18.盗賊のアジトを秒で発見する
マーキュリーさんの故郷、デッドエンド領へとやってきた俺たち。
道中で辺境伯の娘、スペル・D・キャスターなる少女を助けた。
「つまり……! シーフ様の多才なスキルは、マイ様のスキル付与によるもの……だと!?」
馬車の中。
スペルは目を輝かせながら言う。(ちなみにおいてきたはずなのに着いてきたのは、俺たちが立ち去る前にフェンの背中に飛び乗ったからだそうだ)
■スペル・D・キャスター(13)
種族:人間
性別:女
職業:辺境領主
くすんだ金髪。
黒い目。質素なドレスに身を包んだ女だ。
目をキラキラさせながら、マイと会話していた。
「あ、はい……その……」
「凄いですのマイ様! スキル付与は理論上不可能とされてる、超ウルトラ高等テクですの! それを可能とするなんて……あなた様はとても優秀な付与術師ですの!」
……! こ、こいつ……。
わかってやがる!
そうそう、マイが凄い優秀なんだって!
それを見抜いてるとはこやつ……できる!
良いやつ認定してやろう。
「盗賊を一瞬で無力化したシーフ様も素晴らしい腕前でしたの!」
「そ、そうなんですっ。シーフ兄さんは……すごいんです!」
きゃっきゃ、と二人が仲良くして……あああ!
「シーフくん、どうしたの、目を押さえて……」
「推しに友達ができて……尊いなって……」
「ああそう……さすがシスコンね……」
ややあって。
俺たちの馬車は、森の入口へと向かう。
「申し遅れました。わたくしはスペル・D・キャスター。辺境伯の娘にして、ミネルヴァという街の領主を任されております」
どうやらデッドエンド領っていうのは、かなりデカい領地であるらしい。
街もいくつもあるんだそうだ。
このスペルって女は、そのうちの一つの街の統治を任されてるんだと。
「す、すごいです……スペルちゃん……」
「マイ様、どうかわたくしのことは【スペ】とお呼びください」
「う、うん……じゃあ、わたしのことも、マイちゃん……って、言って欲しい……なぁ……」
「わかりました、マイちゃん!」
「スペちゃん!」
……俺は天を仰いだ。
そして手で顔を覆う。頬を伝う涙……。
「どうしたの、シーフくん?」
「……マイに同世代の女友達ができた。もう俺は……ここで終わってもいい……」
「終わるな……」
元々はマイの杖の素材を取りにきたのだが、そんなことよりも、マイに友達ができたことの方が重要だった。
俺たちはスペル……スペに事情を説明する。
「なるほど、お二人は冒険者。で、マーキュリーはバディを努めてらっしゃるのですね」
スペとマーキュリーさんは既知の間柄らしい。
まあマーキュリーさん、デッドエンド出身って言っていたもんな。
「我が領地には何のご用ですの?」
「神威鉄が欲しくてな。マイの杖のために」
「なるほどですの……。喜んでご提供したいですの……といいたいのですが、今ちょっと領内がゴタゴタしてるのですの」
スペの声音から、結構大きめの問題を抱え、それに苦慮してることがわかった。
めんどくさ。
俺はただ神威鉄がゲットできれば……イヤ待て。
スペはマイの友達だ。
つまり、ここで俺はかんけーねー、とか言ってしまったら、マイの友達じゃなくなってしまうかもしれない!
「俺たちが、力を貸すぜ」
「シーフ兄さん!」「シーフ様っ」「……シーフくん?」
マイとスペからは、俺への感心が。
マーキュリーさんからは、疑いの音が聞こえてきた。
「シスコンの君が進んで人助けなんて、珍しいわね」
「スペはマイの友達だからな。友達が困っていたら助ける。当たり前だ」
助けなくて友達が消えてしまったら、マイが悲しむからな。
「ふーん……君にも人の心ってあったのね」
失礼だなこのババディ(※ババアバディの略)。
「さしあたっての問題は、奈落の森内にあるであろう、盗賊のアジト、ですわ」
「奈落の森……?」
こくん、とうなずいてスペが答える。
「デッドエンド領内に広がる、大きな森のことですわ。最近、この森のどこかに、盗賊がアジトを作ってますの」
そういやさっきも盗賊がいたな。
スペはアジトを探していたから、あの辺をうろついていた訳か。
「手がかりはないのか?」
「はい……森に入ると、盗賊達は姿を消してしまうのです。なんらかの魔法か、魔道具を使ってるのかなと……」
領地内にも自警団くらいあるだろう。
それでも見つけられないってことは、盗賊のほうが一枚上手ってことだ。
なんらかのズルをしてるんだろう。
「ま、俺にはそんなの効かないけどな」
馬車は奈落の森の入口までやってきた。
俺たちは一度馬車を降りる。
「超聴覚、超過駆動」
「ちょうかくどう……?」
俺は目を閉じて、スキル効果を向上させる。
聴覚以外の五感をシャットアウトして、耳にだけ集中。
……よし。
「見つけたぞ」
「もう!?」
「ああ。スペ、地図あるか?」
スペから地図を借りる。
「ちょうど、森の中腹のあたりに、アジトがあった」
「あったって……見てきたように言うけど、どうやってわかったの?」
「スキルを超過駆動させたんだよ」
「?????」
「パッシブスキルは鍛えると、その効果を強めたり弱めたりできるんだよ。Sランカーのくせにそんなのもしらないの?」
「知らないっていうか……! 君のやってることがまず! 一般には出回ってないやつだから! キルマリア様しかしらないやつだから!」
たとえばこのババアがキレてるとき、俺は聴覚をわざと弱体化させる。
そうしないと、耳が壊れてしまうからな。
スキルを鍛えたことで、この強化、弱体のオンオフを自在に扱えるようになった。
「凄いです……シーフ様。パッシブスキルである超聴覚を、そんな風に自在に扱えるなんて! やはり、勇者様ですの!」
まあ別にスペに喜ばれても……。
まあでも! そのことでマイが俺に「さすが兄さんっ」と感心してくれたから嬉しかったね!
