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誘い

テレビのニュースは、東京での銃撃事件一色である。

『昨日、東京都千代田区で起こった銃撃事件の続報です。現場の機械部品は、極めて人間の姿をしていると言うことです。少々お待ちください。今入った情報によりますと、その機械の金属は、地球に存在しないものであることが、判明しました』

 時乃は、真鋳色の髪を右横に縛り、ソファーにゆったりと座りテレビを観ている。横には、健二の子供、輝がいる。

「輝君凄い事件だな」他人事のように時乃は言う。

「そうなの」

「子供には、わからないか」

「僕のお家には、おねいちゃん達がいるから、悪い人こないよね」

 ふと。時乃は不安がよぎった。それは、輝の今の発言である。おねいちゃん達がいるから悪い奴はこない。いや。相手が真奈でありプレアディスなら、逆に危険である。人質を取られた上、正面から真奈と戦闘して勝てる自信はない。真奈の力は絶大なのである。

「輝君、おねえさんお仕事いってくるよ」

「うん。いってらさーい」


 時乃は、第二工場に入っていった。生産ラインは、まだ完成していないが、従業員は増えつつある。社宅や寮も建設予定である。そうすれば全国から雇用できると考えている。

 時乃は、第二工場の事務所に入った。

「おはようございます」

 一番手前の従業員が、気が付いて挨拶をする。時乃は、人差し指を口にあてて。

「気を使わなくてもいい」

 と言い。こそこそ奥の応接室に入った。そして時乃は、言った。

「フラットと同じで、戦争屋のわたしは、事務的なことで役にたたないからな」

 時乃は、テレビをつける。

『昨日の銃撃事件現場の残骸から見つかった人型ロボットは、地球外生命体のものと学者の意見は一致しました』

『宇宙人評論家の田中教授をお迎えして、番組を勧めたいと思います』

「宇宙人評論家なんているのか」

『古代から、宇宙人は幾度となく地球に来ているのです。ナスカ、エジプト、モアイ、オーパーツ。このほどの人型ロボット全て宇宙人のものです』

「はいはい」

『宇宙人は、これからどのような行動に出ると思いますか?』

『地球制服です』

「べただな」

 時乃は、頭の上で手を組みながら。

「地球の存在は、昔から皆知っていた。しかし干渉することは、禁忌とされていた。だが、わたしもそうだが、よりによって跳躍先が、地球そして日本であった。昔から我々の世界迷い込む地球人がいた。その多くは、日本人であったな。健二の記憶によると、神隠しと言うらしい」

『宇宙人に対する、対抗処置はあるのですか?』

『地球には、核兵器がある。宇宙人を殲滅できるであろう』

 時乃は、通信機をつけ。

(フィン。真奈の目的はなんだろう)

(んー。禁忌にふれると言うことは、どうしても欲しいものがあるのかしら)

(欲しいもの?真奈は全てを持っていると思うが…ないとすれば永遠の命)


(あ。そうそう話は変わりますが、虹の原学園と言う学校を買収しておきますたぅ。たぶん、澄香には、必要かと思って)

(売っていたのか?)

(はい。たまたま、理事長と知り合いになりましたところ、経営が厳しいので、売りに出したと話をしていたので)

(フィンって、人付き合い上手いな)

(んー。それほどでもないですよ)

(話は変わるが、拠点を後藤家から移動しよう。もし真奈が、本腰入れてきたら、狙われる危険がある。後藤家の人に迷惑掛けるとよくないからな)

(そうですね。澄香の意見に賛成です。何時も思うのですけど、澄香は自分のことを悪だというけど、本当は、善なのでは?)

(それは聞かないでくれ。わたしは、悪なのだよ)

(んー。拠点は、第二工場近くに建設しましょう)

(たのむ)

 時乃は、通信機をとりはずし、テレビを観る。

『でありますから、自衛隊も総力を挙げて首都防衛に努めていきます』

「自衛隊では勝てないのだよ。奴らには」

 時乃は、チャンネルをかえる。

『パトカーを銃撃した犯人に関する情報は、残された銃弾と薬きょうだけのようです。現場近くにいた人の証言も蜃気楼のようだったとか、曖昧な証言が多いようです』

「そう、わたしが写真やテレビに映っても、曖昧にしか記憶されないのだよ」

 時乃は、真鋳色の髪を指でくるりと巻いた。


        2


「澄香、私思ったの」

「何を」

「澄香は、学校に行って一から人について学ぶ必要があることを」

 フィンは、美しいその瞳を時乃に向ける。

「嫌だ!」と時乃。

「澄香は、健二さんの記憶の一部しか理解していないの、だから、全てを理解して欲しいの」

「嫌だ!わたしは、日本人の嫌がることをするのだ」

「そんな幼稚なこと言わないの、あなたリーダーでしょ。もっと成長しなさい!学校で学んで、それから、判断するの」

 フィンの目が恐ろしいくらいに、怒っている。時乃は、こんなフィンの恐ろし目を見たことなかった。

「フィン、そんなに怒るな。理解した。学校に行くよ」


 時乃は、真鋳色の髪を風にまかせ、道を歩いている。行きかう人々は、その美しさに魅了されてしまう。

 現在、スクエアーフォーの社長であり有名人のはずだが、あまりそのことを、思い出す人はいない。


 虹の原学園と大きく書いてある学校、綺麗なアーチ型の門、入ってすぐの花壇と噴水。下足場には、広いガラス張りのドア。ロビーは三階までの吹き抜け。天窓から優しく光が差し込む。そこに一人の少女が歩いている。肌の色は、透き通るような白、茶色い瞳、何よりも目立つのは真鍮色の髪である。

