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71.限界



 マイ・バーンデッドは自分にバフをかけ、さらに相手の動きをトレースすることで、アウルムと渡り合っている。


 どがっ!

 がががが!

 ずがががががっ!


 あまりに速すぎる戦闘、ルイスは目で追うだけで精一杯だ。

 目の良い彼女が、である。


 他の連中からしたら、彼らの攻防は速すぎて、まったくついていけてなかっただろう。


「あははあ……! 楽しい……楽しいですぅ!」


 マイが汗と血を流しながら、それでも……笑っていた。

 笑いながら戦っている。


「前に出て殺し合いするのって、たぁあ~~~~~のしぃいですねぇええええええええええ!」


 マイの動きに徐々に変化が訪れている。

 ほんのすこし、アウルムより、動きが速くなってきているのだ。


「ふ……ははははは! なるほど……やるなぁ、マイ・バーンデッド! まさか、デバフを打撃に混ぜるとはなぁ!」


 アウルムの言葉にルイスは一瞬首をかしげるも、すぐに理解した。

 マイの両手が光り輝いてる。


「あれは……遅延の光(レイ・ディレイ)! まさか……そんな……」


 マイは、遅延の光(レイ・ディレイ)を自分の両腕に纏わせているのだ。

 アウルムに攻撃を与えると、遅延の光(レイ・ディレイ)が相手に付与される。


 ……バフとデバフの、同時がけは、理論上不可能。

 たしかそうだったはずだ。


 けれど、マイはデバフを自分に付与し(バフ)てる。

 あり得ないことを、あり得ない速度で、できるようになっている。


 マイは恐ろしい子だと、あらためて、ルイスは思った。


「吾輩の動きをデバフで遅くすることで、先手を取れるわけか! くはっ! ははは! いいぞぉ!」


 空中でマイとアウルムが相対する。

 マイのほうが、ワンテンポ速い。


 だが、ワンテンポだ。

 相手にガードされる……。


 そう思った、アウルム。

 しかし、ぐんっ! と彼の腕が後ろに引っ張られる。


「鋼糸! どこから!?」


 アウルムの視線の先に、マイが捨てた杖があった。

 杖先から鋼糸が出て、アウルムの腕にからみついていたのである。


「まさか、杖はこのために……! 先に捨てておいて、意識を相手から自分に向けておいて、虚を突く。そのために杖を!」


 空中でアウルムの態勢が崩れた。

 マイは拳を思い切り振り上げて……。


身体強化エンハンス×1000……!」


 限界まで自分にバフをかけて……。


「きゃははあ! 死ねぇえええええええ!」


 マイの攻撃が、アウルムに炸裂する……はずだった。


「かはっ……! あ、あれぇ……?」


 マイの口から、血が吹き出たのだ。


「マイさん!?」

「あ、あれ……? なんで……?」


 ルイスは直ぐにマイの体を見て、きずいた。


「!? 体が……もう、ボロボロ……まさか……」


 一方アウルムは、一気に詰まらなそうな顔になる。


「仕舞いか」


 アウルムは右腕を、左手の手刀で切り落とす。

 そして、マイの腹に蹴りを食らわせた。

「がはっ!」


 そのまま凄い勢いで吹っ飛んでいくマイ。

 ルイスはマイに駆け寄る。


「マイさん!」


 すぐにルイスは回復ポーションを取り出して、マイに飲ませる。

 げほげほ……とマイが咳き込む。


「なん……で……?」

「それは、貴様の体が貧弱だからだ」


 アウルムが近づいてくる。

 先ほどまであんなに興奮していた彼は、もういなかった。


「貴様のセンスは、たいしたものだ。だが、そのセンスに比べて、肉体はあまりに貧弱」


 ……アウルムの言うとおりだ。

 マイのバフ、デバフの技術、そして戦いのセンスは人外レベルにある。


 が、それに対して肉体は非常に貧弱なのだ。

 簡単に言えば、やりたいことに、体がついて行けていない。


「残念だよ、マイ・バーンデッド」


 アウルムが、マイ・バーンデッド、そしてルイスに近づいてくる。

 二人とも戦う力は残されていない。


 が、このまま逃がしてくれる気配も、ない。

 万事休す。


「死ね……」


 アウルムが左腕で、手刀を放ってきた。

 ガキイイイイイイイイイイイン!


 ……だが、その手刀が二人を殺すことはなかった。


「シーフさん!」

「シーフ兄さん!」


 二人の前に、ダガーを持った少年、シーフ・バーンデッドが現れたのだ。


「大丈夫か、二人とも!」

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[一言] 兄をマリオネットして二人三脚すればワンチャン?
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