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弱者を助ける

      1


後藤家の裏に、大きな工場ができた。その壁には、『スクエアーフォー』と書いてある。

時乃達は、戦いの時、フラット、フィン、メイティ、メルティで組むことが多い。この時の呼び名がスクエアーフォー。

時乃は、ソロで戦うことが多かった。一騎当千なのである。空間を操る力は、仲間で持っている者はいない。あらゆる武装を瞬時に切り替え、空間跳躍もする。もし、時乃を落とせる者がいるとするなら、弟の真奈である。時乃よりも質量の大きなものを、空間移動でき、その力は絶大。


時乃は、真鋳色の髪を優雅になびかせて、工場を散歩している。フィンの力により、OSの製造、各種プログラムの作成を進めている。第一段階としては、なかなかいい感じである。時乃も満足げに足取りも軽かった。

(フィン!従業員の確保は順調?)

(予定通り障碍者優先で、全国に求人を出していますぅ。現在応募三十四名、順次面接に入る予定です)

(バトルP候補生もみつかるといいな)

(んー。信頼できる人材がいれば、早々に動くのですけどね)


 バトルP及びシールドウェーブシステム。アンドロイドを自分自身と同じように、いや、自分自身として活用するシステム。人間本体は、バイタルプラントと呼ばれるブロックにあるポットに一生涯入る。そこで痛み、苦しみも共有する。

 時乃の世界では戦争に使われている。生身本体が傷つかないための最高の技術である。

もちろん弱点もある。一度破壊されたバトルPから、次のバトルPに乗り換えるには、かなりの時間がかかること、シールドウェーブと言う特殊な電波で外部からの干渉を受けないものを使っていても。ハッキングのために開発されたフィンは、ノイズを入れることができ、しかもハッキングも可能である。一番の弱点は、生物的ウィルスに感染しやすいことである。ワクチンが遅れると、先の有明バイタルプラントのように全滅するようなことが起こる。

 

 時乃は工場の廊下を歩いていた。後藤健二は、精神病を患い、人々から蔑まれていた。その記憶を共有しているゆえに、人への憎しみを持っていた。

 時乃の真鍮色の髪が、時折太陽の光で、美しく輝く。茶色の瞳が時折厳しく輝く。健二の記憶を思い出しているのだろう。

 時乃は、フラットのいる食堂に入った。

「フラット!少し考えたのだが、わたしは、空間操作をあまり使えないようだから、ハルバ・エボリューション1をばらして、こちらに入れられないか?」

 フラットは、ドリンクを飲みながら。

「あると、俺は助かるが、相当時間かかるぞ」

 時乃も椅子に座り。

「ハルバに増幅器を付ければ、わたしの負担も軽くなるはず。まあ、あまり体をかばう気もないが」

 フラットは、横目で見ながら。

「でも、健二から貰った命だ、大切にしないとな」

 フラットは、ドリンクのカップをゴミ箱に入れる。

「俺は守るよ!澄香!お前を」

 フラットの真鍮色のポニーテールが、鮮やかにきらめく。薄茶色の瞳が、優しく時乃を見る。


         2


 障害者、ひきこもり、健二もそうであったが、オタクの方々など、工場の人材確保は順調であった。テレビCMも順調。各拠点への商品配送も完了。生産ラインを海外版に変更して、全世界的に売り出す準備に入っていた。

 時乃は、工場の中を真鍮色の髪を揺らしながら歩いていた。ときおり太陽の光がり美しく輝いていた。一見して日本人には見えないが、フィンがハッキングして、戸籍を作り、書類上は、誰がなんと言おうが日本人である。

 時乃は、開発室のドアを開け、自分のブースに座った。なんとなくPCの電源を入れる。現代のPCではありえない速度で、立ち上がる。そして、オンラインゲームにログインする。

