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24.妹と王都デート、そして魔物の大群くる



 ガンコジーの店で買い物をした俺たち。

 ギルドへ寄るというマーキュリーさんと別れ、俺たち兄妹は、王都の街を歩いていた。


「マイ……その新しいローブ……超似合ってるぞ!」


 妹はガンコジーから、新しいローブをもらっていたのだ。

 真っ白で、ぴっかぴかなローブだ。


「ふふふ、そうかなぁ~」

「ああ、めっちゃ似合ってる。似合ってるだけじゃない、なんかスゲえ音もする」


 魔力が付与(魔法が付与)されてる道具ってやつは、独特の音を出すのだ。


「さすが兄さん! お目が高い。これね……こうフードを被ると……」


 マイがフードをかぶる。

 すぅ……とマイの姿か消える。


「おお、透明になる魔法が付与されてるのか!」


 すすす、とマイが俺の背後に回ってるのが音でわかる。

 多分この感じは、俺をわっと驚かせようとしてるのだろう。


 ここで気づくのは、やぼってもんだ。


「わっ」

「わーびっくりしたなぁマイが突然はなしかけてくるんだもんー」


「…………」


 振り返ると、マイがそこにいる。

 フードを外していた。


「シーフ兄さん……演技下手すぎる」


 ぷぅ、とマイが頬を膨らませてる。

 くっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっそ可愛い。


「足音で気づくもんね!」

「ご、ごめん……」


「いいもん。怒ってないもん」


 うん、怒ってない。音でわかる。

 そして、拗ねてるふりして、俺に甘えてるのもわかる。 

 あ゛ー……………………心が洗われるんじゃあ。


 おっと。

 とりあえずご機嫌を取らないとな。


「お詫びに甘い物でも食べないか?」


 喫茶店があった。

 前にギルメンさんからここのパンケーキが美味いと聞いたことがある。


「うん! たべる!」


 マイは甘い物大好きっこなのだ。

 

「あ、でも結構並んでるねぇ」

「だな」


 どうやらかなりの人気店らしく、長蛇の列ができていた。

 出直そうと思ったそのときだ。


「あ! おぉうい、バーンデッドちゃんず~。こっちこっちー!」


 テラス席に、見知った顔があった。


「マーズさん」


 マーキュリーさんの(おそらく)娘さん、マーズ・ケミストさんだ。

 受付嬢をしてるカノジョが、ギルドの制服のまま、席に座っている。


 俺たちは彼女の元へ行く。


「へいへい、お姉さんとおちゃしなーい? おごちゃるよ?」

「いいのかよ?」


「もち! 遠出お疲れさんってことで!」


 ……どうやら先輩がおごってくれるらしい。

 いいひとだ。


 マイをいじめたり怒鳴ったりしないのがいい。


「じゃ、マイ。座ろうか」


 こくこく、とマイがうなずく。

 俺がマーズさんの前に座る。


 マイは隣にぴったりくっついて座る。

  

