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35.アイテムボックスを付与できる妹



 岩鳥の巣から、卵と、大量の荷物を回収してきた。

 ややあって。


「おいしい、です! この……料理!」


 人外魔境の入口にて。

 マイが目をキラキラ輝かせながら、嬉しそうにご飯をほおばっている……。ぁあ! マイ! おまえの笑顔で、兄ちゃん失明しちゃいそうだよ!


「よかったす。それ、うちの故郷の郷土料理で、『親子ドゥーン』って言うっす」

「親子……どぅーん……おいし!」


 親子なんちゃらという料理は、どうやらコロウリィんとこの地方でしか食べられてない料理らしい。

 ボウルのなかに米を入れて、卵と鶏肉をまぜたような料理だ。


 食べてみるとなるほどおいしい。出しのきいた卵と、ジューシーな鶏肉とが合う合う。

 

「喜んでもらえてうれしっす! たんとおたべっす」

 

 このコロウリィ、マイにすごく優しい。

 おかわりが言えないマイに気づいて、率先してもう一杯どうぞと進めてくる。


 マイはそんな風にやさしくしてくれるコロウリィに心を開いてるようだ。

 ううぉう……マーズさんといい、追放されたら、マイにお友達が増えて……ふぐぅうう。


「ちくしょう……親子どぅーん、しょっぱいぜ」


 ほどなくして。

 俺たちは食後のお茶を飲みながら、今後のことを話していた。


「この大量の荷物、どうやって運ぶかなんすけど……何かいいアイディアないっすか?」

「ん? 普通に魔法袋つかえばいいんじゃないの?」


 マイがこくこくとうなずく。


「マイの魔法袋は、高難易度ダンジョンでのドロップ品。容量無制限の袋だからさ、これくらいの荷物、普通に収納できるんだよ」

「うぇえええ! まじっすか! すご……。てか高難易度ダンジョンに入れるだなんて! すげえっすねえ……」


 マイが嬉しそうにふにゃふにゃ笑っている。

 ああ、かわよ……。


 ん?

 マイが俺をチラチラ見てくる。おお、妹よ! わかったぞ兄ちゃんは!


「喜べコロウリィ。おまえにいいものをやると、マイが言ってる」

「いいもの? てか、マイさん何も言ってないような……」


「ばっかおまえ。言葉にせずとも、かわいい妹の言いたいことくらい、わかるだろ?」

「え……わかんねーっすけど……何当たり前みたいなこと……ああすみません! なんでもないっす! ナイフ出さないで!」


 ち、命拾いしたな。

 マイの前じゃなかったらやばかったぞおまえ。


「もらえるのはうれしいっすけど。いいものって、なんすか?」

「それは俺にもわからんのだが……マイ。どうすればいい?」


 するとマイが俺のダガーを見つめる。

 そして、魔法袋を見つめる。うん、とうなずいた。


「よしわかった」

「今ので何が!?」

「だいたい全部」

「えすぱーっすかあんた!」


 俺はダガーで、魔法袋をぶっ指す。


「ちょ!? なにやってんすか! 高価なものなんすよそれ! ナイフでさすだなんて……」


 すると、魔法袋から、ころん、と技能宝珠スキル・オーブがまろびでてきたのだ!


「これ、技能宝珠じゃん! なんで……?」

「えと……兄さんの、スキル。あるから。魔道具からも、オーブ……できるかなって」


 それを聞いていた、ルイスさんが感心したようにうなずく。


「マイくんはこう言いたいのですね。シーフくんの持つ完全解体スキルを使えば、魔道具に効果を付与してる力を、技能宝珠として回収できるのではないかと」


 こくんこくん! とマイがうなずく。

 ルイスさん、口下手なマイの言いたいことを理解するとは。やるじゃない?(後方腕組兄貴面兄貴)


「完全解体にこんな使い方があるなんてな。よく気付いたな。すげえなマイ!」

「えへへ~♡ 兄さんなら、できるかなぁってぇ~♡」


 ったくもぉお、マイってばもぉ~。兄ちゃんをほめちゃってもぉ。うれしくなっちゃうじゃないか!