 その少女は、理事長室にノックして入る。理事長室には、歳は六十位、上品そうな顔に眼鏡をかけ、ブラウンのスーツを着た女性。もう一人、白髪の男性がいた。

「おはようございます」

 と少女は棒読みに挨拶した。

「おはようございます。ようこそ虹の学園へ。どうぞお座りなさい」

 理事長の田中は、優しく促した。

 少女は、棒読みに話だした。

「時乃澄香、十六歳です」

 田中は、優しく微笑み。

「総理事のフラット・F・吉田から聞いております」

時乃は、再び頭を下げて。

「よろしくお願いします」

 と棒読みに言った。そして時乃は思った。

(嫌だ!と)


 フィンは、時乃にもっと日本人について学ぶこと、健二の真意を理解すること。そのために、学校に行くことを勧めたのである。時乃は、会社にいても、家にいても、ゲームばかりしているので、少しは、勉強したほうがいいのである。学校の総理事は、フラットになっている。それは、資産の分散と時乃が目立ち過ぎないため。また、ごく普通に学園生活をするためである。

 校舎を一通り案内され、新学期から必要なものを書いた書類を渡された。

 田中に挨拶をして、学校を後にした。

「買い物はメルティにまかせるか」

 時乃は、真鋳色の髪を風にまかせながら歩いている。行きかう人は、その美しさに魅了されてしまう。


         3


 真鍮色の髪の少女は、真新しい制服に袖を通す。長い髪をかきあげ、ボタンを留める。

 金髪に青い瞳のフィンが、着替えを手伝う。

「フィンは、何故このごちゃごちゃした制服の着方知っているのだ」

「んー。健二さんの記憶見たので」

「やはり。エデンの機能か、わたしよりも深い所が見えるようだ」

 時乃は、頬に手をあてた。ある意味ショックだったのである。健二は、何一つ悪いことをしていないのに、日本人から虐められたと記憶していた。しかし、フィンの言葉から理解すると、普通、男が知らないことも知っていることになる。日本人の言う、変態という領域である。

 

 時乃は、異世界の御使い、男でも女でもない。だが、外見は少女にしか見えない。唯一気になるのは、胸が小さいことである。

「フィン。わたしの胸、人間よりも小さいと思うのだが」

「んー。個性だからいいのでは」

「そうか?」

「そうですよぅ」

 時乃は、着替えも終わり、後藤家の一階におりる。

「おねいちゃん。学校行くの?」

「だよー」

「僕、虫好きだよ」

 輝は、時乃が持っている鞄を見ている。

「あ。これか!何だこれ、クワガタムシのマスコット」

「んー。女子高生は、鞄に何かしら付けてるようですよ」

「そうなのか!」

 時乃は、うなだれながら、マスコットをはずし輝に渡す。

「おねいちゃん、ありがとう」

 フィンは残念そうな顔をしながら。

「これ、スマートフォンね。これからは、普通に生活しないとね」

 時乃は、フィンからスマートフォンを受け取る。

「私のと、着信チエックしてみましょう」

 フィンは、銀色のスマートフォンを取り出す。

「いきますよ」

『あんしんしてくださいはいています』

「フィン、何これ」

「着メロです」

「いや、おじさんの声でこれおかしいだろ」

「健二さんの記憶にあったのですけどね」

「わかった」

 時乃は、健二の記憶の一部を共有している。しかし、多くの時間を休眠していたので、強く印象に残ったことは覚えているが、細かいことは覚えていない。

「んー。あとスマートフォンには、レーザーとナイフも仕込んであります。必要でしたら、使ってね」

「わかった。では、行ってくる」

「はい、気を付けてね」

メルティも送りにくる。

「いってらしゃいませ。澄香様」

「メルティもしっかりな」

「はい」

 時乃は、真鋳色の髪をツインテールに縛り、黒のリボンをしている。これもフィンがしてくれたのである。

 同じ学園の達も、道々増えていく。生徒達は、珍しい髪の少女を見ては過ぎて行く。

 時乃は、学校に着くと、職員室へ向かった。

「おはようございます。転校生の時乃と申します」

 時乃は、棒読みに挨拶した。

「長原先生、転校生来ましたよ」

 まだ若い、三十歳位の眼鏡をかけた小柄な先生が来た。

「一年二組担任の長原綾子です。よろしく」

「よろしくお願いします」

「その髪、染めているの?」

「いえ、生まれつきです」

 時乃は、緊張してきた。心の中では、女言葉、女言葉と唱えている。

「そう。珍しいですね。ハーフなのかな。たぶん」

 長原先生は、自分の机から、色々かき集めてから、時乃を教室へと案内した。

「ここが、一年二組!一緒にがんばりましょうね」

「はい」

 先生は、勢いよく教室のドアを開ける。早足で教室の中に吸い込まれていく。時乃も早足でおいかける。

「起立、礼、着席」

 学級委員の大きな声が響く。時乃の緊張は、最大値になってきた。

「今朝は、まず転校生を紹介しますね」

 長原先生は、黒板に名前をすらりと書く。

「時乃澄香さんです。みなさん、仲よくしてくださいね」

 時乃は、緊張しながらも棒読みに挨拶する。

「時乃澄香です。不束者ですが、よろしくお願いします」

「変わった日本語ね」

 教室の中がざわつく、色んな視線が交差する。時乃は、心の中で思った。この感覚嫌だと。

「席は、石原さんの隣ね。時乃さん。向かって右側の一番後ろね」

 時乃は、真鋳色の髪を揺らしながら教室の中を歩く。

(確かに、みんなマスコットとか付けているな。しかしクワガタはいないだろう)

