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26.魔蟲の群と戦う、そして、奥の手



 王都に魔蟲まちゅうの群れが襲いかかってきた。

 妹のサポートもあり、中にいる魔蟲まちゅうを倒しながら、俺は天与の原石へとむかう。


 ギルマスから指示を仰ぎ、俺たちはフェンリルのフェンの背に乗って、王都外壁の上へとやってきた。


「マーキュリーさん!」


 外壁にはマーキュリーさんが立って、騎士他の奴らに指示を出していた。


「シーフくん、マイちゃん」

「状況は……?」


「最悪ね……」


 マーキュリーさんが地図を広げる。


「王都内外に出現した魔蟲たち。都内は王国騎士とうちのハイランカーたちが協力して、都民を王城に避難させている」


 なるほど、王都民の避難は結構順調のようだ。


「問題は王都の外にいる魔蟲どもへの対処ね。都民の避難を優先してる結果、外から来る敵の対処に人員が割けないのが痛いわ。また、うちのSランカーたちが、今日に限って外に結構出ている……くそっ」


 ……この王都で最大戦力は、うち、天与の原石のSランク冒険者達だ。

 しかし彼らは強い故に、海外に出張することが多い。


 特に今日は、Sランカーたちはほぼ出払ってしまっているそうだ。


「王都にいる他ギルドの連中集めたけど、正直……心許ない状態だわ」

「どうすんの? 敵もう直ぐ近くまできてんだけど?」


「大丈夫。シーフくんの耳のおかげで、後手には回らずに済むわ。見てて」


 ブブブブブブブブブッ……!!!!!


 巨大な魔蟲どもが、群れとなって、外からこちらへと押し寄せてくる。

 あんなのが中に入ってきたら一巻の終わりだ!


「キリエ式防御結界……起動!」


 瞬間、王都上空に半透明のバリアが展開した。

 光る壁となって、魔蟲の侵入を防ぐ。


「なにこれ……?」

「結界よ。王都には、魔物から街を守る結界装置があるの」

「結界装置……」


 魔蟲たちは結界にぶつかって、墜落していってる。

 あの硬い外殻を持つ魔蟲にぶつけられても、バリアはびくともしていない。


「これなら……」

「で、でもシーフ兄さん……これじゃ……時間稼ぎにしかならない、よ」


 ……そうか。

 マイの言うとおりだ。


 確かに、結界があれば、魔蟲の侵入を防ぐことは可能。

 だがそれは、防ぐことしかできていない。


 根本的な解決のためには、魔蟲を討伐するしかない。


「城に設置されてる防衛兵器、そして、あたしらの魔法で、地道に潰してくしかないわ……準備できてるわね!?」


 外壁の上にはマーキュリーさんをはじめ魔法使いの人たちが立っている。

 また、大砲がいくつも並んでいる。


 既に準備はできている(呪文の詠唱を終えてる)。


「魔法! 大砲! 撃てぇええええ!」


 ズドドドドドドドドドドオォオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!


