31.人外魔境へむかう、竜車えらび
俺たちはSランク昇格のため、ギルド監査官のルイスさんとともに、任務をこなすことになった。
俺たちがいるのは、王都にあるデカいお屋敷。
「この屋敷の主人が依頼主です」
「ふーん……ルイスさん、どんな依頼なの?」
「護衛任務です」
「護衛……ねえ」
依頼内容をまとめると、こんな感じだ。
依頼:補給部隊を護衛せよ
場所:人外魔境まで
概要:人外魔境で遺跡が発掘された。
そこへ補給部隊を送ることになった。
冒険者達は、補給物資をつみこんだ商人を、人外魔境へと送り届けること。
依頼書から目を離す。
「よーするに、人外魔境ってところまで、荷物をとどけりゃいいんだろ?」
「そのとおりです」
「で、冒険者たちってどういうこと?」
「それは……」
そのときだ。
……嫌な音が、こっちに近づいてきたのだ。
「やぁやぁやぁ! 誰かと思ったら、無能兄妹じゃあないかい!」
「……無能カス」
「誰が無能カスかね!? 僕はムノッカス!」
元パーティのリーダー、ムノッカスが、こっちに近づいてきたのだ。
取り巻きの女どももまだいた。
パーティまだ形を成してたんだな。
てっきり女のトラブルでとっくに崩壊してるかと思っていた。
「君たちもこの依頼を受けるのかね?」
「ああ。あんたも受けるのか、もしかして……?」
「ああ! なにせ今回の依頼主は、グラハム公爵家! 報酬もたんまりもらえるからね!」
どうやらこのデカい豪邸のあるじが、グラハムって貴族らしい。
別に依頼人が誰であろうと、金がどうだろうと、関係なかった。
「僕らは一足先に出発するよ」
「あれ? 一緒じゃないの?」
「ああ」
こいつと一緒に行動しなくてよくてよかったわ。
マイが萎縮してるしさ。
正直この無能カスとは一緒にいたくないんだよね。
「僕らは別の商人たちを護衛していく。しってるかい、デカい商会の、でっかいキャラバンさ!」
「ほー」
だからなんだろう……?
「わかるかい? 大きな部隊を任されるくらい、僕は力が認められてるってことさ!」
「ふーん」
俺たちサポート組がいなくて、やってける自信があるなんてな。
「君らが抜けた穴は、きちんと埋めてある! カスワンス、カスツール兄弟さ!」
どうやら盗賊と付与術師は、新しく入れたようだ。
カスワンスが盗賊、カスツールが付与術師だそうだ。心底どうでも良い。
「一方で~。君たちはどの商人を護衛していくんだい? んんぅ?」
いや知らんが。
そんときだった。
「あ、あのぉ~……バーンデッドさまっすか?」
気弱な男の声が聞こえてきた。
振り返ると、灰色髪で、おどおどした少女が立っていた。
「誰あんた?」
「あ、はい。自分、コロウリィっていいますっす」
■コロウリィ・カーター(17)
種族:半魔族
性別:女
職業:商人
コロウリィって女は、背が小さくて、一瞬俺より年下なのかとおもった。
でも、10代後半の音がするな。
「よろしく。俺はシーフ・バーンデッド、こっちは妹のマイ・バーンデッド。で、引率のルイスさん」
「あ、はじめましてっす。コロウリィっす。よろしくですっす」
変なしゃべり方だが、俺は嫌いじゃ無かった。
ちゃんと妹にもあいさつしてるからな。
ルイスさんも会釈してる。
「あんた、荷物は?」
「馬車が一台っす」
するとムノッカスが「ぷぷぷ!」と笑う。
「一台!? もしかして、個人の行商人かぁ、こいつぅ!」
「あ、はいっす……行商やってるっす……」
「ぷはははははは! バーンデッド兄妹の力じゃ、こんなちびの、ちんけな馬車を守ることしか任されないなんてなぁ! ギルドから信頼されてないなぁ!」
って、馬鹿にしてきてるけど……。
俺は、逆の思いだった。
俺たちは新しいギルドに入ってまだ日が浅い。
だから、失敗する確率が高い。
しかも今回は初の単独任務だ(引率はいるけど)。
失敗のリスクは高い。
そんななか、デカい商人の部隊を潰したとなったら、大変だ。
だから、こういう規模の小さい商人の依頼を任せた……。
ギルマスのヘンリエッタさんの親心を感じていた。
マイも同じ気持ちのようだ。
「ま、君らはせいぜい、そのちんけな馬車でも守ってるがいいさ。僕らは大成功をおさめて、これを機に大逆転してやるからね! じゃあね!」
声の感じから、あいつらも結構おいつめられてるのがわかった。
金がピンチなのかな。
「……ムノッカスの言葉は無視していいですからね。バーンデッド兄妹。ヘンリエッタさんは……」
「あ、わかってるって。俺らのこと考えて、コロウリィの護衛を任せたんだろ?」
ルイスさんは小さく微笑んで、うなずいた。
それ以上は何も言わなかったけど、彼女からは俺たちへの信頼を感じさせた。
「えと……申し訳ないっす……ちんけな商人で……」
「イヤ全然。さっそく出発しようよ。荷物はあれ1台?」
「は、はいっす! 今回、グラハム公爵様が、地竜を貸してくださることになったっす」
「ちりゅー?」
地竜……地竜……なんだっけ?