『チャットに、てぃが入室されました』

「このゲームも開発遅いな。スクエアーで開発すれば神ゲーになりそうなのにな」

 キャラクター選択の画面が出る。

「そういえば健二は、女キャラ使っていたから、ネカマの疑いを賭けられていたな。ここは一つOFF会もかねて営業に回るか!」

 時乃は、顔に笑みを浮かべて。

(本当は、わたしも女でもないけどな)と心の中で思った。

 時乃は、受話器をとり内線を押す。

「フィン!ゲームプログラムとCG関連いつでも受けること可能だよな。個人的に、丸川書店やウィニーに営業に行きたいと思うのだが、どうだろう」

「んーアポとりますよ。まだ、こちらは無名の会社ですけど、デモのDVD見てもらえば、良い方向でいけると思いますから」

「予定が決まったら、連絡たのむ」

「了解。澄香」

 フィンは、社長秘書と言う肩書で、アポを取った。書類上は、時乃が社長である。

時乃のブースの電話がなる。

「澄香!アポ取れましたよ。八月十日東京本社ですね。んー。よりによって、OS発売三日後ですね。少し忙しいけど、よろしい?」

 時乃は、左手で真鍮色の髪を触りながら。

「ぜんぜんOK」

「んー。変な日本語」

「そうなのか」

「そうですよ」


 時乃はオンラインゲームのチャットに。

(RANさん、今度、仕事で東京に行きます。もしよろしければお会いしませんか?)

(いいよ。あたしも暇だし、腐女子だからね)

(後で、家の電話番号とPCのメールアドレスをヤプーのブリーフケース入れておくね。当日は、新幹線出入り口で、紙にRANさんと書いておきます)と可愛く時乃は、打ってみた。

(わかったよ!)

(では、落ちますね)と時乃

(またね~ノシ)

「東京に行ったら。とりあえず秋葉原に行かないとな。あとメイド喫茶に興味がある。人にではなくメイド服の仕立て具合に興味があるな。ふむ楽しみ楽しみ」


 OS風林火山の日本での発売が開始された。大手電気店では、一週間前から並ぶ者もいて、その人気は凄いものであった。間違いなく日本のOSは九十九%風林火山になるだろう。

 時乃もテレビの記者会見などマスコミ関連で表舞台に出てきた。

 目立つのはあまり好きではなかったが、後藤家に、楽な生活をさせてあげられることが、とても嬉しかった。

「澄香も表舞台に出たからこれからは、迂闊な行動はできないな」

 フラットが、工場の食堂で、ドリンクを飲みながら呟いた。

「でも、確か御使いは、写真に写っても、記憶に残りにくいと聞いたことがあるな」

 フラットは、ドリンクのカップをゴミ箱に捨てると廊下に出た。

 現在工場は、従業員とヘルパーで賑わっている。ほとんどオートメーションなので、事務的な作業が多く、障害者の方々も無理なく働くことが出来ている。

 フラットは、搬出プラットホームへと向かった。トラックへの積み込みなど力仕事をすることにしている。


 第二工場も、すでに完成していて、機械をいれるのみとなっている。その隣には、倉庫を十二用意してある。その中の一つに、異世界の兵器、ハルバ・エボリューション・1が、解体された部品の状態で置かれていた。

「メイティ!シリアル五十六のパーツお願い」

「はい」

 フィンとメイティは、仕事の合間にハルバを組み立てている。このような兵器を使う日がこないほうがよいのだが。アフガニスタンで、バトルPと交戦しているため、配備することになった。

 友軍バトルPでは無かったと言うことは、アンテオカス帝のプレアディス正規軍の可能性が高い。時乃の世界では、長く戦争が続いていたが、真奈の裏切りにより、世界のバランスは崩れ、プレアディスが、ほぼ統一していた。それなのに何故、こちらの世界、地球に出現したのか不思議であった。

 このことに関して、メルティは、嫌な予感がしていた。メルティの能力は未来予測。何時も力を出せるわけではないが、時折ビジョンが飛び込んでくる。

『日本人が危ない』

「わたしにビジョンがくるなんて、澄香様の時以来ですわ」

 メルティは、祈る姿勢をとり、聖方陣を形成して瞑想に入った。


       3


 時乃は、マスコミから解放され、後藤家に帰ってきた。さすがに真鍮色の髪も疲れて、だらしなく跳ねている。

「ただいま」

「おかえり。おねいちゃん」

 輝が迎えてくれた。

「メルティは?」

「二階で光っているお」

「?」

 時乃は、二階にある七畳半の和室に入る。そこには、メルティが、聖方陣を形成し瞑想状態でいた。

「光ってるってこのことか」

(フィン、フラット、メイティ!メルティが瞑想に入っているけど、何か聞いているのか?)

