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33.ムノッカス視点



《ムノッカスSide》


 シーフたちが順調に、人外魔境へと向かう、一方そのころ。

 彼らを追放したパーティのリーダー、ムノッカスはというと。


「ふふふ、この仕事で、僕は再起するのだ!」


 彼はバーンデッド兄妹をダンジョンに置き去りにした。

 殺人未遂の罪に問われ、その結果、莫大な慰謝料を支払うことになった。


 当然、ムノッカスの評判はガタ落ち。

 冒険者ランクもさがり、さらに借金まで背負う羽目となったムノッカス。


 今回の、グラハム公爵からの依頼をこなせば、この悪い風向きを変えられる。

 そう思って、今回この依頼を受けたのだ。


 取り巻きの女二人はというと……。


「がんばって、ムノッカス!」

「あなたならできるわ!」


 ヒッチ、そしてバーズレのふたりは、まだ、ムノッカスパーティにいた。

 彼女らにもペナルティが発生し、借金ができてしまった。


 殺人未遂をした彼女らをパーティに入れてくれる人はどこにもおらず、結局、ムノッカスのもとから離れられなかったのである。

 割れ鍋に綴じ蓋であった。


 ちなみに彼が浮気していた件については、水に流すことにしたらしい。

 それより彼を利用して、また地位と名誉を手に入れよう、と思ったヒッチとバーズレ。


 彼らが護衛するのは中規模の商隊。

 ムノッカスは商人に竜車をかりて、その荷台に座っていた。


「ムノッカスさん」

「んん? なんだね、依頼主のクローニンさん?」


 クローニンと呼ばれた商人の男は、ムノッカスと同じ竜車に乗っている。


「大丈夫なのですか? 周囲を警戒しなくて。ここは街の外です。いつ魔物に襲われるか……」

「はは、大丈夫ですよクローニンさん! こちらには優秀な盗賊がおりますので。な、カスワン?」


 カスワンと呼ばれた男は、シーフの代わりに、ムノッカスがパーティに入れた男だ。


「ひひ。斥候は任せてくださいよぉ、ムノッカスさん。おれがいれば道に仕掛けられたトラップ、茂みに隠れてる魔物、すべて看破できますからぁ」


 カスワンは自信たっぷりに言う。

 事実、カスワンは優秀なサポーターではあった。


 もっとも、超優秀なシーフとは、比べ物にないのだが。


「ひひひ、この周囲にはトラップも、隠れ潜んでいる敵もいません。絶対安全です」

「だ、そうですクローニンさん。彼が言うんだから大丈夫。敵に襲われることなんて、100%ありえません」


 と、そのときだった。


「GEGEEEEEEEEEEE!!!!!」


 どこからか、獣の声が聞こえてきたのだ。


「なんだ……うぉおおお!」


 竜車の荷台がガタガタと揺れだしたのだ。

 妙な浮遊感がしたかとおもうと、荷台がなんと傾きだしたのである。


「「「うぁあああああああああああああああ!」」」


 ムノッカスたちは無様にも、荷台から転がり落ちてしまう。


「ぶべえ!」


 顔面から、地面に落ちるムノッカス。


「い、いったい何が……?」

「ムノッカス! 大変よぉ! 上空にモンスターがいるわ!」

「なにぃいい!? モンスターだとぉ!?」


 ありえなかった。

 盗賊カスワンが安全だと太鼓判を押したばかりだ。


 モンスターが襲ってくるわけがないのに!


「お、おいどうなってるんだねカスワンぅう!?」


 ムノッカスは、呆然とするカスワンの肩をゆする。


「モンスターはいないんじゃあなかったのか!?」

「ま、周りの茂みには隠れてなかったですよ! あれは、岩鳥ロックバード、上空を旋回する魔物じゃないですかぁ。あんなのの存在に気づける盗賊なんていないですよぉ」


「なんだと!? ふざけるな! シーフは普通に、上空からの敵にもいつも気づいていたぞ!? 盗賊の仕事をしろ貴様ぁ!」

「い、いや目で見えないところにいる敵なんて、察知できるわけないじゃないですかぁ! 何言ってるんですかぁ! それに、岩鳥は地上の人間じゃ気づけない、超上空から敵を狙うんですから、気づくのは不可能ですよぉ!」


 ……しかしシーフは、どんな敵だろうと察知し、危険を知らせていた。


「おいムノッカス! なに言い争っているのだ! 早く荷物を回収しろぉ!」


 クローニンに言われて、ムノッカスが我に返る。

 岩鳥たちは荷台を足でつかんで、飛び去ろうとしてる。


「お、おいヒッチ! 魔法だ! 魔法で撃ち落とすんだ!」

「わ、わかったわ! 【火球ファイアー・ボール】!」


 しーん……。


「あ、あれあれ? 魔法がでないわ! いつもなら無詠唱で魔法が発動できたのに! どうして!?」


 どうしてもなにも、魔法の詠唱時間を短縮する付与をかけていた、マイ・バーンデッドがいないからであった。


「くそ! ヒッチ! なにをふざけてるんだ!?」

「ふざけてないわよぉ! なんか、魔法が出ないのよぉ!」

「ああくそ! おいカスツール! 詠唱時間短縮付与をかけろ!」


 カスツールが言う。


「い、いや……何言ってんすか……使えませんよ、そんな高度なバフ魔法」

「なにぃ!? 高度なバフだとぉ!?」


 今度はカスツールに詰め寄り、ムノッカスが怒鳴りつける。


「馬鹿言うな! あの雑用付与術師でさえ、バフをよこせと言えば、すぐに詠唱時間短縮付与をよこしてたぞ!?」

「はぁ!? なんすかその、すげえ付与術師!」


 すごい……付与術師……?

 ムノッカスは完全に、マイを侮っていた。彼女の使うバフ・デバフは、どんな付与術師も使える、と思い込んでいた。


「バフは支援魔法、つまり魔法なんすよ。当然、呪文の詠唱が必須となるっす。よこせって言われてすぐに付与できない。しかも、そんな詠唱時間短縮付与はすごい高度なバフっす。詠唱時間はめちゃくちゃ長くなるうえ、使える術師は限られるっすよ」


「ば、ばかな! そんな……ありえない!」


 完全に、マイのことを見下していたムノッカスは、カスツールの言葉に動揺した。


「ああおまえらぁ! ふざけんなよ! 荷台を奪われてしまったじゃないかぁ!」


 ムノッカスがもたついてる間に、岩鳥は、荷台を連れて飛び去って行ったのだ。

 依頼人であるクローニンは顔を真っ赤にして、ムノッカスの顔面を殴る。


「大損だ! どうしてくれるんだ!? ちくしょうめ!」

「うう……こんなはずではぁ……」


 ムノッカスはこの旅で十二分に痛感させられることになる。

 優秀なサポーター2名がいたから、すごかったのだと。


 おのれが文字通り、無能な人間であることを。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告です。ご確認いただければ幸いです。 誤:もっとも、超優秀なシーフとは、比べ物にないのだが。 正:もっとも、超優秀なシーフとは、比べ物にならないのだが。
[一言] 荷台ごととは、豪快な鳥さんだ
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