有明に食いついて行く。

「第二砲塔被弾、右舷第三ブロック被弾、隔壁下します」

 駆逐艦に有明のミサイルが命中、大破する。

「敵、駆逐艦沈黙」

「バトルHMに取り付かれないように、右舷に弾幕集中」

「了解」

「右舷第七、第八ブロックに被弾、内部に侵入反応」

「ブロックをパージして、爆破」

「了解パージします」

 有明の損害は、徐々に増えていった。

「フィン!アリスに有明を任せて、秋月に行ってくれるか」

「秋月にですか?」

「何時でも一人で動かせるようにしてくれ」

「了解」

 フィンは、端末からコードを抜くと、艦橋から出て行った。

「アリス、管制たのむ」

『了解しました』

「空母はいい、巡洋艦に集中砲火

『了解』

 敵巡洋艦の隊列は乱れ、大破、爆散していく。

『敵、巡洋艦撃破、空母後退します』

「逃がすな、ミサイル撃て」

『ミサイル七番から十二番発射します』

「一度、周りにいるバトルHMを闇の中に跳躍させる」

『空母大破』

「空間跳躍」

 一際大きく聖方陣が形成される。波紋のように光の輪が広がった。

 瞬間、敵バトルHMは跳躍され消えた。

 時乃は、膝をついた。

「頭が痛い」

「澄香様、大丈夫ですか」メイティが近寄る。

「あまり、無理できそうにないが…」

 時乃は、メイティに支えられ立ち上がる。

「バトルHM、周りにいたのは、全て消えたな」

 フラットは、モニターを見ながら感心する。

「今頃、亜空間の果てで、苦しんでいる」

「アリス、残弾数」

『四十八%』

「フラット、メイティ、ハルバ・ファイナル・エボリューションで待機」

「どうするわけ」とフラット。

「有明に引きつけて、旗艦を落とす」

「了解した」

 フラットは、立ち上がり、艦橋を後にした。

「メイティも行ってくれ」

「澄香様、無理されないでくださいね」

「ふむ」時乃は、小さくうなずく。

「アリス、敵旗艦の位置特定できるか?」

『敵旗艦と思われる戦艦、座標原点より、X千二百六十六、Y一万二千百二十二、Z二百四』

「わかった。アリス後はたのむ」

『了解澄香様』

 

 時乃は、艦橋を出ると、格納庫に向かった。パイロットの待機室に入ると、今まで着ていた制服を丁寧に脱ぎ、ハンガーに掛ける。真鋳色の髪が、ゆらりと揺れる。白い肌が露出され、天使のような美しさを放っている。ロッカーから、亜空間戦闘用のスーツを取出し着る。次にヘルメットを取り出し、きっちり被る。生命維持装置を繋ぎ、格納庫に出る。亜空間用のSPCを背負い装着する。武器に高出力レーザーブレード、小型のキャノン砲、ミサイルポッドを装着する。

(皆、準備はいいか?)

(いつでもOKです)とフィン。

(こっちもいいぜ)とフラット。

(澄香様、準備OKです)とメイティ。

(Β四十二へ移動後跳躍する)

(了解)

 有明の後部が移動し、カタパルトが現れる。

「フラット出る!」

 カタパルトで加速され、ダークグレーのハルバ・ファイナル・エボリューションが発進する。

「メイティ、出ます」

 メイティの赤い機体が発進する。

 有明の中央から下のブロックが、変形する。中から駆逐艦秋月が姿を現す。

「秋月発進します。アリス固定アーム解除お願いします」

『了解』

 軍艦食の駆逐艦秋月がゆっくり、集合ポイントに移動する。

 時乃は、格納庫のハッチを開け亜空間へ出る。軽くSPCを噴かし移動する。

 集合ポイントに四人は集まった。時乃は、駆逐艦秋月の甲板に降り立つと。

「空間移送、暗黒の空間よ壁になれ」

 聖方陣が形成され、その空間を闇が包み込んだ。

(アリス、なるべく敵を引きつけ、敵旗艦から引き離してくれ)

『了解』

 有明は、秋月を格納していた所をもとに戻し、右に分散していた艦艇に方向を合わす。

 弾幕を張りながら、もてる全ての武器で、敵艦隊に突撃する。敵艦隊は、陣形を崩さず、集中砲火を浴びせる。

 有明のRフィールドが、限界になり、消滅する。レーザー砲が次々有明を突き抜ける。漆黒の闇に光を灯しながら、渦巻きを描くように、位置を落としていく。敵艦隊に取り囲まれ、爆散した。

