21.捕まってる人たちも盗品も超余裕で見つけ出す
奈落の森を根城にしてた、盗賊団のリーダーを捕獲した。
これで後は帰るだけ……と思っていたのだが。
「ほら、吐きなさい。あんたらが攫っていった人たち、盗んだものの場所を!」
マーキュリーさんが盗賊団リーダー、人狼シュンサツを問い詰める。
こいつら人攫ってやがったのか。
あと盗品も隠してるのか。なるほどな。
ま、俺には関係ない。俺のタスクは、盗賊団の壊滅だしな。
「け、誰が言うもんかよババア!」
「この……!」
殴りかかろうとしたマーキュリーさんの腕を、マイがひっぱって止める。
「大丈夫です! シーフ兄さんがいれば、なんとかなります!」
「シーフ君が……あ、そっか。彼耳がよかったもんね」
「はい! シーフ兄さんなら、隠されてる人たちも、盗品の場所も、わかります!」
ああマイぃ~。
そんな、期待のこもった声で言わないでおくれ。
俺なら大丈夫と、全幅の信頼を寄せられちゃ……。
「ああ、兄ちゃんに任せてとけ! 隠してあるものを見つけ出すのは、盗賊の職業の専売特許だからよぉ!」
じとー、とマーキュリーさんが俺を見てくる。
「……あんた、さっさと帰ろうとしなかった?」
さすがババディ、目ざとい。
「マイに頼まれちゃ、断れないよなぁ、断れねえよ」
「……マイちゃんがいてほんとよかったわ」
だろ?
ってことで、俺はこのアジトに隠されてるだろう、捕虜と盗品を探し出すことにした。
「つっても、まあ、前者の居場所はもうあたりをつけてるけどね」
俺は超聴覚を発動。
聴覚を強化して、周辺の音を拾う。
人間は生きてるだけで色んな音を発する。
心音、呼吸音。
俺からすれば、生きものほど、探し出すのに容易いものはない。
アジトのなかは迷路みたいになっていた。
が、人間の音がするほうへと向かっていくと……。
「スペル様!」「たすかったぁ!」
どうやらデッドエンドの領民らしきやつらが、地下牢に閉じ込められていた。
皆、辺境伯の娘であるスペルの登場に喜んでいた。
「あ、鍵がかかってますの……」
「ちょっとシュンサツ、鍵出しなさいよ」
鋼糸で拘束されている、シュンサツ。
縛った人はフェンが口にくわえていた。
「ふん! 誰がカギをわたすもんか!」
言葉の端々から、こいつらが組織で活動してるのが伝わってきた。
多分だが、こいつらの仲間が、後日盗品や捕虜を回収しに来るのだろう。
ま、そんなことさせないけど。
「カギなんていらないよ」
「ふん! ピッキングか? 馬鹿め! ピッキングした瞬間、中のやつらが焼け死ぬトラップが仕掛けられて……」
俺は奪命を発動。
死に至る点が、視界に映る。
地下牢の鍵穴にも致死点が存在してる。
そこを、ダガーで乱暴に突く。
がっちゃん!
「開いたよ」
「なにぃいいいいいいいいいいい!?」
……シュンサツの野郎も、ババディ同様に声がでかかった。
くそうるせえな。
「ば、馬鹿な!? おまえ、どうやって開けたんだ!? ピッキングは通用しないし、無理やりこじ開けようとしたらトラップが発動したんだぞ!?」
「カギを殺した」
「カギを殺す!? 何を言ってるんだ!?」
まあ別にいいか、こいつもう捕まるし。
周りにお仲間もいないようだし。
「俺のスキル、奪命は、万物の死に至る弱点を、見ることが出来るスキルだ。万物とは生き物だけじゃない、こういう鍵みたいな非生物もだ。そこをつけば、機能停止する」
そっか、とマーキュリーさんが感心したような声で言う。
「あくまで機能停止であって、壊すわけじゃない。だから、トラップが発動しなかったのね」
「そーゆーこと。なんだ、今日はうるさくないじゃん」
いつもは怒鳴り散らしながら突っ込むくせに。
「機能停止と壊すの違いがわからん!? なんだそれは!?」
マーキュリーさんがうるさくない代わりに、こいつがうるさいな。
「そんなのもわからないなんて、馬鹿なの?」
「じゃあガキてめえが説明してみろよあぁあ!?」
「馬鹿に説明する義理はないね」
「んだとぉおお!?」
鍵自体をぶっ壊すのではなく、鍵の機能のみを停止させるのだ。
だから、トラップ発動しなかったのである。
そんなこんなで、地下牢に閉じ込められていた人たちは、全員回収。
「ありがとうございますですの、シーフ様! なんとお礼を申し上げいいか」
スペルが頭をさげ、本当に感謝してる声で言う。
別にこいつのためにやったわけじゃない。
妹に頼まれてだ、とは言わなかった。
「シーフ兄さん……かっこいい!」
俺の天使がこんな風にほめてくれてるからな!
ふふ……そうか、兄ちゃんは、かっこいいか!
人助けも悪くないなぁ。
まあ、マイに頼まれなきゃ絶対やらんが。
「マイちゃんって何気にいい仕事してるわよね」
だろ?
