30.新しい任務、新しいキャラ
マーキュリーさんと蜂退治したあと。
俺たちは冒険者ギルド、天与の原石、ギルドマスターの元を尋ねていた。
「やあ、バーデッド兄妹。久しぶりだね」
「ヘンリエッタさん、おひさしぶりです」「……で、です」
ギルドマスターのヘンリエッタ。
銀髪に、美しい顔、そして抜群のスタイル。
スーツを着た美女である。まあマイもスーツを着ればこれくらい美人になるがな。
「本題に入る前に……二人とも」
ヘンリエッタが椅子から立ち上がると、俺たちの前へとやってくる。
スッ……と彼女が頭を下げた。
え、どうしたんだこの人……?
「こないだの、魔蟲の件、本当にすまなかった」
「え? え? どういうこと……っすか?」
本気でわからない。
一方でヘンリエッタさんからは、心から、俺たちに申し訳ないって思ってるようだ。
「王都の危機に、君たち二人だけに負担をかけさせるようなまねをしてしまい、本当に申し訳ない」
魔蟲襲撃事件のことを言ってるのだろう。
あのとき、天与のSランカーたちは、軒並み出張中だった。
それで、Sランクでもない、新人かつAランカーを、前に出した。
そのことを、謝っているんだろう。
……なんというか、律儀な人だ。
「いや、別にあんた……あなたが謝ることないっすよ」
「いや、指揮権のある私に責任がある。それに、頑張ってくれた君たちへのご褒美も、用意できなかった」
ご褒美……ああ。
Sランクへの昇格のことを言ってるのか。
「それも全然。ま、マイが居ればいずれSランカーに直ぐなれるでしょうし? 今じゃ無くてもいいっていうか。な、マイ?」
「…………で、ですっ」
マイは人見知りなので、ずっと俺の後に隠れてる。
でもマイの息づかいや、心音から、俺とおなじ、ヘンリエッタいい人って思ってるのが伝わってきた。
そうだよな、妹よ。
マーキュリーさんといい、この人といい、天与の原石にはいい人しかいないよな。
「てゆーか、お見舞い金もたっぷりもらってますし、ご褒美はあれで十分っすよ」
まさか魔蟲討伐の賞金まで、もらえるとは思えなかった。
治療院での入院費にも、補助ができたし。
このギルド入ってからお金が貯まること貯まること。
「ご褒美ってわけではないが、君たちに、仕事を依頼したくてね」
褒美なのに仕事……?
どういうことだろう。
コンコン……。
あ、ババディだ。
「失礼します。ルイスを連れてきましたよ」
マーキュリーさんの後に、誰かがいるな。
がちゃり、と扉が開く……。
だが、そこにはマーキュリーさんしかいなかった。
あれ?
「……こちらですよ」
振り返ると、そこには眼鏡をかけている女が立っていた。
「初めまして、ルイス・スナイプと申します」
■ルイス・スナイプ(20)
種族:人間
性別:女
職業:狩人
赤いショートカットの女だ。
背が高いし、胸がデカい。だが、太っているようにまったく思えず、逆に痩せてるように思える。
手足が長い。
そして、両の腰にはホルスターがあり、そこには魔法銃が二丁おさまっていた。
「あんた……どんなマジック使ったの? 部屋の外にいたはずなのに、気づいたら後にいたけど」
俺の耳は確かに、このルイスとか言う女が、外に居たことを、足音から把握していた。
だが、次の瞬間、消えたのだ。
神の声を聞こえるほどの、性能を持つ俺の耳。
その耳が捕らえた情報によると、この女は本当に一瞬で俺の背後に飛んだのだ。
「転移系の力?」
「……なるほど、さすが、といったところでしょう」
女が少し、感心するようなニュアンスでつぶやく。
「……ですがその前に、シーフ・バーンデッド君」
「な、なに……?」
ちゃき、とルイスが眼鏡をかけ直す。
「……初めまして、でしょう?」
「……は?」
「初めて出会った目上の人に対しては、きちんとあいさつをしましょう。あいさつは円滑なコミュニケーションに必要です」
「は、はあ……」
なんだこの女?
