時の鼓動
1
時乃は、フルカバーの睡眠装置に横たえた。実は頭がかなり痛かったのである。通常空間の戦闘はかなりの負担になるようである。
「アリス、フィンから連絡あるまで、睡眠を」
『了解』
睡眠装置のカバーは黒くなり、時乃は、深い眠りについた。
フィン、フラットは、組み立て作業を続けていた。フィンの体からコードが出ており端末と繋いであった。自衛隊の状況を把握するためである。
後藤家の人たちが寝付いたころ、メイティが、倉庫に来た。
「朝まで、私も手伝います」
「助かる」フラットは、油まみれの顔で言う。
作業的には、外装の装着のみとなっていた。
このハルバ・エボリューション1は、シリーズ中旧式である。それゆえ、最新型よりも調整の難易度が低く、組み上げも幾分楽なのである。コックピットは、三座。前方に小さな羽が二、そこからデルタ翼が後方まで伸びている。航空機用のSPCが二基、亜空間機関が後ろに縦積みで二、そこに、ブースターの噴射口もある。全体の色は、ダークグレー。
武装が一部ついていない。それは、時乃も乗るため、後付けなのである。有明からの、空間転移で装備する。
「自衛隊がんばてるね。まあ。今は、真奈達動いていないから、北朝鮮との戦闘だけど」
「なるほど、真奈達の空間機動兵器に動きなしか、トラブルかもな」とフラット。
「バトルHMの運用に問題あるかも」
「数が多いだろうから、SPCの装着を通常空間に出てからなら、時間もかかる」
「シールドウェーブは、一定値出ているので、リンクに問題ないかもぅ」
「フィン様、この新しい部品何処どうしましょう」
メイティは、ブラックボックスの様なものを持っている。
「んー。メイティ、私に、様はいらないですよ。前にも言ったけど…」
「それは、だめですよ。上官ですし、私は、最下級なのですから」
「そんなこと言わないの。フラットだって、様づけ嫌でしょ?」
「俺はどちらでも、メイティの好きなようにすればいい」
「そう言われましても」
メイティは、困り顔になる。
「んー。この話は、また今度、その部品、三席目の後ろにおいて」
「はい!フィン様」メイティは、笑顔でいう。
「んー。シールドウェーブ反応が強くなりました。そろそろ真奈姫動くかも」
フィンは、皮肉で、真奈姫と呼んでいる。
真奈は、苛立っていた。通常空間に出てからの作業が難航していたからである。
通信兵が真奈に告げる。
「北朝鮮から苦情が来ています」
「わかっている」真奈は、拳に力を入れる。
「格納庫から、入電、バトルHM全機SPC及び武装装着完了」
「よし!行け」真奈は、右手の人差し指を前に伸ばした。
「全機発進!」山本が叫ぶ。
「全機発進了解」
甲板作業員が慌ただしく船内に移動する。
バトルHMの発進デッキが開く。ランプの指示通りに、SPCを起動し飛び立って行く。
零式空間機動兵器がカタパルトから発進する。
速度の速い零式が、二十五編隊で、先行する。北朝鮮の戦闘機は、後方に下がった。
自衛隊機は、すでにミサイルもなくバルカン砲のみであった。
「隊長!新手の戦闘機です」
「何!ミグか?」
「いえ!データーにありません」
「敵攻撃きます」
零式がすれ違う時には、自衛隊機は爆散していた。
先行していた自衛隊機は、壊滅し一気に制空権を失った。
補給した自衛隊機は、次々日本海に向けて飛んだ。地上部隊も地対空ミサイル、対空砲を整え、本土決戦の準備をしていた。
「空に浮かぶ船に、見たことのない戦闘兵器、あれは、なんなのだ」
「北朝鮮ではないのは確かであります」
「見ればわかる」
「わたくしの意見では、あれは宇宙人です」「宇宙人と北朝鮮が同盟を結んだと言うのか」
「はい」
「わたくしの意見をもう一つ付け加えるなら、北朝鮮だけでなく、諸外国も…」
「宇宙人!宇宙人と言うが、機械人形が、発見されているだけではないか!本当に生命体なのか?」
「それは、存知あげません」
「まあよい。我々の力を見せてやる」
零式は、鳥取沖まで迫っていた。
自衛隊機は、ミサイルを撃つが、ミサイルは、レーザーで撃ち落とされ、次の瞬間、機体も爆散していた。
零式は、海中の潜水艦に、ミサイルを撃つ、しばらくすると水柱が高く上がり、沈没したことがわかる。
2
時乃は、フィンが睡眠装置を止めたので、目を覚ました。起き上がり、装置から出ると、シールドウェーブ通信機をつける。
(フィン状況は?)
