32.大量の敵をあっさり倒し、感謝感激される
竜車を手に入れた俺たちは、人外魔境とやらへと、さっそく出発した。
コロウリィが御者として、竜を操る。
ドドドドドド!
草原をものすごいスピードでかける地竜。
「こ、この地竜めっちゃはえーっす!」
「ぐわー! がー!」
地竜の鳴き声から、こいつも驚いてることがわかった。
ちゃき、とルイスさんが眼鏡の位置を治す。
「見事な付与ですね、マイ・バーンデッドくん」
「え、ど、どういうことっすか? ルイスさん?」
さすが監査官、目がいいな。
ルイスさんは解説する。
「マイ・バーンデッドくんはこの地竜に走力上昇のバフ魔法をかけ続けているのです。元々足の強い地竜にバフが加わったことで、ここまで早く進めているのです」
「うぇえええ!? バフをずっと!? もう出発して数時間は経ってますっすよ!? そんなかけ続けるなんて無理っす!」
「それを可能にできるくらい、彼女は優秀な付与術師ということです。見事ですね」
る、ルイスさん……ほんとにいい人だ。
マイのことをきちんと理解し、評価してくれるんだもの。
それとマーキュリーさんみたいにぎゃんぎゃん騒がないし。
お、大人……。
「この調子なら人外魔境にすぐ付きそうっす。もしかしたら一番のりかも……あ、でも人外魔境……この人数で、大丈夫かなぁ。無事にたどり着けるか不安っす……」
コロウリィからは不安の音が聞こえてきた。
別に俺らを馬鹿にしてるんじゃない。彼女は俺たちの力を知らないからな。そこから来る不安だろう。
てゆーか。
「人外魔境ってそんなやばいとこなの?」
そもそもあんま知らないんだが、そこ。
「やばいもやばいっす! 強力な魔物、過酷な環境から、人外魔境は世界四大秘境の一つに認定されてるっす」
四大秘境なんてものがあるんだ、この世界。
「……奈落の森、妖精郷、七獄。そして人外魔境。その四つを総称して四大秘境といいます。どこの魔物も、通常よりもはるかに危険で、Sランクモンスターが普通にはびこっているのですよ」
ルイスさんはさすが、物知りだ。
しかし、ふーん……結構やばそうだなぁ。
マイがいなきゃな。
「まぁ、マイがいるから問題ないでしょ」
「そ、そうなんすか……?」
「うん。てゆーか、不安なら、もっとたくさん冒険者雇えばよかったじゃん、コロウリィ」
「うう……それはごもっともっす。でも、うちは駆け出しだし、金もコネもないんすよぉ」
だから、冒険者を3人しか雇えなかったわけか。
やばいとこへ行こうとしてるのにさ。
「怖いっす……生きて帰れるかなぁ」
「そもそも論だけど、受けなきゃよかったんじゃない? 怖いんだったらさ」
コロウリィの心音はどきどきと、強く脈打っている。
まじでビビってるやつの音だ。でもおかしい、なんで危険をおかしてまで、仕事を受けたんだろうか。
「自分……貧乏なんす」
「貧乏?」
「はいっす。カーター家は没落貴族なんすよ」
昔は貴族だったけど、何か問題があって、貴族じゃなくなった連中のことか。
「貧乏だけど、きょうだいおおくて。長女である自分が、いっぱい稼がないといけないんす。でも、個人じゃなかなか儲けるチャンスなくて……だから、今回の依頼を受けたんす」
人生をかけたばくち、ってことなのか。
コロウリィの声からは、この依頼を絶対に成し遂げたいっていう硬い意志が感じられた。
まあ、大変だろうけど、俺には関係ないね。
「シーフ兄さん、がんばろ! コロウリィさんのために!」
俺の優しい妹は、どうやらコロウリィの話を聞いて、発奮したらしい。
ふ……。
「もちろんさ。コロウリィ、俺たちがいれば問題ないよ。大船に乗ったつもりでいな」
「た、頼もしいっす……」
とはいえ、彼女からは弱気な音が聞こえてきた。
まー、わかる。俺たち兄妹の力を、こいつはまだ見てないからな。
そのときだ。
「ちーちゃん、ストップ」
「ぐわ、がー!」
地竜が足を止める。
「ど、どーしたんすか、シーフさん。てかちーちゃんって?」
「マイがこの地竜につけた名前だ。最高だろう?」
「え、ださ……」
「最高だろ?」
「あ、はい……で、どうしてストップしたんすか?」
どうしてだって?
