雪山のコスモス
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
『久々に滑りに行こうよ』
『なら二泊ぐらいしない?』
金魚の糞ポジ瑞子に拒否権はない。
強制同行でレンタルウェアとスキー板装着、リフトへ放り込まれるくらいなら許容範囲か。
でも上級コースに連れ込まれたら、大騒ぎ一択だ。人目があるアウェイなら、板を外して回れ右しても、報復はない。ゲレンデでは。
だけど現実は予想の斜め下。
まさか『バックカントリー行こうよ』の一言でコースアウトの上、置いてきぼりとか。
『瑞子トロすぎ。いっしょに滑んのヤダ』
『下で待っててやるから、ちゃんと降りてこいよ』
『遅いと、帰っちゃうかもだけどー』
ぎゃはは、と、濁った笑い声の記憶に頭を振る。自分が一体何をした。というか。
「いやー、ここまでダイレクトに殺人行為するとはなー……」
親や学校に泣きつくことも考え、証拠用に自撮りもしていたが、肝心のスマホが物質ではどうしようもない。
だが、クズ連中の滑降跡はくっきりしている。ならば、対処法は上級コース置き去りルートと同じでいいだろう。
読みは甘かった。ゲレンデは板を外しても沈まない。バージンスノーと言っても、ちゃんと固めてあったんだと瑞子は悟った。
ずぼずぼ嵌まって抜けを繰り返すうち、谷間はみるみる蒼い闇に沈んだ。これ以上進むのは危険と諦め、瑞子はビバークの用意を始めた。
積雪の山に板をさくさく刺し、こじって穴を掘る。身体がぎりぎり入るサイズにして這い込むと、入口に板を刺す。風で体温を奪われないようにするためだ。
ストックの先に十徳ナイフを髪ゴムで巻いたのは念のため。こんなに雪があるのだ、もう熊は出ないはずだけど。
ウェアポケットから出した食糧を口に入れて一息つき。
…瑞子は息を呑んだ。
こんなに澄み渡った満天の星空は初めてだ。
いつまで見蕩れていたのかわからないが、少しずつ向きを変える、ダイヤを撒いた濃藍の水晶板の規則正しさは、美しかった。
秩序ある、調和のとれたものはいい。クズたちのこともどうでもいい。
カースト上位というだけで、執着する意味はない。
自分があって、世界がある。世界があるから、自分がある。それだけで十分だ。
白金の筋が夜空に閃き、瑞子は反射的に願った。
あるべきものが、あるべきようになりますようにと――。
翌朝、瑞子はレスキューされた。クズ連中が穴持たずといわれる、冬眠できず空腹でより危険になった熊に襲われたせいだ。
その荷物からスマホが出てきたことで、クズたちの殺人未遂は立証された。
コスモス=宇宙ということで。
瑞子は「たまこ」だったのですが、ルビが字数制限に引っかかり断念。
「たまご」と空目しやがれ、という罠だったんですが……無念。
1000字規定に沿うようあれもこれもと切り詰めていったら、ざまあが薄味過ぎる結果に。