(何時でも戦闘OKです)
(行こう、わたしには、守るものがある)
(私もありますよ)
(俺もある、メルティが命を投げ出し守った輝)
(私も、後藤家の人や商店街の人、保育園の先生、いっぱいいます)
とメイティは、手に力を入れた。
時乃は、亜空間戦闘用の服に着替える。昨日から着ていた制服を丁寧にたたみ机に置く。
「戻って来ることができるか分からないが、もし戻れるなら、わたしは、学校へ行きたい」
有明から出るとそこは、後藤家の二階七畳半の和室である。市民は、避難しているので、とても静かである
時乃は、裏庭に出ると、わき腹からグレートソードを出す。それを地面に付ける。
(アリス、ハルバ用汎用SPC)
『了解、バックパック送ります』
「空間転移」足元に聖方陣が形成される。
瞬時にSPCが装着される。時乃は、SPCを軽く噴かせ空へ上がる。
ハルバ・エボリューション1は、天井が開放された倉庫から、SPCの空気で軽く舞い上がる。それは、この機体の軽さを示している。
デジタル迷彩をかけ、時乃との合流ポイントに向かう。
時乃もデジタル迷彩をかけ、シールドウェーブの座標を頼りに移動する。
ハルバからの誘導光線を受け、中央の平らな部分に舞い降りる。足元は、ゆっくり下に下がり。ハルバ内部に入る。デジタル迷彩は解除する。自動でコックピットの三列目に固定される。
左手を聖方陣が動いているコンソールの上に置く。右手は、攻撃用ステックを握る。
「フィン、フラット、OKだ」
フラットは、アリスにハルバの武装を告げる。
(下部にミサイルポッド四、右上二百ミリ機関砲、左上固定型四問レーザー砲)
「フラット、巡航速度」と時乃。
「了解」
『澄香様!準備完了。バックパック送ります』
「空間転移」
左手に魔方陣が二重になり回転する。ハルバ・エボリューション1の空間が歪む。瞬間、要求の装備が装着される。
鳥取の海岸線で、自衛隊は応戦していた。一撃でも攻撃を入れたいとの思いで、引き金を引く隊員達。しかし、その弾は、かすることもなく空に消える。
零式の編隊が先行していたが、バトルHMと入れ替わる。
低空でSPCを噴かせながら、的確に射撃する。自衛隊の戦車は簡単に爆散する。戦線が内陸部に下がりつつあった。生身の陸上自衛隊員もライフルを撃ち、迫り来る機動兵器に傷を負わせようと勇敢に立ち向かう。
バトルHMは、その行為に答えようと、近接武器で、懐に入る。鈍い音と共に自衛隊員の体を剣が突き抜ける。返り血を浴びたバトルHMは、次の獲物を探し、その冷たい顔を動かす。
日本政府では、降伏することを視野に入れていた。北朝鮮と連絡を取るが、応答はない。
「総理!敵は、北朝鮮ではなく宇宙人なのです。もはやこちらには、戦力もなく、逃げ場もありません」
「全周波数で、降伏を告げる!」
「宇宙人の奴隷になったとしても、この決断は後々称えられることでしょう」
「待って下さい!まだ、方法があるかもしれません」
「何があると言うのだ」
「核です」
官邸で、ざわめきが起こった。
「核物質をトラックに積み爆破します」
官僚達は、顔を見合し、口々に討議する。
「防衛長官やれるのか?」
「やれます総理」
3
時乃達のハルバ・エボリューション1が、戦闘空域に達したころ、市街地まで火の手は上がっていた。
「フラット攻撃準備」時乃は、指示を出す。
