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28.2人で強くなる



《???Side》


 バーンデッド兄妹の尽力により、王都に平和が戻った。

 その日の夜。


 王都から遠く離れた場所、妖精郷アルフヘイム、と呼ばれる大森林。

 そこには数多くの魔蟲たちが飛び交っている。


 巨大樹の枝に、マントを頭からかぶった男が座っていた。


「よしよし、おめぇさんらはよく頑張ったよ。偉い偉い」


 小柄な男が、魔蟲の頭をなでている。

 その手は魔蟲とおなじ、外殻に覆われていた。


 シーフがこの場に居たら、その外殻が、魔蟲のそれ以上に硬度を持っていたことに気づいたことだろう。


「しかし……まさか【アレ】の力が、あそこまでとはねえ……」


 男は思い返す。

 彼が召喚した、魔蟲。


 それを【アレ】が、とんでもない力を用いて、退けて見せたのだ。


「さすが……ってぇところかい。けど……けどなぁ、アレの力は、あんなもんのはずないんだけどなぁ」


 ふぅん、と男が首をかしげる。

 彼の視界には、バーンデッド【兄妹】がうつっていた。


 男の使い魔の目を通して、見ている映像である。

 男はバーンデッド兄妹のひとりに注目する。


「誰かがアレに、封印でもかけてるのかな? 暴走しないように。でなきゃ、おかしい。アレがあんなもんなわけがないもんね」


 視界が、ぶれる。

 耳の良い兄が使い魔に気づいて、潰したのだろう。


「まあいい。今回はあんなので十分だ。アレの目を覚ますのが、目的だからね」


 にんまり、と男が笑う。


 そして、口を大きく開いた。


 ぼこぉ……と彼の口から、大きな卵が生み出される。

 卵が空中で割れると、魔蟲の幼虫がでてくる。


 空中で幼虫は成長し、巨大な魔蟲へと変貌。


「今回のデータを、お父様に渡してきておくれ」


 魔蟲がうなずくと、どこかへと飛び去っていった。

 男は腕を組んで、空を見上げる。


「これは序章に過ぎない。せいぜい、力をつけるがいいさ。我が【同胞】よ。いずれ共に世界を滅ぼそう。それが、お父様の悲願だからな」


 男が実に楽しそうに笑う。

 その腕には【No.Ⅵ】と入れ墨が彫ってあった。


 果たして、彼が同胞と呼ぶのは、バーンデッド兄妹のうち……。


    ☆


《シーフSide》


 神降ろしの代償は、2週間の入院生活だった。

 俺は王都にある【セイファート王立治療院】のベッドの上に横たわっている。


「いてええ……」


 体中が、痛い。

 筋肉が特に、悲鳴を上げている。


 神降ろし。

 人間を超越した力を得ることで、超絶パワーアップする技術。


 しかし俺自身が強くなるわけじゃない。

 俺という肉体の器に、神という燃料を入れて、一気に爆発させる。

 肉体の強度は俺に依存する。


 神の力は凄いけども、それを入れている肉体が人間のモノであるため、無理に身体を動かした結果、俺は反動で大ダメージを負うのだ。


 人間の速さを超えるスピードで動いたことで、筋繊維はズタボロ。

 しばらく俺は使い物にならない。


 コンコン……。


 俺の耳は、ノック音の他に、ドア向こうに居るマイの音を捉えていた。

 ……マイさん、怒ってらっしゃる。


 お、怒らせるようなことしたかな……?