上から命令してきて。嫌なやつ……いやまて。
彼女の音からは、俺たちへの嫌悪感を感じられない。
単に、注意してる感じがする。
ほら、前に俺らを見下していた、ええと……なんだっけ、ギルド協会の監査官がいただろ?
あいつより全然、嫌な感じしない。
「どうも。シーフ・バーンデッドです。こっちは妹の……」
「……マイ・バーンデッド君。人見知りなのはわかりますが、初めましてのあいさつは、きちんとしましょう」
マイがびくびくしながらも、ぺこっ、と頭を下げる。
おお、マイが初対面の人に対して、心を開いている!
いい人……(安易)
「マイ……バーンデッド、です。よろしく……です」
「……はい、よろしくおねがいします」
しかしこのルイスとかいう眼鏡の姉ちゃん、何者なだろう?
「先ほどの君への疑問に対しては、お答えできません。企業秘密、というものです」
「あ、そう」
「……敬語」
「あ、はい……」
「よろしい」
なんだか堅苦しい人だな。
悪い人じゃないんだけど。
「さて、では本題に入ろう。バーンデッド兄妹、君たちに国外での任務を与える」
「国外……? ゲータ・ニィガの外ってことすか?」
俺たちは生まれてからここ、ゲータ・ニィガ王国で暮らしていた。
外に出たことって一度もないな……。
「そうだ。そこでの任務を、ルイス君の引率の元、こなしてほしい」
「え? この女もついてくるの? ババディと一緒に……」
ひょいっ。
「よけんなし!」
後からマーキュリーさんが俺の頭をはたこうとしたのがわかっていたので、簡単に避けれた。
「はたくなよ。てゆーかなんでぶつの?」
「失礼なのよあんたはぁ! 女とか、ババディとかさぁ!」
切れてるけど、それは俺へのしつけであるのが、声からわかった。
一方的に考えを押しつけてくる、ムノッカスやろうとは違う。
しかたないからババディとか女って、口には出さないでやろう。
前にもなんか思ったことあったけどまあいいや。
「あ、あのその……どうして、ルイスさんが、ついてくる……んですか?」
「今回の任務は、昇級試験も兼ねてるんだ」
昇級……?
「Sランクになるための、試験の一環ってことさ」
「! じゃあ任務をこなしたらSランカーにしてくれるの!?」
やったじゃん!
「まあ今回で一発昇格ってわけにはいかないが、しかしかなり前進するだろう。少なくとも、こないだみたいに、手柄が無かった扱いになることはない」
魔蟲倒して王都を救ったとき、誰も見てなかったからという理由で、ギルド協会は俺たちの昇級を認めてもらえなかった。
でも……今回はテストなのだ。
ちゃんと俺たちの実力を、測ってくれる。
「じゃあ、ルイスさんは、試験官的な?」
「……そのとおりです。私はギルド協会監査官をしております」
「監査官って……ええと、たしか俺たちがAに上がってきたとき、いちゃもんつけてきた……ええと……なんちゃらってやつとおなじ?」
天与に入るときにからんできた男の名前だ。
思い出せないし、つか、思い出す価値もないだろあんなの。
あいつとおなじでいちゃもんつけられたらやだな……。
「ルイス君は彼と違って、公平なジャッジができる子だ」
「なんか、よく知ってる風な口ぶりっすね」
「ああ。なにせ、元うちのメンバーだからね」
と、ギルマスが言う。
へえ、天与の原石の人だったんだ。
「じゃあ、安心っすね」
「ちなみに元あたしの弟子なんだけどね」
とババディ。
「え、じゃあちょっと不安……」
「どういうことよぉ!」
この人みたいに、いちいちウルサイツッコミされたらかんわん……。
「……安心してください、シーフ・バーンデッドくん。私はマーキュリー師匠と違って、無駄な大声を出しません」
「ルイスぅ!?」
あ、なんだ良かった。
「ですが、私は無駄を嫌います」
ちゃきっ、と彼女が拳銃を手に取る。
銃から弾を抜く。
1発分だけの銃弾を、手に取る。