「了解」
「敵零式編隊二十五、攻撃範囲内に入ります」
フィンの体には、無数のコードがコックピット内の端末と繋がっている。
「行け!フラット」
「了解、加速する」
後部の噴射口から、火炎が噴出する。
「デジタル迷彩解除」
敵零式編隊の上空に突然、ハルバ・エボリューション1が現れる。零式のパイロットは、突然現れた機体に慌てたが、手際よく散開する。
「遅い」フラットが言う。
フラットは、翼の下に装着している。シールドウェーブ誘導ミサイルを発射する。ロックオンされたミサイルは、敵を旋回しながら追撃する。
不意を突いたので、十四機撃墜する。残り十一機は、零式の後部座席に乗っていたバトルHMの射撃によりミサイルを撃退していた。
「楽をさせて貰えそうにはないな」
時乃は、右翼上の二百ミリ機関砲を固定しているアームをフリーにする。右手のステックで動作チエックをする。
フラットは、機体をロールしてから、前方を地上に向けた。追撃してきた零式四機と向かい合う。レーザー砲を撃ち込む。見事にRフィールドで消される。そこに、時乃は、二百ミリ機関砲を撃ち込む、薬莢が空中に舞う。轟音と共に打ち出された弾は、Rフィールドの反射で一瞬視界を失ったパイロットを襲う。直撃、爆散する。機関砲のアームを移動させて次のターゲットに撃ち込む。命中、零式は、軌道を変え落下するとバトルHMが脱出する。亜空間戦闘用の機体は、通常の火薬武器が苦手である。逆に通常の火薬武器は、弾切れが早い。レーザーなどの光線武器は、エネルギーの持ちが長い。
ハルバ・エボリューション1には、時乃が乗っているので、母艦からの転送補給が可能なため、有利な通常火薬武器を楽に運用できる。
真奈は、空母の艦橋で、リアルタイム映像とデーターだけの画面を、顔を動かすことなく見ていた。
「お兄様いらっしゃいましたね。山本、私も出る。指揮をまかせます」
「了解です、中将殿」
真奈は、甲板に出ると。
「ブルーハート、SPCを」
『了解』
「空間転移」魔方陣が形成される。瞬間、SPCが装着される。軽く空気を出し、真奈の体が空中に浮く。そして、巡洋艦の甲板に降り、前進することを指示する。
フラットは、零式からのシールドウェーブ誘導ミサイルの追尾を受け、加速していた。
「フィン、ノイズ妨害をたのむ」
「了解」
フィンの体にオレンジ色のラインが、血管の様に走る。ノイズを入れられたミサイルは、軌道が微妙にずれ始める。
フラットは、下部のノズルを前方に向けSPCを噴かす。微妙に機体を動かしながら、ミサイルの後ろに回る。そして、レーザー砲を発射する。ミサイルは、爆散した。
自衛隊の前線部隊では、動けるヘリを集め決戦に挑もうとしていた。ヘリのパイロットが、ハルバ・エボリューション1を目視した。「あの戦闘機は、味方なのか?」
「いえ、わかりません」
「では何故、宇宙人と戦っている」
「それもわかりません。確認を取る必要があると思われます」
ヘリのパイロットは、救難用の周波数で、交信を試みる。
フィンは、自衛隊の通信を拾った。
「自衛隊の通信繋ぎますぅ」
「そこのアンノン機、所属と目的を問う」
時乃は、コックピット内の通信機で。
「わたしたちは、味方だ、安心しろ。それよりそのような機体で来るな、犬死するだけだ」
「もう少し説明したまえ」