 爆音、轟音が鳴り響く。

 スキルをオフにしてなかったら、耳が終わっていた。


「やったかしら!?」


 だが……。


「GIROROROOOOOOOOOOOOOOOOO!」

「そ、んな……無傷……ですって……」


 魔蟲たちの外殻に、傷一つつけられていなかった。

 マーキュリーさんは、ウルサイけど、でもSランカー。


 詠唱無しに、凄い魔法を使える。

 マーキュリーさんの魔法でさえ、魔蟲を傷つけることはできなかった。


「遠隔攻撃が効かないですって……? じゃあ、直接攻撃……? 飛んでる敵にどうやって……」


 マーキュリーさんがぎりっ、と歯がみする。

 だいぶ追い詰められてるのが、音からわかった。


「シーフ兄さん」


 マイが、俺を見つめる。

 ……やるんだな。マイ。


 こくんとマイがうなずいた。


「マーキュリーさん。砲撃やめて。あいつらは、俺とマイがやる」

「………………」


 マーキュリーさんは、俺たちが街の中に出現した、魔蟲を討伐したこと聞いてる。


「……危険よ」

「大丈夫だって。フェンに乗せてもらうし」


 フェンは空を駆ける力がある。

 フェンの背にのりながら、敵を倒せば良い。


「だめよ! あなたちは、まだ子供! 子供をそんな危ない場所に、突っ込ませるわけにはいかないわ!」


 マーキュリーさんが叫ぶ。

 その声には、本気で俺たち兄妹を案じる気持ちがにじんでいた。


 ……俺にはわかるんだ。

 耳が良いから。


「あなたたちはまだ新人。傷付いてまで街を守るギリはないわ。王城に避難して……」

「やだよ」


「やだって……」

「だって、俺たちが、この街を救いたいって、思ってるんだ」


 虐げられつづけてきた、俺たちを、受け入れてくれた天与の原石。

 そのギルドのあるこの街を、俺たちは……守りたい。


 マイの大事な場所を、守りたい。



「俺らに任せて」

「………………」


 マーキュリーさんに葛藤の音がする。

 俺たちを本気で気遣ってくれている。でも、現状魔蟲を倒せるのは、俺たちだけ。


「ちゃんと帰ってくるのよ」


 マーキュリーさんが俺たちを抱きしめる。声が震えていた。

 ほんとうは俺たちを行かせたくないんだろう。

 ……無駄肉なんて、悪かったかな。


「わかってる」「いってきます!」


 俺とマイが、フェンの背中に乗る。


「いけ、フェン!」

『承知じゃ!』


 フェンがたんっ! と空を駆ける。

 凄まじいスピードで結界へと突っ込む。

「二人の道を開くわ! 颶風真空刃ゲイル・スライサー!」


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 マーキュリーさんの無詠唱魔法が炸裂する。

 暴風が魔蟲どもを蹴散らしていく。


 バリアにたむろっていた魔蟲達が散っていく。

 そこをフェンが駆け抜け、バリアの外へと出た。


『シーフくん! 後から来るわ!』


 超聴覚を切ってるのだが、マーキュリーさんの声が直ぐ近くに聞こえた。

 俺の耳に、いつの間にかイヤリングが着けられている。


『通信用の魔道具よ! 離れてても会話ができるの! ギルメンの専用アイテムよ!』


 天与の原石はこんなすげえ魔道具まで貸し出してるのか。

 ありがたい、敵の性質上、超聴覚は基本オフにせざるを得ないからな。


『後!』


 振り返ると魔蟲どもがこちらに飛んでくる。

 問題ない……!