(んー。特別なにも)

(そうか、しばらくこのままにしておくしかないか)

(メイティ代りに後藤家のことお願い)

(了解、澄香様)

(フィン。明日の東京行、必要なものとか準備できてる?)

(はい。必要なものは、澄香のブースにあるから、目を通しておいて)

(ありがとう。助かる) 

 時乃は、有明に入り自分のブースへと行く。有明の船内は、かなり広いので、ゲート近くに新たにブースを仮設した。ブースには、小型の皮のトランクに、切符、白と黒を基調としたスリーピースのフリルの多い服と空冷昨日の付いた黒のフード付きコート。夏にコートは、目立つこと請け合い。時乃も大きな目を緩めて微笑む。

「これは、フィンの新境地なのか」

 PCに電源を入れ、立ち上げる。ハンドルネームRanこと、立川祥子にメールを出す。

『予定通り、明後日九日に東京に行きますので、よろしくお願いします。あと今度ゲーム内で時石売って下さい。五百Kで買いますでは』

 時乃も疲れていたのか、メールを出した後、そのまま寝落ちすることとなった。


        4


 フィンは、美しいストレートの金髪をしている。瞳は澄んだ青、どこから見ても外人の容姿。もとは、プレアディスが開発した対バトルP用、生体アンドロイド。プロトタイプであり、コアに『エデン』と呼ばれるシールドウェーブ干渉対を持っている。時乃の世界でも、このコアは一つしかない。


 時乃がアンドロメダに遠征途中、偶然亜空間にて、プレアディスのラボ艦隊に遭遇。艦隊戦になるが、亜空間で有利な時乃の力が、圧倒的に押していた。単騎敵旗艦に突入内部から破壊工作をしている途中、まだ目覚めていないフィンと出会う。

 コア。エデンの輝きに魅了され、時乃は、御使いの契約『フィレオ』を使う。フィンの体に契約の文字が刻まれ。そのまま、フィンの体を奪取。艦隊にもどり、撤退指示を出し、離脱する。数時間時が流れたが、コアエデンは目覚めなかった。生体アンドロイドに詳しいベルニケに立ち寄ることにする。


 ベルニケの姫、コル・リカルは、時乃を快く出迎えた。

「トキノスミカ、お久しぶりではないですこと」

 ベルニケの姫リカルは、長い黒髪に黒い瞳、その完全無的なスタイルで、時乃澄香を上から目線で見た。

「あまり顔出せなくて悪いな。現在もプレアディスと戦闘状態だ」

 そこに猫耳をした少女が来た。

「お久しぶりでやんす」

「久しぶりだな、ルーニャだったかな」

「しっかり覚えるでやんす。あっしは、ラーニャでやんす」

 もう一人、ショートカットの似合う美しい少女が挨拶した。

「君は、確かヤッカイだったかな」と時乃

「いいえ、侍従をしています。名は、セカイと申します」

「で、今日は、何故ベルニケに来たわけ」

 リカルは、相変わらず、上から目線である。

「実は、コアエデンを手に入れたのだが、機動しないのだ」

「ほう、それは興味深いですわ」

「ベルニケで修理を頼みたいのだが…」

「物を見て決めますわ」

 時乃は、フラットに連絡をとり、コアエデンを有する体を運ばせた。

「ほほう。これは興味深い」とリカル。

「なんと美しいことでしょう」

 セカイは、コアエデンを有する体に触れた。

「わかりましたわ、代償は、今思いつかないわ、何時かなんらかのもので、払っていただきますわ、よろしくて」


そしてエデンの修理が始まった。十時間以上の長い修理となった。リカルは、修理が終わり目覚めて初めて会う相手が、時乃が良いと判断し、二人を再会させた。目覚めた『エデン』の持ち主は、時乃を見つめて。