「説明することはない、下がれ」と時乃。
自衛隊のヘリは、バトルHMに撃たれ被弾した。
時乃は、機関砲のアームの向きを変え。自衛隊のヘリを狙ったバトルHMを攻撃する。弾は、命中しバトルHMは、海に落ちた。
自衛隊のヘリは、後方へ下がった。
時乃達は、今の動きで、リズムが乱れた。数を増してきたバトルHMに、付け入る隙を与えた。右翼に被弾、幸い威力の低い武器であったため現状問題にはならなかった。
時間経過と共に、ハルバ・エボリューション1の周りにバトルHMが多くなってきた。
フラットは、加速力を生かし、ヒットアンドウェイをするが、きりが無い。
「フラット、わたしが出る」と時乃。
「了解」
「アーム固定、火器管制渡す」
時乃の座席は、後方へ移動する。外部パネルが開き、床があがる。外へ出た時乃は、SPCを噴かしバランスをとる。
「アリス、百二十ミリライフル」
「了解、送ります」
「空間転移」聖方陣が形成され、瞬間武装される。質量の小さい物を転移するときは、グレートソードは要らないようである。
時乃は、空に舞うと的確に射撃する。バトルHMは、次々爆散し数を減らしていく。フラットも残りの零式を始末した。
トラックが五台、戦闘領域の海岸線に入って来た。
「各自衛隊は戦闘領域を離脱されたし。繰り返す、各自衛隊は、戦闘領域を離脱されたし」
自衛隊の各部隊は、友軍の連絡と確認して後方へ下がる。
トラックは、自衛隊がある程度離れたことを確認すると、物陰から海を目指して加速した。バトルHMがそれを発見し攻撃しようとした。
「日本国万歳」
トラックの運転手は、起爆スイッチを押した。
青白い光が起こり、五台のトラックは、爆散した。鋭い閃光と共に巨大なキノコ雲が海岸線一帯を飲み込み焦土と化した。その核爆発に多くのバトルHMは飲み込まれた。バイタルプラント内のパイロットは、ポットの内で、激しく痙攣して気を失った。
「後方、核爆発」フィンが叫ぶ。
(日本は、何を考えている。核で惨劇を繰り返すとは)
時乃は、SPCのモニターを見ながら通信する。
フラットは、戦闘に集中していた。左右の手で二つのステックを操り、華麗に舞い、攻撃をする。
真奈は、巡洋艦の甲板にいた。日本が核を使ったことに少し驚きを見せた。
「私の知るところ、日本は、核攻撃をしない国ではなかったのか」
(中将、我々の戦力が核により打撃を受けました)
(わかりました。お兄様の機動兵器を残りのバトルHMで足止めするよう指示を)
(了解しました)
「ブルーハート!高レンジ、バスターキャノンを」
(了解)
「空間転移」一回り大きな魔方陣が形成される。瞬間、巨大なバスターキャノンが、装着される。
「空間転移反応」とフィン。
ハルバ・エボリューション1は、敵バトルHMに囲まれ、加速して離脱しようとしていた。
「ブースター点火」とフラット。
加速よりも早く、バトルHMが、ロケットアンカーを翼に撃ち込む。加速方向が乱れ、ロールする。
時乃は、上空から狙撃するが、数が多くて間に合わない。
真奈は、バスターキャノンの発射体制に入っていた。それを見た補佐官は、
(中将、射線上にはバトルHMがいます)
(バトルHMは、ただの人形、幾らでも替えがきくでしょ)
(あなたは、パイロットの負荷を知らないのですか)
(うるさい。黙れ!)