 時乃は自分の席に座った。先ほどまで気が付かなかったが、隣の石原は、車椅子である。

「石原さん。よろしくお願いします」

「はい。よろしくです」

 セミロングにシャギーたっぷりの黒髪に黒い瞳の目の大きな少女である。

 

 時乃にとって、勉強はかなり難解であった。

健二も成績は良くなかったし、時乃も地球の勉強をしていなかったからである。一時間目は、黒板を写すのに必死であった。

 石原瑠奈は、心配そうに見つめている。

「わからないことあれば、聞いてくださいね」

「そうだな!了解した」

「ふふふ。面白い方ですね」

 休み時間になると、時乃に興味を持った生徒が机の周りに集まってきた。

「時乃さんの髪の毛地毛なの?」

「時乃さんは、趣味何?」

「時乃さん、部活するの?」

 時乃は、このような経験初めてであったが、少し嬉しかった。

「髪の毛は、もちろん地毛。趣味は、オンラインゲーム。部活はー。(部活ってなんだ)…」

「へーゲームするんだ。珍しいね」

「どんなのするの」

 時乃は自慢げに

「オンラインゲームは、マスターオブモエピック。オフゲーは、レース物中心かな」

 そんな感じで、休憩時間は終わった。次の休み時間も皆来るのかと思ったが、時乃の周りは閑散としていた。切り替わりの速さに驚いた。時乃がゲームの話をしたので、皆距離を置いたのである。


 石原瑠奈には、何時も錦野萌が一緒にいる。車椅子を押したり、色々世話をしている。黒髪にボブの元気の良い子である。

 教室で、人の動きを観察しながら、ぼんやり考えていた。こんなことで、日本人のことを理解できるのかと…


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 二週間が経ち、時乃も学園生活に慣れてきた。さすがに勉強はついていけないのを悟り、帰ってから、フィンに生体USBから、日本の勉強内容をインプットしてもらっている。そのおかげで、他のことに気を回せるので、かなり楽になった。

 コントロールしにくい授業があった。体育である。水泳の授業で日本記録以上を出してしまい、ごまかすのに苦労した。

 そんなある日、時乃は、学食で天丼とカレーを食べた後、階段を上り教室に向かっていた。その時、上の階から悲鳴が聞こえたと思ったら、車椅子が少女を乗せたまま落ちてくる。

 時乃は瞬時に危険を感じ

「空間制御!我見る座標を水平に」

 時乃の足元を中心に聖方陣が形成される。

 車椅子は、速度をゆるめたので、時乃が走り受け止めた。

「大丈夫か!石原」

「はい。なんとか、助かりました」

「何があったんだ」

 錦野が、スカートを押さえながら、下りてきた。

「瑠奈ごめん。誰だか知らないけど、フックのような物でスカートめくってきて手が離れて…」

 時乃は、腕を組み。

「これは、虐めと言う行為ではないのか」

「いえ、特定の人物を狙ったものではないかも」

「そうなのか?」

「誰でもよかったのだと思います。最近、学園荒れているので…」

「なるほど」

「時乃さんありがとう」

「あたしからも、ありがとう」

 石原と錦野から礼を言われる。時乃は、その白い頬を赤らめた。

 

 時乃の弟、真奈は北朝鮮にいた。首都近郊に、プレアディス正規軍基地を密かに建造していた。

「これは、空間を操る能力!そしてこの詠唱、澄香兄様のもの、やはり生きていたのね。まあ、お兄様とフィンなら、これ位のことを企むと思っていましたよ。楽しくなりそうね」

 横にいた補佐官山本は。

「生きていましたか?」

「そのようですね。刺客の用意をしなさい」

「了解しました!中将殿」

 時乃真奈の真鍮色の髪が怪しく光る。澄香よりも髪は長く腰下まである。

「計画の邪魔をされては困りますからね。わたし達には、日本人が必要なのです」


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 時乃の学園生活も一か月が過ぎた。車椅子の事故以来、石原、錦野とも仲良くなった。

 そんなある日、転校生が来た。

「今朝は、みなさんに転校生を紹介します」

 長原先生は、黒板にさらりと、高遠美鈴と書いた。

「高遠美鈴と言います。よろしくお願い申し上げます」

「丁寧な挨拶ありがとう。席は、向かって左から二列目。鈴木君の隣ね」

「わかりました」

 身長百五十センチ位の小柄で、黒髪にショートカットの感じの良い子である。

 続けて、長原先生は。

「もうすぐ体育祭です。去年のわたしのクラスは五位でした。いわゆる、ワーストワン。今年は三位以内に入りたいです。みなさんがんばりましょう」

 石原は、時乃に。

「澄香は、運動得意だからがんばってね。私は、玉入れくらいしかできないから、それも下手くそで、笑えます」

「わたしなんて、たいしたことはない。何時もの計測機械の故障だよ」

「あらあらご謙遜を」

 転校生、高遠は、ちらりと時乃を黒い瞳で見た。口には軽く微笑を浮かべていた。

 授業が終わると、転校生高遠の周りに興味のある生徒が集まっていた。時乃は、さして興味ももたず、石原とおしゃべりをしていた。

「昨日、ゲームしてみたの、そうしたらね。チュートリアルで、泳ぎ方が解らなくて、水死したの。だからそこでログアウト」

 時乃は、右手の人差し指を上に向けて。

「泳ぐときは、最初は顔を出すといいんだ。そして慣れてきたら、潜ってみるといい」

「なるほど!今日やってみるね」

 クラスの生徒も色々な話で盛り上がっている。東京の銃撃事件や宇宙人のこと。また、最近、謎の行方不明事件、男女問わず頻繁に起こっている。

 また、ふざけた男子生徒は、

「最近、転校生多いだろ。そのうち、普通の人間には興味ない。宇宙人、異世界人、超能力者は、私の所にきなさい!とか言う奴出てきたりしてな」

「ははは」

「笑っちまうぜ、まるこ」

 などと、賑やかことである。時乃は、なにげに耳を傾けて聞いていた。平和という言葉を少し頭に浮かべた。自分にも、もしかしたら、こんな平和な生活が、未来的にもできるのではないかと。