「私は、フィン!あなた様の永遠の友達です」

 と言った。時乃は、フィンを抱きしめて。

「フィン!わたしの永久の友よ」

 そして、現在も契約の絆で結ばれている。

 そんなフィンが、時乃の東京出張の準備に追われる。

「んー。澄香、そのコートは、外せないアイテムだからねぅ」

「夏だよ」

「んー。健二さんの記憶データーによると、魔法使いの必須アイテム」

「そうなのか」

「そうだよ」

 フラットが目を細めてフィンを見る。

「最近、かなり澄香の影響を受けているな」

 時乃は準備を終えて。

「では、行ってくる。メルティに変化あったらたのむ」

「了解!澄香いってらっしゃい」

 フィンは、軽く手を振る。何時の間にか、フラットはいなくなっている。どうやら工場に行ったようである。

 時乃は、あえて新幹線に乗り、東京に向かった。小さな革製のトランクに、黒いコート。真鋳色の髪は、ツインテールに紺色のリボンがついている。太陽の光が当たるたびに、この世界ではありえない輝きを見せる。途中あまりにも人々に見られるので、フードを深く被った。


 東京駅は、混んでいた。ここに住んでいる人には当たり前かもしれないが、田舎から出てきた者には、目新しい光景だろう。

 時乃は、革のトランクから、スケッチブックを取出し『Ran』と書く。新幹線の降り口で、フードを深く被り、待つこと十分。半袖Tシャツに迷彩柄のベスト、迷彩柄のパンツ、黒のフィールドブーツ姿の立川祥子が近づいてきた。

「ティさん!探したよ。そんな格好だから避けていたよ。あはは」

 時乃は、フードを外す。立川は、言葉にならず、口だけが動いていた(可愛い)

「時に、Ranいや、立川、何時まで大丈夫だ」

(初対面で呼び捨てかよ)と立川は思った。

「なるほど、秋葉原の案内よろしくたのむ」

(秋葉原に行くのは、健二の夢だったからな)

 時乃はそう思った。

 二人は、電車を乗り継ぎ、秋葉原の駅におりた。そこは、熱気に満ちていた。やたらにリュックを背負った人が多い。メイド服のチラシ配りも多い。時乃は、興奮していた。この反応は、健二の記憶の一部を共有しているからであろう。

 アニメショップで大人買いする時乃。立川は、荷物持ちと化していた。

「立川悪いね。荷物宅配便で送るよ」

「あはは、いいよ気にしないで」

 そこに、いかにもオタクそうな男が、カメラを向けて。

「あの写真撮らせて下さい」

 と言うのが早いか、シャッター音が連続でした。さすがの時乃も後ずさりした。

(これが都会のオタクなのか!)

 立川が、時乃の手をとり、気を利かせて走り出した。路地に入り、無事男を振り切った。

「立川ありがとう」と時乃。

「いや。案内役だからね『ティ』さんの安全も守らないと。あれ、そういえば本当の名前何?」

「あ。言うの忘れていたな!時乃澄香だ!澄香でいい」

「時乃澄香!最近聞いたような名前ですね。あ。スクエアーフォーの社長と同じ名前ってー。よく見たら顔も似てるような。あれ、よく思い出せないな。同一人物ではないよね?」

「まあ。どうでもいいのでは」

「そう?」

「そうだよ」

 フィンからの通信が入る。

(澄香!メイティの瞑想が終わったよ。ビジョンが見えたみたい。はっきり見えたのは、日本人が狙われていること)

(わたしが、狙っているけど)

(澄香のようなのではなくて、もっと恐ろしいことみたい)

(他国との戦争か?)

(アフガニスタンのバトルPとの関連もあるかもしれないぅ)

(そうなのか?)