遅延の光(レイ・ディレイ)!」


 マイが遅延デバフを使う。

 敵の動きが鈍くなる。


「フェンは空中で待機!」


 俺は雷速を起動。

 フェンの身体を蹴って、跳ぶ。


 弾丸のごときスピードで魔蟲の群れに突っ込む。

 マイの遅延デバフを受けて動きが遅くなっている。


 魔蟲の一匹の上に乗る。


『シーフくん! まずは敵の外殻を破壊しないと!』

「大丈夫! 奪命の一撃ヴォーパル・ストライク!」


 俺のナイフは、魔蟲の外殻を容易くぶち破った。

 致命の一撃を食らった魔蟲が……そのまま墜落する。


『外殻を破った!? どうして? 風化の風(ウェザリング)は使ってないでしょ!?』


「いや、使ってたよ。マイが。マーキュリーさんが、無詠唱魔法使ったときに」


 あのとき、マイはとっさに、マーキュリーさんと一緒に魔法を使ったのだ。


『そっか……あたしの魔法の風に、マイちゃんのデバフを載せたのね! デバフの付与……マイちゃん! こっち戻って! 攻撃はシーフくんに任せよう!』


 こくん、とマイがうなずく。


「フェン、マイを連れてってくれ!」


 一旦フェンがバリアの中へと戻る。

 俺は魔蟲の背中を蹴ってとび、奪命の一撃ヴォーパル・ストライクの食らわしていく。


『空歩を駆使しながら、魔蟲の背中に次から次へと飛び乗り、奪命の一撃ヴォーパル・ストライクをくらわしていく……いい手だけど……』


 マーキュリーさんの言いたいことはわかっている。

 俺の弱点。


 火力が足りないってことが、もろにでてしまっている。

 一匹一匹を確実に屠れるものの、大量に、一気に敵は倒せないでいる。


 マイはマーキュリーさんと一緒に風の魔法で俺の援護。

 俺はひたすら魔蟲を刈り続ける……。


『良い調子だけど……数が、一向に減る気配がないわ。恐らくこいつらを操ってるボスがいるはず』


「ボス……」


『ええ。でも、あの魔蟲の群れを突破しないと』


 そりゃそうだ。

 ボスは群れのリーダー。やられるわけにはいない。


 だから、一番安全な場所に居る。

 俺たちにとって、最も危険な場所に。


「…………」


 このままだとじり貧だ。

 敵のボスを速やかに排除する必要がある。


 そのためには、圧倒的な火力が必要だ。

【バエティエ スアウ ドゥンブエ ム?(わたし、出番)?】


 ……。

 その声が聞こえてくるのは、遥か空の上から……。


【ワアウクエ ディエ ウディオ?(力、いる?)】


 俺にしか聞こえぬそいつの声が、言う。

 力が要るかと。

 

 この声が聞こえるのは、俺だけ。

 この求めに応じられるのは、俺だけ。


 ……今この場で、マイを、マイが愛した街を守るれるのは、俺だけ。


「マーキュリーさん。フェンやマイ、他のみんなを外壁から避難させてくれ」

『ちょ!? 何する気なの!?』


「ちょっと……奥の手を使う」

『! 奥の手……前に言っていたやつね?』


「ああ。でもそれ、ちょっと乱暴するから、皆にも被害が出るかもしれない。だから……外壁から下りててくれ」


 この通話はマイにも聞こえてる。

 マイが、とても嫌がっているのがわかる。


 俺が危険を冒そうとするのが、わかったからだろう。


『シーフ、兄さん……』


 超聴覚を使わずとも、マイの気持ちはわかる。

 だから……俺は言うんだ。


「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」

『……わたしも、何か手伝う……』


「いや、大丈夫。俺ひとりで……ううん、俺だけじゃないと、できないんだ、これ」


 マイの付与があると、【あいつ】の力を受け取れない。


『シーフくんを信じて待ちましょう』


 ナイスだぜ、マーキュリーさん。

 妹はしばしの沈黙の後、消え入りそうな声で言う。


『……ちゃんと、かえってきて、ね』


 マイ……ごめん、ごめんよ。

 おまえに辛い気持ちにさせて。


 未熟な兄ちゃんを許して欲しい。


「すぅ……はぁ……」


 俺は、超聴覚のスキル効果を、マックスにする。

 聴覚が超鋭敏になる。


 周りの音を全部拾う。

 頭がおかしくなりそうだ。


 もっと……もっと……だ。

 聴覚をより強化する。


 そうすると、周りの音が聞こえなくなる。

 俺の耳は、常人ではありえない、高いところにある声【のみ】を拾えるようになる。


「【クイウ、ティンム、ムイ、クエトゥウ(※来い、天の神よ)】!」


 その瞬間、天より光が降り注ぐ。


 ……そう。

 俺のスキルは、超聴覚。


 耳が良くなる、ただそれだけのスキル。

 そのスキルを鍛え続けてきた結果……。


 俺は、天界に住む、神の声すら聞こえるようになった。

 神の声を、言葉を理解した俺は……。


 神と、交信し、力を借りることができるようになった。

 師匠曰く。


 この技術を、こう言うらしい。


【神降ろし】、と。

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[一言] 神かぁ、誰が来るのやら キリエ式ってことはキリエ編より後だから キリエが神として降臨したりしそう?
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