01.妹がパーティ追放されたので、俺も抜ける
この作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n1288iq/
※タイトル変更しています。
旧題)有能兄妹を追放したんだからパーティ崩壊するのも当然です~万能付与術師の妹がS級冒険者パーティを追放されたので、最強盗賊の俺も抜けることにした。今更土下座されても遅い、兄妹でSS級を目指すんで
「【マイ・バーンデッド】! 君をこのパーティから追放する!」
ここは最難関ダンジョン最奥部にある、セーフゾーン。
そう追放を宣言したのは、このSランク冒険者パーティ【銀翼の大鷲】のリーダー。
ムノッカス・ヤーリッチだ。
■ムノッカス・ヤーリッチ(18歳)
種族:人間
性別:男
職業:勇者
ムノッカスの周りには、パーティメンバーの女2人がいる。
彼同様に、にやにやとした笑みを浮かべてやがった。
……この状況を楽しんでやがる、趣味の悪い女どもだ。
「……え、つ、追放、ですか?」
ムノッカスから追放を言い渡されたのは、俺……ではなく、俺の可愛い妹、マイ・バーンデッド。
■マイ・バーンデッド(15歳)
種族:人間
性別:女
職業:付与術師
銀の長い髪に、青い瞳。
気弱そうな表情。しかし胸は大きく、ムノッカス含め、男たちの視線を釘付けにする。
そんな可愛い妹を、このゴミかすは追放するという。
俺……シーフは切れ気味に言う。
「おいムノッカス。どういうことだ? うちの妹をどうして追放するんだ?」
「シーフ……。簡単な理由さ、君の妹が、必要のない人材だからだよ」
■シーフ・バーンデッド(16歳)
性別:男
種族:人間
職業:盗賊
「マイの付与術は、強くなった今の僕たちに必要ないのだよ」
付与術。バフともいって、味方の力を向上したり、武器に魔法の属性を付与したりする特殊な魔法のことだ。
「事実この最難関ダンジョンの奥に来るまでの間、一度もマイの付与を受けていない。でも、ここまでこれた。マイの付与が不必要である何よりの証拠だ」
そうよそうよ、と取り巻きの女2名もうなずく。
……だめだ、こいつら。
なんもわかってない。
マイの付与が不必要だと?
今日もがっつり、マイに付与もらってただろうが。
お前らが巷で『勇者パーティ』なんて周りからチヤホヤされてるの、全部マイの付与があってこそだろうが!
「それに、マイには重要な欠点がある」
この世の何よりも美しく、非の打ちどころなんて一つもないマイに対して、欠点だと?
……いいだろう、聞いてやろう。
「マイ、君は極度の口下手だ。そのせいで、連携が取れない。付与をくれってタイミングでよこしてくれない」
違う。
付与が欲しいって思った時には、もうマイは付与をすでにかけてるんだよ。
まあ、確かにマイは人としゃべるのが苦手だ。
引っ込み思案な子なのだ。
今も、マイは俺の陰にかくれてびくびくしてる。
でも、俺からすれば悪いのはこのムノッカスだ。
今日に限らず、ムノッカスはマイを頭ごなしに否定してくる。
適切なタイミングで付与くれないおまえは無能だの、しゃべれないつまらない女だの。
よくもまあ、言えたものだな。
俺は、知ってるんだからな。
「連携の取れない、使えない付与術師なんてこのパーティには必要ない。よって、出ていきたまえ、マイ・バーンデッド」
「…………」
「何か言いたいことはないのか?」
「…………」
「はっきり言ってみろ!」
びくんっ、とマイが体を委縮させる。
「出ていきなさいよ無口の無能女」
「見た目しか取り柄のないあんたに、ここはふさわしくないのよ!」
ああ、マイ。ごめんな。
兄ちゃん……我慢の限界だ。
「おい無能カス」
「なに? ぶげぇえええええええええええええええ!」
俺は無能カス野郎、じゃなかった、ムノッカスの頬をぶん殴る。
「「ムノッカスぅ!?」」
取り巻き女どもが悲鳴を上げる。いい気味だ。
俺はマイの手を引いて、セーフゾーンを出ていこうとする。
戸惑いながらも、ついてくるマイ。
「お、おいシーフ! どこに行くのだよ!?」
「俺もこのパーティ抜ける。妹を侮辱するようなリーダーのもとで、やってられっかよ」
もともとここにいるのは嫌だったんだ。
なぜなら……。
「そういや、ムノッカスさんよ。さっきの追放理由、不十分じゃねえか?」
「ど、どういうことだ?」
「俺は【聞いた】ぞ。……うちの妹に、こないだ言ったことを。僕の女になれ、だっけ?」
「な!?」
「「え~~~~~~~~~~~!?」」
女どもが驚愕してる。
多分知らなかったのだろう、ムノッカスがマイに告ったことを。
「ムノッカス!? どういうこと!? アタシと付き合ってるんじゃないの!?」
「私という女がありながら、マイに告白ですって!?」
取り巻き女どもも驚いてやがる。
ムノッカスはこいつに二股かけてやがったうえに、マイも自分の女にしようとしていた。三股かけようとしていたのだ。
「さっきの発言も、『この僕の恋人になるなら、考え直してやってもいいが?』とかいうつもりだったんだろ、後でこっそりとよ」
パーティ脱退をちらつかせ、自分の女にしようとしたわけだ。
カス野郎だなこいつ。
「で、でたらめを言うな!? 何を証拠にそんなことを!?」
「俺の【耳】が人より優れてること、忘れたのか?」
