11.モンスターの大群も兄妹なら瞬殺
マーキュリーさんとともに、王都近辺の森で薬草採取を行っていた。
「……!」
森の奥から異音を感じた。
街の外にいるときは、超聴覚をオンにしている(かつ近くに人がいるときは、能力を絞っている)。
超聴覚を最大にして、音を拾う。
こちらに向かって、かなりの数の魔物がやってくる。
「マイ!」
「うん!」
マイが俺から距離を取る。
「え? え? なに? なんなの?」
眼鏡っこ魔法使いにして、バディのマーキュリーさんが、困惑してる。
ああくそ! マイとちがって以心伝心できなくて、面倒だなぁ!
「敵だ! 下がって!」
「敵!? 確かに奥には魔物がいるけど、こんな浅いところに魔物なんて……」
俺もマイも、既に準備を終えている。
そのときである。
「BUBOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
「黒猪!?」
■黒猪
種族:獣型モンスター
ランク:C
2メートルほどの巨大な猪が、茂みから出てくる。
数は……5。
ドドドドドドドッ……!
「黒猪がこんなに! にげ……」
バラッ……!
「ちょ、は!? ええ!? ぶ、黒猪がサイコロステーキにぃ!?」
肉の塊になった黒猪が、その場にずしゃあと倒れる。
「ちょ、何したのシーフくん!?」
「鋼糸でトラップを張っておいた」
■鋼糸
→強度の高い鋼の線。トラップとして設置し、敵を切り刻むことが可能。
「超聴覚で敵が来るのわかっていたからな。マイが俺にスキル【鋼糸】を付与してくれたんだ。あとはあらかじめトラップとして仕掛けておいただけ」
「いや……いやいやいや! まあ理屈はわかるけどさ! 二人とも、鋼糸がほしいとか、敵が来るとか、言ってなかったじゃん!?」
?
何を言ってるんだろうか……?
マイもきょとんとしている。
「えと……その……わかり、ます。なんとなく……」
「いやなんとなくで、『大量の敵が来るから、トラップ用のワイヤースキルを付与してくれ』なんて、わからないでしょ? 相手が空飛ぶ敵である可能性だってあるし」
「その……わかります。なんとなくで……」
「なんとなくでわからねぇよ! エスパーかよ!!!!」
「ひぅっ! ごめんなさいぃ~」
マイに声を荒らげたあの眼鏡ババアには、あとでケリをお見舞いしておこう。
「……敵だねっ」
「そのとおり!」
「だからなんでわかるの!?」
今度は大鬼。
■大鬼
種族:鬼型モンスター
ランク:B
3メートルほどの大鬼だ。
それが10匹。
黒猪よりスピードがないので、ワイヤートラップが効かないだろう。
言わずともマイには伝わっている。
「大鬼ぁ!? しかもこんなたくさん!? ちょ、今度こそ逃げ……」
「【阻害の茨】!」
地面から無数の茨が出現する。
大鬼10匹の体に巻き付いて、動きを完全に止める。
「!? これは……デバフ魔法! しかもBランクの大鬼の群れを、一瞬ですべて捕らえてる!? なんて正確な魔法!」
マイが敵の動きを阻害の茨で止めてくれている。
そのすきに俺は大鬼に接近。
目の前の大鬼の腕に飛び乗って、そのまま駆け抜ける。
「マイ! ツノ!」
「へ? ツノ? 何言って……?」
「OK!」
「なにが!?」
俺たちのやりとりを聞いて、マーキュリーさんが困惑してる。
「スキル付与!【溶解毒】!」
マイが俺のナイフに、毒を付与する。
溶解毒。
毒大蛇からラーニングした、あらゆるものを溶かす毒。
毒付与された刃で、まず大鬼のツノを根元からぶった切る。
「って、まずいわ! シーフくん! スキル付与してる間、阻害の茨は解除……されてない!?」
付与魔法の原則。
バフとデバフは同時にかけられない。
マイは俺のナイフにバフをかけた。
つまり、阻害の茨は消えているはず。
だが、大鬼の体には茨がまきついていた。
「え? え? なにこれ……? 茨が解除されてない!?」
「奪命の一撃!」
ツノを斬ったあと、俺は角の根元めがけて、ナイフを振る。
大鬼の致死点は、ツノの根元。
点をつくためには、ツノが邪魔。
だから、ツノを斬るための溶解毒をマイに付与してもらったのだ。
「シーフくん! まだ敵いっぱい居るけど大丈夫!?」
「ああ!」
スッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「ちょ、は!? ええええ!? つ、ツノが一斉にちょん切れたぁああああああああああ!?」
「さっすがだぜ、マイ!」
ツノが取れた大鬼の弱点に、ナイフを順々にぶっさしていく。
どどどぅうう~………………。
「よし、クリア。マイ、ナイスアシスト! さすがだぜ!」
大鬼を全部倒したあと、俺はマイの元へ向かう。
マイはふにゃふにゃと(宇宙一可愛い)笑みを浮かべる。
「ううん。シーフ兄さんのほうがすごいよ。あんな化け物に果敢に立ち向かってくんだもん!」
「いやいや、マイのサポートあってのことだよ」
「いやいやシーフ兄さんすごいから……」
手柄をお互いに押しつけようとしてると……。