「荷台をひく、走る竜のこと、だよ。小柄だけど、パワフル。人外魔境は荒野だから、馬より地竜なの」
「ほほー、なるほど! さっすがマイ! 物知りぃ!」
マイがふにゃふにゃと嬉しそうに笑う。天使かな? 天使だよ!
「で、その地竜なんすけど、めぼしいのはほとんど、他の商人さんたちがとってっちゃったっす。残っているのは、その……あんまりよくない竜ばっかりというか」
俺たちは庭の片隅へと移動。
そこには柵があって、たくさんの、赤茶色のうろこをした小型竜たちがいた。
「ぎゃあぎゃあ」「ごぎゃぎゃ」「ぐわぐわ!」
なるほど……。
「全体的に年老いた竜ばっかだな」
「そ、そうっす。わかるんすか?」
「声でだいたいね」
なるほど、力の強い商人が優先的に、いい竜(若く力強い竜)をとってったわけだ。
で、残ったのはあんまよくないのってこと。
「……バーンデッド兄妹。どの竜を選びますか?」
ルイスさんが眼鏡を輝かせながら言う。
なるほど、これも評価の対象ってことだな。
「簡単じゃん。そこの暴れてる竜がいいよ」
首にチェーンをまかれてる、竜が一匹居た。
「ぐわぐわー! がー!」
がちんっ! がちんっ! と竜があばれるたび、鎖がきしんでいる。
「あ、あんな暴れてる竜、あぶなくて荷台を引かせられないっすよぉ……」
「そうか? まあ、任せな」
俺はひょいっ、と柵をまたいで中に入る。
「ぐわぐわぐわーーーー!」
大暴れする地竜。
俺は両手を開いて、近づく。
大丈夫、俺の耳には、ちゃんと聞こえてるさ。
「ぐわーーーーー!」
竜が前足を上げる。
「シーフ兄さん!」
「あぶねーっす!」
俺は……避けない。
ただダガーを手に取って……。
しゅぱんっ!
ダガーを一振りする。
ぽろ……と竜の爪が取れる。
「ぐわ……」
「痛かったんだろ? もう大丈夫だ」
竜が暴れるのをやめる。
「どどど、どうなってんすか!? 急に大人しくなったすけど!?」
「コロウリィ。わかんねーの? こいつ……爪がのびてて痛がってただけなんだよ」
「爪?」
よく見るとだが、異常に爪がながいのがわかる。
「つめきって欲しくて暴れてたんだろ。こんな状態で走ったら、足が痛んじゃうしよ。だからダガーで切ってやったんだ。これでいたくねーだろ?」
「ぐわ♡」
べろんっ、と地竜が俺の頬を舐める。
残りの爪も切ってやった。
すると、頬ずりするようになった。
「す、すげえ……あの暴れ狂ってた地竜がおとなしくなった……。でも、なんで爪が伸びてるってわかったんすか?」
「俺、耳がいいからさ。わかるんだよね、そいつの感情的なものが」
こいつの声からは、痛みをどうにかしてほしいと訴える気持ちが聞こえてきた。
だから何かケガとかしてんだろうと思った。
結果、爪がのびてるのがわかった。
「……素晴らしいですね」
「さすが兄さんっ! 優しくて素敵!」
ぬっへへへ!
マイにほめられちったー。
「す、すげえ……自分、とんでもない人に、護衛してもらえるみたいっす……」
「さぁ、さっさと行こうぜ、人外魔境とやらに」
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