 時乃、石原、錦野は、昼の休憩を中庭で過ごそうと、スロープを下りていた。

 錦野が突然、小さく悲鳴をあげてスカートを押さえている。車椅子から手を放したので、惰性で動き出した。時乃は、素早く車椅子を止めた。

 針金を持った男子生徒が逃げていくのが見えた。時乃は車椅子を平らな所に固定すると、上の階に走り出した。

 時乃の速度は、上昇し、男子生徒に迫りつつあった。逃げているのは、二人組のようである。

 男子生徒は、更に上の階に逃げる。屋上に出る扉を開け逃げ込み、背中で扉を押さえつけた。

 時乃は、右足で扉を蹴り飛ばす。扉は勢いよく開き、男子生徒は前のめりに手をついた。

「何か用か。転校生」

 時乃は、特別話すでもなく、右の男子生徒に蹴りを入れた。

「この野郎」

「野郎とは、言いえて妙な言葉だな」

 時乃は、苦笑交じりに、言葉を放った。

 屋上の隅にたむろしていた不良グループまで、集まってきた。

「おい!どうした!」

「中野さん。こいつ生意気なんです」

 中野と呼ばれた男は、時乃に詰め寄り。

「お前確か、転校生だったな。生意気な奴には秩序を教えないとな」

「何が秩序だ、こいつらが先にスカートめくりをしてきたのだ」

「関係ない!女はおとなしく黙っていろ」

 中野は、そう言うと時乃に唾を吐いた。

 時乃はひらりとよける。中野は、顎鬚を触りながら、時乃に詰め寄る。すると右手で殴りかかった。

 時乃は、涼しい顔でかわし、中野の腹に膝蹴りを入れ、屈んだ所に、左アッパーを入れた。中野の体は、後方に飛び地面に叩きつけられた。目は白目を向き、口から白い歯が二本と血の塊が同時に出てきた。

 他の男子生徒は、時乃が美しい茶色の瞳で睨むと、後ずさりした。

 そこに、錦野と教師達が来た。中野の姿を見て、皆、唖然とした。一人の男性教師が、中野の容態を見て、他の教師に救急車の手配をさせた。

 時乃は、両手を押さえられ、生活指導室に連れて行かれた。錦野は、教師に必死に説明をしていた。

 時乃は、椅子に座らされ、教師からくどくど説教を聞かされていた。理事長も入って来て、教師達と相談し、時乃に自宅謹慎を言い渡した。

 さらに理事長は。

「後で連絡しますが、停学一週間は覚悟しておきなさい」

 教師から鞄を渡され、家に帰ることとなった。

 真鍮色の髪が、太陽の光を受け、美しく輝く。透き通る白い肌、制服とのコントラストが美しい。

 時乃澄香は、心の中でつぶやいていた。何が平和だと。


        6

 

 後藤家の家に入ると、フラットが待っていた。即行何か言いたげであったが、こらえているようである。

 時乃は、フラットの、ごく普通に。

「ただいまもどった」

と挨拶した。フラットは少し日焼けした顔に笑みを浮かべて。

「澄香おめでとう!悪をしたようだな」

「うるさい!」

「なんだ、怒るところではないだろ」

 時乃は、フラットの鞄を強く渡す。

「俺は、総理事だからな。連絡は来ている。上手く言っておいたから、安心して悪をなせ」

「わたしは、正いいことをしたんだ!」

「澄香、少し変わったか」

「気のせいだろ」

「そうか」とフラット。

「そうだ!」と時乃。

 その日のうちに電話があり、明日から普通に登校してもよいこととなった。

 時乃の心の中では、煮え切らないものを感じていた。


 次の日、ごく普通に登校する。クラスメイトの反応が気になる。時乃自身は、そのようなことを今まで気にしたことはないのだが、最近は、どうも違っていた。

 教室のドアを開け中に入る。クラスの生徒の視線が時乃に向く。自分の席に着くと。石原が声をかけてきた。

「澄香、昨日はありがとう」

「いや」

 錦野も時乃のそばに来た。

「澄香、昨日は、その、先生達に説明遅れて、ごめん」

「いや」

 数名の男子生徒が来た。

「時乃、昨日、中野を倒したんだってな」

「最高だぜ、時乃」

「俺は、散々あいつ等から、ボコられて、むかつきの頂点だったぜ」

 時乃は、頬を赤らめて、頬に右手を当てながら。

「いや。わたしは、ごく普通のことをしただけだ」

「普通ではないが、最高にいけてる」

「だな」男子生徒は、相槌を打った。

 この世界には、確かにむかつくこともある。でも、気持ちの安らぐ者や楽しませてくれる者もいる。

 時乃は、健二の虐めにあった記憶を誇張解釈していた。でも、今は、決して日本人を憎んではいなかったと感じる。フィンが言っていたことが正しいと思っていた。時乃は、授業中も思いを巡らしていた。