「場所は特定した。とりあえずそこまで移動しよう」
『では、われが先を歩こう』
のそ……と神狼のフェンが前に出る。
「なんでだよ?」
『われが歩けば雑魚魔物は近寄ってこんのじゃ』
「なるほどな。頼むぞペット」
『うむ! 了解じゃ我が主!』
のそのそとフェンが前を歩く。
「神狼を従魔にするなんて! 信じられません……お兄様は本当に凄いお方ですの!」
「うんうん! そうなのスペちゃん! 兄さんはね、すごいの!」
ああ……マイ……。
俺をもっと褒めてくれ……。イヤ別に褒めらたいがために頑張ってるわけじゃないけど。
でもマイに褒められると……満たされるのだ。心が……。
「変な兄妹ね……ほんっと……」
ババディがため息をつく。
ややあって。
俺たちは聴き取った、盗賊のアジトまでやってきた。
フェンのおかげで、雑魚魔物が絡んでこなかったな。
「アジトなんてどこにもないわね」
マーキュリーさんが周囲を見渡す。
大樹が一本あるくらいだ。
マーキュリーさんは俺を見つめてくる。
「どこかに入口があるの?」
……地味に、嬉しかった。
この人の声からは、俺を疑う音はしなかった。
俺が嘘を言ってるとか、俺の能力を疑ってる感じは、しなかった。
……ババアって呼ぶのはやめておこう。あれ? なんか前にもこんなこと言ったような。
「ちょっと待ってて」
俺は耳を澄ます。
ゴォオオオオオ…………。
「ここだ。ここに入口がある」
木の根元を指さす、俺。
「どうしてわかったの?」
「風が入っていく音が聞こえたんだよ」
「なるほど……さすがねシーフくん」
「超聴覚をこんな風に使うかたがいるなんて! 凄いです!」
女二人が俺を褒める。まあどうも。
「兄さん……!」
アアアアマイが俺を褒めるぅううう! おおおおおお! うれすぃいいい!
「アタシらの時とリアクション違いすぎない……?」
「さ、入るぞ」
木の根元に手をやる。
ずぶ……と俺は中に入れた。
「なるほど、入口を幻術で偽装してるのね」
マーキュリーさんたちが続く。
木の根元には大きな空洞があった。
そして、通路が奥へと続いていく。
「さ……行くわ……」
「待った。俺が先行する」
「? ああ、罠の可能性ね。さすが盗賊」
盗賊の職業の、本来の仕事は、戦闘では無くこういったダンジョン探索の時の斥候役だ。
「そういや、シーフくん盗賊としての活躍って見たことないわ。どんな感じなの……?」
「まあ、音を聞くんだよ」
「音?」
俺は地面に耳を当てる。
すると、地面を伝わる振動や、地下水の流れる音が聞こえてくる。
「地中から伝わる音を拾い集めことで、トラップがどこにあるかがわかる」
「へえ……すご。この辺のトラップってどこ?」
「マーキュリーさんが踏んでる」
「えええええええええええ!?」
このババディ、ほんとにSランカーなのかな……?
こんな簡単にトラップを踏んづけちゃなんて。
「ど、どんなとラップなの!?」
「油の音がした。多分熱系のトラップだよ。マーキュリーさん、そっから動いたら、火傷で死ぬね」
火炎放射か、油ぶっかけられるかどっちかだろう。
「な、なんとかして!」
「わかった。動かないでくれよ」
俺はダガーを取り出す。
「こういうときって、重しとなる岩を素早くのっけて、足をどける……のがセオリーよね」
そこはSランカー、知識はきちんとあるようだ。
「普通はそうです。でも……ここからが、シーフ兄さんなんです!」
マイがワクワクしながら言う。
ふふ……兄ちゃん頑張っちゃうぞ。
俺はダガーを手に取って……。
「奪命」
俺の視界には、死に至る点がいくつも見える。
マーキュリーさんの足下にある点を、ダガーで突く。
ぱきぃん!
「おっけー。これで罠が壊れたよ」
「え? ほ、ほんと……?」
「ああ。足どけてみてよ。死なないから」
マーキュリーさんは……。
ちょっと驚くことに、迷いの音が聞こえなかった。
すっ……とマーキュリーさんが足をどける。
「ほ、ほんとだ! すご……! ど、どうなってるの……?」
……意外と俺のこと、信頼してくれてるんだな。ババディ……いや、マーキュリーさん。
「奪命を使ったんだ。死に至る弱点は、何も人間だけじゃない。物にも存在するんだ」
「なるほど……トラップの弱点をスキルで見極めて、壊すことで解除したのね」
マーキュリーさんが笑って、俺の頭をなでる。
「すごいじゃない。君、強いだけじゃ無くて、盗賊としても有能なのね。こんな風にトラップを外す盗賊なんて、聞いたことないよ」
……ババディに、褒められてもな。
ふん。
……まあ、ちょっとは嬉しいけど。
「先へ進もうぜ。中にアホ盗賊どもが、うじゃうじゃしてやがる」
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「あに盗賊としても有能ですげぇ!」
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