08.ギルド試験で目立つ〜兄・実技テスト編〜
Sランク冒険者ギルド、天与の原石にて。
ギルド協会からやってきた監査員ヨコヤリーが、俺たち兄妹のAランクへの昇格に、待ったをかけてきた。
俺たちは実力を示すため、試験を受けることになった。
次は実技試験だ。
「ギルドにこんな大きくて立派な、トレーニングルームがあるなんて、すごいですねっ」
マイが感心したようにつぶやく。
ここはギルドに併設されたトレーニングルームだ。
壁には防御魔法がかけられており、絶対に壊れないようになっている。
ここで魔法をぶっ放しても大丈夫とのこと。
円形のグラウンド、外周には客席まで設けてある。
グラウンド中央に俺とヨコヤリー、そして、審判役のヘンリエッタさんが立っている。
お互いに刃引きした武器をもっている。
俺はナイフで、相手は剣だ。
「勝負は相手を気絶させるか、参ったと言わせたほうが勝ち。当然だが、殺しはなしだ」
俺たちはうなずく。
にぃ……とヨコヤリーは邪悪に笑う。
「殺し【は】なし、ということは、それ以外はOKなのだなぁ?」
こいつの声からは悪意を感じられる。多分、俺を死なない程度に痛めつけようという意図があるんだろう。
ゲス野郎め。
ちら、とヘンリエッタさんが俺を一瞥する。
俺は、うなずいた。
「もちろん。もっとも、それができるならね」
ヘンリエッタさんの声からは、俺への信頼を感じられた。
俺がこんなゲス野郎に負けないと、信頼してる。そんな音だ。
……両親を失い、妹も、そして俺も辛い思いをし続けてきた。
冒険者になったあとも、ムノッカスをはじめとした、悪い奴らにひどい目に会わされ続けた。
兄妹以外、信じられない。
マイはそう思ってるし、俺も、そんなところがある。
……初めてだ。
信頼できる大人に出会えたのは。
その人が俺たちの将来性に、期待してくれてる。
俺はその期待にこたえたい。
「では、始めようじゃないか!」
「ああ、来いよおっさん。格の違いを教えてやるよ」
ヨコヤリーから伝わってくる音。筋肉の収縮音、骨のきしむ音等から、こいつがたいして強くない、運動不足のおっさんだと伝わってくる。
ボスを倒せるくらいに成長した今の俺とは、文字通り格が違うのだ。
「調子乗るなよガキがぁ……ぼこぼこにしてやるぜ!」
ぐっ、とヨコヤリーが体を沈める。
「では……はじめ!」
ヘンリエッタさんが合図をする。
ドゴォオオオオオオオオオオオオン!
「が、は……!」
「こんなもんか」
ヨコヤリーが、壁に激突してる。
マイが、ぽかんとしていた。
「あ、あのあの……シーフ兄さん? いったい何が起きたの?」
「それはだな……」
俺が説明するよりも前に、ヨコヤリーが気絶から回復すると、声を張り上げる。
「インチキだぁあああああああああああああ!」
ヨコヤリーからは本気で怒ってる音が伝わってくる。
あんな余裕しゃくしゃくな態度をとっておいて、瞬殺されたことへの、羞恥心も含まれていた。
「インチキだ! おいそこの妹! おまえが兄に腕力向上のバフをかけたのだろう!? でなければ、この僕が一瞬で吹っ飛ばされるわけがなぁい!」
はぁ……やっぱり馬鹿だこいつ。
そんなずる、するわけないだろう。
「ヨコヤリー。彼はインチキなどしてなし、マイくんはシーフ君にバフをかけていない」
「嘘だ! 証拠はどこにある!?」
するとヘンリエッタさんがあきれたようにため息をついた後、こういう。
「では、再戦といこうか。マイくん。悪いがトレーニングルームから出ていってもらえないかい?」
「は、はい……いいですけど」
ずるしてない(バフもらってない)から、別にやり直してもいいけどさ。
マイが「がんばって!」と応援して、トレーニングルームを出ていく。
「さて、再戦といこうか。と、その前に、シーフ君。このままでは一方的すぎる。だから、ハンデをつけてもいいかい?」
「なにぃい!? ハンデだとぉお!?」
がち切れしてるヨコヤリー。
やっぱり自分のほうが実力が上だと思ってるようだ。
俺は、まあ別に構わなかった。
ヨコヤリーの実力は、もう把握してる。
「いいですよ。こんなやつ、目隠しして後ろ向きでも、勝てますし」
「ぬぁぁああにぃいいいい! ふざけるなよぉおおお!」
怒ってるな。
ただでさえ、実力が足りてないのに、冷静さを失っている状況。
目隠ししてでも勝てる。
俺は自分が身に着けているマフラーをほどき、目隠しをする。
完全に視界がふさがれる。
「準備完了。いつでもいいぜ、おっさん。来いよ」
「ぎ、ぐぬぅうう! な、なめよってぇえ!」
その通り、なめているのだ。
目隠しして後ろを向いていようと……俺の耳は、やつのすべてを把握していた。
心臓の音から敵の位置を割り出せる。
筋肉の収縮する音から、どんな攻撃を放ってくるのか把握。
呼吸の音から、攻撃のタイミングを計れる。
その結果、どうなるかというと……。
「この! このぉお!」
スカッ!
