10.ただの薬草拾いで、バディを驚愕させる
バディのマーキュリーさんとともに、薬草拾いへとやってきた。
場所は王都から少し離れたところにある、森の中。
「薬草はこのあたりに生えているわ」
緑のじゅうたんが広がっていて、様々な草花が自生していた。
「薬草拾いってみんな馬鹿にするけど、結構むずかしいのよ? 一見すると薬草もただの草にしか見えないからね。それに、鑑定の魔道具も高価だから、結局たくさん無駄な草を取ることになるのよね」
んん?
薬草拾いが難しい?
まあ、ずぶの新人には難しいかもしれないな。
「マイ」
「わかったよ、シーフ兄さん」
俺のやりたいことを、マイがすぐに理解してくれる。
「え? なに? 今ので何がわかるの?」
俺は牛刀包丁を取り出して、目の前で構える。
「【水刃】!」
俺がナイフを振ると、水の刃が目の前に射出。
ズバアアン……!
「は?」
水の刃が目の前の草を根元から刈る。
宙に浮く草の中から、薬草だけが、手元にぎゅん! と集まる。
「はぁ!?」
目の前には、薬草が山がこんもりと出来上がっていた。
「よし!」
「ちょっと待てやぁああああああああああああ!」
マーキュリーさんが叫ぶ。
え?
「どうしたんだ?」
「どうした? じゃないわよ! 何よ今の!? ねえ!? 何やったの今ぁ!?」
あれ?
「マーキュリーさんって、ベテランなのにわからないの?」
「このが……ふぅ。冷静になるのよマーキュリー。こんなの慣れっこじゃない。うん」
ふぅ、ふぅう、とマーキュリーさんが深呼吸してる。
気を取り直して、マーキュリーさんが聞いてくる。
「シーフ君。君、最初、【水刃】を使ったわよね? 上級サハギンが使う、攻撃スキル」
「ああ。それが?」
「いや、なんで使えるの!? サハギンのスキルを!?」
「サハギンを倒して、技能宝珠を獲得し、マイがラーニングして、スキルを俺に付与したから」
「な、なんですってぇええええええええええ!?」
何を驚いてるんだろうか、この人?
「あ、あのね……二人とも。ちょっとさ、正座なさい」
「は? なんで……」
「正座!」
なぜ命令に従わないといけないんだろうか。
俺別に何も悪いことしてないし。
俺、人から命令されるのってすげえ嫌い。
妹をいじめていた、ムノッカスを思い出すからな。
「シーフ兄さん、正座して」
「OK妹よ!」
ずしゃ!
「あんた……先輩の命令に不服そうにしてたくせに、妹の命令は聞くのね……」
「そりゃ俺にとってセンパイ命令より妹の願いのほうが優先度上なんで」
「このシスコン!」
シスコン?
「はぁ……ふぅ。まずね、一瞬で、こんなたくさんの薬草だけを、回収する。普通こんなのできない。そこは褒めます」
「まあ妹がすごいからこれくらいはできて当然だよな」「ううん、兄さんが凄いから」
はぁ、とマーキュリーさんがため息をつく。
「両・方!」
「「はい?」」
「君ら、両方! やばいの!」
「やばいって……ダメって意味かなぁ?」
妹が涙ぐむ。
俺は腰に手をやる。
「すとぉっぷ! 兄、ナイフ抜くな! 妹! だめって意味じゃないから。凄いやばいってほめてるの!」
なるほど、褒めてるのか。
ならよし!
「シーフ君あんた、すぐナイフ抜こうとしないで。ね? 妹泣かした奴は許せないって気持ちはわかるけども」
「じゃあ泣かせるようなこと言わないでよ」
「このがky……こほん。まあいわ。こっちも大人げなかったわ」
一息ついたあと、マーキュリーさんが言う。
「まずね。シーフ君。魔物のスキルをどうやって身に着けたの?」
「完全解体スキルで、魔物から技能宝珠を採取して……」
「はいストップ! まずそこから!」
え?
「完全解体スキルって、エクストラスキルじゃないそれ?」
「ああ」
「ああ!? そ、それが凄いことわからないの!?」
「いや、わかるよ。凄いスキルでしょ? って、師匠が言っていた」
マーキュリーさんがこめかみを押さえる。
「じゃあ具体的にどれくらいすごいのかって、その師匠から教わった?」
「いや。凄いよって言われただけ」
「雑! 雑すぎ!」
確かにあの女性、結構ずぼらだったけども。
「あの、えくすとらすきる、ってどれくらいすごいんでしょうか?」
マイが手を上げる。
ちゃんと学ぼうとする妹、えらすぎる。
「エクストラスキルっていうのはね、職業を極めた先に、手に入るスキルなの。でもね、この極めるっているのが、まず難しい」
ば、とマーキュリーさんが両手のひらを広げる。
「エクストラスキル獲得するためには、100年の修行が必要、って言われてるの」
「100年ぅ!?」
驚くマイ。
へえ。あれ?
「俺、100年も修行してないけど?」
「修行の内容と、本人の適性によって、修行期間は短縮できるのよ」
なるほど。確かに師匠の修行は、スパルタ通り越してやばかった。
だから、100年分の修行を圧縮できたんだな。
「で、エクストラスキルにも取得難易度ってものがあるの」
「取得難易度?」
「ただ漫然と100年分修行するのと、目標意識をもってする修行とじゃ、習得できるスキルに違いが出るのよ」
「完全解体は、難易度どれくらいなんですか?」
「特級よ。つまり、一番上の難易度」
エクストラスキルの取得難易度には、三級→二級→一級→特級という順番で、取得が難しくなるらしい。
「三級のエクストラスキル習得には100年分の修行がいる。特級は、その4倍、つまり、400年分の修行が必要となるわけよ」
「す、す、すごい! シーフ兄さん! そんなにすごいスキルを身に着けてたのっ?」
マイが俺に尊敬のまなざしを向けてくれる!