「敵が襲ってくるからだよ」
「て、敵!? い、いったいどこに……草原見渡しても、全然魔物の陰がないのに」
周りしか見てないなんて、視野の狭いやつだ。
一方、俺は耳がいい。縦横だけでない、上空、地中の敵の音すら、拾うことができるのだ。
「マイ」
「うん! スキル付与、【溶解毒】!」
俺のダガーに、マイのスキルが付与される。
刃に毒が付与。
俺はダガーを思い切り、頭上に向かって投げ飛ばす。
「ちょ!? どこにダガー投げてるんすか! あぶないっすよ!」
ひゅ~~~~~~……どさ!
「って、ええええええ!? ろ、岩鳥ぉ!?」
全身が岩の鎧に包まれた、でかい鳥が落ちてきたのだ。
岩鳥からは、肉と羽毛、そして技能宝珠をゲット。
「シーフさん!? 何すか今の!?」
「何って……頭上をこの鳥がとんで、こっちに攻撃しようとしてたから、毒を付与したダガーを投げただけだよ」
胴体にダガーがぶっささり、毒が回って、岩鳥は死亡したようだ。
「全然見えてなかったっす……」
「だろうね。俺の耳じゃなきゃ、こいつの羽ばたく音が聞こえてなかったと思うよ」
「す、すげえ……どんだけ耳いいんすか」
「まあ、特別なもんでね」
俺は落ちてる技能宝珠を手に取り、マイに放り投げる。
「スキル、【羽根矢】ゲット、と」
「つか、すげえっすよこの素材!」
岩鳥がドロップしたアイテムを見て、コロウリィが驚いてる。
「毒で殺したのに、毒が全然、肉に回ってないっす! こっちの羽毛もきれいなもんす! いったいどうなってるんすか!?」
「俺のスキル、完全解体のおかげかな」
倒せば、完全な状態で、アイテムがドロップする。
完全な状態、つまり、毒が効いてない状態でってことだ。
「す、すげえ……毒で攻撃した場合、肉に毒が移って売り物にならないはずなのに。きれいなもんす。しかも羽毛も一切溶けてないし……これは高値で売れるっすよ。てゆーか、買い取りたいっす!」
「いいよ。あげる」
コロウリィがぽかーんとしてる。
「え、なに?」
「あ、あげるって……え? どういう意味っすか?」
「だから、文字通り。ただでやるよ。今回俺たちは護衛任務だし。討伐は目的としてないし」
「いやいやいやいや! 何言ってんすか! これ、そうとう高く売れるっすよ!? それをただでくれるなんて……」
マイをちらっと見る。
彼女が、俺に尊敬のまなざしを向けていた。
ああ……マイのそのまなざし、気持ちいぃ……
「これ、マイからのプレゼントだよ。あんた、金ないって言ってたじゃん。優しいマイが、おまえにこれやるって」
「い、いやでも……さすがに申し訳ねーっていうか」
なんだ、結構遠慮するのなこいつ。
いいやつだな。
「もらえって。てゆーか、妹からのプレゼントをさ、受け取らないとか、ありえないから」
兄ちゃんキレちゃいそうだよ
するとコロウリィが俺にビビッて、うなずく。
「あ、ありがとうっす……! マイさん、やさしいっすね!」
マイがふにゃあっと笑う。ああ、なんてかわいいんだ。
「さて、と。じゃあ、残りも片づけるか」
「ほえ? 残りって……」
「いったいいつから、敵が1羽だけって思ってたんだ?」
岩鳥の群れが、こちらにやってくる。
視界にうつる位置に、うじゃうじゃいやがる。
「うぎゃああああ! Bランクモンスターの群れっすぅう! 終わりだぁああああ!」
ちら、とルイスさんに視線を送る。
彼女は腕を組んで、動こうとしない。
俺たちに任せた、ということだ。
別に彼女はさぼってるわけじゃない。俺たちなら、対処できると信じているんだ。
「マイ、新しいスキル、使い方覚えたか?」
「大丈夫!」
もちろん岩鳥の接近には気づいていた。
でも攻撃しなかったのは、マイがスキルの運用について、考えていたからだ。
「兄さん! ダガーふるって!」
「OK」
俺は頭上に向かってダガーを振る。
ばしゅぅううううううううううううううううう!
