15.世界最強の魔女を圧倒する
月面にて、俺はキルマリア師匠に、どれくらい強くなったのか稽古してもらえることになった。
師匠との直接手合わせは随分と久しぶりだ。
大鬼丸、牛頭包丁を構えて、腰を落とす。
「じゃ、偽マイちゃんにご登場願おうかしらね」
ぱちんっ、と師匠が指を鳴らす。
俺の背後に、マイが出現した。
「マイちゃん!? ど、どうなってるのこれ……?」
マーキュリーさんがびっくりしてる。
確かに本物そっくりに見える。が。俺にはわかる。
こいつは、マイではないと。
「偽物よ。魂のない器。でも付与はできるから安心して♡」
「いやいやいや……! 魂がないのに、どうやって魔法使うんですか!?」
「ん~……めんどい♡」
説明を省きやがった。
相変わらずテキトーな女だ。
「さ、いらっしゃい。私はこれでお相手するわ」
「!? 牛頭包丁!? シーフくんの武器……どうして……?」
にこっ、とキルマリア師匠が笑う。
「めんどい♡」
マーキュリーさんが疲れ切った表情で言う。
「シーフくん……よくわかったよ。君が、中途半端な知識しか無い理由が」
「でしょ?」
あの人重要なことはほぼ説明しないのだ。
見て覚えろ、痛みで覚えろみたいなタイプの師匠なのである。
「さ、おいで♡」
師匠が牛頭包丁を手に構える。
あの人は魔法使いだが、戦闘もかなりできる方だ。
手始めに……。
「水刃!」
偽マイが俺に、スキルを付与してくる。
「へえ、サハギンから習得したスキルね」
師匠は、俺が地上で覚えたスキルを知らないはず。
だが見ただけでそれが何か理解したようだ。
高速で飛ぶ水の刃を、しかし、師匠は……。
パシッ……!
「この程度で私を殺せると思ってるの?」
「!? き、キルマリア様……水刃を受け止めてる! しかも……正面からじゃなくて、裏から摘まんでる!?」
腕を伸ばし、間合いに入った水刃を、後から摘まんでとめたのだ。
相手の攻撃を、完璧に見切っていないとできない芸当である。
「終わり?」
「まさか。見せてやるよ、新しい力をな!」
俺が使おうとするスキルを、偽マイが付与する。
……だが、ああ、くそ。
「すぅう……」
スキルが発動。
俺は思いきり息を吸い込み……。
「ーーーーーーーーーーー!!!!!」
びりびり……! と空気が鳴動する。
「こ、これは……獣咆哮!?」
■獣咆哮(S)
→大音量の咆哮で、相手を一時的に行動不能にするスキル。
「大鬼から習得したのね……? ってか、耳の良いシーフくんが使ったら自爆するんじゃ……」
マーキュリーさんがつぶやく。
だが、そんなの俺は承知してる。
師匠が獣咆哮を食らって動けない隙を突いて、俺は特攻。
「シーフ動けるてる!? そうか……超聴覚をオフに! パッシブをオフにするなんて神業ができる、シーフくんにしかできないスキルの併用! すご……」
俺は師匠の間合いに入る。
動けないでいる今がチャンス!
「突撃!」
ああ、くそったれ。
遅いんだよ!
黒猪から習得したスキル、突撃を発動。
■突撃(B)
→体を一時的に硬質化し、相手にもの凄い勢いで体当たりをお見舞いする。
ドンッ! と俺は師匠に強烈な一撃を与える。
師匠は空中に吹っ飛ぶ……はずだった。
「いいコンボね♡」
「なっ!? 獣咆哮を受けて動けてるですってぇ!?」
師匠は俺の背後に立っていた。
ナイフを振るってきたので、俺はそれをギリで回避。
バックステップで距離を取る。
ああもおぉ!