「あとは盗品の回収か」
盗品も、他の仲間に回収させるつもりなのか、当然のごとく隠してある。
「は、はっはー! がきぃ! てめえがいくら耳がよくってもよぉ! 生き物じゃない盗品を見つけ出すのは不可能だぜ! なにせ、呼吸してないしぃ、心臓も動いてないからなぁ!」
はぁ、やれやれ。
「で?」
「で、で? ってなんだよ……」
「盗品が生きてないなんて、誰だってわかるだろそんなの。だから、で? なに?」
「な、なんだよ……じゃあてめえは、音だけで、盗品が見つけられるとでもいうのかよぉ!」
俺はちら、とマイを見る。
「大丈夫ですの……?」
「大丈夫ですよ、スぺちゃん! シーフ兄さんなら、絶対見つけてくれますから!」
マイの信頼からしか摂取できない成分が、絶対あるぅ。
ふぅ。
俺はダガーを手に取る。
「シーフ君なにするの? ダガーなんて手に持って」
「あれ? あんたも何するのかわからないの? Sランカーなのに?」
「ぐぬ! Sランカーでも、超聴覚でこんなイカレタことする人、君以外いないから!」
あれ、そうなんだ。
超聴覚って便利なんだけどね。
「で、どうやって見つけるの、盗品?」
「やり方は一緒だよ。音を聞く」
「音? なんの?」
俺は手に持ったダガーで、強めに、壁を殴る。
カァアアアアアアアアアン……!
しばらく待つ。
超聴覚は、【それ】の音を聞いた。
「見つけた。こっち」
俺たちはぞろぞろと移動する。
「ふ、ふん! ハッタリだぁ! 絶対見つけられるわけがない!」
目の前には壁しかなかった。
「壁ですの?」
「幻術だよ。この向こうにある。だろ?」
俺はシュンサツを見やる。
どきん! とやつの心臓が激しくなった。はい、図星。
「し、知らねえ!」
「あんた、馬鹿だね。俺耳いいんだから、あんたが嘘ついてるかどうかなんて、心音聞けば一発だっての」
俺は壁に手を置く。
するっ、と中に入れた。
みんなが壁の向こう側へとやってくる。
そこには、盗んだ宝物がたくさん置いてあった。
「盗品があったですの! すごいですの!」
「そんな馬鹿なぁああああああああ!?」
馬鹿はこいつだ。
マーキュリーさんが感心したように言う。
「すごいわね……はったり?」
シュンサツに鎌かけして、嘘かどうかを心音で確かめて、場所を特定したか?(ヤマカンで見つけたのか)って言いたいらしい。
「まさか。ちゃんとここって特定できてたよ」
「どうやって?」
「音を聞いたんだ。金属のね」
財宝のなかには、金銀だけじゃない、高そうな武器・防具もある。それらには金属が当然使われてる。
「金属の音? どういうことですの? 金属は音なんて発しませんわ」
「そりゃ金属が自分から音なんて出さないよ。このダガーで音を出すんだ」
かぁん! と俺がダガーで壁を殴る。
するとその振動が空気を伝わり、金属を震わせる。
「! そうか、共鳴ね。金属の発する音波が、別の金属に当たると、音波を発する。それシーフ君が聞いて、場所を特定したわけね!」
現象の名前については知らなかったが、原理はまあそんな感じだ。
「シーフ君よくそんなこと知ってたね」
「師匠から教わったから」
キルマリア師匠が教えることは、基本テキトーだが、こうして役に立つことも多い。
「なるほど、大賢者様なら知っててもおかしくはないわね。さすがだわ、シーフ君」
ま、これ知ってた師匠がすごいってだけだけどね。
「シーフ兄さん、すごいです!」
「そぉかぁ!? わははは! そうか兄ちゃんはすごいか!」
「うん!」
師匠にならっててよかったぁ!
「あたしとの差はなに……?」
妹かそうじゃないかの違い。
「くそ……なんだよ! なんでだよぉ!」
馬鹿シュンサツが嘆きの声を上げる。
「おまえ! こんなすごい盗賊の職業もってくるせに、なに正義の味方ぶってんだよ!?」
急になんだこいつ……?
「それだけ卓越した盗賊の職業持ちなら! おれらと同じく、盗みすりゃ、大儲けできるだろうに! 冒険者なんてやらずに、盗賊を、悪事を働けばいいのによぉ!」
……嫌なこと聞いてくる。
「ふざけないで、ください!」
マイが、俺をかばう。
「優しい、シーフ兄さんと……あなたのような悪人を、一緒にしないでください!」
……マイは、人見知りだ。
基本知らないやつとは話せない。相手がいかつい盗賊ならなおさらだ。
でも、マイは今、俺のために怒ってくれていた。
……それがもう、泣きたくなるくらい、うれしかった。
「職業が盗賊だからって、盗賊をやる必要なんてどこにもないわよ」
マーキュリーさんもマイ同様に、怒っていた。
「彼はまあちょっとシスコンでアレだけど、でも悪い奴じゃないわ。安易に悪事に手を染めるあんたとは、格が違うのよ」
「ババディ……」
「ババディ? なにそれ」
「ババア+バディ……」
「うぉい! ひどい暴言ね!?」
反省しよう。
ババディなんてもう思わない。いい人じゃん普通に……。
スペルはシュンサツを見下ろしながら言う。
「あなたを騎士に突き出します。お仲間も全員。牢屋で反省することですね」
「ち、くしょぉ~……」
スペルが俺たちに、深々と頭を下げる。
「本当にお世話になりました。あなた様のおかげで、我が領地は救われました」
「ま、妹に感謝するんだな」
こうして、盗賊騒動は完全に終結したのだった。
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