真奈は、トリガーを引いた。バスターキャノンからの高エネルギーが一直線に、ハルバ、エボリューション1を狙う。
「高エネルギー反応」とフィン。
「無理だ、かわせない」とフラット。
バスターキャノンの高エネルギーが、目の前に迫っていた。
フィンは、Rフィールドを使う。
瞬間『バリィ』ハルバ・エボリューション1の前に格子状のシールドが現れる。シールドは、バスターキャノンの高エネルギーを遮った。四散したエネルギーは、バトルHMを薙ぎ払い消えて行った。
ハルバ・エボリューション1も無傷では、なかった。四散したエネルギーの一部があたり、もはや浮かんでいるのがやっとの状態であった。
「フラット脱出を」フィンが言う。
フラットは、少し間を置き。
「了解、脱出する」
コックピットを包んでいたキャノピーを外し、座席下に装備されていた。小型のSPCを装着する。フラットは、SPCを起動し空に浮かぶ。
フィンは、配線を外すと、背中の服が破れるのと同時に、ノズルが飛び出す。軽く空気を出すと、空中に浮かんだ。
ハルバ・エボリューション1は、ゆっくりと落下し、海面で爆発炎上した。
時乃は、二人の脱出を確認し、少し目を潤ませていた。
ふと時乃は、肩に重みを感じた。見ると、黒髪に黒い瞳の少女が、白いゴシック調のドレスを着て、時乃の肩に手を乗せている。よく見ると見覚えのある顔である。同じクラスの高遠美鈴である。
「高遠、高遠美鈴」
高遠は、SPCも装備しないで、時乃と並んで飛んでいる。
「私は、高遠美鈴。でも本当は」
瞬間、高遠美鈴の髪は真鍮色に輝き出し長く伸びる。瞳は金色に輝く。
「ライジング」と高遠は言う。
「御使い!」時乃は、驚き顔になった。
「私は、地球の御使い、本当は、あなたも、あいつも殺す予定でした。しかし、あなたは変わった」
高遠は笑みを浮かべて。
「あなたに力を貸しましょう」
そう言うと、時乃から少し離れて。
『サンダーストライク』
聖方陣が形成され、黄色の球体が形成される。その球体から、エネルギー体が飛び出し、バトルHMを爆散させた。
時乃も攻撃を再開した。ライフルで確実に狙撃する。しかし、疲労もあり動きが鈍くなっていた。バトルHMが銃を撃ってくる。かわしそこねて被弾する。肩とわき腹から、血が噴き出す。高遠の援護を受け、SPCを加速させ体制を整える。前方の敵を爆散させながら進む。
真奈は、二射目のエネルギーパックを挿入して、トリガーを引いた。高エネルギーが、時乃澄香を狙う。
瞬間『バリィ』高遠が、シールドを張った。
高エネルギーは四散した。時乃も高遠も無傷であった。
「あいつを、時乃真奈を殺す」と高遠は言う。
高遠は続けて。
「射程内に入るまで、引きつけてくれ」
「わかった」時乃は、軽くうなずいた。
少し左に旋回しながら、時乃は、真奈を攻撃する。まだ、距離があるので、命中はしない。横から近接武器で飛び込んで来たバトルHMを、回り込み蹴り上げる。わき腹から、グレートソードを取出し突き刺す。バトルHMは、力をなくし落下する。
真奈は、三射目の狙いをつけていた。
瞬間
『クロックアップ』
『マインドブースト』
『アブソルプテイン』
高遠の周りに聖方陣が形成され、真奈の周りを呪文の様な空気が包み込む。
真奈は、あせり銃口を高遠に向けた。しかし、時乃の銃弾がバスターキャノンに命中した。爆発の衝撃で真奈は、吹き飛ばされた。巡洋艦の対空射撃が始まる。
時乃は、砲弾を軽くかわし艦橋へ行き銃弾を叩き込む。艦橋は炎上した。
真奈は、立ち上がろうとした。すると真鍮色の髪が、短くなっていくのを感じた。慌てて頭を押さえる。自分の命が尽きるのを感じた。
「空間転移」小さな魔方陣が展開する。
空間がわずかに歪む。真奈の力を、高遠が吸収したのである。