「マーキュリーちゃんは何驚いてるの?」
「だ、だって……獣咆哮は、Sランクのスキルです。まともに受ければ、古竜ですら1分は硬直するし……三半規管がいかれて、数分間はまともに動けないはず」
でも、師匠は俺の攻撃を完璧に見切って、普通に回避していた。
「い、一体どうやって……?」
「めんど♡」
「ああああああああ! この師にしてこの弟子ありだなぁああああああ!」
師匠は初見の新ワザを食らっても、普通に対処できている。
それくらいに、凄い人なのだ。
が……。
「てめえ師匠……」
俺は師匠に、文句を言いたかった。
なぜなら、この偽マイ、マイ本人よりも全然付与が遅いのだ。
……だが、文句を言おうとして、やめる。
俺のふがいなさを、妹のせいにしたくなかった。
俺が弱いのは俺の責任だ。
マイは……凄いんだ。天才なんだ。
「どうしたの? 何かクレームでも?」
「……いや、いいわけはしない。俺は……今ある手札で、【今の】あんたに勝つ!」
それに、もう準備は整っている。
「おいで、可愛い弟子♡」
「いや、あんたが来い」
ぐいっ、と俺は大鬼丸を手前に引く。
すると……師匠が何かにひっぱられるように、前にぐんっ! と飛ぶ。
「!?」
師匠が目を剥きながら、こちらに飛んでくる。
「これは……粘糸ね」
「ああ! あんたに突撃したときに、着けさせてもらった!」
こっちへ引き寄せられる師匠。
一方、俺は別のスキルを発動。
「スキル、疾風!」
俺が欲しいと思ったときには、マイはスキルを付与し終えている。
偽マイは、俺が欲しいと思ったと同時に付与してくる。
付与が一瞬遅れる。
だが、今師匠の態勢はくずれ、意表を突いている状態だ。
対応が遅れる。
引き寄せられる師匠に対して、俺は疾風(武器に速度をプラスするスキル)で、一撃を放つ。
「奪命の一撃!」
「ちょ!? それって……死ぬやつじゃん!!!!!!」
俺の一撃が、師匠の致死の点を着く。
超高速のカウンターだ。
師匠は避けることができず、致死点に一撃を食らう。
ガフッ……と彼女は血を口から吐いた。
「……強くなったね、さすが……私のかわいい……弟子……♡」
がくんっ、と師匠がその場に崩れ落ちる。
俺はナイフを抜いた。
「ちょ、ちょっと! ちょっと! 何殺してるのよぉシーフくん!」
マーキュリーさんが慌ててこちらにやってくる。
本気で慌ててる声だった。
師匠が死んじゃった、と思ってるようだ。
「あんたの恩人なんでしょ!? それを殺すなんて! 酷い!」
「そうだーひどいぞー♡」
「ね! キルマリア様もそうおも……えええええええええええええええええええええええ!?」
マーキュリーさんの隣には、師匠がもうひとりいた。
「き、キルマリア様!? なんで!? 今……シーフくんに殺されたんじゃ!?」
「うん。殺されたよ♡ やー、わが弟子はすごいなぁ~♡ これでも、神域の八賢者のひとりなんだよ私? それを倒せるようになるなんてねぇ。立派になったもんだ♡ ちゅーしちゃおう♡」
師匠が消えると、俺の背後に抱きついてきて、頬にキスをしてくる。
ウザい。非常にウザい。
「いやいや! え、なに? そこの死体は……偽物!?」
「偽物っていうか、分体」
「分体……?」
「私今ちょっと事情があって、肉体は別の場所にあるの。で、そこのそれは、分体。つまり、魔法で作ったデコイよ」
「デコイ……偽物ってこと?」
ぽんっ、と俺が殺したキルマリア師匠の遺体が……。
1つの、酒瓶へと変わる。
「これって……シーフくんが持ってきたお酒の瓶?」
「そう♡ そこに私が命を吹き込んで、分体を作ったの。魔力を帯びてないうえ、思考の伝達にラグが生じるし、肉体の強度は器に比例するから、本体よりかなり弱体化しちゃうんだけどね」
「………………魔法のレベルが、もう違いすぎて……」
へにゃあ……とマーキュリーさんがその場にへたり込む。
「あら? どうしたのマーキュリーちゃん?」
「……シーフくんが、恩人殺しするような子じゃなくて、良かったぁって……」
……心から、この人は安堵してる声が聞こえてきた。
……優しい人だ。
「良かったね、坊や♡ 優しい人に出会えて」
「……ああ」
今まで俺を本気で怒ったり、叱ったりする人は、マイしかいなかった。
だから……なんというか、まあ、その……あれだ。
もう、ババアって言うのはやめよう。
「悪い、マーキュリーさん。心配かけて。最初からこの人が、分体なのわかってたんだ。だから本気でやった。……その、説明して無くて、ごめん」
マーキュリーさんが目を剥いている。
「き、君も……謝れるのね」
「俺を何だと……?」
「失礼なクソガキ」
「……うるせえババア」
「なにぃい!? ババアだとぉおお! これでも若いわよ! 比較的ぃ!」
照れてる俺の頬を、師匠がつつく。
「その子になら、私も安心して、弟子を預けられるわ♡ これからもどうかよろしくね~♡」
「あ、は、はい……」
恐縮しきりのマーキュリーさん。
一方、師匠がにんまりと笑う。
「はいこれ。あげる。私に勝てたご褒美」
「って、技能宝珠じゃん」
「うん♡ ほら、坊や今、私の分体殺したでしょ? 完全解体が発動して、獲得できたスキルよ」
■縮地(S)
→相手の認識をそらし、『瞬間移動した』と錯覚するレベルで、高速移動できる。
「分体を倒せる【程度】にまで成長したみたいで、感心感心♡ 次は本体の私を殺せるように、成長してきてね♡」
師匠が俺の体に、技能宝珠を入れる。
「今、スキル俺にくれたの?」
「そうよ」
「でも……俺ってもうスキルスロットが限界なんじゃ……?」
「私が増やしてあげたわ♡」
「……あっそ」
この人にはもらってばっかりだ。
いつか……なにかお礼できる日がくるんだろうか。
「って、今スキルスロット増やしたって言いました!?」
マーキュリーさんがまたいつものように驚愕してる。
「ええそうよ♡」
「いやいやいや! スキルの上限を増やすのって、もう神レベルのすご技なんですけど!? どうやったんですか!?」
マーキュリーさんも、学習しないなぁ。
師匠はニコッと笑って言う。
「めんどい♡」
「んぁ゛あああああああああああ! 二人そろってんもぉおおおおおおおおおおおおおお!」
こうして俺は、師匠(の分体)を倒せるレベルにまでなっていたことが判明した。
そして、スキルスロットを増やしてもらい、新しいスキル、【縮地】を、マイの付与無く発動できるように、なったのだった。
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