 ほどなくして。


「ふぁ~~~~~~~♡ ふわっふわ! シーフ兄さん! すごいよ、スポンジケーキみたいに、ふわっふわだよぉう、このパンケーキぃ!」


 テーブルの上には、マイの大好物パンケーキが載っている。

 あれって薄っぺらいのが普通だと思っていたのだが。


 マイの言うとおり、ふわふわとしたパンケーキがあった。


「王都には最先端がそろってるからね~」

「これが……おやつの最先端! ほわわ~♡」


 兄ちゃんもマイが喜ぶ姿に、にっこりですわ。

 パンケーキを一口食べて、マイがうれしそうな声を上げる。


 その後、マイがフォークで一口パンケーキを取り……。


「兄さんっ!」

「ん? おお、あーん」


 マイにパンケーキを食べさせてもらう。

 ……正直、あまいのは苦手なんだ。


「どう?」

「うんめー! ちょー美味いな!」


 まあ、嘘ではない。

 苦手ではあるんだけど。このパンケーキは甘さ控えめでおいしかった。


 マイはどぼどぼとメイプルシロップをかけてしまったが……。


「二人ともお買い物?」

「ああ。ガンコジーんとこで」


「ほえー……。あの頑固ジジイ。モノ売ってくれたんだ。凄い職人でさ、彼の作る武器防具はすごいレアで、皆買いたがるけど、手に入らないんだぁ」


 そういや、確かに俺たちが行ったときも、あのじーさん客を追い出していたな。

「故郷の人間でもないのに、気に入られるなんて。すごいね」

「マイがね」


 マイは凄いんだよ。

 凄腕職人は、そこがわかってんだよなぁ。


「あれ、シーフくんのブーツも変わってる?」

「ああ。マイのおまけでもらった。古竜の皮と、神威鉄オリハルコンの金具を使ったブーツだって」



■古竜ブーツ

→先端に神威鉄オリハルコンが装着されてるため、蹴りのダメージがプラス補正。

 また、足音を殺す魔法が付与されている。


「買ったんじゃなくてもらったの!? よっぽどあの職人に気に入られたんだね。うわ、すごーい」

「マイがね」


 ローブもブーツも、じーさんが俺たち……というより、マイのために作ってくれた気がする。


「そかそか。どう? 王都。気に入ってくれた? 二人とも?」


 気に入ったか……か。

 正直ここに来て、そんなに日が経っていない。


 けど……。


「ま、悪くないね。天与のメンバーさんたちは、皆マイに優しいし。パンケーキは美味いし。マーキュリーさんは……ちょっとウルサイけど、マイに優しいし」


「全部マイちゃん基準なんだ……」


「当たり前じゃん」


 するとマーズさんが苦笑してる。

 

「ほんと、妹大好きなのねえ~」

「もちろん。俺の宝物だよ」


 マイが嬉しそうに、ふにゃーっと笑う。

 ぽんぽんと頭をなでると、とろけたような笑みを浮かべる。


 ああ……平和だ。

 王都の街のひとたちも、店の人たちも、みんな笑顔である。


「兄さん兄さん」

「ん?」


「わたし……ここ、来て良かった。ここ……皆温かくて、優しくて……好き」

「マイ……」


 マイは本当に、王都が好きになっているようだ。

 ……そりゃそうか。


 今まで家族以外で、マイに優しくしてくれる人は居なかったもんな。

 天与の人たち、そして王都の人たちは、皆いい人ばっかりだ。


 マイが気に入るのもうなずける。


「兄さんは……?」


 言うまでも無いさ。


「俺も好きだよ」


 マイが気に入り、マイを愛してくれる人たちがいる。

 この街は……本当に良い街だと思う。


「そかー、気に入ったかぁ! にゃっはは! うれしいよ! よーうし、どうだいお姉さんと今日、ディナーでも? 美味しいレストランが……」


 ……そのときだった。

 !?


「ば、馬鹿な!?」

「ど、どうしたのシーフくん……?」


 ……今、あり得ない音がした。


 ヤバい……どうしよう。


「兄さん? 何かあったんだね?」


 以心伝心なマイは、俺が異常事態に気づいたことに、気づいたようだ。


「……ああ。マーズさん、まずい。王都の外に……大量のモンスターが現れた」

「!? え、え!? ど、どういうこと!? 森から下りてきたの……?」


「わからない。草原に、本当に突然現れたんだ」


 そうとしか言いようがなかった。

 マーズさんは戸惑いながらも、うなずく。


「わかった! とりあえずギルドに戻ろう!」


 マーズさんが支払いをしようとする……。


 ドガァアアアアアアアアアアン!


「んなっ!?」


 またも、異常事態だ。

 王都の中で爆発が起きたのである。


 それも事故じゃない。

 誰かが王都で爆発を起こしたのだ。


「に、兄さん……! あ、あれ……」


「……嘘だろ」


 建物の中に、既に魔物がいたのだ。

 こいつらも前触れもなく現れやがった……!


 街の外、そして中に、突如として現れた大量のモンスター。

 そのことをマーズさんに伝える。


「ど、どうしよう……今、天与の上級者の人たち、出張でほとんど出払ってるのに……」


 天与の原石には、多くの実力者たちが所属してる。

 だが、このギルドは少数精鋭であり、なおかつ、海外への出張が多い。


「シーフ兄さん……」


 こんな時、いつものマイなら、怯えて俺の陰に隠れていた。

 いつもの俺なら、そんなマイと一緒に、危険な場所から逃げていた。


 でも。


 今のマイからは、強い決意の音がする。

「わかった。俺たちで、あのモンスター、やっつけるぞ」


 ……しかしこの数。

 俺たちだけでは……。


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