(まだ、確証ないけど)

(日本人がどうなろうが、わたしには、関係ない)

(そんなことない!健二さんは、確かに日本人から迫害されたけど、嫌ってはいなかった。むしろ愛していたの)

(さすが、エデンを有するフィンだな。そこまで心の奥底を読めるとは、だが、わたしは、まだ納得していない)

(んー。色んな日本人と会うといいよ。きっとわかるから)

(わかった)時乃は、少し怒っている。

(気を付けてね)とフィン

 立川は、時乃の動きが止まったので、必死に揺すり、呼びかけている。

「あ。立川ごめん」と時乃

「どうしたのよ~いったい。気絶でもしてるかと思ったよ」

「ごめん。ごめん」

 二人は、メイド喫茶に入った。さすがに立川も初めてである。

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 立川は引いていた。時乃は、メイティやメルティがいるので、言葉遣いは、気にならなかったが、仕立ての良いメイド服には興奮を覚えた。

 窓際の禁煙席で、コーヒーを飲む。

「立川、少し聞いてもいいかな」

 立川は、黒い瞳をくりくりっとしながら。

「いいよ、何でも聞いてよ!エロイ話はだめよ」

 時乃は真鍮色の髪をなでながら。

「オタクって、日本人からどう思われている?」

「あはは、澄香さんだって、日本人でしょ。面白いこと聞くね」

 立川は、頭に手を置き。

「オタクかーやっぱり。してることによりけりと思うけど、キモオタとか言われて虐めのねたかな」

「そうか、そうだろうな」

「だけどね、知っての通り、日本経済でオタク産業の貢献は大きいですよね。あと、オタクを馬鹿にしている人達も陰で、ゲームしたり、それっぽいことしている人も多いですしね。自分は、違うと言い張るかもしれないですけど。たとえば、同じオンラインゲームしているのに、あの人は、ネカマのキモオタ。自分は、男キャラ使って、抜きみ!しているとか、ゲームしている時点で同類でしょ」

「ふむ。なかなか、厳しい意見だな」

「まあ。十人十色お互い認め合えたら、一番いいね」

「そうだな。では、後藤健二を知っていると思うが、彼は立川から見てどう思う」

 立川は、腕組みをした。後藤健二は、かつて、その容姿の悪さから、あらゆる疑いをかけられマスコミの晒しにあっている。

「あのひとは…あたしは、あったことないけど、誰でも人によって好き嫌いあるし、友達同士でも腹の立つ時もあるよね。あの人は、容姿だけでなく、日本人の一番痛いところを突いた人かもね。わたしもさわらぬ神にたたりなしと言うし、距離おいてしまうかな」

「なるほど」

「でもね。あの人のことを応援していた人もいたみたいですよ。たぶん。学生時代の友人とか書かれていたかな」

「彼のことか!」時乃は、思わず声が出た。

「知っているの?」

「あ。いや独り言だ、気にしないでくれ。なんか湿っぽい話をして、ごめん」

「いいよいいよ。あそうそう、時石あるから売ってあげるよ。おおまけ三百Kでいいよ」

「ありがとう。集中力のスキルを買おうと思ってな」

 立川は、黒い瞳をくりくりさせながら、オンラインゲームの話に夢中になる。

「集中力百でホールドは、鬼だね。って対人するの?」

 時乃は茶色い瞳を輝かせて。

「敵を滅ぼすのが、わたしの使命だ」

「あはは。滅ぼしたらゲーム終わってしまいますよ。だいたい、スキル制のゲームでは、個々の能力に限界あるから、一騎当千はないしね。それに敵を少し倒しても数多いから、すぐ増援来て轢かれて終わり。それに、戦争は、ゲームでも憎しみが生まれますよ。あれ澄香さんも対人しない主義だったのでは?」