「今から君をテストさせてもらいます」
「は? テストってなんでだよ?」
「君がSランカー試験を受けるに値するか、テストするのです。私はそこの二人と違って、君の力を見たことがありませんので」
なるほど……試す価値があるのか、試したいらしい。
「いいぜ?」
この姉ちゃんから嫌な音がしない。
純粋に、俺の力を試したがってる。
ルイスさんは弾丸を魔法銃に込める。
リボルバータイプだ。
シリンダーを回転させる。
「弾は一発。君は銃口をこめかみに当てて引き金を引く。OK」
「ちょ、ルイス……危ないわよ……」
マーキュリーさんが心配してる。
この人うるさいけど、嫌な人じゃない。うるさいけど。
「OK。さっさとやろうぜ」
俺はルイスさんから拳銃を受け取る。
くい……とマイが俺の服を引っ張る。
「あ、あぶない……六分の一で、死んじゃう……」
シリンダーに穴は6つ。
玉は一つ。
下手したら死ぬ……が。
「大丈夫」
「! ……うん、わかったっ」
俺の耳は、きちんと捕らえてる。
「……では、引き金を引いてください」
「OK」
がちんっがちんっがちんっがちんっがちんっがちんっ。
「ちょぉ!? シーフくん!? ナンデ六回も引き金引いてるのぉおおお!? って生きてるぅううううううう!?」
マーキュリーさんが驚いてる。
一方、ルイスさんはフッ……と笑った。
「さすがですね」
「どーも」
俺は拳銃をルイスさんに返す。
「え、え、なにどういうこと!?」
「Sランカーのくせにわからなかったのかよ……?」
「こんがきゃあああああああああああああああ!」
ああもううるさいな……。
「ルイスさん、銃弾を入れるふりしてただけなんだよ。最初から弾は一発も入ってなかった」
俺の耳はちゃんと、その偽装の音を聞いていた。
し、ルイスの心音を聞いていた。
「ルイスさんは俺を試す音はしたけど、殺そうとする音はしなかった。だから玉が入ってないってわかった」
「……なるほど。いいでしょう、私は君を、試すに値する、才能の原石だと認めます」
「へへ、そりゃどうも」
玉を偽装したときのスピードは、はんぱじゃなかった。
この人もなかなかやる。
そんな実力者に認められて、うれしかった。
「そ、そうなんだ……」
「……マーキュリー師匠は少したるんでます。この程度も見抜けないなんて」
「うぐぐぐ……寄る年の瀬には敵わないのね……」
ババアだしな。
「では依頼内容の説明しましょう」
「って、あれ? マイちゃんは試さないの、ルイス?」
ルイスさんはため息をつく。
「試すまでもありません。彼女は化け物です」
「え? どういうこと?」
するとルイスさんは自分の右手に持っている銃弾を、マーキュリーさんに見せる。
「この弾丸は?」
「私が銃から抜いた玉です。つついてみてください」
「? いいけど……って!? わ、割れた!?」
ぱかん、と銃弾が真っ二つに割れたのである。
「なにこれどうなってるの!?」
「? マイがスキル鋼糸で、ルイスさんの弾丸を切ったんだよ?」
「なにぃいいいいいいいいい!?」
マイがこくんこくん、とうなずく。
もちろん兄ちゃんの耳には聞こえてました。
「私としては、この段階でマイ・バーンデッドくんをSランカーとして認めたいくらいです」
おおおおおおお!
「ただし、規則は規則です。申し訳ありませんが、試験を受けてもらいます」
「いいよ別に。な、マイ?」
うんうん、とマイがうなずく。
ま、Sになれなかったのはがっかりだけど、マイを認めてくれたからね。
やっぱりいい人だ、ルイスさん。
「マイちゃんやっぱ化け物だわ……」
「マーキュリー師匠。人に対して化け物というのは失礼ですよ」
「さ、サーセン、ルイスさん……」
どっちかっていうと、俺この人にバディになってほしかったなぁ。
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