俺の職業は、盗賊。
トラップを見抜いたり、宝箱の鍵を開けたりと、ダンジョン攻略には必要な職業だ。
そのうえで、俺は特別な力がある。
【超聴覚】。聴覚を強化するスキルだ。
これのおかげで、遠く離れた場所にいる魔物の足音を聞いて、危険を回避することができる。
隠れて行われていた痴話げんかの内容も、簡単に盗み聞きできるってわけだ。
「人の会話を盗み聞きするなんて! なんとマナー違反な!」
「あいにくと盗賊なんでね。盗みは得意なんだよ」
まあ、得意なだけで、人からモノを盗むんだことは一度もない。
妹に、約束したからな。この力は、悪いことには使わないって。
「マイを追放するなら、俺もパーティを抜ける。あばよ、くそ野郎」
俺はマイの手を引いて、セーフゾーンを出ていく。
背後では取り巻きどもと痴話げんかが繰り広げられてる。
いい気味だ。
「シーフ、兄さん……」
帰り道、ずっと黙っていたマイが口を開く。
「ごめんね……」
立ち止まって振り返る。
彼女は本当に申し訳なさそうな声で、言う。
「私のせいで、シーフ兄さんまで……Sランクパーティ抜けることになっちゃった」
俺は耳がいい。
だから、声の感じから、その人の心がなんとなくわかる。
彼女からの声は、自分を責めているのが伝わってくる。
本気で自分のせいだと思ってるようだ。
「マイ。気にすんな。前からあの無能カスは嫌いだったし、俺」
「でも……Sランクパーティに、やっとなれたんだよ? 私たちの、目標だった」
俺たち兄妹には、冒険者のトップ……SSランク冒険者になる、という目標がある。
親父の墓場の前で、そう誓ったんだ。
今はSランクだった。あと一歩のところまで来ていた。
それを、自分のせいで、夢から遠のいてしまった。と、マイは思ってるのだろう。
「大丈夫だよ、マイ。おまえがいれば、SS級なんてすぐになれるさ」
SS級になるためには、パーティメンバー全員がSランク冒険者になる必要がある。
俺もマイも、今はDランク。下から二番目のランクだ。
でもこの位置づけは不当だと思ってる。
手柄を全部、あの無能カス野郎に取られてしまっているからだ。
「無理だよ。兄さんはともかく、私みたいな雑用付与術師なんて、大したことないもん……。パーティ追い出されるくらいだし……」
雑用付与術師。
ムノッカスたちが、妹を陰でそう呼んでいることは知ってる。
あいつは、マイが戦闘では役立たずだからといって、掃除や洗濯、武器のメンテなど、雑用係を妹に押し付けていたのだ。
「マイ。おまえはすごいやつなんだよ」
「ありがとう……」
ああ、マイが悲しんでいる。
多分俺が優しいから、気を使って言ってくれてるって思ってるんだろう。
なんと痛ましい声だ。
本当におまえは強い子なのに。
それをわかってやれるのは……俺だけだ。
俺は改めて決意する。
マイのことを、俺だけは、正しく評価してあげようって。
「マイ。おまえは本当に強い。それに、兄ちゃんも、強いおまえに並ぶため、必死になって修行したんだ。それでな、つい昨日、俺の職業のレベルが上がって新しいスキルが……」
と、そのときだった。
「ひぎゃぁああ! た、助けてくれぇええええええええええええい!」
ムノッカスが大声を上げながらこちらに向かってくる。
そして、俺は聞いた。
奴の背後から聞こえる、魔物の足音を。
「シーフ兄さん? どうしたの?」
まだちょっと距離があるから、マイは気づいていないようだ。
ムノッカスがどうやら、魔物に追いかけられてるってことに。
あいつらは多分ボスに挑んだはずだ。
でも、逃げてきた。
そして背後から魔物の足音。考えられる状況は一つだ。
「マイ、【迷宮主の放浪】だ」
「!? わ、迷宮主の放浪って……たしか、ボスがボスの部屋から出てくる現象?」
迷宮にはボスが存在する。
ボスは自分のいる部屋から出れない仕様となっている(なぜかは不明)。
しかし、まれにボスが部屋から出てくることがある。
ボスに挑んだ冒険者が、大してダメージをあたえられず、敗走するときとかな。
その現象を、迷宮主の放浪という。
「どうやらムノッカスのごみが、ボスに挑んですぐにげたらしい。今追いかけられてるのはあいつだ」
「たいへん! すぐ……助けないと!」
……ああ、妹よ。
おまえはなんて優しい子なんだ。
今しがた自分を理不尽に追放したカス野郎の身を、案じてやっている。
兄ちゃんはそんな優しいお前のことが大好きだ。
本当なら、彼女を担いででもこの場から離脱したいところ。
けれど、ちょうどいい。
「戦うぞ、妹よ」
「え!? む、無理だよ! 付与術師と盗賊、二人だけじゃ、ボスなんて倒せないよ!」
確かにそうだ。
どちらの職業も、直接的な戦闘能力はない。挑んでも無駄死にするだけだろう。
「マイ。大丈夫だ。ここにいるのは付与術師と盗賊じゃない。俺とマイ、二人がいれば、ボスに勝てる」
俺には確信があった。
なぜなら俺の妹は、すごいから。
そして、俺もまた、すごい妹に並ぶくらい、最強につい先日成ったからだ。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「兄妹がんばれ!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!