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74.かくしごと



 俺の体に、無数の鋼糸がからみついてる。

 全身くまなく覆う糸は、マイの持つ杖先から伸びていた。


 杖を構える、俺の妹が、前を向きながら言う。


「兄さんの体を、わたしが糸で操る。兄さんはただ全力を出せば良い!」

「マイ……」


 なるほど、鋼糸を使い、まるで操り人形のように、俺を動かそうっていうのか……。


 マイはケガしていたはずだが……?


「……私が回復弾で、治癒しました」


 ルイスさんの魔法銃で、ケガを治療してもらったらしい。

 ルイスさんには、感謝だ。でも……



「マイ……ごめん」


 口を突いたのは、ルイスさんへの感謝よりも先に、マイへの謝罪だった。


「ごめん?」

「……この姿、隠してた」


 神降ろしについては、マイに知らせてなかった。

 神を下ろし、人間を辞める術の存在を、隠していた。


「俺……おまえに、隠し事してた……にいちゃん……失格だ……」


 家族に隠し事をしてたこと、ずっと俺は辛く感じていた。

 誰でもない、家族に……そんなことするなんて……。


 するとマイが微笑む。


「謝らないで、兄さん♡」


 ふわ……と微笑む、マイ。

 その笑みを見てるだけで、俺の辛い気持ちが和らいでいく。


「わたしのために、強くなろうとしてくれたんでしょ……? うれいし……すっごく嬉しいよ……」


 マイは、俺が、【家族に隠し事】なんていう、【最低のこと】をしたというのに……。


「許して、くれるのか?」

「もちろんっ。わたしは隠し事されてたこと、全然怒ってないよ! 兄さんを許します!」


 マイ……! おまえ……なんて、なんて……いいやつなんだ……!


 ルイスさんは「どの口が……」となんだか、あきれてるような声で言った。

 どの口が……って?


「さぁ、兄さん。二人であいつを、やっつけよう! 兄妹の力……見せつけてやるんだ!」


 ……不思議と、体に力がもどってくる。

 限界を超え、指一本動かせなかった、この体。


 でも今は、なんでだろうな、体に万能感が満ちてる。

 なんでも、できるって、そう思える。


「万全な状態になったようだな、マイ・バーンデッド」


 アウルムが俺……ではなく、マイを見て言う。

 さっきまで俺に向けていた、興味のなさは、ない。


 どこか楽しそうにしていた。


「なるほど。今度はそいつで人形あ」


 どがぁん!

 俺の体が神速を超えた速度で動く。


 俺の体が、アウルムの顔面に、蹴りを放つ。

 恐ろしく早い。


 俺の体を、マイが操ったのだ。

 俺……こんなに早く動けるのか。


「あいつは悪いやつだよ。兄さん、あんなのに耳を傾けちゃだめ」

「そうだな……わかった」


 俺はダガーを構える。

 後ろにマイが、いる。


 なんだかんだ、妹が後ろにいるときが、一番気持ちが高ぶり、力を発揮できる気がする。


「さぁ……いくぞ、マイ!」

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