 体育の授業で、研修の先生が紹介された。

「体育授業の研修にきました小田学、二十二歳、短い期間ですが、よろしくお願いします」

 体格の良い、短髪の清々しい青年である。

「授業に入る前に、体育祭の出場種目について説明する」

 体育教師が説明を始める。競技種目が、黒板に書き出される。

 時乃は、外を眺めていた。流れる雲が真鍮色の髪に影を作る。茶色の瞳が遥か彼方を見つめているように遠い目をしている。

 体育教師は、説明が終わり、生徒に運動場に出るように促す。

 石原が時乃の肩を揺らす。

「澄香、運動場に行くよ」

「そうなのか?」

「そうですよ」

 時乃は、席を立ち、石原に付き添う錦野の後に憑いていく。

 靴を履き替え、運動場へ。まだ、日差しが強く、時乃の白い肌を痛めつける。

 百メートル走の計測が始まる。時乃は、ただの授業と思っていた。適当に力をぬいて走る。結果、クラス一である。

 石原は、手を叩きながら。

「澄香!すごいね」

「いや」

「おめでとう。百メートル走と男女混合リレー」

「何それ?」

 時乃は、頭を傾ける。

「聞いていなかったの。体育祭の選手決めるって」

「そうなのか?」時乃は、錦野に聞く。

「そうですよ」

 時乃は、先ほどの説明を聞いていなかった。聞いていた生徒の中には、わざとタイムを遅らした者もいただろう。

 時乃に、そんな真似ができたとは思えないが、このところ自分の間抜けざまに、苦笑した。

 六時間目の授業も終わり、帰り支度をしていると、時乃は、ふと石原に話しかけた。

「石原、体育祭とは、何をするんだ」

「そうね。競争して、勝つことです」

「なるほど、勝つことなのか」

 石原は、大きな瞳を時乃に向け。

「澄香、今日私の家にこない?」

「行ってもいいのか?」

「もちろんですよ。錦野さんも来ますし」

「いってみる」時乃は、立ち上がった。

「うんうん」

 

 錦野は、石原の車椅子を手慣れた手つきで押していく。時乃は、後から憑いていていく。

 真鍮色の髪をゆらりと揺らしながら、何時になく楽しそうである。

 ほどなく、外装を煉瓦諷にした。石原の家に着く。車椅子用のスロープがあり、玄関の前から横に伸びている。リビングに面したテラスハウスが車椅子用の玄関になっていた。

 石原は家に入ると「ただいま」と大きな声で言い。屋内用の車椅子に乗り換える。

 リビングから、男の声で「おかえり」と聞こえた。

「お兄ちゃん帰っていたんだ」

 身長百七十センチ位の細身の青年が、テラスハウスに来た。

 錦野も「こんにちは」と挨拶する。

 時乃も遅れて「こんにちは」と棒読みに挨拶をする。

「君、初めて見るね」少年は、時乃に声をかけた。

 時乃は、どう話せばいいのかわからず、少しうつむいた。真鋳色の髪に光があたり、綺麗に輝いた。

 石原瑠奈は、気を利かせて。

「澄香、お兄ちゃんの真咲です。学校は違うけど県立高校の三年生」

 つづけて石原は、時乃を紹介した。真咲は、時乃に見とれてしまい。ときめきを覚えていた。

 リビングに入り。二人は、ソファーに座った。石原は、電動車椅子でアイスコーヒーを用意する。真咲は、時乃を見たいけれど、嫌われるといけないと思い、台所にいた。

 石原は、なんとなく兄の態度に気づき。

「お兄ちゃんもこっちに来て、コーヒー飲みませんか?」

 真咲は、平常心を装いながら。

「いいのかい?邪魔にならないかな」

「大丈夫ですよ」石原瑠奈は、優しく手招きをする。

 真咲は、時乃の向かいのソファーに座った。内心「ラッキー」と思った。

 他愛無い話や、体育祭や学校のことなどを話していた。時乃も解らないことを聞いたのだが、その質問が面白く、皆、笑いに包まれた。

 帰りの時間になり「また、明日ね」と石原が挨拶をし。錦野も「ばいばいね」と挨拶をした。時乃は、さすがに(ばいばい)は言えないと思った。やむを得ず「さよなら」と言いながら、手を振ってみた。真咲は、その仕草に心を奪われた。石原瑠奈は、兄の何時もと違う態度を見てとって、二人が門を出たのを見てから。

「お兄ちゃん。時乃さんのことを好きになちゃったの」

「いや。その。なんだ。友達になれるかな」

「正直に言いなさい」

「いや。その。忘れていた宿題しないと」

 真咲は、顔を真っ赤にして、自分の部屋に駆け込んだ。

「お兄ちゃん。みえみえだぞ」

 

 数日後、時乃は、何時ものように学校へ向かった。途中なにげに、土偶のことを考えていた。異世界人は、幾度となく地球に来ている。土偶の存在も証拠の一つであると、考えていた。

 学校に到着し、靴箱を開けた。なにやら封筒が入っている。鞄をおろし、封筒手に取る。

「時乃澄香さんへ。ふむ」

 時乃は、この手紙が『果たし状』だとかとい発想はすることなく鞄の中に入れた。


 時乃は、後藤家に帰ってから、手紙を思い出し、二階の七畳半の部屋で開封する。フィンが、横で端末と自分を繋いで作業をしている。

『お久しぶりです。僕は、石原真咲です。何時も妹がお世話になっています。僕は、最初に、あなたにお会いした時、心臓が破裂しそうでした。一目ぼれと言うのかな、自分でも恥ずかしいのですが、単刀直入に書きます。僕は、時乃澄香あなたが、好きです。よろしければ、お付き合い下さい』