うぉお! 兄ちゃんうれしいぞ!
「これでわかった、シーフ君? 君が手にした特級エクストラスキル完全解体のすごさが」
「ああ、まあぶっちゃけどうでもいいんけどわかったよ」
「このくそがky……こほん。とにかく、魔物からスキルを奪うのって、ものすごく難しいことなのよ。でね、それ以上に難しいことを、してる人がここにはいるの!」
「え!? 兄さんもっとすごいことしてるんですか!? す、すご……」
マーキュリーさんがブチ切れる音がする。
「マイちゃんだよぉお!」
「え? え? わ、私? 何かやっちゃいました……?」
「あ、ご、ごめんね。泣かないで。怒ってないから。それと兄はいちいちナイフ抜くんじゃねえ!」
勘のいい女だ。
「あのね、この中で断トツでやばいの、マイちゃんなのよ」
「え? どういうことです?」
「マイちゃん。君、お兄さんみたいに修行したことある?」
「い、いいえ……一度も」
「やっぱりね……」
マーキュリーさんが、マイの手を取る。
「なんで俺だけが修行したってわかったんだ?」
「あたしの鑑定眼。鑑定スキルのほかに、その人の秘めたる才能の色を見る、っていう特殊能力が付与されてるの」
鑑定眼にもいろいろ種類があるようだ。
まあうちの妹の目のほうが凄いだろうけどな。
「シーフ君は、血のにじむような努力をして、その強さを身に着けた。いわば努力の結晶でしかない。
一方で、マイちゃんの才能、やばすぎる。色が……今まで見たことないレベルの、とんでもない色してるのよ」
マーキュリーさんの目が輝いてる。
多分、その才能を見極める力を使っているのだろう。
ごくり、と息を飲む音が聞こえた。
まじでビビってるのがわかった。うちの妹すごいだろぉ?
「マイちゃん、スキル付与ってね、理論上不可能とされてるの」
「え? え? ふ、不可能……?」
どういうことだろう?
確かに師匠は、難しいとは言っていたけど。
「付与魔法を用いたスキル付与については、長く魔法学会の間で、議論されてたの。でもね、結論としては、スキルを魔法で付与するのは理論上不可能、って出たのよ」
「え? で、でも……できます、けど……」
そうだ、できる。
でなきゃ、俺は水刃を使えないじゃないか。
「そう。だからね、マイちゃんは、長い年月、頭のいい魔法学者たちが気が遠くなるほど検討し、不可能と結論付けたことを、やったの」
「うぉおお! すげええ! うちの妹は天才だぁ! 元からわかってたけど!」
なぜかマーキュリーさんから、怒りの音が聞こえた。俺に対する。
なぜ俺に対して怒ってるんだろう……?
「マイちゃん。あんまりスキル付与については、他言しないことを勧めるわ。魔法学者たちが知ったら、多分つかまって、解剖実験とかさせられるかも」
「ひぃ! し、シーフ兄さぁん……」
おおマイ! よしよし。
泣くな泣くな!
「大丈夫、マイ。兄ちゃんがおまえを変態どもの手から守ってやるからな! 全員奪命してやる!」
「するな!」
マーキュリーさんからは、どっと疲れたような音が聞こえてきた。
「薬草拾い位で何つかれてるの?」
「怒らないぞ……あたしはもう怒らんぞ……話が進まないからね」
「なんで怒ってるんだよ?」
「おまえのせいじゃぁああああああ!」
マーキュリーさんが俺にヘッドロックかけてくる。
いてええ。
「はぁ……で、どこまで話したっけ」
「マイのスキル付与がやばいって話」
「そうだった。だからねマイちゃん、スキル付与はお兄さんにだけ使いなさい。バレると大変なことになるからね」
こくんこくん、とマイが素直にうなずく。
うちの妹は素直でいい子だなぁ。
「で、シーフ君。最後に、君薬草だけを正確に見抜いて、手に入れてたけど、あれは?」
「ああ。水刃で切った薬草の、風でこすれる音から、薬草だけをピックアップして、あとはスキル【粘糸】で薬草を回収しただけだよ」
雑草と薬草では、繊維や含まれている薬効成分が異なる。
草がこすれる音から、それらを聞き取って、粘糸でマーキング。
あとは引っ張って一個にまとめた、という感じだ。
■粘糸
→魔力で作った、粘性を帯びた糸を射出する。どこにでも貼り付けられ、良く伸び、良く縮む。
「音から薬草を鑑別するとか……。どんだけ鋭敏な聴覚なのよ。超聴覚って、そもそも、離れたところの音を聞くってだけのスキル……つまり、耳がよくなる程度の、言っちゃあれだけどはずれスキルなのよ?」
「ま、マーキュリーさん! そんなひど……」
俺にはわかっていた。
マーキュリーさんが、俺のことを、感心してくれてるって。
「外れと言われたスキルを、持って生まれたことを、腐らず、武器にまで昇華させたのね。すごいじゃない」
マーキュリーさんからは、純粋に、俺をほめたたえる気持ちが伝わってきた。
努力を認めてくれる。妹以外がだ。それが、こんなにうれしいこととは思わなかった。
「努力家なのね君。えらいわほんと。ま、非常識でムカつくガキなのは確かだけど」
「マイのことかぁ!?」
「この流れでわからないとかある!? あんたを褒めてんのよ!」
「俺を褒めなくていいんで、マイをもっと褒めてくれ!」
「ああもぉやだぁもぉおおおお! この無自覚最強兄妹ぃ!」
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