 時乃は、健二の記憶の一部を共有している。しかし、今は、戦争が好きで戦いに明け暮れていた時乃であって、健二ではない。

「プレでやることなくなったから、対人でもしようかなと思ったのだが」

「あたしは、対人好き嫌いだよ。あの血のバレンタイン、今や伝説だけど、忘れないから」

「そうか、そうだよな」時乃は、苦笑した。

 時乃は、対人嫌い論をぶつけられて、何故か行き場がなくなった。健二の記憶の一部を共有しているので、引っかかるところが、あったのかもしれない。

「そろそろ出るか」

「ほい」

 二人は、メイド喫茶を後にした。オタクな店を何件か回り、時間も迫ってきた。

「立川!今日はありがとう。面白かった」

「あはは。良かった。でも、最初会った時は、驚いたな、色んな意味で、男の人と思っていたらこんな可愛い子だし、いきなり呼び捨てでくるし。ドキドキしたよ」

 時乃らしくなく、白い顔を少し赤らめて。

「いや。言葉遣いが悪かったのは、謝るごめん。こういう奴なんだ許してくれ」

「あはは。いいよ。許す」

立川は、スマフォを取出し。

「写真とってもいいかな?」

「かまわない」

「写すね!」

 時乃は、白い頬を赤らめた。今まで日本人に可愛いと表現されたことは、あまりなかったからである。男でも、女でもない、御使いにはあまりない感覚なのである。

 立川はくるりと回転して。

「また。ネットで会おうね。クランのみんなにも、実名伏せて、話しておくね」

 時乃の真鍮色の髪が、夜の光に怪しく光る。綺麗な茶色の瞳を立川に向けて。

「また、ネットの世界で会おう」

 立川は、優しく手を振る。時乃は、くるりと回り、駅へと足を向けた。


       5


 時乃は、翌日十日、オンラインゲーム運営会社に営業に行く。

 コートを着ることを控え、黒と白を基調としたフリルの多いスリーピースを着ている。真鋳色の髪が、太陽の光を受け美しく輝いている。

 会社の自動扉を通り受付に行く。

「わたしは、スクエアーフォー社長の時乃と申します。課長の村田さんお見えでしょうか」

 時乃は、使い慣れない言葉で話す。フィンが台詞を用意してくれたので、その通りの棒読みである。

 小奇麗な応接室に案内される。時乃は、戦闘時あまり緊張を覚えたことはない。だが、この営業には、恐るべき緊張感を感じていた。

 二人の男が入ってくる。課長の村田と開発部の河合である。時乃は立ち上がり、頭を下げる。真鋳色の髪がきらりと光る。

「スクエアーフォー社長の時乃です」

 村田が座ることを勧める。時乃は静かに座る。

「課長の村田です。こちらは開発部の河合。社長自らの訪問ありがとうございます」

「いえ、小さな会社ですから」

「何をおっしゃるやら。OS風林火山、良い商品お持ちです。これからが、楽しみな会社です」

 時乃は、軽く頭をさげて。

「では、早々ですが、こちらのDVDROMを観ていただきたいのですが」

村田は、河合にノーとPCを持ってくるように指示をする。

時乃は、ノートPCにDVDを手慣れた手つきで入れる。

「これは綺麗ですね。ムービー良くできている」

 時乃は、優しく微笑みながら。

「ベースのオンラインゲームとほぼ同じ設定で、クライアントを全て作り直しました。そして、新たに、いわゆる家エイジを作り、対人でのウォーポイントにより、広さの違う、空中庭園が与えられるシステムになっています。中立の方々には、どちらかの国の友好をとり、給料長からのクエストにより、空中庭園を貸してもらえるようにしてあります。この空中庭園には、家や家具、数々のオブジェを置くことが可能です。なお家エイジは、全エリアPK可能なので、自分を守るための戦闘スキルや傭兵を雇うなど、色々工夫する必要があります」

 時乃は、フィンの台本通りに、一生懸命、棒読みした。

 その後も、村田、河合と話し合い。商談がまとまった。時乃なりに、企業戦士と言う言葉の意味を理解した。背中には、冷や汗、心は緊張。でも達成感は、とても気持ちの良いものであった。

 時乃は、午後に千代田区に移動して、大手ビジュアル会社へ営業に行く。

 途中、時乃は、違和感を感じた。通常地球にはない、電波を感じた。

 ビジュアル会社での営業も問題なく進み、契約を結ぶことができた。これで、いわゆるサブカル産業への足掛かりが出来たのである。

 時乃は、少し歩き、路地に入った。生体USBに無線機を繋げ耳に掛けた。

(フィン!営業は終了)