 あと。スマートフォンの番号とメールアドレスが書いてある。

 この手紙は、石原瑠奈が、靴箱に入れたのである。兄の後押しがしたくて、しかたがないのである。

 時乃は、ふむと考え込み。

「フィン。お付き合いくださいとは、友達になってくれということなのか」

 フィンは、体を動かすことなく。

「んー。それは、恋人になってくださいと言うことかな。もしくは、その前の段階かな」

「何それ?」

「んー。」

「フィン!これ、読んで」

 時乃は、真咲からの手紙を渡す。

「んー。澄香のことを愛しているということかな」

「そなのか。って。真奈とカールのようなものか?」

「んー。間違いなくそうでしょう」

 時乃は、さすがに動揺した。弟、真奈が、澄香を裏切ったのは、アンテオカス帝の子、カールを愛したからである。

 時乃は、フラットにこの手紙が見つかることを恐れた。きっと大爆笑するからである。

「フィン、手紙返して」

「いえいえ。どうするの?返事」

「そんなに早く返事が必要なのか?」

「んー。ゆっくりで、何時でもいいと思いますよ」

「少し休むから有明に行く、あとたのむ」

「ごゆっくり」

 時乃は、有明の中に入っていった。真奈の空間転移魔法で、大きな金槌が、頭に落ちてきた気分であった。


        7


 体育祭!花火の音と共に開始された。空は、快晴。日差しが強く、かなり暑く感じられる。

 一年二組の長原先生は、優勝すれば、A定食とジュースを奢る約束をした。

 時乃は、真鋳色の髪をツインテールに縛り、準備運動をしていた。別に、A定食やジュースが欲しいわけではない。思い浮かんだのは、クラスの皆が喜ぶ姿である。

『プログラム一番、男子百メートル走です』

 石原は、時乃に。

「次ですね。がんばってください」

 と笑顔で応援した。

『プログラム二番、女子百メートル走です』

 時乃は、順番を待っていた。そして。

「位置について、用意」

 火薬鉄砲の音が響く。時乃は、その音にあわせて好スタートをきり、一位でゴールした。

 時乃的には、力を出し尽くしたわけではないが、クラスの皆が、喜いるのを見て取れる。そこに何かとても、良い思いを感じた。

 午前の種目も終わり、昼の休憩時間になった。

 時乃、石原、錦野の三人は、中庭のパラソル付のテーブルに腰を掛け、弁当を広げた。

 時乃は、メルティに弁当を作ってもらったので、豪華であった。

「澄香のお弁当すごーい。自分で作ったの?」

 時乃は、弁当を食べながら。

「いや。わたしは、作れない」

「料理苦手?」

「いや。作る機会がないだけと思いたい」

 石原は、嬉しそうに時乃を見て。

「料理勉強するといいよ。とくにハンバーグ」

「そうなのか?」

「そうですよ」石原は、兄のことを思って勧めたのである。


 体育祭の競技も残すところ、男女混合リレーのみであった。一年二組は、総合二位であった。クラスのボルテージも上ってきていた。

 時乃の後に転校してきた高遠がいた。彼女は自分の席を立ち、移動しながら視線を時乃に合わせていた。クラスでも大人しく目立たない子である。そして、人ごみの中に消えていった。

『続きまして、最終種目、男女混合リレーです』

 そして、火薬銃の音と共に、競技は、始まった。

 時乃は、アンカーなので、黄色の襷を掛ける。現在一年二組は、4位を走っている。そして、バトンは、四番目の男子生徒に、次は、時乃の番である。

 時乃は、右手を後ろにし、助走しながら、バトンを受け取る。一気に加速する。真鋳色の髪が、後方に流れ、太陽の光で、美しく輝く。三番目を抜き、二番目に追いつき、更に加速しようとした瞬間!時乃は、高エネルギー反応を感じた。でもそれは、遅かった。自分にレーザーが、向かっていた。瞬間思考する(空間転移はできない。よければ隣の生徒は、即死であろう)時乃は、隣の生徒に当たらないように、自分にタイミングを合わせた。いかに時乃澄香といえども、無防備で、レーザーの直撃を受けたら致命傷は、まぬがれないであろう。

 瞬間『バリィ』時乃とレーザーの間に、シールドが形成される。

 レーザーは、熱エネルギーを吸収され、シールドに包み込まれる形で、時乃に命中する。

 時乃は、横を走っている男子生徒を巻き込みながら、二十メートル程飛ばされ、横向きに倒れる。男子生徒は、意識がないが、怪我は酷くないようである。

 学園内は。静まりかえっていた。ダイヤルを回し周波数が丁度よくなったラジオのように、急に大きなざわめきが起こった。

 教師達が一斉に出てきた。担架を持った保険委員も走ってきた。

 時乃は、手をついて体を起こした。砂ほこりが舞う運動場を一通り見たが、何も感じられなかった。敵は、何処なのか、何者なのか。


 警察が、列をなして、学園に入ってきた。地元在住のマスコミも来ていた。

 警察は、素早く黄色のテープを張り。生徒を移動させた。

 時乃と男子生徒は、救急車で運ばれた。もっとも、時乃は乗ることを拒んだのだが、石原や錦野が、心配していたので、気を使って乗ったのである。病院へ着くと、男子生徒は、ストレッチャーで運ばれていった。時乃は、病院の中へ誘導された。診察を受けた後、警察から質問を受けていた。時乃の体操服は、丸く焦げ付き、中心付近は、穴が開いていた。

 警察が行ったり来たり、慌ただしく動いている。

 その中に真鋳色の髪をポニーテールにしている少女が、自分の方へ来るのが見えた。薄茶色の瞳を時乃に向けながら、冷静に近づいてくる。

「澄香!学校から連絡があって驚いたぞ」

「フラット気をつけろ、誰に撃たれたかわからない」

「わかった。ここは、上手く切り抜けてくれ、後で対策を練ろう」

「ふっ」

 フラットは、真鋳色の髪を揺らしながら、人ごみの中に入っていった。

 時乃は、周りが敵に囲まれている感じがして、苛立ちを覚えていた。


         8


 警察から解放された時乃は、一度学校に送ってもらい、荷物をまとめた。鞄の中からスマートフォンを取出し。

「このスマートフォン使うのは、最初で最後かもな」

 時乃は、フラットに電話を入れ、車で迎えに来てもらう。できるかぎり、地球人らしく行動するためである。車の中でフラットから、シールドウェーブの通信機を受け取る。生体USBに差し込み耳に掛ける。