「く、くそぉおおお!」
スカスカスカッ!
「あ、当たれぇえええええええええええ!」
スカスカスカスカスカスカスカスカ!
俺はすべての攻撃を目隠し、かつ後ろ向きになった状態で、かわしてみせた。
そしてやつが態勢を崩したタイミングで、足を引っかける。
「ぶべえ!」
ぴたっ。
俺は倒れたヨコヤリーの背中に膝を乗せ、ナイフを首にあてる。
「まだ、やる?」
「ぐぬぬぅうう……な、なんだ貴様ぁ……。どうなってるんだぁ、目を隠してるのに、僕の攻撃をすべて避けてみせるなんてぇ」
俺はマフラーの目隠しを解いて、自分の首に巻く。
「あんたの発する音、うるさすぎるんだよ。だから、こっちに動きが読まれちまう」
俺の持つ超聴覚は、敵のあらゆる音を拾う。
それらの音から俺は敵の動きを完全に把握できるのだ。
「あんた、最近運動不足だろ? 呼吸がすぐ上がってたぜ。肩も凝ってるな。体のケアしたほうがいいぜ」
「この、がきぃ! なめやがってぇえ!」
ヘンリエッタさんが拍手しながら言う。
「関節、筋肉のきしむ音から、相手の体の不調まで見抜いてしまうなんてね。さすが、シーフくんだ」
ヘンリエッタさんは俺の技術についても、把握してるようだ。
ほんとに、実力を認めたうえで、スカウトしにきてくれてるんだなぁ。うれしいぜ。
「これでわかっただろう? バフを受けずとも、彼は元Sランカーを圧倒するほどの実力を秘めているのさ」
「ち、くしょぉお~……」
「一回戦目もバフは受けてなかったよ。君が馬鹿みたいに直線で突っ込んでくるのを、シーフくんはあらかじめ予測。高速で突っ込んでくる君を回避し、カウンターを後ろから叩き込んだだけさ」
なんと。
一回戦の動きも、ちゃんと把握してくれているのか。
結構速く動いたからな。
常人じゃ、目で追えないだろうに。
「あいにくと、目はいいんだ。だから、君たち兄妹という素敵な宝物を、ゴミの山から見つけることができた」
ぱちん、とヘンリエッタさんがウインクをする。
良い人……。
「そろそろどいてあげたらどうだい?」
あ、そうだ。
ヨコヤリーを踏みつけたままだった。
俺がどいてやると……。
ちゃきっ、と後ろから、ヨコヤリーが俺に【それ】をつきつけてきた。
「い、インチキを使ってるって、み、認めろ! で、でないと……う、撃つぞぉ!」
音の感じから、このおっさんが銃を抜いてるのがわかった。
ヘンリエッタさんは黙って見ている。
俺なら、大丈夫と、信じている音だ。心音に乱れが一切ない。
それがうれしかった。
「いいぜ、撃ってみろよ」
俺はくるっ、と身をひるがえす。
おっさんはびくっ、と体をこわばらせた。
銃をにぎり、銃口を俺の眉間に突きつける。
「どうした? 撃ってみろよ?」
「はぁ! はぁ! う、撃つぞ? 撃つぞぉお!? 本気で撃つぞぉ!」
ああ、やかましい。
声だけじゃない、心音もだ。
こいつがビビり散らしているのは、心音でわかる。
人を撃つ度胸も、ないこともな。
「いいぜ? ただし、人を殺していいのは、殺されていい覚悟のあるやつだけだぜ?」
俺はにやりと、不敵に笑って見せる。
言外に、撃ってきたら殺すぞとおどしてやったのだ。
それが、ダメ押しだった。
へたぁ……とその場にヨコヤリーが崩れ落ちる。
「格付けは済んだようだね」
ぽん、とヘンリエッタさんが俺の肩をたたく。
「ヨコヤリー。たとえ君が銃で至近距離から、シーフ君を撃ったとしても、彼は余裕でよけられたよ。君は実力でも、戦う覚悟でも、シーフくんに負けているのは明白だ。なぁ、みんな?」
……俺は気づいていた。
いつの間にか、たくさんの人たちが、俺たちの戦いを見ていたことに。
「すげえよ!」「なんて強いんだ!」「とんでもない新人が入ってきたぜ!」
天与の原石のギルメンたちだ。
俺の活躍に、拍手を送っている。彼らからは、純粋に、俺を称賛する音が聞こえてきた。
誰も嫉妬していない。ほんとに、みんないい人たちだ。
「みなも見ただろう! 彼ら兄妹の実力が、本物だと!」
拍手をもって、皆さんが答えてくれる。
こんなに大勢から、認められたのは初めてで……めちゃくちゃうれしかった。
「兄さん!」
マイがこちらに駆け寄ってくる。
俺たちが揃ったのをみて、ヘンリエッタさんが宣言する。
「バーンデッド兄妹を、我らの仲間に迎える。そして、Aランク冒険者として認めることを、ここに宣言しよう!」
こうして、俺たち兄妹は試験を突破し、見事、Aランク冒険者として新たなるスタートを切ったのだった。
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