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12.フェンリルにも余裕で勝つ



 王都近郊の森で、モンスターをぶったおした。


「それにしても……変ね」

「マーキュリーさんは最初からずっと変だよ」


 うるさいし。


「誰のせいだと……! まあいいわ。このあたりの森は比較的安全なのよ。モンスターも、いるっちゃいるけど滅多に人里に出てこないはず」


 モンスターもバカじゃない。

 人がいるところにいけば、殺されるかも、と考える程度の知能はある。


 それでも、人の居る場所へとやってきた。


「何か、森に異変が起きてるのかも」


 そのときだ。

 もの凄い速さで、こちらに何かが近づいてくる音が、聞こえた。


 ヤバい、避けられない。

 そう知覚する前に……マイが、超高速で【速度上昇】のバフをかけてくれた。


 だから、ギリギリ、【それ】をかわすことができた。


「グッ……!」

「シーフくん!?」


 超速で突っ込んでくるそいつを、完全には躱しきれなかった。

 左腕を負傷してしまった。


 ぽた……ぽた……と血が垂れる。


「し、シーフ兄さん……! ご、ごめ……」

「大丈夫。ありがとう。おまえの付与がなかったら、今頃ミンチだ」


 地面に炎のあとが残っている。

 その先にいるのは、炎を纏った獣だった。


 一見すると、巨大な狼。

 体全体に炎を纏ったていた。


 ……音で、わかる。

 こいつは……やばいと。


「!? え、炎神フレイム・ハートフェンリル!?」


 マーキュリーさんが驚愕する。


炎神フレイム・ハートフェンリル……?」


炎神フレイム・ハートフェンリル

種族;神獣種

ランク:SS


「古竜種と同じ、SSランクの強力なモンスターよ! こんなところにいるはずないのに……どうして……?」


 炎神フレイム・ハートフェンリルとやらは、血走った目をこちらに向けてくる。


『ガルルルウルウゥウウウウウウウウウウウウ……!!!!!!!!』


 ……苦しみの音が聞こえてきた。

 怒りではなく、だ。


 何か原因が……?


「シーフ兄さん!」


 ひゅっ、とマイが俺にポーションを投げてくる。

 俺はそれを受け取り、傷にぶっかける。

 じゅうううう……と湯気を立てながら、傷口が塞がった。


「シーフくん、戦っちゃ駄目! 相手はSSランク! 逃げなさい!」


 マーキュリーさんが胸の谷間から杖(指揮棒タイプ)を取り出して、先端を敵にむける。


「スキル、【詠唱破棄】! 極大魔法……【絶対零度棺セルシウス・コフィン】!」


■詠唱破棄(S+)

→魔法の威力を落とさず、あらゆる魔法詠唱を省略できる。


絶対零度棺セルシウス・コフィン

→極大魔法の一つ。敵を中心とした一帯を一瞬で、氷の棺に閉じ込める。


 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 目の前には、氷漬けになった炎神フレイム・ハートフェンリルがいる。


 敵と、そして森の木々、地面に至るまでが凍りついている。

 まるで、氷雪の国にいるようだ。


「や、やった! マーキュリーさんがフェンリルを閉じ込めた!」

「いや、まだだ!」


 敵の直ぐ近くにいるマーキュリーさんの元へ向かう。

 彼女をお姫様抱っこし、そのまま離脱。

 マイが超ドンピシャのタイミングで、筋力向上、速度上昇バフをかけてくれた。

 そのおかげで……。


『アオォオオオオオオオオオオオン!』


 ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 炎神フレイム・ハートフェンリルが吠えると同時に、氷が砕け散る。

 マーキュリーさんが立っていた場所が炎のうずに包まれる。


「はぁ……! はぁ……! や、やばかった……。シーフくんが助けてくれなかったら……今頃、あたし……」


 多分黒焦げどころか、塵も残さず消えていただろう。


 マイは既に距離を取り、かつ、阻害の茨(ソーン・バインド)で敵を捕縛していた。


「…………」


 違和感。

 そう……違和感だ。


「シーフ兄さん!」


 はっ、と俺は正気に戻る。

 フェンリルは茨からのがれようと、炎を吐きまくっている。


 早晩、阻害の茨(ソーン・バインド)が解除されて、こっちに突っ込んでくるだろう。

 そうなると……妹、そして、妹を認めてくれる仲間を、失うことになる。


「ああ! やるぞ!」


 俺は牛頭包丁ミノ・チョッパーを手に、フェンリルに特攻。


「ちょ!? シーフくん!? 死ぬ気!? 生身でそんな炎の中に突っ込んだら!」

「ぜやぁああああああああああ!」


「ええ!? なんで無事なのぉ!?」


 それは……。

 マイが俺に、耐熱のバフをかけてくれている。

 その上、俺の体を、涼しい風が包み込んでいる。


「まさか……耐熱のバフと、あたしの絶対零度棺セルシウス・コフィンをシーフくんの体に付与してるの!? 嘘でしょ!? 他者の魔法を自分のものとして付与するなんて!? 人間業じゃない!」


 マーキュリーさんの声が遠い。

 耳が良いはずなのにな。


 今はフェンリル以外の音が聞こえない。

 超聴覚スキルを極めた俺は、入ってくる音をオフにもできるし、絞ることができる。


 敵の音だけに絞っていた。

 そうすることで、敵がどう攻撃に出るのか、弱点は……などがわかる。


 ……で、音を絞ったことで、聞こえてくる【音】があった。


『たす……け……て……』


 ……フェンリルの助けを求める声。

 この声を聞こえるのは、多分、俺だけだろう。


 俺は耳がいいから、フェンリルの言葉が、聞こえた。


『たすけ……て……』


 助けを求めるその声。

 ……そんな声に、答えてやる義理はない。

 

 炎のなか、俺は突っ込んでいく。

 耐熱のバフと氷の魔法のおかげで、フェンリルの炎を難なく進んでいく。


 牛頭包丁ミノ・チョッパーをかまえ、そして跳躍。


奪命ヴォーパル……!」


 死に至る弱点が、俺の視界に映る。

 そしてその脳天めがけて……。


「ゼヤァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ナイフを、振り下ろした。

 ぷちっ……!