「シぃいいいいいいいいいいいフ! 正座ぁあああああああああ!」
またしても、マーキュリーさんから、キレてる音がした。
ホントこの人キレやすいな……。
おしとやかなマイを見習ってほしい。
「兄さん、正座」
「あいよぉ!」
マイに言われたので正座をする。
「あのさ! 今のなに!? 戦闘……早すぎてなにやってたのかわからなかったんですけど!?」
マーキュリーさんが言う。
「え? Sランカーのくせに、何が起きてたのかわからなかったの?」
「マイちゃん! このバカ兄におしかり!」
マイがこくんとうなずいて……。
「シーフ兄さんっ、口が悪いよっ。めっ」
「はい、反省しますすみません」
マーキュリーさんが「よしよし」とマイの頭をなでる。
マイが嬉しそうに笑っている。
妹よ……俺以外の親しい人ができて……兄ちゃん嬉しい……。
「じゃあ、今の大鬼戦を解説してもらいましょうか。まず、阻害の茨で敵を止めたわね。で、そのすきに奪命の一撃を放ったと」
「なんだ、ちゃんと見えてるじゃん」
「でもね、おかしいの。マイちゃん、デバフとバフ、同時にかけてなかった?」
ナイフに、溶解毒を付与。
大鬼に、デバフ(阻害の茨)
「同時じゃ、ないです」
「どういうこと?」
「兄さんが攻撃態勢に入った瞬間、デバフを一瞬だけ解除し、バフをかけ、兄さんがツノを切り終わる刹那に……デバフをまたかけた、だけ……ですけど……」
ぽっかーん……とマーキュリーさんが口を大きく開いている。
「え、え? それって……つまり、一秒にも満たない短い時間だけ、正確にバフをかけ、また一瞬でデバフをかけ直したの……?」
「は、はい……その……何か問題でも……?」
マーキュリーさんは一瞬大声を出しそうになる、が。
ぐっとこらえて……大きくため息をついた。
「マイちゃん。あのね、今のね、神業」
「か、かみわざ……?」
「うん。あのね、魔法ってね、普通、呪文を詠唱するの」
確かに、元パーティの魔法使い(攻撃魔法使い)も、いちいちくそだせえ呪文を唱えていたな。
「付与魔法って呪文いらないんじゃないのか?」
「いるわよ。付与魔法も攻撃魔法、おなじ魔法。使うためには、呪文がいるの」
「「へえ~……」」
俺もマイも知らなかった。
というか、マイが付与かけるときに、呪文なんて、一度も使っていなかった。
だから、てっきり付与魔法は通常の魔法とは異なる法則で、発動できるのかと……。
「シーフくん……師匠から教わらなかったの?」
「バフとデバフが重ねがけできないってことくらいしか。まさか、付与魔法に呪文が必要なんて」
俺がそういうと、マーキュリーさんがため息交じりに言う。
「……恐らく、付与魔法=魔法って、超常識なことだから、師匠さんもわざわざ説明しなかったのかもね。つか、付与【魔法】ってついてるでしょうが」
「た、たしかにっ! そのとおりですっ!!」
「付与術師が驚くのかよ!!!」
マイが俺の後に隠れてしまう。
「マイはちょっと抜けてるところがあるからな」
「あんたも同類だよ!!!!!」
「「いやぁ、それほどでも~」」
「褒めてねえええええええええ!」
さて。
「えっと……2匹目以降の大鬼のツノが、一瞬で全部消えたように見えたんだけど、あれは?」
「兄さんが1体目と戦ってる間に、スキル【鋼糸】で他の大鬼のツノにワイヤーを巻き付けておきました。で、一体目を倒したあとに、溶解毒を付与……しました!」
マーキュリーさんがその場にしゃがみ込む。
「ま、マイちゃん……自分でスキル使いながら、付与魔法もかけてたの……!?」
「は、はい……その、スキルと魔法の併用って……普通……ですよね?」
はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~とマーキュリーさんが深々とため息をつく。
「……あのね、付与魔法をまず無詠唱で放ってる時点で、そうとうレベル高いの」
「え、そ、そうなの……ですか?」
「うん。普通ね、詠唱を省略すると、威力が落ちるの」
「そうなんですかっ?」
マーキュリーさんがぐぐっ、と言いたいことを我慢して言う。
「大鬼を倒し、動きを完全に止めるほどの付与の時点で、威力オカシイの。それを無詠唱でやってる時点で異常なの。普通無理」
「は、はあ……」
「その上で、スキルも併用? まあできるよ。理論上はね。でもね……それって、右を見ながら、左を見るようなものなの。できないでしょ?」
右を見ながら左を見る……?
「「え、できますけど?」」
「できねえよ!? バカなの!?」
いやいや……。
「だって、右を俺が見て」
「……わたしが、左を見ます!」
「「ほら、右見ながら左見れる(ます)!」」
マーキュリーさんが頭をガリガリガリガリとかきむしる。
「あ゛~~~~~! もぉお~~~~~! 最近の若造は口が達者ですねえ!」
「「いやぁ、それほどでも~」」
「ほめてねええええええええええええ!!!!!」
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