61.ルイス、驚く
《ルイス》
ギルド監査官の美女、ルイス・スナイプは、ゆっくりと目を覚ます。
「ここは……?」
目の前の光景を見て、彼女は目を剥く。
「……なんですか、この……黄金の山は?」
視界いっぱいに広がる、黄金の荒野。
地面に散らばっているのは、金貨。
ルイスは戸惑いながら金貨を拾い上げる。
贋作……? いや……。
ルイスは眼鏡を外す。
この眼鏡は、抑制装置だ。
ルイスは目が良い。かなり良いのだ。それゆえ、見えすぎてしまう。
だから、ルイスはこの制御装置である眼鏡をかけることで、視界をセーブしてるのだ。
よく見える裸眼で、じっくりと、目の前の金貨を観察する。
……彼女にはわかった。
「本物の……金が使われてる……」
ルイスは眼鏡をかけ直し、周囲の様子をうかがう。
足下には無数の金貨が散らばっていた。
まるで黄金の絨毯の上に立っていると錯覚してしまうほどだ。
遠くには金貨が山のように詰まれている。
その金の山が、いくつも並んでいるなか……。
なおも、頭上から金貨がジャラジャラジャラ……と落ちてきてる。
「なんだこれは……どこなんですか……ここは……?」
ルイスはここに至るまでのことを思い出す。
シーフのおかげで、転移結晶を用いて、ダンジョンから脱出することに成功した……はずだった。
しかし……。
「明らかにここは、外じゃない。ダンジョンの中だ……いったい……どうして……?」
転移結晶に何か不具合があった。
あるいは、何らかの干渉があり、転移を邪魔された……。
ルイスは後者だと思った。
敵には時間を止めるほどの、凄腕の魔法使いがいるのだ。
そいつがこちらの転移結晶に、魔法で干渉した……。
そう考えるのが自然である。
「ふぅ……はぁ……」
ルイスは腰のホルスターから、二丁の拳銃を取り出す。
ここがどこかはわからないが、敵地であることには相違ないだろう。
まずは、情報を集めないと。
それに……。
「マイさん……どこに……?」
マイ・バーンデッド。
彼女も一緒に転移したはずだ。
……信頼する仲間から、託された妹。
彼女を守らねば、とルイスは思った。
「! マイさん!」
目の良いルイスは直ぐに、マイを見つけ出すことができた。
金貨の山に埋もれていた彼女を、ひっぱり出す。
「マイさん! しっかり!」
「うう……ルイス……さん……」
ルイスは深く安堵の息をつく。
大事な妹にケガなんてさせてしまったら、彼に申し訳がない。
「あれ……? ここ……どこ……?」
「わかりません。ただ……ダンジョンの中であることは確実でしょう」
そのときである。
「やっと起きたか」
声が、した。
ルイスのものでも、マイのものでもない、第三者の声。
年若い声だ、という印象を抱いた。
だが、直ぐにそれは間違いだとルイスは考えを改める。
声のする方を見やると……。
「!?」
そこには、化け物がいた。
一見すると小柄な、ダークエルフだ。
肉付きの悪い、貧相な肉体。
肌はチョコレートのように日焼けしてる。
銀の髪、尖った耳。そして……血のように赤い瞳。
彼女は金の装飾品を、体中、これでもかと言うほど身に付けていた。
派手な見た目の、幼いダークエルフ。
……だが、違う。
目の良いルイスにはわかった。
「うぐ……おえええええええ!」
ダークエルフの姿を直視したルイスは、その場で嘔吐してしまった。
敵の体から湧き上がる、尋常じゃない魔力量。
人間じゃない。
化け物だ。
あんな膨大な魔力……今まで見たことがない。
ルイスの体がガタガタガタ……とふるえだす。
あの冷静沈着なルイスが、あんな小さなダークエルフを見ただけで、恐慌状態になってしまった。
それほどまでに、敵は化け物。
だというのに……。
「わぁ……」
ルイスは、見た。
目をキラキラと輝かせる……マイ・バーンデッドの姿を。
「とっても綺麗、だね、その魔力!」
……マイはこのダークエルフを見て、綺麗だと言った。
……異常だ。
魔喰世界蛇を発現させたとき……いや、もっと前から、この子は凄い子だと思っていた。
でも……認識が甘かった。
凄いなんてレベルではなかった。
化け物を前に平静を保ち続けられている……。
そんなの、化け物にしかできない。
目の前には今、2匹の化け物がいる。それに挟まれてる哀れな、矮小な存在。それが……自分だ。
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