64.彼女の強さ(弱さ)の理由
アウルムと相対する、マイ。
それを端から観戦することしかできない、ルイス。
「くはっ! 壊れない玩具か! いいぞ、いい……狂いっぷりだぁ」
アウルムは本当に嬉しそうに笑っている。
それはまるで、自分の好きなモノと、同じモノを好きな人を見つけたような、そんなリアクションに見えた。
「吾輩は知りたいぞ。マイ・バーンデッド。おまえのすべて。どうしてそうなったのか。元々そうなのか、今こうなったのか? おまえの人格、技術、思想、過去……! 全部が知りたいぞ!」
一方、マイは笑っている。
「そんな余裕見せてていいんですかぁ? 死んじゃいますよぉ~♡」
ずぉおお!
地面から無数の鋼糸が、湧き上がってきた。
糸がからみあい、アウルムを閉じ込める檻となる。
「鋼糸の檻か! ここまでのものを構築されていたというのに、まったく気づかなかったぞ!」
ルイスはマイの罠に気づいていなかった。
マイは人外の速度で、鋼糸の檻なんていう、複雑な構造物を作ったのである。
触れれば腕くらい簡単に切り落としてしまうほどに、鋭利な鋼糸。
その檻の中に閉じ込められたのだ。
逃げられることは不可能。
「いいぞマイ・バーンデッド! 吾輩を殺すという意思がひしひしと伝わってくる 」
「じゃ、死んでください♡」
躊躇無く、マイが鋼糸を操って、檻のサイズを小さくする。
あの檻の中に入っていたアウルムは、無数の鋼糸でズタズタにされた……。
「…………」
躊躇無く人を殺す。そして、笑う……マイ。
「猿芝居はいらないですよぉ! 生きてるンでしょぉ!? アウルムさぁん!」
周囲に無数に散らばる金貨がとけて、空中にてそれらが集まる。
粘土のように形を変えて、アウルムの姿に戻った。
「なんだあれは……再生なんて生やさしいものじゃない……」
ルイスの目を持っても、目の前でアウルムが起こした現象について、理解できなかった。
「へええ! 凄いですね! 黄金から、自己を生成したんですねええ!」
……一方、マイ・バーンデッドはその目で、見た現象について、分析、理解していた。
「そっかぁ……黄金から、肉体を錬成して、そこに魂を乗っけるんですねえ」
「ああ、その通り」
金貨が空中に舞う。
それは1本の剣へと変わる。
ひゅ……!
ずばぁん!
「マイさん……!!!!!!!!」
マイの、杖を持っていた腕が、切断された。
宙を舞う腕。
そこへ、黄金の剣が何本も襲いかかる。
剣がマイ・バーンデッドの腕をズタズタに引き裂いた。
ルイスのように、腕があれば、くっつけることができた。
しかしマイの腕は完全に、消された。
「さぁ、どうするマイ・バーンデッド。治して見せろ」
「なおす……? あなた、何言って……?」
するとマイは笑いながら、杖を持ちあげる。
「こうですかぁ……?」
マイの杖先から鋼糸が出る。
鋼糸がマイの肩に絡みつく。
そこから、まるであやとりのように、糸が絡み合って、一つの形を作る。
「鋼糸で……腕を……?」
「そぉです。まずは腕をこうやって、魔力の糸で作る。そして……こうでしょぉ!」
カッ、と鋼糸で作った腕が、輝く。
するとそこには、一本の、マイの腕ができていた。
「腕が……再生した……?」
「違いますよぉ、鋼糸で骨組みを作ってぇ、そこに魔力で肉付けしてぇ、あとは人間の細胞に変換したんですよぉ」
……何を言ってるんだ?
わからない。
ただ……これだけはわかる。
マイは、腕を消しとばされても笑い。
そして笑いながら、消しとんだ腕を、神業で再生してみせたのだ。
黄金から肉体を錬成した、アウルムの技を、見て……。
自分流に、アレンジして見せたのだ。
「あは……血ぃ……きれいだなぁ……」
足下には、血だまりができてる。
マイの腕が吹き飛んだ際にできたものだ(傷口はマイが鋼糸で塞いだ)。
「血……きれい……あは……おっとと」
マイがふらつく。
これだけ大量の血を失ったのだ。貧血を起こしても当然……。
「もったいないなぁ……」
マイが杖をかまえる。
杖から射出された鋼糸の束が、血の池触れる。
つつつつ……と糸を通って、血が体に戻っていく。
「なるほど! 鋼糸を血管に見立て、自らの体に再度取り込むか! 良い発想だな!」
「それはどうもぉ」
血が戻り、腕も戻り……そしてマイが言う。
「ねえ……アウルムさん。何手を抜いてるんです? さっき腕を切り飛ばしましたけど、どうして……首狙わなかったの……?」
首を切断すればマイは死んでいた。
心臓に剣をつきたれば、死んでいた。
だが……そうしなかった。
「ぬるい攻撃しないでくださいよ。舐めてるんですか……?」
……異常だ。
自分を殺そうとしてる相手に、何故本気で殺さないのかと、説教を垂れている。
気弱で、困っている人をほっとけない、お人好しの……マイが。
「いやすまなかったな。手を抜いたわけじゃないのだ。そのポテンシャル、吾輩がもっと引き出してやろうと思ってな」
アウルムが笑う。
「貴様……今まで、全力を出したこと、無かったのだろう?」
「……そんなことないですよ。ただ【一度】だけ、本気出したことがあります」
「ほぅ……一度」
「ええ……」
このバーサク状態に、かつてなったことがあるといのか。
「でもね……そのときにわたし、気づいちゃったんです」
「ほぅ……何に?」
「わたしが強いと……兄さんに、守ってもらえないって」
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