(んー。どうだった)

(契約はまとまったぞ)

(おめでとう。澄香)

(いや。全てフィンのおかげだ。わたしは、ただ言われた通りしただけだ)

(んー。澄香が、特殊な能力を使わずになしたことは、自分を褒めていいと思う)

(気になることがある。シールドウェーブのようなものを感じた)

(いるかもしれないわね!誘ってみるのも一つの手かも。ただ、こちらの存在が、本体にばれないように片付けないと、これから先支障が出るかもしれない)

(一小隊なら、瞬殺できる自信はある)

(了解!こちらも敵の情報が、あまりにも少ないですから、このあたりで仕掛けるのもいいかもね)

(アリス!ステルスSPC、高周波ソードを)

『了解。澄香様、バックパック送ります』

「空間転移」

 時乃の足元を中心に、聖方陣が展開される。

 空間が歪、時乃の体を空気に色がついた文字が覆う。その瞬間、体に各パーツが装着される。背中には、ノズルが多く出た機械がつく。全体に丸みがあり、黒色をしている。

「空間転移深さ十五秒」

 時乃の体が、半透明になる。真鋳色の髪が、薄くなり、光があたると、怪しく輝く。

 時乃は、高速で移動する。

「いた!空間転移深さ一分」

 時乃の姿は消えた。

 敵のバトルPは、最初の聖方陣の所に集まった。

「隊長!機体の反応消失」

「空間転移反応か、まさかな。もしそうだとしたら…各自散開しろ!」

 時乃は、表層亜空間で微笑していた」

「遅いな!空間転移、通常空間へ」

 別の位置に聖方陣が形成される。同時に、時乃が飛び出してきた。高周波を放つ両手剣をもって。

 時乃は、手前のバトルP(人型)を横一文字に切り裂く。次に固まっていた三体まとめて切り裂く。敵は、データーを送ることもできず、息絶えた。

 遠くで人が集まってきた。パトカーのサイレンも聞こえる。

 残りの六体のバトルPが、レーザーの一斉射撃を始める。

「ふっ。わたしにレーザーとは!Rフィールド展開」

 レーザーは、時乃の前に形成されたシールドにあたり四散した。

 時乃は、SPCの出力を上げた。時乃の背中のノズルから、空気が高速で噴射される。周囲に砂埃が舞う。二体のバトルPを爆散させる。

 敵四対は、シールドを張りながら後退する。

(真奈様!現在アンノンと交戦中、我が隊の撤退を進言します)

(アンノンいったい誰だ。まあよい転移させる)

 空間が歪み、大きな魔方陣が形成される。その中に四対のバトルPは、吸い込まれていく。

「く!逃がしたか。しかし空間を転移するとは、真奈がきているのか!」

 辺りは、バトルPの残骸が火を出して燃えている。野次馬も集まり、警察も来た。

『お前は、すでに包囲されている。大人しく武器を捨てて投降したまえ!』

 時乃は、振り向き、笑みを浮かべていた。

「お前たち、誰に向かって言っているのか、解っているのか」

 時乃は、剣を左の鞘に納め、四十四ミリの銃を持つ。

 そして時乃は、銃を撃ち、銃弾は、パトカー五台のエンジンに直撃!爆発した。

「空間転移、深さ十五秒」

 時乃の体は、半透明になり、空高く上がった。

(フィン!失敗した。背後に真奈がいる)

(んー。真奈さんがいるということは、プレアディスの作戦行動ですね。こんな辺境の惑星に、いったい何の用かしら)

(わたしの存在は、まだ分かっていないはずだが、何か胸騒ぎがする)

(メルティのビジョンと関係ありそうですね)

(だな)

 時乃は、空を飛びながら、多くの思いを巡らしていた。自分の戦う意味、健二のこと、日本人のこと。

 雲の海の上を真鍮色の髪の少女が舞う。

 太陽の光を受けると、怪しく輝いている。彼女は、天使なのか悪魔なのか。



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