(皆!心配かけた)

(無事でなりよりです。澄香様)とメイティ

(無事でよかったであります)とメルティ

(んー。狙撃者は、何者でしょうね。シールドウェーブの反応は、無かったのですけどぅ)

(澄香が撃たれるとはな。てか、空間転移できただろ)

(そうだな、できたかもな)時乃は、視線を落とした。

(俺の想像だが、澄香、人間をいや日本人を守ろうとしただろ)

(そうかもな)

(以前の澄香なら…いや、いい)

 フラットは、言いかけると、車の運転に集中するような姿勢をとり、後藤家へ向かった。

 時乃、フラット、フィンは、有明の中に移動した。メイティは、SPCで上空に上がり、デジタル迷彩をかけ、警戒している。

 メルティは、後藤家のメイド作業に集中している。

 フィンは、端末を操作している。画面上に今日の虹の原学園体育祭で起こった怪事件のニュースが映る。

「んー。この映像観てもらえる」

 フィンは、コマ送り操作を指でする。

「これ家庭用ビデオカメラで写した映像。写した人は、保護者でも学校関係者でもないようですけど。まあ、それは置いておいて。ここからです」

 本部席後ろ付近から、レーザーが発射されるのが分かる。拡大しても誰かは分からない。そして、時乃に命中する。フィンは、もう一度コマ送りをする。命中する寸前に薄く壁が見える。

「見ての通り、レーザーを撃った敵は、学園関係者がもっとも多い場所にいたこと。これは、そこにいても不自然ではない者、次に、澄香に命中する前に、何者かがシールドを張ったこと。澄香達も分かると思うけど、この出力のレーザーの直撃をまともに受けていたら、死んでいたかもしれない」

「ふむ」時乃は、考え込む。

「澄香は、走るのに集中していたのと、現時点での敵との遭遇は、ありえないと考えていたと思うの。だから無警戒になっていたのね」

 フラットは、時乃をちらりと見て。

「以前の澄香なら、警戒を怠ることは、なかったと思うぞ」

「んー。まあ。フラット、私は、今の澄香のほうが、好きですよ」

 フラットは、少し身じろぎした。時乃は、だまったままである。

「話を進めます。敵は、次どう出るかです」

 時乃は、顔を上げ、少し元気のない目をしながら。

「敵が真奈なら一度失敗したなら、作戦を切り替える」

「そうね。そうかも。でも学園の警戒はしたほうがいいかもね」

「俺が、学園を見張る」

「そうですね。フラットがベストかも、どう澄香」

「わたしは、フラットに任せる」


        9


 真奈は、地下の本部にいた。補佐官から刺客の失敗を聞かされていた。

「そう。最新型乃バトルHM使ったの。所詮、人型、パイロットの腕しだいですね。では、山本、HMの精鋭一小隊送りなさい」

「陸送ですと時間がかかりますが、いかがされますか」

 真奈は、真鋳色の髪を指に絡めながら。

「空から行きなさい。そして、真鋳色の髪を見つけたら、全て排除しなさい。別に、お兄様でなくてもいいです。少しでも削ればそれで十分」

「了解しました。中将殿」

 補佐官、山本は、部屋を足早に出て行った。

 真奈は、端末を見つめながら。

「お兄様、あなたは邪魔なのです。でも、少し話し合う機会を一度与えましょう」

 真奈の茶色の瞳が怪しく輝く。


 時乃は、最大限警戒しながら、学園生活を送っていた。事件の次の日は、マスコミや学園新聞部が付きまとうので、日本語で言う「うざい」と思っていた。

 警察は、パトカーや装甲車を配置して、警備を厳重にしていた。テレビでは、田舎の町に宇宙人が来たと、かなり取り上げている。

 フラットは、SPCを装着しデジタル迷彩で、学園を見張っている。たまに時乃に纏わり付いている人に、銃口を合わせては、口でバンとか言っている。

 時乃は、シールドウェーブの通信機を常時装着することになった。そのため、ツインテールではなく耳を隠すように、真鋳色の髪をストレートに垂らしている。

「澄香、今日は、髪型変えたのね」と石原。

「まあ。その。これは、マスコミを欺く変装なのだよ」

「あはは。そんな変装ばればれですよ」

「そうなのか?」

「そうですよ」


 メルティは、毎日後藤家の世話をしている。いわゆるメイドのようなものである。だからと言って、メイド服を着ているわけではない。日本のこんな田舎で、そんな服装していたら、浮くこと間違いないからである。

 まだ、日差しが強く暑かったので、ジーンズに七分袖のシャツという服装である。

 いつものように、時乃を送り出し、輝に朝食を食べさせる。五郎は、新聞を読みながら食事をしている。


「輝君、歯磨き行きますよー」

メルティは、優しく促す。輝は、歯磨きが嫌いなので、行くふりをして、隠れている。

「もー。輝君、保育園遅れるから、おいで」

 メルティは、黒い瞳を潤ませながら、輝を追いかける。こんな感じで、十五分もかかり歯磨きを終了した。

「では、五郎様行ってまいります」

 メルティは、そう言って輝を保育園に送る。

 

 保育園までは、徒歩で行ける距離なので、手を繋ぎながら、歩く、道々最近顔見知りになった人に挨拶をする。

 メルティは、最近の生活が、とても幸せに感じていた。自分が平和の中にあり、戦争に明け暮れる日々は過去。今、こうして、輝という、愛する子と手を繋いでいる。これが、喜びであった。一抹の不安は、時乃を襲ったレーザーである。

 瞬間(熱源反応)メルティは輝を抱え、素早くよける。二人にいた地面が、レーザーで焼かれる。続けて攻撃がくる。

 フィンは、敵反応をレーダーでキャッチした。メルティを攻撃した時に、デジタル迷彩が解除したからである。

(皆!敵バトルP、位置情報送ります)

 メルティが、息を切らせながら、連絡する。

(現在、敵バトルPと交戦中、輝君がいるから、救援急いで!)