「アリスありがとう」時乃は、静かに言った。

「空間跳躍」聖方陣が形成され、秋月、ハルバ、時乃は、闇から闇に移動した。


「有明撃沈」

 艦橋の中で声が響く。

「真奈に、空間転移があったか聞いてこい」

 アンテオカス帝は、カールに冷酷に言った。


 カールは、甲板に出ると、横たわっている真奈の首を掴み。

「空間転移は、あったか!」

 と冷血そうな目で聞いた。

「もう、私には、それを感じる力もない」

 真奈は疲れきった顔で言う。カールは、真奈の体を持ち上げて、甲板に叩きつける。鈍い音がして、体が弾んだ。

 艦橋にもどったカールは、

「真奈はもう役に立たない」

 アンテオカス帝は、横目で見ながら。

「愛しているのでは、なかったのか」

「今の、真奈には興味ありません」

「時乃澄香を捕獲するか」

「はい、父上」

 

 空間跳躍し、時乃達は、戦艦の右後方に出た。気づいた艦船が弾幕を張るが、もう遅い。秋月からのミサイル攻撃、ハルバからの機関砲攻撃、戦艦は、簡単に大破した。時乃は艦橋へ向かった。ミサイルの発射位置についた時、目に飛び込んで来たのは、誰一人いない艦橋であった。

「罠か」

 巡洋艦の射程に入り、敵戦艦もろとも四人に攻撃が始まった。敵戦艦は爆散した。時乃は、爆風でかなり流された。そこは、場所悪く、バトルHMが嫌なほどいた。

 時乃は、ミサイルを全弾発射し、SPCで素早く加速、ミサイルは、八割ほど命中、敵も百二十ミリ砲を撃ってくるが、細かく移動してかわす。

 時乃は、目の前の敵のことで、精一杯であった。その頃、少し後方から、バトルHMは、バスターキャノンを四機構えていた。そして発射、亜空間に光の棒が走る。時乃は、SPCを全開にして、一、二、三、とかわした。しかし四つ目は、レンジ内に入ってしまった。

 急いで、空間跳躍に入ろうとするが、光は、目の前に来ていた。瞬間、赤い、ハルバ、ファイナル・エボリューションが間に入る。

「澄香様―」

 ハルバは、爆散した。時乃は、その弾みでレンジ外に出ていた。

「メイティ…」

(メイティ機爆散)

 フィンの静かな声が、シールドウェーブ通信機から聞こえる。

 フラットの顔が怒りにかわり、敵艦を攻撃する。高速で移動し次々に爆散させる。

 時乃は、跳躍しバスターキャノンを装備していたバトルHMを狙撃する。弾は燃料部にあたり、爆散する」


 フィンの秋月は、バトルHMに囲まれ、かなり被弾していた。フィンの体にオレンジ色のラインが血管のように光る。バトルHMの動きを予想して的確に主砲を当てる。


 フラットは、死神のように、敵艦を攻撃する。しかし、秋月から離れ、孤立していった。バトルHMが次々ロケットアンカーを撃ち、翼がえぐられる。

「亜空間で翼はいらねー」

 翼を切り離し、加速しようとした時、エンジンが爆発した。翼を切り離した時に、Rフィールドが消失し、レーザー砲を受けたのである。キャノピーを外し、亜空間へ出る。ライフルで、バトルHMを的確に落とす。しかし、次々来る敵に残弾がなくなった。ライフルを捨て、レーザーブレードを構える。

 機関砲の弾が、雨のように降ってくる。多くはかわしたが、体に次々あたる。血が噴出し動きが止まる。敵バトルHMは、フラットを拘束し旗艦空母に連行する。


 戦闘全域に、オープンチャンネルでアンテオカス帝は話す。

『時乃澄香!聞こえるか、お前の副官フラット・F・吉田を確保している。武装を解除し投降したまえ。投降し協力するなら、お前と仲間の命を保障しよう』

 フラットは、空母の甲板で、拘束され、バトルHMに囲まれている。

 時乃は、オープンチャンネルで。

『フラット、わたしは、どういう奴だと思おう』

 フラットもオープンチャンネルで。

『悪だ』

 その瞬間、隣の巡洋艦の艦橋が爆発した。

 アンテオカス帝は体を震わしながら。

『殺せ』

 フラットは、バトルHMの銃弾を全身に受け息絶えた。


(フィン、アンテオカスは、あの空母だ)

(はい、援護します)

