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07.覚悟



 アスクレピオス治療院へとやってきてる、俺。

 院長のリリアさんに、修業を付けてもらえることになった。


 ……俺がやってきたのは、崖の上だ。

 デッドエンドからほど近い場所。


 めっちゃ高い崖が目の前にある。

 そして、遙かがけしたには、荒れ狂う海があった。


「ちょ……リリア。何するのこれから……?」


 バディのマーキュリーさんが、不安げに言う。


「まさかだけど……危ないことしないわよね? ただでさえ、シーフ君……病み上がりなんだし」


 この人、強くて偉い人なのに、俺のこと気にかけてくれる優しい人なんだよな。


「大丈夫ですよ、マーキュリーさん。そんな危険なことはしないです」

「あ、良かった……」


「シーフ君にはこれから、崖下に飛び込んでもらいます」

「あぶなぁああああああああああああああああああああい!」


 マーキュリーさんがリリア院長の襟首を掴んで揺らす。


「危ないじゃあ無いの! 普通に死ぬわ!」

「ええ、死にますね」

「はぁあん!? あんた何言ってるの!? 頭おかしいんじゃあないの!?」


 するとリリア院長が言う。


「そうです。強い人は、どこか頭がオカシイところがある。でもそれって、精神的にタフって言い換えることができます」


 ……脳裏をよぎるのは、マイ。

 あの強敵、アウルム相手に、笑っていた。


 ボロボロになって、傷だらけになっても、でも……。

 それでも、戦っていた。


「シーフ君、残念ながら、あなたには才能がありません」

「わかってる」


 即答できる、だって、俺は天才いもうとの兄だから。


「才能が無いなら、努力でカバーするしかない。でもあなたの肉体は凡人のそれ。鍛えていくにも、限度がある。そこで……精神を鍛えます」

「理屈はわかったけど……でも、それと崖下だいぶと何か関係あるの?」


 と、マーキュリーさん。


「これからシーフ君には、何度も死ぬほどの恐怖を味わって貰います。なんだったら死んでもらいます」

「いや、死んだら死ぬじゃん……何言ってるの……?」


「え? 死んだくらいなら、蘇生可能ですが?」

「「なんだそりゃ……!!!!!」」


 ……ああ、わかった。

 この人も、マイと同類なんだ。


「蘇生魔法くらい使えますよー。やだなー、そうじゃなきゃ、死ねなんて言えないですよー」

「……アタシって、ほんとこの手のイカレタやつの相手させられるよね毎回っ!」


 毎回ってほど、世話焼いてるのかこの人……。


「ともあれ、シーフ君。確かに無理強いはよくないです。この修業、やりたくないならやらなくても……」

「やる!」


 やるに決まってる。

 死んでも、この人は蘇生ができるんだ。

 なら……やる。


 やって……強くなる!


 俺は、決めたんだ。天才まいに並ぶって。

 

「凡人が天才に追いつくためには、燃やすしかないから」

「燃やす……?」


「自分の、命を」


 それ以外に、俺が捧げられるものはないのだ。

 マーキュリーさんが頭をかく。


「わかった……。シーフ君、頑張って」

「ああ、サンキュー!」


 こうして、俺はリリア院長のもと、修業をすることになったのだった。

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