09.本当の強さ
……俺は目を覚ます。
全身が、悲鳴を上げていた。いてえ……いたすぎて……なにも……できねえ。うご、けねえ……
「シーフ君」
「マーキュリーさん……」
俺の目の前には、マーキュリーさんがいた。
「ここは……?」
「崖下の洞窟。君、溺れ死ぬとこだったから、引き上げてきたの……」
……なるほど。
その声から、俺を本気で心配してくれてるのがわかる。だから……こそ。
「……マーキュリーさん。ありがとう。でも……いいから」
「いいって……?」
「次からは、助けなくて良いから」
「え!? 何言ってるの……!? 死ぬわよ!?」
「いいんだよ。そういう修業だろ、これは……! いっつぅ……」
大声を上げて、骨がきしんだ。あちこちの骨が折れてる。
よく生きてるな……俺。
声が大きくなってしまった。助けてくれたマーキュリーさんに、失礼だと思うけど。
でも……。
「余計なこと、しないでくれよ……俺は、強くなりたいんだ」
「…………」
死を超越した先に、手に入る……強靱な精神力。
リリア院長は、それを手に入れるための修業だって言っていた。
「俺は死なないといけないんだ。何度も……そうしないと、追いつけないから。天才に」
「…………」
マーキュリーさんが痛ましいモノを見る目で、俺を見てきた。
俺は、彼女から目をそらす。
「じゃ……って、いでで! なんだよ!」
マーキュリーさんは俺の手を握って、引き留める。
そして口に……ポーション瓶をつっこんできた。
口の中に苦みが広がってくる。
全身の痛みが、一瞬で引いた……。
「って、これ……回復薬?」
「そ。完全回復薬」
「は!? 完全回復薬!?」
「全てのケガを直す薬よ」
「だから余計なこと……」
すると、マーキュリーさんが俺の頭を殴った。
「いってぇ……!」
「ほら、さっさと修業してきなさい。崖上まで登るんでしょ?」
「そうだけど……」
「そこは手ぇ出さないから、安心して。でも……君を死なせることは、やっぱりあたしにはできないよ」
……マーキュリーさんは、俺を見て言う。
「死ななきゃ手に入らない、そんな危ない強さを手に入れて……マイちゃんは喜ぶと思う?」
「!?」
……マイが、喜ぶか……だと?
マイ……。
あいつは……なんて言うだろう。
俺は……あいつを理解したつもりでいた。でも……アウルム戦で、俺の知らないマイを知った。
……でも。
あいつは……俺の知ってる……マイは……。
俺の傷つく姿を、喜ぶようなやつじゃあない。
死を繰り返し、その先に手に入れたチカラを……喜んでくれはしないだろう。
「マイちゃんと再開したとき、マイちゃんを驚かせ、凄いよ兄さんっ、て。笑顔でそう言ってくれるような、そんな強さを、あんたは目指しなさい」
……何を言ってるのかさっぱりだ。
でも……マーキュリーさんに、考え方をただされた気がした。
リリア院長に言われたとおり、死を繰り返すことだけでは……俺が望む、本当の強さは手に入らないって。
「わかった。頑張るよ」
「うん、頑張れシーフ君」
俺はうなずいて、洞窟の外に出るのだった。