時乃は、空間の歪を感じ、真奈を素早く狙撃する。弾は、真奈の体を突き抜けた。血が噴出し体は崩れる。そして、空間の歪に真奈の体は吸い込まれていった。
時乃は、高遠美鈴の姿を探したが、何処にもいない。
時乃は、SPCのモニターでフラットの位置を確認し、武器を渡した。
「アリス、SPC対艦装備」
『バックパック送ります』
「空間転移」わき腹からグレートソードを出し空中の足元付近に固定させる。聖方陣が形成され、瞬間、武装が入れ替わる。
「敵艦を排除する」
時乃は、加速し巡洋艦に向かった。艦橋は破壊され機能は失っていたが、止めを刺す。対艦ミサイル発射、命中、爆散。
時乃は、加速し空母及び軽巡洋艦の射程内に入った。対空砲が時乃を狙う。
空母に狙いを定め、少し上昇してから、急降下する。
「空間転移十五秒」時乃の体が少し透ける。
空母の死角になる位置に入ると。
「空間転移通常空間へ」
時乃の体がはっきり見える。レーザブレードを持ち外装に穴を開け、空母内部に入る。時乃は、頭痛を覚えていた力の使い過ぎである。
力を振り絞り、レーザーブレードで切り裂き前に進む、通路に出た!サイレンが鳴り響き、ブロックごとの障壁が下された。時乃は、お構いなしに切り刻み進む。途中、無線発火式の爆弾を置いていく。
何人かの兵士と戦闘になるが、軽く倒す。物陰に隠れて、爆弾を爆発させる。轟音と共に空母の側面に穴が開く、Rフィールド機能も停止した。時乃は、穴から外に出た。直ぐに粒子砲を構える。発射、命中、爆散する。空になったエネルギーパックを、レバーを引いて空中に投げ出し装鎮する。
軽巡洋艦に、対艦ミサイルを撃つが撃ち落とされる。空になった、ミサイルポッドを切り離す。SPCの能力を最大値に使い、対空砲をかわしながら、艦橋を目指す。対空砲が何発かあたり、体の防護パッドが吹き飛ばされる。
「まだいける」
真鍮色の髪が、空に舞う。太陽の光を受け輝く。時乃は、艦橋に取り付き、レーザーブレードで突き破る。Rフィールドを失った艦橋へ粒子砲を叩き込む。ノズルを前に出し、空気の塊を噴出し後方へ移動する。
「空間転移十五秒」
軽巡洋艦は、ゆっくり落ちて行き爆散した。
4
メイティは、デジタル迷彩のパネルを倉庫付近に配置していた。
「私にできることは、今は、これくらい」
倉庫の中には、飲み物、食べ物、着替え、おしぼりなどを用意している。
メイティは、倉庫の入口で、祈るように、遠い空を見ている。晩秋の風が、真鋳色の髪を優しく揺らす。
少し遠くでSPCのエンジン音。
(メイティ着陸する)時乃からの連絡。
砂埃と共に、見えない塊が倉庫に飛び込む。メイティは素早く倉庫の扉を閉める。デジタル迷彩が解除され、三人の姿が確認できる。
「ただいま、メイティ留守番ご苦労様…」
時乃は、優しくそう言うと意識を失い倒れた。メイティは、素早く支えたが、SPCの重さで自分も倒れた。
フラットは、自分のSPCを外すと、二人に急いで近づき、助け起こした。
フィンもお尻を地面に付け動けないでいる。メイティは、急ぎフィンの背中の服を破り、カバーを外す。そこに新しい燃料パックと圧縮燃料のボンベをセットする。フィンの体に一瞬オレンジ色のラインが血管のように光る。
「ありがとう、メイティ」
「いえいえ、皆様おかえりなさい」
時乃は、真新しいベットで眠りについていた。可愛らしいフリル襟に、フリル袖、全体がピンクの寝巻きを着ている。その手には、抱き枕がすっぽり収まっている。フィンが、意識がないのをいいことに、密かに抱かせたのである。
部屋の中には、あまり物がなく、壁には、クリーニングされた制服が掛けられている。窓よりの所に、勉強机があり、右側にパソコンが置いてある。
時乃は、ゆっくり薄目を開けた。そして体を起こして伸びをする。真鋳色の髪が以前よりも少し伸び寝癖で跳ね返っている。