「シーフさんのダガーから、無数の羽が、矢のように飛んでくっす! あれが、スキル羽根矢すか!?」
ぶす、とダーツのように、岩鳥の固い皮膚につきささる。
「ああだめだ! パワーが足りてねえっす! 突き刺さっただけじゃ……」
「十分だよ」
俺はダガーをもう一度ふる。
今度は、背負い投げするように。
「ええええ!? 岩鳥が一斉に、こちらに引き寄せられてくっすぅ!」
ドゴォオオオオオオオン!
気づけば、岩鳥の群れが地上に落ちていた。
やつらは動けずにいる。
「な、なんすかこれ……糸? 糸で岩鳥の群れが、捕縛されて、まるでボールみたいになってるっす! いったいこれは……?」
「スキル、粘糸だよ」
羽根矢は、羽根を矢のように打ち出すスキルだ。
まず、羽根矢を使って空中の岩鳥どもに矢をつける。
で、矢には粘糸が付与されていた。
ガムのようにくっつき、ゴムのように伸び縮みする粘糸を、敵にくっつける。
あとは一気に糸を手繰り寄せて、地上へと落とした。
「粘糸の効果で、岩鳥はお互いにくっつき、身動き取れない状態になってるって感じ」
「す、スキルを二つも同時に使ったんすか!? し、シーフさんすげえ……」
おっと。
聞き捨てならなかった。
「違う!」
「え、違うって……」
「おまえは二つ間違ってる! スキルを使ったのは、マイ! あとスキルは2つじゃなくて3つだから!」
羽根矢、粘糸、そして、剛腕。
腕力を向上させる剛腕がなければ、大量の鳥どもを地上へとひっぱり落とせなかった。
「え、ちょ、えええ!? スキル付与ぉ!? それって理論上不可能って……」
「うちの妹に不可能の二文字はないのだ」
「し、しかもスキル3つ同時がけなんて、超テクニックのいることじゃないっすか!」
「それもマイなら当たり前にできるから」
コロウリィが何度も、俺とマイを見る。
「す、すげええ……自分、なんかすごい人を雇ってしまったっすぅ……」
「どうでもいいけど、これらの素材ももらってくんない? 別に要らないし」
「うぇええ!? いいんすかぁ!?」
俺は奪命の一撃で、動けなくなった鳥どもを始末していく。
結果、大量の肉やら羽やらをゲット。
「た、宝の山っすぅ……ほんとにもらっていいんすかぁ?」
「くどいなおまえ。いいよ。てゆーか、多分この先も敵に襲われるだろうから、全部アイテムはあんたにやる」
「う、うおぉおおおお! ありがとうっすぅうううう!」
コロウリィが泣きながら、俺たちの前で土下座する。
「感謝感激っすぅ!」
「感謝は俺じゃなくてマイだけにしなさい」
「はいっすぅ! マイさんありがとうっすぅうう!」
マイが嬉しそうにしてたので、うん、OKです。
まあ正直俺の耳があれば、敵なんてよけ放題なんだけどさ。
魔物はなるべく倒していこう。
これ、試験でもあるわけだし。なにより、コロウリィを喜ばせると、マイも喜ぶからな。
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