「え? ちょ!? シーフくん!?」


 ナイフの刃が、フェンリルの頭蓋……手前で止まった。


「なんでトドメささないの!? 寸止めなんてして何の意味が……!?」


 そのときだ。

 ぶわっ……! と炎が一瞬で消えたのだ。


 ふらり……とフェンリルがその場に倒れる。


「ほ、炎が消えた……。フェンリルが炎を解除したの……?」

「シーフ兄さん!」


 マイが誰よりも早く、俺の元へ駆け寄ってきた。

 そして、がばっ! と抱きつくと、ポーションをぶっかけてくる。


 だいじょうぶ? すら聞かない。

 タダひたすらに、俺にポーションをぶっかけまくっていた。


「だ、大丈夫だって……マイの付与は完璧だった。ケガも火傷もしてないよ」

「そんなことないよっ。私、だめだめだから……兄さんを炎から守れなかった!」


「いや……はあ……」


 マイは話を聞いてくれないモードに入ってしまった。

 俺が危ないことすると、すぐ自分を責めるのだ。


 おまえのおかげで、無事だと説明してもな。

 こうなってはどうにもならん。


 落ち着くのを待つとしよう。


 ややあって。


「シーフくん、一体何がどうなったの? ちゃんと説明して」


 フェンリルは依然、目を閉じたまま動かない。


「こいつの声が聞こえたんです。助けてって」

「フェンリルの声……? 確かに、ランクの高い魔物は人語をしゃべるけど……」


 炎の中でこいつの声を聞いたのだ。

 助けてって。


「だからって助けたの? 敵を誘い込むブラフかもしれないのに?」

「それはない。だって……こいつ、良いやつだから」

「? どういうこと?」


 俺は、説明する。


「最初に、違和感を覚えたのは、マーキュリーさんが氷の魔法を放ったあと。あのあとフェンリルは反撃してきた。マーキュリーさんだけを、だ」


 これだけで、マイは気づいたようだ。


「……わたし、無事だった」

「そう。近くにマイもいたはずだ。でも、マイには炎が届かなかった」


 フェンリルは自分を攻撃してきた敵だけを攻撃したのだ。

 無関係な人間マイを、攻撃せずに。

「だから、悪いやつじゃないって思ったんだ」

「なるほど……シーフくん……意外と戦闘IQ高いのね」


 感心半分、馬鹿にするニュアンス半分だった。

 この女……妹の前でよかったな。


「で、結局フェンリルはどうして暴走を止めたの?」

「フェンリルは、【こいつ】に無理矢理操られてたっぽい」


 俺はフェンリルの眉間を触る。

【それ】を摘まんで、持ち上げる。


「なにそれ……?」

「ノミ……?」


 そう、俺が摘まんでいるのは、小さなノミだ。


「このノミからは、邪悪な音がする。多分なにか呪い的なものが付与されてたんだと思う」


 マーキュリーさんが俺からノミを受け取る。

 鑑定眼を発動。


「シーフくん、ビンゴよ。狂化の呪術が付与されている。こいつに取り付かれると、宿主は暴れ狂って周囲に害をなすみたい」


 マーキュリーさんが鑑定眼で読み取った情報を共有する。

 やはり、このノミのせいで、フェンリルはおかしくなっていたんだな。


『……ありがとう、じゃ』


 フェンリルがうっすらと目を開ける。

 どうやら、意識を取り戻したようだな。

『しかし……なぜ、我を助けたのじゃ……?』

「おまえは、妹を殺さなかった。だから、殺さないでやった。そんだけだ」

『くふ……そうか……くふ、ははは!』


 のそり、とフェンリルが体を起こす。


『礼を言うのじゃ、優しき少年よ。そなたは命の恩人。礼がしたいのじゃ』

「は? 要らないけど」


『そう言うな。では……おお、こうしよう。そなたの従魔サーバントとなろう!』

「は?」


 ちょんっ、とフェンリルが鼻先で、俺のおでこに触れる。

 その瞬間……。


 カッ……!


「ま、まぶしい!」

「これは契約の術式!? まさか……」


 光が収まると……。

 そこには、赤髪の、見事なプロポーションの女が立っていた。


 犬耳に犬の尻尾を生やした……。

 全裸の、女だった。


「は?」

「よろしくじゃ、ご主人様♡ これより我は、おぬしの奴隷ペットじゃ!」


 ばっ、とフェンリルが俺に抱きついてくる。

 その無駄にでかい乳が、ぐにょり、と押し当てられる。


「わ、あわわ、し、シーフ兄さん……」

「あ、いや! マイ! 違うこれは違うんだ! 離れてよぉ!」


 マイに誤解されてしまう!

 全裸のヘンタイに抱きつかれて喜ぶ、変なやつって思われちゃうぅうううう!


「まさか……伝説のフェンリルと、従魔契約したっていうの? そんなの聞いたことないわよ……」

『そうじゃな。我も長く生きてるが、人間と契約するのはこれが初めてじゃ♡ つまり……処女じゃ♡ ご主人様~♡』


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周りがどんどんズレていく。 おまけに従魔は変態フェンリル、変リル?アブノーマルなアブリル?
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