フィンは、涙を流していた。

秋月は、時乃を庇うように前に出て、残弾がなくなるまで攻撃した。

しかし、有明が引きつけていた艦隊が戻って来た。

秋月と時乃は、敵空母に近づいた。これにより、敵は、遠距離攻撃できなくなる。


「何をしておる!早く攻撃しないか」

 アンテオカス帝は、怒りを顔に出す。

「今攻撃すれば、この艦も味方の攻撃を受けます」

「かまわん、身を切らして骨を断つ!伝えろ」

 そう言うと、アンテオカス帝は、カールの背中を押し、艦橋を出て行った。


 秋月は、総攻撃を受けた。次々被弾し、もはや限界であった。フィンは、コードを抜き艦橋から外へ出た。瞬間、秋月爆散!炎に包まれ、闇に中へ落ちて行く。

 フィンの服を破り、ブースターノズルが背中から出る。くるくる回転しながら姿勢を整える。そして、手にレーザーブレードを持つ。

 時乃とフィンは、背中合わせになった。

「この暗黒の世界にも、わたしは、平和をもたらしたかったよ」と時乃。

「私の力不足です」

「そんなことを言うな、わたしこそお前に何もしてやれなかった」

 敵バトルHMが、二人を囲むように回り込む。そして攻撃、二人は、華麗によけると次々倒して突破口を開こうとする。しかし、敵からの一発の攻撃を受けると、リズムが崩れ、二人は引き離された。

 フィンは、Rフィールドを絶えず張っているが、実弾が次々あたる。左腕、右足ともがれていく。そして、その機能を停止した。


 時乃は、もう空間を操る力は、残っていなかった。そして残弾もなく、レーザーブレードを構え、前に出てくるバトルHMを斬る。

 前方で爆発が起きる。敵旗艦空母が爆散したのである。


 巡洋艦に移動したアンテオカス帝は、今回の勝利を確信していた。時乃澄香をどんな形でも確保できれば、日本人を己の体とし、更に生き続け、大宇宙の支配者になると。

 時乃は、戦った。敵バトルHMは数を減らしつつあった。

 敵は、増援を出した。バトルHMではない生身の者に、亜空間戦闘の装備をさせて出撃させたのである。

 時乃は、相手が生身であろうと斬っていった。一瞬頭痛が起こり、意識を失った。防具やヘルメットに銃弾があたり、壊れ、吹き飛ぶ。真鋳色の髪が、暗黒の亜空間で美しく輝いていた。

 時乃は、意識を取り戻し。

「亜空間で、生命維持装置なしで生きられるとは、力が大きくなったものだ」

 時乃の美しい姿を見た戦闘員は、動きを止めて見とれてしまった。バトルHMも同じである。シールドウェーブで、バイタルプラントの中で本体とリンクしているので、そこにいるのと同じ様に見ている。

 時乃は、巡洋艦の艦橋へ向かった。一部の兵士が狙撃する。体から血が噴き出す。ゆっくりと甲板の上に落ちて行く。

 

 アンテオカス帝とカールは、亜空間戦闘用の装備をして甲板に出てきた。

「時乃澄香、恐るべき奴、スーツも破損し、ヘルメットもない状態で、亜空間で生きているとは、化け物め!」

 アンテオカス帝は、銃を構える。

「時乃澄香、我に強力するか否か」

 時乃は、体を起こす。真鋳色の髪が、鮮やかに輝く。

「嫌だ!」

「では、体に聞くまでだ。まずは右腕から」

 レーザーが撃ち込まれる。

 瞬間!時乃を誰かが庇った。レーザーで撃たれると、ヘルメットが飛ばされ、真鋳色の髪が見えた。

「真奈」と時乃澄香は言う。

「お兄様、ごめんなさい。私が盲目でした」

 そう言うと、真奈は息絶えた。

 時乃は、この瞬間を逃さなかった。素早く、わき腹からグレートソードを出すと。

「終わりにしよう」と言い。

 自分の体に、グレートソードを突き刺した。傷口が輝き出し、目の形をしたエネルギー体が無数に出てきた。戦闘領域全体にその輝く目は満ち溢れ、光と共に、全てを飲み込み爆発した。


 そこには、漆黒の亜空間だけがあった。ここであった戦争は、誰も知らないかもしれない。


 何を求めて戦い、何を守るために死んだのかも。


 石原瑠奈は、学園の保健室で寝ていた。

 夕方の光が、目にあたり、眩しく感じた。黒く綺麗な瞳のある目をゆっくり開ける。


 額には、御使いの文字が輝いていた。


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