 フラットは、空にあがると、高速で移動する。

 時乃は、授業中であったのだが、

「先生、申し訳ないのだが、気分が悪い、きっとマスコミのせいだ、保健室に行ってもよいか?」

「あら大丈夫。誰か一緒に行ってもらう?」

「いや。一人で行けるから、安心してくれ」

「そう」

 教室の皆が、視線を時乃に送る。石原も心配そうに見ている。

 教室を出ると、静かに走り、屋上へ出た。

「アリス。SPC市街地戦装備を」

『了解。バックパック送ります』

 時乃は、わき腹からグレートソードを取出し屋上のコンクリートにつける。

「空間転移」

 聖方陣が形成され、体に各パーツが装着される。背中のノズルから、力強く、空気が噴き出る。風船のように空に浮かぶと、高速で移動する。


 メルティは、二体のバトルPと思われる機体と戦闘していた。遠距離攻撃をしてくるため、逃げることしかできない状態であった。

 レーザーが、次々襲う。攻撃音、爆発音が周囲を襲う。近くにいた人は逃げ間遠い、家々からも人々は、逃げ出していた。皆「宇宙人だ!」とか奇声をあげ、躓きながら、逃げている。

 メルティの腕や、足に、レーザーが命中し血が噴き出す。(みんなが、来るまで、あと少し輝君を守らないと)

 敵が近づいてくる。

「こいつは、はずれなのか、ただの人間にしては、身のこなしが早いが」

 そう言うと、剣を抜き、メルティに切りかかる。メルティは、手で剣を受けた。血が手から飛び散る。

「おまえは、この子供を庇っているのか、それほど大切なのか」

(この子供を記録し本部に転送)敵パイロットは、指示を出す)

 そして、メルティに蹴りを入れると、輝に銃口を向けた。メルティは、高速で移動し、輝を包み込んだ。レーザーは、メルティを容赦なく攻撃し、次々体に穴が開く。血がどっと噴出した。

 そこに、デジタル迷彩を解除したフラットが割り込む。左腕に固定した剣で、敵の右腕を切り落とす。鈍い音がして地面に落ちる。

 敵は、背中のノズルを前に出し、後方に下がる。もう一機の敵がフラットにレーザーを撃ち込む。フラットは、さらりとかわした。敵にライフルを撃ち込む。弾は、敵が張ったRフィールドを突き抜け、そのまま体に命中、続けてレーザーをかわしながら、敵に弾を撃ち込む。敵は機能を停止し、地上に落下炎上した。もう一機の敵は、位置を少し移動フラットの死角から、輝に超小型マイクロチップを撃ち込む。

 敵の増援が来た。三機増え、合計四機である。そのうちの一機は、いきなり爆散した。時乃が機関銃を連射したのである。残り三機、敵は、近接武器に切り替え、懐に飛び込んでくる。フラットは、左腕に固定した、剣で受け止める。長距離狙撃用に武器を装備しているので不利である。フラットは、蹴りを入れられると、後方に飛ばされた。SPCのノズルから空気が噴出され地面への激突は免れる。

 時乃は、機関銃から、両手もちの剣に持ち替え。

「空間転移、深さ5秒」

 時乃の体は、少し薄くなる。敵が、短銃で撃ってくる。弾は、時乃をすり抜ける。時乃は、深さ五秒の別空間にいるのである。

「空間転移、通常空間へ」

 時乃の体に色が戻る。敵は、その瞬間に横一に切られた。二つになった体が地面に落ちる。

 時乃の背後から、もう一機迫ってくる。瞬間、敵は、下方から弾丸を浴びる。フラットがライフルを連射している。敵は、SPCに直撃を受け爆散する。

 あと一機は、デジタル迷彩で逃走を図ろうとした。時乃は、シールドウェーブ誘導弾を撃ち込む。敵パイロットは、バイタルプラントのポッドの中で、もがいていた。痛み、苦しみ、恐怖は、共有なのである。爆散!ポッドの中に本体は、引き攣り気を失う。


 戦闘は、終わった。遠くから、パトカーなどのサイレンが聞こえる。

 フィンとメイティがワゴン車で到着した。

 メイティは、メルティを抱きかかえ、車の中に入る。

 フィンは、敵の残骸から、頭部をレーザーブレードで切り離し頭を掴むと素早く、運転席に入り発進あせる。

 時乃は、輝を抱えると、SPCを軽く吹かし、空に飛ぶ、普段あまり使わないデジタル迷彩を使用する。

 フラットは、怒りがこみ上げ、近くの家に銃弾を撃ち込み、弾が切れると、空に上った。


 真奈は、戦況を端末で見ていた。と言ってもリアルタイムのカラー画像ではなく、文字によるデーターである。

「お兄様と対戦して、この成績は、優秀だな。しかし、あのお兄様の部下は、何故、日本人の子供をかばったのだろう。まあいい、どのみち、私達には、日本人が必要だ。そして、時間もあまりない」

 真奈は、茶色い瞳の目を補佐官山本に向け。

「時が迫っている!お兄様ばかりに構ってはいられない。日本へ進軍する!準備をたのむ」

「了解しました。中将殿」


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