 さて。

 技能宝珠に入っているスキルを調べる。


■最上級アイテムボックス(S+)

→異空間にアイテムを収納する。容量、大きさ無制限


「アイテムボックススキルなんて商人の夢っすよ! すげえ……」


 ちらちら、とマイがコロウリィを見てる。

 ぱくぱく、と口を開いたり閉じたりしてる。か、かわいい……じゃなかった。


 兄ちゃんが翻訳してやらないとな。


「コロウリィ。あんたに、アイテムボックスのスキルを付与したいって言ってるよ、マイが」

「うぇ!? い、いいんすか!?」


 うんうん、とマイがうなずいてる。

 そっか……マイ。おまえ、コロウリィのことが気に入ったんだな。わかるよ、こいつ声はうるさいけどいいやつだもんな。


 おまえのことを馬鹿にせず、普通に接してくれたもんな。いいやつだし。それに……。


「うまい飯のお礼だってさ」

「うう……マイさん、ありがとっす! 感謝っす!」


 しかし、マイが兄ちゃん以外にバフをかける……か。

 ちょっと妬けるぜ。いや、妹の成長を喜ぶべきか。


 ばしゅ、とマイがスキル付与する。


「これでOKみたいだぜ。やってみろよ」

「はいっす。アイテムボックス、オープン!」


 しゅおん! と大量の荷物が消える。

 どうやら異空間に収納されたようだ。便利なスキルだなこれ。


「すげえ! まじすげえ! アイテムボックス……と、それを付与してくれた、マイさんすげっす!」


 よし、いいぞ。

 マイを褒めた。いいぞ。褒めなかったらどうなってたことか。


「スキル付与って、効果どのくらい持つんすか?」

「そりゃ、マイがバフを解除するまでだよ」


「バフを解除するまでって?」

「は? だから、解除するまでずっと続くよ」


 もしくは、コロウリィにデバフをかけた際に(バフとデバフは重ね掛けできない)。

 あと身体強化系のスキル付与(剛腕など任意発動型)は、戦闘後に自動解除される(設定でそうなってるので、使用の都度バフが必要)。


「は? い、いやいやいや! そ、それっておかしいっすよ!」

「あ? マイをディスってのおまえ?」


 殺すけど?


「そーじゃなくて! だってそれ、永続的にバフをかけられるってことじゃないっすか!」

「「それが?」」


 俺もマイも、こいつが何に驚いてるのかさっぱりだった。


「あのっすねえ! スキル付与自体がそもそも、理論上不可能な超技能なんす! その前提を抜きにして、バフを永続でかけ続けるなんて無理なんすよ!」

「マイはできるけど」


「マイさんがやばすぎるんす! 普通の付与術師のバフは、一定時間が過ぎると消えるんす! オフにしない限り永続的に続くバフなんて、そんなのおとぎ話の代物っすよぉ!」


 なんと。

 マイが当たり前にやっていたことは、すごいことだったのか!


「すごいぞ、マイ!」

「えへへ~♡ 兄さん今日ほめすぎだよぉう」


 しかしマイは本当にすごい。

 まさかと思うが、妹のすることって全部すごいことなんじゃあ?


 いやいやさすがに全部は。

 いやいやいやうちの妹は天才なんだから、全部凄いことにきまってらぁ!


「永続するバフってことは……もとパーティも恩恵を今もうけてるんすかね」


 ふと、コロウリィが尋ねてくる。


「それはないよ。あいつらが俺らを見捨てたとき、マイはバフを解除してたし」

「そう、だったの……?」


 コロウリィが「なんでマイさんが自覚してないんすか……?」


 ああ、そうか。

 マイは気づいてないようだ。


「マイがバフをかけられるのって、心を許した奴にだけなんだ。本気で嫌ったり、敵だと思ってるやつに、バフはかけられないんだよ。仮にかけてたやつが、敵対した瞬間、バフ解除するようにしてるんだ。癖だろうね」

「「へえ……」」


 マイはどうやら、そのクセについて把握してなかったようだ。

 ちょっぴり抜けてるマイもかわいいな!


「……よかったですね。コロウリィさん」


 黙って聞いていたルイスさんが、優しい声音で言う。


「はえ? なにがっすか?」


 コロウリィはあほだから気づいてないようだが、俺はルイスさんの声音から、言いたいことを理解してた。

 つまり、マイと仲良くしてる限り(友達でいる限り)、アイテムボックスは永久的に使えるようになるってことだ。


 でもそれをルイスさんが言わなかったのは、マイとの関係に変化が起きてしまうのを危惧したからだ。

 アイテムボックス欲しさに、マイに対してこびへつらうようになったら、嫌だもんな。


 だからあえて、ルイスさんは良かったねの真意を話さなかったのである。

 ……まじで、良い人だよなぁこの人。


「マイに感謝しながらアイテムボックス使うんだぞ」

「そりゃもちろん! ありがとうっすマイさん!」


 マイはうれしそうに、ふにゃふにゃと笑うのだった。そして兄ちゃんは尊死した。


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