「どれくらい寝ていたんだ」
ふらふらした足取りで、机の椅子に座る。目の前のカレンダーを手に取った。
「三日も寝ていたのか」
シールドウェーブの通信機を探すが見当たらない。その代り、スマートフォンが出てきた。やむを得ず、スマートフォンを使用することにする。フィンからの着信履歴があったので、その番号に掛けてみる。
「フィン?」
「澄香起きたの、もう大丈夫?」
「フィンこそ、大丈夫か?」
「私は、有明でメンテ受けたので、大丈夫ですよ」
「フラットは?」
「元気に工場にいますよ」
「タフだな!」
「取り急ぎの報告はないですけど、日本政府は、大変そうです」
「なるほど、テレビでも観るか」
「澄香、食べ物とか冷蔵庫にあるから、適当に食べてね」
「メイティはいないのか?」
「メイティは、後藤家ですよ」
「ん。ここって」
「新しい拠点の家ですよ」
「そうなのか!」
「そうですよ」
通話を切り、辺りを見渡す。自分の寝ぼけ加減に笑えてきた。
台所に行き冷蔵庫を開ける。適当に、ハムを開け食べる。ついでに冷凍庫も開ける。『冷凍ピザ』と書いてあるものを取出し、説明を適当に読む。
「トースターで焼けばいいのか、簡単ではないか」
外袋からピザを出し、トースターに入れる。ダイヤルを五分に設定する。待っている間に、飲み物をさがす。色々入っているので、ビールと書いてあるものを取り出す。なにやら、ゴムが溶ける臭いがしてきたので、慌ててトースターを開ける。ピザの表面をくるんでいたラップが溶けたのである。
時乃は、頭をかき乱し。
「分かりやすく書いておけよな」
と言ってトースターを閉める。他に何かないかと戸棚をあけると、さきイカと言うものを見つける。
ビールとさきイカを持ってソファーに座る。ビールのプルタブを開けると泡が出てきた。
「なんだ!この泡」
思い切って飲んでみる。
「苦いな!冷たさは丁度いいのだが」
ソファーの前にあるテーブルにビールを置く。さきイカの袋を開け食べる。
「これは、旨い!」
そう言いながら、ビールとさきイカを交互に食べ飲む。だんだん気持ちが良くなり、ふらふらしながら、テレビを点ける。
『でありますから、しばらくお待ちください。現場からの中継でした。続きまして、国会では、核を武器使用したとして、防衛長官を辞任させ自宅待機させております。野党は、総理の辞職を要求、衆議院の解散も視野に入れていると言う事です』
『アメリカ軍、韓国軍は、昨日軍事作戦を展開し、日米同盟に亀裂は無いと主張しております』
『北朝鮮政府は、ミサイル発射は、異世界人に脅されてしたことであると、自らの責任を逃げる姿勢をとっております』
『ロシア、中国両国は』
時乃は、テレビのチャンネルをかえる。
『では、宇宙人と異世界人の違いを、SF評論家の吉田隆先生に、お伺いいたします』
時乃は、チャンネルをかえる。
『復旧作業は、今なお続いています』
『続いて未確認の飛行物体について、数多くのビデオデーターや目撃情報が寄せられています。こちらがその映像です』
ハルバ・エボリューション1が、写っている。
『この飛行物体に、自衛隊のヘリコプターが、助けられたと言う情報もあります』
時乃はチャンネルをかえる。
『企業の中でもいち早く、被災者の救助にあたったスクエアーフォーにより、多くの人命が助かっております』
「良かった…」時乃は、顔を赤らめている。
ドアを開ける音と共に、フラットが入って来た。
「澄香、起きたのか…って人のビール飲んでるし、つまみ食ってるし、それはだな、俺の細やかな楽しみなんだぞ!」
時乃は、目をつぶり眠りに入った。
「寝てるし!お前は悪だ」
フラットは、そうは言ったものの、時乃を抱きかかえ、二階にあがり、ベットに寝かせる。ついでに抱き枕を抱かせ、布団を掛ける。