 とにかく、謝ろう。


「はいりますよ、シーフ兄さ……」

「ごめぇえええええええええええん!」


 俺はベッドの上で、開口一番、謝罪する。

 ほんとは土下座したいのだが、身体が痛くて動かないのだ。


「マイ! ごめんよぉ! なんか、怒らせちゃったみたいでさぁ! ごめんねええ!」


 マイが目を丸くしてる。

 そして……小さく息をついた。


「シーフ兄さん。どうして私が怒ってるのかわかりますか?」

「いえさっぱり……」


 こういうときは素直に謝るが一番である。

 マイはこちらにやってくると、ぷくっと頬を膨らませながら言う。


「シーフ兄さんが、ひとりで問題を解決しちゃったからです。わたしも戦うって言ったじゃないですかっ」


 ……俺がピンチのときに、マイが来て、俺を助けてくれた。

 そんときに、ふたりで戦おうって言った。


「言いました……はい……」

「兄さんは約束を破って、ひとりだけで傷付いて! わたしが……どれだけ心配したか!」


 神降ろしのあと、俺は数日の間、目を覚まさなかったらしい。

 その間ずっとマイをひとりにして、心配をかけてしまった……。


「ごめんよ、マイ」


 俺はマイの頭をなでる。

 じわ……とマイが涙をためる。


 彼女から聞こえてきたのは、さみしい気持ちの音。

 俺が目を覚ますまでの間、ずっと、彼女は孤独を感じていたのだろう。


「……死んじゃったかと思いました」

「おまえを残して、死ぬわけないだろ?」


 マイはそのことをわかっているようだ。

 彼女からは拗ねてる音が聞こえてくる。

 今は純粋に、俺に甘えたいのだろう。ずっとさみしかったろうから。


「ぎゅっとしてください」

「いやちょっと……今筋肉痛で……」


「……兄さんの嘘つき」

「ああもう! わかりましたよ! ほらおいで!」


 マイが嬉しそうに笑うと、近づいてくる。

 ベッドの隣に横たわると、俺の身体を抱きしめてくる。


 い……でええ……けど、俺は気合いで我慢した。


「痛い?」

「ぜーんぜん」


 ホントはめちゃくちゃ痛えけど、ま、そんなの二の次だ。

 妹のさみしい気持ちを、解消するほうが先決である。


「……兄さん、ひとりで、もう無茶しないでくださいね」


 ……マイは、俺がどういう力を使ったのか、理解していない。

 タダ漠然と無茶をして、敵を倒し、そして反動で動けなくなったと思ってるらしい。


「わかったよ」

「……ほんとに?」

「本当に。マイを泣かすようなことは、絶対しない。約束だ」


 ……神降ろしは、強力だ。

 しかし代償に肉体への大きなダメージを与える。


 そして何より……マイを心配させてしまう。

 だから……滅多に使わない。だからこその、【奥の手】だ。



「兄さん……わたし、もっと強くなるから。兄さんにだけに無茶させないために。わたし自身……もっともっと強くなる」


 マイが俺を抱きしめたままつぶやく。


「二人で、最強になろう。ね?」


 ……幼い日に、誓ったのだ。

 俺たち兄妹で、冒険者の高み、SS級を目指そうって。


「おう。兄ちゃんも頑張るよ。マイを、悲しませないために。マイに、追いつくように」


 神降ろしを使ったとしても、マイに追いついた気は全然しない。

 なぜなら、妹の才能は、キルマリア師匠が『天賦の才』と証するほど。


 マイは己の才能を、完全に引き出せていないだけで、俺たちの誰よりも強いのだ。


「マイ……?」

「くぅ……すぅ……」


 マイの寝息から、数日寝てないのがわかった。

 多分俺が気を失ってる間、ずっと寝ずに側に居てくれてたのだろう。


「ほんと、可愛い妹だよ……」


 そのときだった。


 コツコツコツ……と俺の病室に、彼女が近づいてくるのがわかった。

 少しだけ扉を開く。


 眼鏡をかけた魔女、マーキュリーさんが、俺たちを見て……。

 すぐに、扉を閉めた。


『……シーフくん聞こえてる?』


 マーキュリーさんが小声でつぶやく。

 俺は耳が良いので、彼女の声を十分に拾えた。


『聞こえてるものと想定して話すわね。今回の件で、ギルマスは君たち兄妹を、Sランク冒険者に昇級させる、って決めたわ』


 !

 Sランク……。

 夢に近づいた!


 だが、マーキュリーさんからは、申し訳なさを感じた。


『ただね……ギルド協会の連中が、待ったをかけてきたの。さすがに、短期間に上げすぎって。頭のお堅い連中が多くて、、嫌になっちゃうわ』


 まあ、Aランク昇級のときでさえ、いちゃもんつけられてたからな。


『それに、シーフくんがボスを討伐したところ、誰も見てないってのもあって、結局昇級話しは却下されたの。ごめんね、力及ばずで』


 ……俺は悔しいって気持ちはなかった。

 だって、マーキュリーさん、そしてギルマスは、俺の力を認めてくれていたから。


 俺は手を伸ばし、枕元においてある、通信用の魔道具を取る。


「謝らないでよ、マーキュリーさん。俺たち二人で、もっと大きなこと成し遂げて、頭の硬い連中を認めさせてやるからさ」


 ……そう。

 今回の騒動、俺だけで解決してしまった。


 でもそれじゃ意味ないのだ。

 俺だけが強いって認められることは、俺たちの本意では無い。


「俺たちが、最強だって……いずれ世界に認めさせてやるからさ」

『そう……強いのね。頑張って、バーンデッド兄妹。わたしたち、天与の原石だけは、あなたたちを認めているから。期待してるから』


 マーキュリーさんは立ち去っていく。

 隣で眠るマイの頭を、俺はなでながら、改めて決意する。


 神降ろしなんてズルを使わず、俺たち兄妹で、最強の冒険者パーティとなるのだと。


【ドゥオドゥエ、ドゥエヤイ(※無駄だよ)】


 ……俺の耳もとで、神がささやく。

 どうせまた、自分を頼るとでも、言いたげだ。


「オスン、ディイ(※失せろ)」


 神の声が聞こえなくなる。

 俺に酷いことを言われて、帰ったのではない。


 俺が消えろといったから、帰ったに過ぎない。

 神は俺の言うことを聞く。俺に力を貸す。


 けどそれは、決して善意からではないのは、承知してる。

 やつは自分の力を俺に使わせたがっている。


 だが……やつの思惑に誰が乗るか。

 俺だけが強くなっても意味が無い。俺たちで、最強になるんだ。


「マイ……がんばろうぜ」


 マイが寝息を立てることに安堵しながら、俺もまた眠りにつくのだった。

 

【★☆あとがき☆★】


本話をもって、第1章 完結となります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。



「第1章面白かった!」

「続きが早く読みたい!」

「兄妹の活躍もっともっと見たい!」


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